ホームズ・ドイル・古本 片々録 by ひろ坊

ホームズやコナン・ドイル、ミステリーを中心にした古本についての紹介や身辺雑記の話。

贋作の続き(4)

img196img198   4月からブログを再開する予定だった。しかし、桜が咲いて、風に吹かれて舞い散り、こちらはこの年で花粉症になり、その内、まわりは新緑。初ガツオを食べ(カツオは新しくないとダメ)、新茶が田舎から届き、お茶を飲んでいるうちに5月も20日を過ぎてしまった。
 特に、怠けていたわけではない。贋作のことを調べようと、神保町の古書店にゆき『芸術新潮』の贋作特集を2冊(左:1983年7月号『東西有名贋作展』、右:1990年7月号『大特集、万国贋作博覧会』)買いこみ、眺めているうちに、ART、特に「モダンアート」あるいは「コンテンポラリーアート」に興味が流れてゆき、今度は、そちらの図録や画集を買い込んで眺めていた。
 
  シュールレアリズム、ダダなどのアーティストが好んで製作したコラージュ(あるいは、フォト・モンタージュ)に魅せられて、自分でもこれくらいなら描けるのではないか??と不埒にも思い込み、試しにやってみたものの、ピカビア、マックス・エルンスト、ハウスマン、ハンナヘッヒなどのようなわけにはゆかない。中学生の時、美術部で少々絵を齧ったくらいでは、とても歯が立たない。美術学校で基礎を学んでいなければ、とても無理と痛感させられた。数年前、バルセロナでダリの美術館にゆき若いころからの多彩な作品を見て回ったが、やはり基礎ができている。基本ができていないと(絵ならデッサン?)個性的な創造は生まれてこないのである。変化できないのである。これは、スポーツでも同じ。野球の長嶋や王、松井やイチローのような偉大な選手は、皆、基本が確実に身についている。だからこそ、いろいろな難しいプレーができる(あるいはできた)のだ。

  それはともかく。そうこうしているうちに、棟方志功の贋作事件(まことにオソマツ)があり、テレビで外国の贋作についてのノンフィクションを見たりしていたが、なかなかブログに手を付けられなかった。先日、やはり神保町で『贋作王ダリ』という本を見つけた。帯を読んだら、ダリは贋作だらけ〜〜〜と。そこで、図書館に予約したので、これから借りにゆき、それを少し齧ってから、改めて再開することにする。

  日本語では、偽物を一般的に「贋作」というが、英語では「フェイク」(fake)と「フォージェリー」(forgery)がある。絵画の分類にも「モダンアート」(Modern Art)と「コンテンポラリーアート」(Contemprary Art)があるが、どう違うのか、ハッキリわからない。辞書を引けば、同じような意味だが、違いがある。日本語では「自由」というが、英語では「フリーダム」と「リバティー」があり、それぞれ意味が違う。その点、日本語は実にあいまいで、あいまいな言葉で法律の説明をされてもサッパリわからない。あいまいな言葉を法律に使われたらエライことになる。現在衆院を通過した「共謀罪」なんぞ、内容(言葉)を知らない「法務大臣」がつくるんだから、考えてみただけで恐ろしいではないか???

〜〜〜〜と、こなんところで、頭の体操をしてから、次回、本題に入ることにしよう。
 
  以下は、神保町で購入した1冊100円から3冊500円までの図録の一部。図録を2,3冊もって歩くと、結構な運動になる。重いのなんの!
ダダ画集イギリスの新デザイン」スタイリング」じゅあん・グリス














(つづく)

本物? 偽物?(3)−贋作は人類史上二番目に古い職業?

ゴッホ麦畑(左)ゴッホ麦畑(右)
   例えば。上の絵(本来は横長一枚の絵ですが、スキャナーの都合で分れています)を、お客さんに見せて、どうです、この絵をお買い上げになりませんか?と画廊の主が訪ねる。お客さんは、無言。

  そこで、彼は次に、こう付け加える。この絵は、ゴッホの絵です。ゴッホが自殺する前年(1890)に描いた彼の最後の作品「カラスがいる麦畑]<注1>ですよ。

  この説明を聞いた瞬間、お客さんの頭の中には、$$$$$$$$$$¥¥¥¥¥¥!!!!!という記号が走り回ることになる。前回紹介した「フェルメールになれなかった男」ヒェールト・ヤン・ヤンセンは、本書のなかでこう語っている。「はっきり言って、人は、作品の出来に惹かれて金を出すわけではなく、その画家の名前が目当てで絵を購入するわけでしょう。ウォーホルの名を壁に掛けるために作品を買う。中世にあちこちで売り捌かれた聖遺物と同じですよ。キリストが架かったとされる本物の十字架の木片をすべてかき集めると、何隻もの軍艦がつくれてしまうというじゃないですか」

