「誘拐肯定では」指摘受けたドラマ テレ朝放送取りやめ@朝日新聞2018/6/18より前に取り上げたドラマ幸色のワンルームが首都圏をネットするテレビ朝日などで放映が中止になったとの事です。批判の声が出ていて「総合的な判断」と言う曖昧な言葉で放送開始1月足らず前にそれを中止すると言うこのニュースぱっと思ったのは、これは地上波キー局と言うメディアの緩やかな自殺ではないかという事です。
連続ドラマ「幸色(さちいろ)のワンルーム」の放送を取りやめることを決めた。原作漫画が実際に起きた誘拐事件を肯定的に描いているのではないかなどとして、批判の声が出ていた。~中略~「あくまでフィクション」と擁護する声もあるが、テレ朝広報部は「改めて精査した結果、総合的な判断として放送を見送ることにした」としている。 制作する朝日放送は「(原作は)実際の事件をモデルにしたり、事件からモチーフを得たりしたものではないと認識しております」(広報部)などと答えた。関西地区では予定通り来月から放送するという。(湊彬子)
・メディアの主役からずり落ち3ちゃん頼みになった2010年代のTV
TV | PCスマホタブレット | |
2009 | 50.5% | 26.5% |
2010 | 49.7% | 29.5% |
2011 | 46.1% | 32.5% |
2012 | 45.9% | 33.4% |
2013 | 42.9% | 34.9% |
2014 | 40.7% | 41.8% |
2015 | 39.8% | 44.0% |
2016 | 38.9% | 44.8% |
2017 | 39.0% | 46.2% |
2018 | 36.4% | 50.4% |
さて何故こんなことを思ったのか、まずTVが多くの視聴者にとってどのような地位かを博報堂DYメディアパートナーズの行っている「メディア定点調査」のデータから見ていきます。この調査は東京・大阪・愛知・高知の4地区で15~69歳の男女にアンケートを行った結果なのですが代表として東京のデータを出しています。
さてその中でTVとPC・スマホ・タブレットのネット3メディアのメディア接触時間のシェアを比較したものです。こうしてみるとある意味意外だったのですが2009年にはTVのシェアは50%を超えていたのがわかります。しかし翌年の2010年には50%を割り込み、2014年にはPC・スマホ・タブレットのネット3メディアにシェアで逆転され今年の調査ではPC・スマホ・タブレットのデジタル3メディアが逆に50%を超えています。
言うなれば2010年代はTVが本格的にメディアの主役をネットメディアに奪われた時代と言えます。
男性 | 女性 | |
15~19 | 26.3% | 28.1% |
20代 | 18.2% | 30.0% |
30代 | 24.3% | 42.2% |
40代 | 32.7% | 42.6% |
50代 | 37.2% | 51.5% |
60代 | 43.6% | 60.6% |
そして2018年時点での世代別で見ていくと平均を超えるのは男性が50代以上、女性が30代以上で男性50代は37.2%で全体平均の36.4%とほぼ同程度なので言うなればTVを比較的熱心に見ているのは30代以上の女性と60代の男性と言う、昔地方の農業で働き盛りの男性は出稼ぎに出てしまうため「母ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃんの3ちゃん農業」なんて言われましたが今のTVを見るのはまさにそんな3ちゃんとなっていると言っても過言ではありません。そしてたまに見る地上波のTVで出てくるのは50代以上のタレントが主力、3・40代が若手扱いと言った感じで、CMもソーシャルゲーム等を除くと健康食品などお年寄り向けの物ばかり、そういった意味で本当に見る老人ホームと言った感じです。逆に20代男性は平均の半分の18.2%と40代以下の現役世代男性、20代以下の若い女性はどんどんTVから離れて行っています。
さてそんな今のメディアは番組の制作者にとって魅力的なメディアと言えるでしょうか?確かに総接触時間の1/3以上を占める大きなメディアではありますがシェアは右肩下がり、消費力が高い若い女性及び、現役世代はどんどん離れて行っている状況は存在感に比べて魅力の低いメディアと言わざるを得ません。
・製作者にとって単なる1配信チャネルとなったキー局
キーパーソンインタビュー宮河 恭夫@バンダイナムコホールディングスIR・投資家情報より
宮河:IPクリエイションユニットは新規IPの創出育成を最大のミッションとしていますが、そのためにも、アニメ制作会社からIPプロデュース集団に進化しなければなりません。自分たちはアニメ制作会社だと思い込んだら、アニメしか創れなくなります。確かにサンライズはアニメ専門の会社として成長してきましたが、今のグループにとって重要なのはアニメにこだわらず、グループ全体で活用できるIP、すなわち知的財産を生み出すことです。これからは表現方法をアニメに限定することなく、小説でも、実写でも、イラストでも、エンターテインメントのあらゆるジャンルでIPを創出していきたいと考えています。 ~中略~
