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長期金利 10年もの国債利回り1.5%台に 2009年以来の高い水準@NHK2025/3/6より
国内の債券市場では長期金利の急上昇が続いていて、6日もアメリカの金利上昇や日銀がこの先も利上げを継続するといった見方などから、代表的な指標となっている10年ものの国債の利回りが1.515%に上昇し、2009年以来の高い水準となっています。
長期金利は、日本国債が売られて価格が下がると上昇するという関係にあり、住宅ローンの固定金利のほか、定期預金の利息などにも影響します。


さてこれまで注目してきた金利ですがとうとう長期金利が2009年以来の1.5%超えをしたそうです。 kinri202503_1
個人向け国債@財務省より

また個人向け国債では税引き前とは言えとうとう5年固定国債の金利が1%を超えました。

トランプ大統領 “日本と中国 通貨安を誘導 解決に関税必要”@NHK2025/3/4より
アメリカのトランプ大統領は3日、中国とともに日本が通貨安を誘導してきたと主張し、こうした問題を解決する手段として関税の発動が必要になるという認識を示しました
トランプ大統領は3日、記者団に対し、「日本の円であれ中国の通貨であれドルに対して通貨を下落させるとアメリカにとって非常に不公平で不利な状況をもたらす」と述べました。
そして中国の習近平国家主席や日本の指導者たちに電話して、「通貨を下落させ続けることはできない」と伝えたことを明らかにしました。


これまでの金利上昇時と違うのはアメリカトランプ大統領が通貨安誘導への懸念と懲罰関税の導入を表明している事で、通貨安の大きな原因となっている日米金利差の解消=政策金利上昇への政治的な追い風になっている事だと思います。私自身の予測としては欧米の金融緩和基調から金利上昇は年内であと1回、0.25%程度とみていましたがもしかしたらそのペースや上昇幅が上がる可能性は高まったとみています。そして住宅ローンがその影響先の筆頭に上がります。それを考えるとこの金利上昇は平成時代維持されて来た「中流社会」に止めを刺すのではと感じます。ここではその事について書こうと思います。

低金利と長期ローンが招いた平成中流社会のラットレースと金利上昇が意味する事
夫から「もし俺の両親から、近くに住むなら住宅資金の半分出すって言われたら…どうする?」って言われて食い気味に「一生賃貸でいいかな」って声が出た→結婚って大変なんだな…@popsiより


こんなツイートが少し前に話題になりました。このツイートを見て「親世代からの援助なしに家を持てる社会」と言うのがある意味で平成の「中流社会」の光景だったのだなと言うのを改めて感じました。

2010年代中産と下流の時代~プロローグ1980年代に始まった非婚化・草食化が語るもの~その3より
  生産手段 労働 投資 消費 属性
上流 ◎   Ⅹ  ◎  ◎  大企業の大株主、大地主等
中産 〇   〇  〇  〇  中小企業のオーナー社長、商店主、自作農等
中流 Ⅹ   ◎  Ⅹ  〇  サラリーマン等
下層 Ⅹ   〇  Ⅹ  △  工員、小作農等


これは10年以上に書いた記事からの引用ですがホワイトカラーのサラリーマンに象徴される中流階級と言うのは言って見ればその労働の生産性の圧倒的な高さから実は生産手段と言う意味の資産がない中でも中産階級並みの経済生活を送れている層と考えると平成時代、特に後半は中国をはじめとするその圧倒的な生産性が揺さぶられた時代だったと思います。

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令和初期と昭和末期の住宅ローン比較(昭和末の金利は昭和50年~平成10年の旧公庫融資基準金利の推移(単位:%)より)

実際昭和末期のと金利上昇前の令和初期の住宅ローンを比較すると上の様になると思います。昭和末期では5%以上の金利も珍しくなく、期間も今のように35年と言う長期のものは一般的ではなかったと思います。そして同じ3500万円のローンで見ても月当たりの返済額はかつて23万円だったのが9万円、支払利息の合計も2100万円強だったのが400万円弱と大きく減っています。更に住宅ローン控除の存在などを考えると給与が減ったと言われる反面、それ以上に金利が低下した事による負担減で「親世代からの援助なしに家を持てる社会」=「平成の中流社会」は維持されてきたように思います。

