ホームズ・ドイル・古本 片々録 by ひろ坊

ホームズやコナン・ドイル、ミステリーを中心にした古本についての紹介や身辺雑記の話。

本物?、偽物?(2)―4月から再開します。

天目(2))   前回に続き『古書贋作師』の話をしようと思ったけれど、最近、テレビ東京『開運! なんでも探偵団』(昨年12月20日放送)に出品された茶碗が話題になったので、まず、それを枕にしよう。

  「茶碗」と書いたが、あちらにもある、こちらにもある⋯⋯といった茶碗ではない。現在、完全な形では世界に3つしか存在しない国宝の『曜変天目』。「番組始まって以来、最大の発見!」という触れ込みで『鑑定団』に出品された「茶碗」が、「いい仕事してますね」のセリフで有名な古美術鑑定家・中島誠之助が、4点目の『曜変天目』と鑑定し、2,500万円の鑑定額を付けた。

 ところが、『曜変天目』に次ぐ『油滴天目』でさえオークションで12憶円の値段がついたというのに、これは何でも安すぎる、とか、専門家からは、これは本物ではない、とかの意見続出で大騒動になった(「朝日新聞」2017年3月7日付・朝刊)。その後、どうなったかは知らないけれど、この件に関しては中島誠之助は、「まずい仕事」をした(?)ようだ。

 上の寫眞は、2013年に開催された「受け継がれる東洋の至宝Part掘〕吠僉μ滴天目―茶道具名品展―」に際し発行されたリーフレット(編集・発行:静嘉堂文庫美術館)の表紙。下が「静嘉堂文庫美術館」所蔵の『曜変天目』。上が『油滴天目』である。本誌の説明によると、『曜変天目』は、南宋時代(12〜13世紀)の中国福建省の建窯でつくられたもので「一椀の中に宇宙を見るかのような神秘的な茶椀」で、『油滴天目』は、「『曜変』に次ぐ高い評価を受けてきた天目茶碗」で「その名は、油の滴が水面に散ったような斑紋が黒釉上にあることによる」という。2009年、「曜変天目」の陶片が発見され「世紀の発見―『曜変天目』陶片、南宋の都・杭州に出土」(同リーフレット)と紹介されているほどだから、4点目の完品が出たら、それは「最大の発見!」とテレビ局が色めき立つのは、当然だろう。

 ただ、『鑑定団』に出品された『曜変天目』の寫眞(同上「朝日新聞」。モノクロ)と本物を比べて見ると、本物とはとても思えない。鑑定家でも間違いはある。小林秀雄や白洲正子の骨董の師匠だった青山二郎にしても、間違えたことがあるという。そんな鑑定の専門家の間違いについて小林秀雄は「勿論、私は専門家の鑑定を笑いはしない。それは情けを知らぬ愚かな事だ。」という。ホン物は減る一方だが、それを欲しがる好き者が多ければニセ物が増えるのは、需要と供給の関係だから仕方がないともいう(小林秀雄「真贋」)。実際、棟方志功や雪舟、それにピカソの贋作も日本で流通しているという話を聞いたことがある。「ただ、品物は勝手に世渡りするもので、博物館に行って素性が露見するという一見普通の順序は踏むものではない。」。そういえば、オードリー・ヘプバーン主演『おしゃれ泥棒』(ウイリアム・ワイラー監督、1966年)は、贋作師の父親の作品が、美術館に展示されるのを知って、本物かどうか鑑定されるまえにそれを取り戻そうとプロの”泥棒”(ピーター・オトゥール)に依頼する、という贋作の世界の一端を教えてくれた「おしゃれな」映画だった。そんなこんなで、贋作に関する本やら雑誌を読んでみたら実に面白い。この話は、もう少し後にして――
 
  さて。『古書贋作師』のつづき。本書の主人公・わたし(元贋作師のウィル)は、シャーロック・ホームズが大好き。「三度の飯より慣れ親しんでいて、いうなれば黒い陶器のパイプも鳥打帽子もわたしのものだと思っている」ほどで「シャーロック・ホームズに関するものすべてを、まさに生涯をかけて追い求めている」人物。そんな人間の前に、コナン・ドイルが1901年5月から6月にかけて『ストランド・マガジン」の編集者グリーンホウ・スミス宛に出した全部で17通におよぶ未発表の手紙を入手したので観にこないか、と馴染みの本屋から電話が来る。それらの手紙は、『バスカヴィル家の犬』の執筆に関わるものだという!――。当然、ウィルは出掛けてゆき、「適切な買いとり価格」でその書簡集を入手する。