最初はまったく芽が出なくても、何年かたって大きく育つこともあります。バンダイナムコグループを代表するIPとなった「機動戦士ガンダム」も、放送当初は視聴率が低迷し続けていました。しかし、あきらめずにIP展開をし続けたことで、放送の2年後には、ガンダムのプラモデルを求めるお客さまで店頭に大行列ができるほどの大ブームとなったのです。最初から大ヒットするIPは稀です。作り手側は、自分が良いと信じるものは誰に反対されようと意志を貫き、あきらめることなく育て上げる覚悟も必要だと思います。
そして今回のTV朝日の決定言うなれば外野からの批判をきっかけにあいまいな理由での放映中止決定と言うのは実際の作り手にはどのように映るのでしょうか?上の引用は「機動戦士ガンダム」、「ラブライブ」、「アイカツ」等様々なヒット作品を生み出した制作会社サンライズの社長宮河氏のインタビューです。注目したいのは2点です。1つはコンテンツのマルチ展開、ゲームやガンダムの場合プラモデル、ラブライブやアイカツ等アイドル系のコンテンツだとCDと言ったグッズ、あるいは最近だとライブなど入口はアニメであっても様々な楽しみ方をグループで提供すると言うのがアニメに限らず、日本のコンテンツ業界の特徴です。
その為薄く広いヒットよりも、熱心なファンをきちんと集める求心力のあるコンテンツを作る必要があり、その過程にはガンダムで言えば低視聴率などの逆風で簡単にあきらめない粘り強さが重要になります。実際ガンダムは放映からガンプラブームや映画化まで2~3年スパンが有りますしラブライブではプロジェクト開始からアニメ放映まで3年、映画化や紅白出場まで5年と時間をかけています。
当然今でも地上波キー局はこういった企業にとって重要なパートナーですから表立った批判がこういった企業から出ては来ませんが、こう言った状況は見られていると言ってよいでしょう。
画像:ちなみにテレビ朝日出資のAbemaTVもあります
更に重要なのはネットの世界に地上波キー局と直接競合する存在が増えてきている事です。上は今春の深夜アニメで話題になったウマ娘 プリティーダービーの配信サイトの一覧です。Amazon Dアニメストア、ニコニコ動画と有名どころを中心に一画面で収まりきらない配信サイトが出てきます。一方で首都圏は東京MXTVのみでTV朝日出資のAbemaTVはあるものの、キー局の姿は全く見当たりません。こうしてみるとTV=キー局の時代ははるか昔に終わり、番組制作者にとってはキー局も単なる1つの配信チャネルとなりつつあるように感じます。
・作り手の影響力が強くなる時代
9.25けもフレ事件@niconico大百科より
9.25けもフレ事件とは、2017年9月25日の夜からインターネット上でアニメ『けものフレンズ』監督の降板をめぐり、KADOKAWA及び関連企業へ大きな影響を及ぼした騒動である。pixiv上では「たつきショック」と呼ばれる。~中略~
これは、2017年9月25日午後8時ごろ、アニメ『けものフレンズ』の監督「たつき」氏の公式Twitterより
突然ですが、けものフレンズのアニメから外れる事になりました
ざっくりカドカワさん方面よりのお達しみたいです。すみません、僕もとても残念です
https://twitter.com/irodori7/status/912270635610472448
という発言が投下されたことに端を発する、一連の騒動である。
平成30年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結) (2017年08月10日)@KADOKAWA
ニコニコ動画では、有料の「プレミアム会員」の会員数は当期末に236万人まで減少した一方で、「ニコニコチ
ャンネル」の有料登録者数は61万人に達し、収益を下支えしております。
平成30年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2018年05月10日) @KADOKAWA
ポータルでは、日本最大級の動画プラットフォームである「niconico」における「ニコニコプレミアム会員」のサービス収入を柱とし、ウェブサイト上のバナー等の広告、有料動画等の関連収益を計上しております。期初には平成29年10月を予定していた「niconico」の新バージョン(く)(読み方:クレッシェンド)のリリースやスマー
トフォン向けの新サービスの投入が遅延するなかで「ニコニコプレミアム会員」は当連結会計年度末で207万人に減少しました。