  本当にその通りだと思う。美術館にでかけると、絵の下にある解説を読んで誰の絵か確かめてから感心する⋯⋯⋯そんな風な人を見かけることがある。昔、『モナリザ』の絵が日本で初めて公開されたとき、お客さんが殺到。あふれたお客さんをさばくため警備の人が、立ち止まらないでください!と大声で(?)叫んだという。立ち止まらないで、どうやって『モナリザ』を見ることができたのだろう?(「モナリザ」の絵は意外に小さいから、雑踏の中で見るのは至難の業と思うけれど)。不思議である。こういう観客のなかに僕も含まれていることを白状しなければなりませんが⋯⋯⋯。

  先日、神保町でモダン・アートなどのオークション・カタログ<注2>を買った。マーク・ロスコやイヴ・クライン、ウォーホル、リキテンシュタイン、トム・ウェッセルマン、ジャスパー・ジョーンズ〜〜くらいなら僕にも見分けがつくが、中に一点、下手な版画のような顔の絵がある?と思いながら、解説を読んだらピカソ(「帽子を被ったジャクリーンの肖像」Portrait de Jacqueline au Chapeu:リノカットに彩色、1962)だった。
  とたんに僕の頭は$$$¥¥¥¥???!!!。絵の下に記載されている値段を見たら提示価格が40、000€で落札価格は80,000€。日本円にして800万円強(!!!)。驚きましたね。(落札価格は2016年のもの)

  上のゴッホの絵について付け加えておくと、小林秀雄は、この絵(原画)を見て感動し、複製を友人からもらい受け、長い間飾って、見ていたという。僕のような素人には、図録で見れば十分である。以前は、印刷技術の関係で原画との違いがかなりあったが、現在ではかなり原画に近づいているから。ただし、イヴ・クラインのような色(クライン・ブルー)を特徴にした絵は、まだ難しいようであるが。

  で。フェルメールの贋作者・ヤンセンの話にもどると。

  ヤンセンは、ピカソやマチス、デュフィ、ミロ、ジャン・コクトーなどの画家の数千点に及ぶ絵や素描を偽造したが、もともとは、美術史を学び、画廊に勤めた後、独立して画廊を開いた。しかし、画廊の経営が苦しくなったため、簡単な署名の偽造に手を染めたのが始まりだったという。だれもかれもが画家の名前を買う、という発言も署名の偽造から贋作に手を染めたことに由来するのだろう。ヤンセンは、署名の偽造から絵の贋作を始めた。始めはカーレル・アペルの作品だったが、作品の真偽を確かめるためオークション会社がその寫眞を本人(アペル)に送ったところ、彼は自分の作品、と断言したという。それほどヤンセンの腕は確かだったのである。

  このブログの題「贋作は人類史上二番目に古い職業」は、本書のなかから引用したもの。「一番目」については説明不要だろう。なんでも、本書によれば、ミケランジェロも若いとき、パトロンの注意を引き付けるために、ローマ時代の彫刻を偽造したり、模写するために作品を借り、返す時は、模写した方を返しオリジナルは自分のためにとっておいたことがあるというのだから恐れ入谷の鬼子母神である。

(つづく)


img247 (2)img248 (2) <注1> 本図「カラスのいる麦畑」”Wheat Field with Crows”(Auvers−sur−Oise,July,1890.Rijiksmuseum Vincent Van Gogh,Vincent van Gogh Foundation,Amsterdam) は、VINCENT VAN GOGH(BENEDIKT TASCHEN,1993)から転載。表紙に「サ¥500」とあるのは古書店の値札である。
<注2> 委託販売会社のKETTERER KUNST GERMANYのオークション・カタログSUCCESSFUL SELLING INVITATION TO CONSUGN 2017 による。尚、表紙のウォーホルの「マリリン」(シルクスクリーン、1967)は、提示価格75、000€に対して落札価格は175,000€(約1800万円)。ピカソの倍である。
  

  
  

  

  

本物?、偽物?(2)―4月から再開します。

天目(2))   前回に続き『古書贋作師』の話をしようと思ったけれど、最近、テレビ東京『開運! なんでも探偵団』(昨年12月20日放送)に出品された茶碗が話題になったので、まず、それを枕にしよう。