  作者のブラッドフォード・モロー(1951〜)は、愛書家で稀覯本業界で働いていただけに、古書にまつわる話も多く、しかも、随所にドイルやホームズに関する話題がでてくる。件のコナン・ドイルの17通の書簡集は、はたして本物か偽物か〜〜〜?は、本書を読んでいただくことにしよう。ホームズファンの古本コレクターには見逃せない一冊である。

フェルメール」f『偽りの来歴」  贋作に関する本は数あるが、とりあえず2冊読んでみた。フランク・ウィン/小林頼子・池田みゆき訳『フェルメールになれなかった男』(原題:I WAS VERMEER.ちくま文庫、2014年3月10日)とレニー・ソールズベリー/マリー・スジョ:中山ゆかり訳『「偽りの来歴」 20世紀最大の絵画詐欺事件』(原題:Provenance−How a Con Man and a Forger Rewrote the History of Modern Art.白水社、2011年9月5日)で、両書ともノンフクションで、贋作と詐欺の世界の裏話がたっぷりと盛られていて、いわゆる「推理小説のような」面白さである。

 この本の紹介は次回に。4月から再開します。

(つづく

本物? 偽物?(1)

img186   新刊本屋さんには、あまり行かない。ほとんど古本屋か古書店である。たまに、新刊本屋さんに行ってミステリーの棚を見るとホームズ物が沢山並んでいる。近頃は流行りのようであれもありこれもある、といった塩梅。最近は文庫本でも1,000円くらいするからオイソレとは買えない。

  先日(といっても2週間ほど前)、新刊本屋さんに行って文庫本を眺めていたら、こんな惹句の帯が眼に入った。「真贋入り乱れる稀覯本の世界へ誘う幻惑のミステリ。その贋作師は両手が切断された状態で発見された――」。書名は『古書贋作師』(ブラッドフォード・モロー/谷泰子訳、原題:The Forgers.創元推理文庫、2016年6月24日)。この書名と惹句にはちょっと心が騒いだので、裏表紙の説明を読んだ。

「(⋯⋯)両手首を切断された状態で発見されたその男は、コナン・ドイルなど著名作家の直筆を偽造する贋作師だった。彼の妹と交際しているわたしも、かつて名を馳せた贋作師。(⋯⋯)異様な語りで稀覯本の世界へ読者を誘(いざな)う、異色ミステリ。」

――コナン・ドイルの手紙の贋作だって!!? こう言われると読まずにはいられないね。というのも、昨年、海外のネットでコナン・ドイルの手紙と封筒を、前者は古書店で後者はオークションで買ったからである。ネットには長い手紙からサイン(だけである)まで数十万円から数千円まで、ドイルの真筆(!)が売られている。欲しい、とは思うものの財布が言うことを聞かないし、もし偽物だったら(それらしい物もある)⋯⋯との想いが頭の中で渦巻いて、なかなか手が出せなかった。ちょうど頃合いの値段の手紙(ペラ1枚)が海外の古書店に出品されていたが、1カ月たっても2カ月たっても売れ残っている。誰も手を出さないのだ。手慣れた人が見て偽物と判断されたからかもしれない。しかし、僕の眼で見ると本物にしか見えない。それで、エイヤッと掛け声掛けて購入した。封筒の方は、オークションのため、相手が一人いたが(これも本物とは自信がもてなかったが)、珍しく落札できた。海外のオークション(本の場合など)の場合、時間差と郵送料のハンディがつくから競争になると何度も負けてきた。だから、たとえ贋作でもいいではないか、と落札代金を支払った。

img195 Letter-SACD-1908-01-25-daldy(ドイルの封筒) (2)  その封筒(左)を額に入れて眺めていたが、『古書贋作師』を読んで、気になりあれこれ調べてみたところ、同じような封筒(右)が見つかった。左は以前紹介したように、1899年10月30日に、トランスバール戦争基金宛に寄付金を送った時の封筒で中の手紙(?)は付いていない。
 右は、1908年1月25日、サセックスのクロウバラから出版社のF.E.Daldyに送られた電信用の封筒(*)。表にConan Doyleと鉛筆(?)で書かれている。なかの用紙は電信用で、左端に”Telegram:Crowborough No.Tel.No77”とあり右に”Windlesham Crowborough Sussex”とある。僕の買った封筒も本来は、電信用の手紙が付いていたはずで、普通の郵便用封筒とは違う(以前は、郵便用の封筒と思っていたが間違い)ものである。普通の郵便の切手は角形で丸くはない。それに電信用の切手の部分は型押ししてあるから、そんな面倒までして安い偽物を作るとは思えない。したがって、僕の購入した封筒は本物である、と90%の自信をもって言うことにする。(封筒の色が違うのはスキャナーの関係)