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金利上昇時の住宅ローン返済額試算

さて金利が上がる事でどこまで返済額があがるのかシミュレートしてみました。最大の3%は可能性自体は低いものの、現状のアメリカの政策金利が4.25~4.5%と考えるとアメリカの政策金利低下のスピードが遅ければあり得るラインとして考えています。仮に今の0.5%が3%に上がったとすると月々の返済額は13万5千円と現状0.5%時の9万1千円の1.5倍近く、総返済額は昭和想定の5%、20年間のものよりも大きくなります。また利息額の2201万円は0.5%時の324万円の凡そ6.7倍と金利が高くなると複利の関係でそれに正比例ではなく正比例よりも支払うトータルの利息額が増えるというのも注目したいところです。

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金利上昇時の住宅ローン元金残額試算

またもう1つ注意したいのは金利が高いとなかなか元金が減らないという点です。上のグラフは同じ3500万円、返済期間35年、元利均等のローンでの元金残額の推移ですが3%時と0.5%では最大370万円もの残額に差が付きます。これは仮に収入減などでローン返済が難しくなった際に売却で返済を行って残る残債がそれだけ増える事を意味します。

「贅沢」「普通」が語る中流社会の本質
女さん「年収1200万で子供3人育てられない人は?自分に相応な生活を理解していない人」→『税金が高すぎる』『子供3人大学はかなりの経済力がいる』@posfiより


あまり注目されませんでしたが楽しいツイッターランドではこんな議論がありました。確かに子育て支援の所得制限に理不尽を感じるというのは分からなくないもののそれでも「1200万って人口の4%しかいない実際、日本人の中でも相当優秀な人間だよ。その4%の人間ですら贅沢出来ない日本って普通におかしくないか??」と言うメンタリティの人にとっては厳しい時代になっていくのではと感じます。

改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 [ ロバート・キヨサキ ]より
「たいていの人には値段がある。それは人間誰しも恐怖と欲望という感情を持ち合わせているからだ。まず、お金を持たずにいる事が怖いから必死に働く、そして給料を受け取ると欲張り心が頭をもたげ、もっとお金があればあれも買えるこれも買えると考え始める。その時に人生のパターンが決まる。そのパターンとは、朝起きて、仕事に行き、請求書を支払う、また朝起きて、仕事に行き、請求書を支払う…この繰り返しだ。その後の彼らの人生はずっと恐怖と欲望という二つの感情に走らされ続ける。そういう人はたとえお金を多くもらえることになっても、支出が増えるだけでパターンは決して変わらない。これが、私が『ラットレース』と呼んでいるものなんだ


「人より稼いでいるからその分贅沢できる」と言う発想は一見最もですが、ただ少なくない人が感じるのは「キリがない」と言う事ではないかと思います。上はベストセラーの「金持ち父さん貧乏父さん」からのものですが、このラットレースの下りは多くの人の共感を示したものではないかと思います。

改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 [ ロバート・キヨサキ ]より
資産は私のポケットにお金を入れてくれる
負債は私のポケットからお金を取っていく


逆にラットレースから抜けるのに大切な考えは上の様なものではないかと思います。例えば「贅沢」と言う言葉から浮かぶのは極端に言えば1月単位の収支を考えるお小遣い帖の様なお金へのスタンスをではないかと思います。しかし資産と負債と言うと単なる収支でなく企業会計の様な損益(PL)と資産・資本(BS)の複式になりより詳細になります。具体的に言うと
資産→収入が給与だけでなく配当・利子等の資産からの収入が可視化される
負債→何もしなくても出て行くお金が可視化される

こうすると視点が長期的になるのも重要ではないかと思います。言うまでも無く中長期的に安定して豊かな生活を送るとするなら負債を減らし、資産を増やすという明確な目標が見て取れると思います。

2010年代中産と下流の時代~プロローグ1980年代に始まった非婚化・草食化が語るもの~その3より
  生産手段 労働 投資 消費 属性
中産 〇   〇  〇  〇  中小企業のオーナー社長、商店主、自作農等
中流 Ⅹ   ◎  Ⅹ  〇  サラリーマン等
下層 Ⅹ   〇  Ⅹ  △  工員、小作農等


それは前に書いた記事の表で言えば中産階級に近づけるという事になるのではないでしょうか?そして最初の引用の「もし俺の両親から、近くに住むなら住宅資金の半分出すって言われたら…どうする?」に代表される家族との距離感で言えば極力近く良い距離感をすると言う部分も含みます。単純に親世代の遺産みたいな部分の他に、親など身内が身を持ち崩してその影響が来る確率を減らすという事も意味します。逆に「贅沢(多分「普通」も)」と言う言葉を言う人はそれが出来ず下層に落ちこぼれる恐怖の中ラットレースを続ける事になります。そして金利の復活した世界はこのラットレースで生き残れる確率がどんどん低下していく社会になると思われます。

