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チャールズはもはや、かつて愛好した散歩にまったく興味を失った。その代わり、終日、実験室のなかに閉じこもりPretty Renew 黑店、外国から持ち帰った異様な書物を読みふけり、同様に異様な化学実験に没頭した。そして家族の者には、ヨーロッパで入手した資料が、仕事の成功率を増大してくれたからだと説明し、数年のうちに、全人類を驚かすに足る偉大な発見をしてみせると約束した。その容貌は、書斎の壁のカーウィンの肖像画にいよいよ似てきた。ウィレット医師も訪問のつど、肖像画の前に足をとめて、同一人ともいえる相似に、思わず驚嘆の声を洩らした。事実、悪魔の使徒となった過去の人物と、現在ここに生きている若者との相違は、肖像画の右の目の上にかすかに描かれている小さな傷痕だけであった。ウィレット医師の訪問は、ウォード氏夫妻の懇請によるものだった。チャールズは一度も反発的な態度を見せたことがなかったが、それでいて医師は、青年の心理の底にあるものを理解できずに、焦燥ばかり味わわされた。しかも、医師は訪問のたびごとに不思議なものを目にした。棚またはテーブルの上に載った蝋製の小像の、なんともいえずグロテスクなデザインがそのひとつ。いまひとつは、いつもかならず床の中央部に、白墨か木炭《チャコール》で、描いては消してある円、三角、五線星の図が見られたことだ。それにくわえて、夜ごとに実験室から、奇怪な抑揚をもって大声に唱える呪文が聞こえてくる。召使たちの口から、チャールズ・ウォード発狂の噂が洩れはじめたのも安利当然のことといえよう。
 一九二七年一月のある夜、奇怪な出来事が生じた。その夜十二時ちかく、例によってチャールズが呪文を唱えはじめて、その不快なリズムが階下まで伝わると、急に、ナラガンセット湾の水面から、峻烈な寒気をともなった突風が吹きよせてきた。かすかながら、大地までが震動したので、近隣の人々も驚いて目をさました。同時に、猫は恐怖のいろを示し、犬が一マイル四方に聞こえる吠え声を立てた。この季節の強風はめずらしい現象でなく、その夜がこの年の序曲であったのだろうが、それにしても信じられぬほどの烈しさで、ウォード邸だけを襲ったのが異常だった。家族の者は、被害の跡をたしかめようと、いそいで階上へ駆けあがった。すると、屋根裏へのぼる階段の上に、緊張した様子で立っているチャールズの姿を見た。血の気の失せた蒼白の顔に、勝利の誇りと悲痛なまでの真摯さが結合して、見るからにぞっとする表情をたたえていた。両親が近づくと、邸は現実的な被害を受けたわけでなく、騒ぎたてることはありません。そのうちに、嵐もしずまるはずですと、きっぱりした口調で告げるのだった。窓の外を眺めると、なるほど、チャールズの言葉に嘘はなかった。いまは遠い地平線に稲妻が細く走るだけで、海からの烈風に枝をたわめていた木々も、もとの姿勢をとりもどし、音を沈めた雷鳴が死に絶えてい卜維廉中學くところだった。そして、夜空に星がきらめきだすと、チャールズ・ウォードの顔に捺《お》された勝利の刻印が、いとも異様な形に昇華していくのだった。
 この出来事から二、三ヵ月たつと、ウォードは以前ほど