 僕が買った手紙の真贋はもう少しよく調べてからにしたい−−とここまで書いて、『古書贋作師』の表紙を見ていて、オヤ??と思った。よくよく見ると、『古書贋作師』の表紙にある手書きの原稿は、筆跡からしてコナン・ドイルのものと思われるのだ。本文のなかに”Heaven of Hell、Hell of Heaven”という字句が見える。これを頼りに、左右の脳みそを絞りに絞って、やっとミルトンの『失楽園』第一巻にある天国から追放された大天使(サタン)の言葉と判明した。原文は――

”The mind is it own place,and ㏌ it self
Can make a Heaven of Hell,a Hell of Heaven


[(⋯⋯)心というものは、それ自身
一つの独自の世界なのだ、――地獄を天国に変え、天国を地獄に
変えうるものなのだ。
だから、もしわたしが昔のままのわたし
であり、彼に比べてもほとんど遜色のないわたしであるかぎり
どこにいようと構うことはない。(⋯⋯)」
(平井正穂訳『失楽園(上)』(岩波文庫、2010年11月15日 第49刷)

――ということまでは調べて分かったが、この手書きの原稿の作品名が知りたい。あれこれ調べたものの、なかかな見つからない。”Cover Art c by Charles Rue Woods with Sam Wolgemuth”とあるから、聞いてみるのも手だと思ったが面倒なので止め(原書も同じ装丁)。『失楽園』は以前読んだから、その時の記憶をまさぐってみて、ホームズ譚以外の作品に違いない、と当たりをつけ、更にあれやこれや調べたら、やっと見つかった。

『クルンバーの謎』(松原正訳、創元推理文庫、1964年7月31日、5刷)のなかに登場するインドの僧侶ラム・シンのセリフ(p113)――

 「ミルトンの詩に、こんなのがありましたね。
 
 心は心の住家なり
 地獄を天国にするのも心なれば、
 天国を地獄にするも心なり
            (失楽園)」

――と、ここまで書いて、ついでにこのブログで『クルンバーの謎』を検索してみたら、2013年10月12日の「『クルンバーの謎』(5)」に、この詩が引用されていると記してあった。ヤレヤレ〜〜〜。


*F.E.Daldy宛の電信用封筒・手紙は、”The Aurthur Conan Doyle Encyclopedia”提供による。


(つづく) 
 

帯の色々(3)

img137 (2)img172映画タイアップ型  さて、お立合い~~~~
 次なるは、映画・TVとの「●タイアップ型」

1、阿部知二訳『四人の署名』(創元推理文庫、1987年12月8日)。帯に「NHK放映 1月9日より毎週土曜9:45〜10:30 ホームズ101年」とある。放映されたのはジェレミー・ブレットの『シャーロック・ホームズの冒険』第二シーズンだろうか? 「ホームズ101年」とあるのは、1887年、ホームズ譚の初篇『緋色の研究』が発表されてから101年目ということ。発行は100年目の1987年だけれど、1988年1月9日からテレビで放映されるため101年という数字になったわけ。ややこしい。
2、延原謙訳『シャーロック・ホームズの冒険』(新潮文庫、平成25年6月10日、124刷)。ご存じ、ベネディクト・カンバーバッチ主演BBC『SHERLOCK:シャーロック シーズン3』の広告入り。帯に「世界が熱狂!」とあるとおり、これで、世界中にホームズファンが増えた。ホームズ本が世界中で次々に発売され、古書価もあがった(困るね!)。海の向こうでは、新シーズンが始まったという。早く観たいですなあ!
小林司/東山あかね訳『緋色の習作』[A Study ㏌ Scarlet](注・解説・年譜 オーウェン・ダドリー・エドワーズ、高田寛訳、河出文庫、2014年3月20日)。寫眞(上・中央)の通り、NHKテレビで平成26年3月から放映された三谷幸喜脚本の人形劇『シャーロック ホームズ』(パペットデザイン・井上文太)の広告入り。

img173img174  この本、買ってから積んでおいた。今回、ブログのためによくよく見たら、どこかが違う。変な感じである。帯は付いていない、と思ったからだが、違った。約三分の二は帯なのだ!寫眞の左側が帯で、それをとると右側の本体となる。背中の文字もピッタリ合うようにデザインされているので帯だとは気が付かなかった、という訳。かなり精度の高いデザイン(佐々木暁)と製本技術の見本である。 重ね着本の亜種か?新種か?