50年ローンで平成中流社会の延長線を戦う人が語るもの
住信SBI、住宅ローン最長50年に 住宅価格高騰に対応@日経新聞2023/8/3より
住信SBIネット銀行は住宅ローンの最長返済期間を従来の35年から50年に伸ばす。住宅価格の高騰を受け、毎月の返済額を減らして若い消費者を取り込む狙いだ。50年ローンは一部の地銀で提供していたが、ネット銀や大手銀では初めて。ネット銀は適用金利の低さで住宅ローン競争を主導してきたが、新たな局面に入る。
ローン4930万円で返済月7万7千円と言う事はボーナス払いありか・・・


さて金利上昇をきっかけに最近スタートした50年の超長期ローンが2~30代の間である意味流行っているらしいです。返済金額が低いのが理由で、ある意味で金利低下で返済額が低下した平成中流生活の延長戦を令和でやろうとしているのかなと感じます。

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50年住宅ローン返済額試算

と言う事で試算をしてみました。50年ローンは35年ローンに比べて金利が高いと聞いたことがあるので試算は1%からにしています。流石に1%では返済額が7万4千円で35年0.5%の返済額よりも更に1万7千円低く、2%で35年0.5%で同等とこの返済額であればもし給料が減っても返済が滞る事はなさそうです。しかし1%でも35年0.5%のケースに比べて支払利子が3倍近く多く、2%だと支払利子が昭和の20年5%と同等になります。

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50年住宅ローン返済ペース試算

元金の減少に関してもやはり50年だと減りも遅いです。35年0.5%では10年で900万円以上元本が減少するのに対し50年1%では570万円、50年3%ではわずか385万円、20年後に残る残金はそれぞれ1575万円、2304万円、2666万円となります。余程立地が良ければ別ですが仮に20年後売却する際は頭金500万円で4000万円の住宅として元本割れとなるリスクは高いと言えるのではないかと思います。また50年ものローンとなると仮に25歳で住宅を購入しても繰り上げ返済をしない場合は75歳まで返済するというのも大きなリスクと言えます。



ただ一方で返済額が低いのを生かして積み立て投資を行い住宅ローンとの金利差を生かし資産形成を行うという考え方を提案する住宅ローン評論家もいます。私だったらお薦めは出来ませんがこれはこれで一つの考え方ではないかと思います。言うなれば給料だけでなく資産にも稼いでもらうという意味でこれも中産階級的な考えではあります。

ラットレースから抜け出る人たち


ただあくまで50年ローンをしてまで家を買うのはあくまで「子育て中の家族構成員が最も多い時期に家族皆が住める住宅を購入する」と言うのが大きな理由です。逆に言えば15~20年程度の子育て期間中を避けて夫婦2人だけで面積的にも期間的にも多くを求めない例えば老後の時期に住宅を購入すれば費用も大きく抑えられやりようによってはローンに頼らず、現金で購入する事も可能になる可能性もあります。上は職場の独身男性が皆老後に激安中古マンションを現金で購入して終の棲家にすると言っているのを感心する人のツイッターですが、住居にかかる費用を負債と考え、最小化するというのなら理に適った考え方であり、今の段階で独身者を中心に一定数いて、今後も独身者を中心に増えそうな気がします。

義両親との同居生活、満足度で最多は50%。同居はメリットとデメリットが混在?! 専門家に聞く@たまひよ2022/6/22より
今回は世間ではダークなイメージが強い「義実家同居」についてのコメントを紹介します。すると意外にも(!?)「デメリットばかりじゃなく、メリットはある」という声が...。
背景には共働き夫婦が増え「子育てと家事をフォローしてもらえる」という、義実家への期待があるようです。
ペアローンで返済期間40年!それでも若い層が「賢いマンション購入」と考える納得の理由より
マイホームを買う際、「ペアローン」が増えていることがリクルートの調査で明らかになった。調査によると、首都圏・新築分譲マンションにおいて「世帯主と配偶者のペアローン」の割合は33.9%になったと報じられた。