そして重要なのはかつてに比べて製作者の影響力が強くなっている事です。上の引用は昨年大ヒットした「けものフレンズ」の監督の降板をめぐり、KADOKAWA及び関連企業へ大きな影響を及ぼした騒動の記事、注目したいのはこの騒動の陰でKADOKAWAのドル箱であるニコニコプレミアム会員が実に15%近くも減少している事です。ただこれはその前段階でプレミアム会員は減少傾向にあったのでこの騒動がどの程度影響しているかは分からないものの、ただユーザーにとっては素晴らしい作品が良い環境で継続的に見られればプラットフォームは何でも良いので運営企業が作り手を粗雑に扱うのであればプラットフォームの企業などは簡単に見限ると言うのは注目されることです。
・いつまでクレーマーに付き合うのだろう?~緩やかな自殺の構図~
『幸色のワンルーム』放送中止に批判の嵐……弁護士・太田啓子氏が「誘拐肯定」の意味を語る@CYZO WOMAN2018/6/23よりさてこの作品へのクレームとして弁護士の太田啓子氏がこんなことを書いています。個人的にはあきれてものが言えません。少なくとも誘拐の加害者が警察や外部に対して言う言葉には当然「自分の罪を軽くしたい」と言う意思の基、世論を味方につけやすい言葉を選ぶ訳ですし、それは妄想と言うよりもスピン戦略と言うべきものであり、そしてその入れ知恵をするのが弁護士の基本的な業務の1つではないでしょうか?そう考えるとまず責めるべきなのは同業者あるいはそれを拡散する報道メディアであり、そもそも誘拐と言う言葉だけが共通で前提条件も何も違う漫画を描いた作者ではないだろうと言うのが1つ、もう1つはやはりこの作品のヒロインを語る上で欠かせないヒロインの受けたいじめや虐待、教師からのセクハラの方は誘拐が曲がりなりにも犯罪なのに対し、それ自身は犯罪ではなく、加害者側が「いじり」だの「教育」だのよりひどい認知的な歪みがあるのにそれをスルーするのはどうかと言う点です。
例えば『名探偵コナン』や『ルパン三世』の中で描かれる殺人や強盗は、「殺人、強盗として描かれており『人を殺したけれど実は殺人じゃない』というような歪んだ認知に基づく描写はされません。ところが『幸色のワンルーム』では、幸が『お兄さんがしたことは誘拐だ』と言いつつも、それが幸の意思に反することだとは描かれていないのです。幸は、お兄さんと一緒にいることを喜び、肯定しているという描写になっています。これは、実際の女児誘拐犯が『こうであってほしい』と勝手に思い込んでいる歪んだ認知そのものの描写です」と、太田氏は述べる。太田氏いわく、『幸色のワンルーム』は、加害者や一部の人が事件に抱いたであろう妄想を作品にしたものであり、「実在の被害者に対する中傷そのものだと思う」という。作者が「事件とは関係ない」といった発言をしている点についても、「本人が言えばいいっていう問題ではないですよね」と、太田氏は疑問を投げかける。
それ以前に今時何十万部も売れる漫画と言う段階でやはり相当きちんと作られているものであると言う前提を持ってじっくり読まずに「誘拐を肯定する漫画」と脊髄反射する神経がそもそもどうかと思います。
画像:相変わらずの御仁である
更にひどいのは前にも取り上げた朝日新聞の三浦記者、TV朝日のやった曖昧な理由での放映中止と言うのは、説明責任と言う意味では最悪の選択だと思うのですが、「何故やめたのか?」「なぜやろうとしたのか?」とも突っ込まないのはジャーナリスト以前の問題としてどうかと思います。
そしてこんなクレーマーに付き合いこんなことを繰り返していけば視聴者以前に作り手からの信頼を失い、魅力的な作り手のいない放送からは視聴者も離れていく、これこそがメディアの緩やかな自殺と感じるのですが如何でしょうか?
・表現の自由を守るには~関西の放送局の意地が示すもの~
画像:TV朝日などどこ吹く風
さてそんなTV朝日の決定どこ吹く風かの様に決定当日の番組のtwitterではクランプアップの模様が公開され、主題歌を歌うFLOWの紹介が行われていました。この「幸色のワンルーム」と言うドラマはもともと関西の準キー局であるABCテレビの作成で、TV朝日はそれを使用料を払って放映する立場だった訳で、今回のTV朝日の判断は痛かったかもしれませんが、それをおくびにも出さないところに東京に対抗する大都市圏の意地を感じます。この「幸色のワンルーム」の件は良く言われるところの「表現の自由」の問題として語られる事が多く、多くの論がその正当性を語るのですが、ABCテレビのこのスタンスは「表現の正当性」より重要な「表現の自由」を守るための大きな武器を自ら示しているように感じます。様々な供給元が存在し、独占寡占からいかに距離を置ける状況を作れるかという事。どんなに正しく強い供給元でも1つだけなら、そこさえコントロールできてしまえば「表現の自由」など簡単に絵に描いた餅となってしまいますが複数の供給元があればある所が拒否したものも他の供給元が消費者の基に送り届けてくれるかもしれない、そういった事を考えるきっかけを作ってくれたABCテレビに敬意を表して取敢えず今宵は筆をおきたいと思います。
「幸色のワンルーム」@ABCテレビ音色 [ FLOW ]