img139img141img142  ●ホームズのイラスト型 
 ホームズのイラストをあしらったもの。白木屋さん、黒木屋さん、どこのデパートでも売っている極普通の帯。

1.阿部知二訳『恐怖の谷』(創元推理文庫、1991年8月9日)。こちらはよく見かける普通のタイプ。「世界中で愛されている名探偵シャーロック・ホームズの世界」という惹句も平凡である。だが、巻末の「創元推理文庫/ミステリ」の「コナン・ドイル」の解説に「開業医をしていたが芳しくなく、生活のために筆をとり、一八九一年『緋色の研究』で名探偵をシャーロック・ホームズを創造。これが圧倒的な人気を集め、一躍作家的地位を確立した。」とある。これは間違い。文章から考えると、ここは「一八八七年」とするか(ただし、第一作『緋色の研究』が「圧倒的な人気を集め」たとは言えない)、『緋色の研究』を『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズに直さなくてはいけない(ただし「ホームズを創造」という文は間違い)。どちらにしても、少しおかしい。
2.延原謙訳『シャーロック・ホームズの帰還』(新潮文庫、昭和63年3月10日 66刷)。左は帯の表でホームズのシルエットをあしらい「ウーン⋯ワトスン君、これはやつぱりドイルしかないねえ。」というセリフ。裏面はワトスン(らしい)のシルエットで「ホームズ君、ぼくもやつぱりドイルだと思うよ。」とある。こんな帯、見たことないねえ。珍種である。

新刊告知1新刊告知2新刊告知3  ●新刊告知型
 
  新刊発売を強調しているタイプ。帯の役割としては、あたり前といえば当たり前だけれど――

1.コナン・ドイル/秋田元一訳『豪勇ジェラールの冒険』(旺文社文庫、1984年12月20日)。「剣には強いが女に弱い痛快ジェラール大活躍!今月の新刊」という帯。表紙のイラスト、チト変わっている。作者は永田力。
2.M・J・トロー/後藤安彦訳『レストレード警部と三人のホームズ』(新潮文庫、平成元年<1989>5月25日)。「今月の新刊 国会議員連続殺人事件。その背後に、死んだはずのシャーロック・ホームズの姿が⋯⋯。」。『霧の殺人鬼』、『クリミアの亡霊』に次ぐレストレード物第三作。
3.『日本版 ホームズ贋作展覧会(上)』(河出文庫、1990年4月4日)。「河出文庫 [今月の新刊] 漱石、ホームズと対決す!? 日本人作家でなければ思いつかない贋作やパロディーの絶品。一度覗いてみませんか」。1990年は、ドイル没後60年にあたる、と帯の裏に新保博久氏のコメントがある。

――以上、ながながと文庫本の帯を中心に分類してみたが、まだ他に新種・異種・珍種があるかもしれない。神保町に行って採集に精をだそう。そういえば、単行本(函付き)の帯付で高価なものは、塚本邦雄の歌集『緑色研究』であろう。帯に『緋色の研究』(A Study ㏌ Scarlet)のことが書かれている、と我が”師匠”から随分前に教わったが現物を見たことがない(国会図書館にあるにはあるが、函も帯もない)。昨年、それが見られるという古書店に行き、おそるおそる見せていただいた。ウン、なるほどコレが九段の本か!!と思い、値段を見て驚いてスゴスゴと帰って来た。本書の子細については、2009年4月1日のブログに書いてあるので、お暇でしたら読んでみてください。驚いたね、9年も前の話だ。

  神保町にゆくと(本を買いすぎるあまり)貧乏になるから、「貧乏町」だ!! と師匠がわめいていました。『緑色研究』の帯付まで買ったら、そりゃあ、貧乏になるわサ!

  この項おわり。



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