ただ住宅が資産だと考えるとした場合、その有効活用は親世代との同居になります。これは平成時代を通じて独身者に関してはパラサイトシングル、子供部屋おじさん・おばさんと言った言葉が流行ってきたように独身者に関しては拡大してきましたが、既婚者に関しては特に女性に義実家との同居は特に介護の関係で嫌われてきたのですが、もしかしたら少しずつ変わりつつあるのかもしれません。それは共働きが標準となり義両親による子育てや家事のフォローが期待され、実際に保育などでは「じいじ」「ばあば」の存在感が増してきたこと、また平成期はローンの返済者として存在感の低かった女性が共働きが当たり前である以上相応に働いて稼いだ給与から返済を行うケースが増えてきたことにより「住宅ローン返済者」の責任と負担の重さを実感するケースが増えてきたことがあります。

氷河期世代以降も下がってますよ、持ち家率@noteより
その一方で、ぎりぎり就職氷河期世代にはいっていない(むしろバブル入社世代?)、1964年~68年生まれ世代と氷河期世代の差は小さいです。~中略~
さらに、25歳~29歳、30歳~34歳に注目すると、氷河期以降に生まれた世代の方が持ち家世帯率が低くなっています。より昔にさかのぼってみれば、1949~53年生まれ(調査年に80~84歳)からの持ち家世帯率の低下傾向が直近まで続いているようにも見えます。


住宅を負債に見るにせよ資産に見るにせよ上の世代が人生をかけて参加した住宅を所有するためのラットレースからの脱却の動きが静かに起こり始めているのかもしれません。上は所謂就職氷河期世代の持ち家比率が下がっと言う日経新聞記事に対する神奈川大学飯塚教授の反論記事の内容ですが持ち家率が高かった団塊の世代から中長期的に持ち家比率が低下傾向にあるものの就職氷河期世代1969~1983年生まれの世代はバブル世代と言える1964~1968年生まれとそれほど差が無く、むしろ氷河期世代以降の持ち家率の低下幅の方が大きいのではと言う問題提起になっています。バブル~氷河期世代を平成中流社会のメイン世代と考えれば令和のメイン世代は平成のメイン世代以上に持ち家率が下がるという予測で根拠の統計からも見て取れます。

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NISA口座開設・利用状況調査結果(2023年9月30日現在)について@日本証券業協会より
Choose or Loose課題多き参院選2022その1平成女子に見る少子化対策の曲がり角より
合計特殊出生率を世代別にみて見ると当時20代後半だった1991~1995年生まれの世代は上の1976~1990年生まれ世代に比べて20代までの出生率が0.55と0.07~0.09も落ち込んでいて、1990年以前生まれの世代の出生率が1.4以上だったのに比べて今後落ち込んでいく事が予想されています


そしてラットレースから離れ余裕のできたリソースは資産形成に行っているのではと感じます。日本証券業協会が2023年に調べたデータでは旧NISA+積み立てNISAの口座開設数は氷河期以降で氷河期世代よりも人数自体は少ない30代が最も多いです。20代は減っているように思えますが、実際学生時代や社会人1~2年目で投資を始める人は多くない事を考えると20代も30代以降ではより口座数を増やす可能性は高いです。一方この世代の出生率は氷河期世代よりも大きく落ち込みここ最近の出生率低下の原因となっている事を考えると子供を産んだ人そのものが減っている事で子供の教育へ行くお金は増えていないと思われます。

まとめ

まとめます。
・中流階級とは労働者階級の中で圧倒的な生産性を持つものが給与所得によって中産並みの消費を行えるようになって生じた階級である
・そして一億総中流と呼ばれた昭和末期中流層は中産階級並みの持ち家を給与所得で取得していた
・中国などの新興国の成長で中流の基盤である圧倒的な基盤は揺らいでいたが0に近い金利と35年の長期ローンで平成時代も中流社会、ロバートキヨサキの言葉を借りると家を巡るラットレースは維持された
・しかし令和の入っての金利復活と今回のトランプの円安是正要求により0に近い金利が失われ平成の中流社会の基盤も崩れ始めた
・ポスト中流の流れで投資による金融資産、親世代の持つ不動産資産を生かすことで労働(給与)→資産+労働の新しい中産化の流れが起こり始めている
・特に氷河期以降の世代ではNISAの開設数の多さなどでそれが顕著である
本来なら中流社会から零れ落ちる人について書く必要があるかもしれませんが、それは今後の課題とさせてください。