  「茶碗」と書いたが、あちらにもある、こちらにもある⋯⋯といった茶碗ではない。現在、完全な形では世界に3つしか存在しない国宝の『曜変天目』。「番組始まって以来、最大の発見!」という触れ込みで『鑑定団』に出品された「茶碗」が、「いい仕事してますね」のセリフで有名な古美術鑑定家・中島誠之助が、4点目の『曜変天目』と鑑定し、2,500万円の鑑定額を付けた。

 ところが、『曜変天目』に次ぐ『油滴天目』でさえオークションで12憶円の値段がついたというのに、これは何でも安すぎる、とか、専門家からは、これは本物ではない、とかの意見続出で大騒動になった(「朝日新聞」2017年3月7日付・朝刊)。その後、どうなったかは知らないけれど、この件に関しては中島誠之助は、「まずい仕事」をした(?)ようだ。

 上の寫眞は、2013年に開催された「受け継がれる東洋の至宝Part掘〕吠僉μ滴天目―茶道具名品展―」に際し発行されたリーフレット(編集・発行:静嘉堂文庫美術館)の表紙。下が「静嘉堂文庫美術館」所蔵の『曜変天目』。上が『油滴天目』である。本誌の説明によると、『曜変天目』は、南宋時代(12〜13世紀)の中国福建省の建窯でつくられたもので「一椀の中に宇宙を見るかのような神秘的な茶椀」で、『油滴天目』は、「『曜変』に次ぐ高い評価を受けてきた天目茶碗」で「その名は、油の滴が水面に散ったような斑紋が黒釉上にあることによる」という。2009年、「曜変天目」の陶片が発見され「世紀の発見―『曜変天目』陶片、南宋の都・杭州に出土」(同リーフレット)と紹介されているほどだから、4点目の完品が出たら、それは「最大の発見!」とテレビ局が色めき立つのは、当然だろう。

 ただ、『鑑定団』に出品された『曜変天目』の寫眞(同上「朝日新聞」。モノクロ)と本物を比べて見ると、本物とはとても思えない。鑑定家でも間違いはある。小林秀雄や白洲正子の骨董の師匠だった青山二郎にしても、間違えたことがあるという。そんな鑑定の専門家の間違いについて小林秀雄は「勿論、私は専門家の鑑定を笑いはしない。それは情けを知らぬ愚かな事だ。」という。ホン物は減る一方だが、それを欲しがる好き者が多ければニセ物が増えるのは、需要と供給の関係だから仕方がないともいう(小林秀雄「真贋」)。実際、棟方志功や雪舟、それにピカソの贋作も日本で流通しているという話を聞いたことがある。「ただ、品物は勝手に世渡りするもので、博物館に行って素性が露見するという一見普通の順序は踏むものではない。」。そういえば、オードリー・ヘプバーン主演『おしゃれ泥棒』(ウイリアム・ワイラー監督、1966年)は、贋作師の父親の作品が、美術館に展示されるのを知って、本物かどうか鑑定されるまえにそれを取り戻そうとプロの”泥棒”(ピーター・オトゥール)に依頼する、という贋作の世界の一端を教えてくれた「おしゃれな」映画だった。そんなこんなで、贋作に関する本やら雑誌を読んでみたら実に面白い。この話は、もう少し後にして――
 
  さて。『古書贋作師』のつづき。本書の主人公・わたし(元贋作師のウィル)は、シャーロック・ホームズが大好き。「三度の飯より慣れ親しんでいて、いうなれば黒い陶器のパイプも鳥打帽子もわたしのものだと思っている」ほどで「シャーロック・ホームズに関するものすべてを、まさに生涯をかけて追い求めている」人物。そんな人間の前に、コナン・ドイルが1901年5月から6月にかけて『ストランド・マガジン」の編集者グリーンホウ・スミス宛に出した全部で17通におよぶ未発表の手紙を入手したので観にこないか、と馴染みの本屋から電話が来る。それらの手紙は、『バスカヴィル家の犬』の執筆に関わるものだという!――。当然、ウィルは出掛けてゆき、「適切な買いとり価格」でその書簡集を入手する。

  作者のブラッドフォード・モロー(1951〜)は、愛書家で稀覯本業界で働いていただけに、古書にまつわる話も多く、しかも、随所にドイルやホームズに関する話題がでてくる。件のコナン・ドイルの17通の書簡集は、はたして本物か偽物か〜〜〜?は、本書を読んでいただくことにしよう。ホームズファンの古本コレクターには見逃せない一冊である。

フェルメール」f『偽りの来歴」  贋作に関する本は数あるが、とりあえず2冊読んでみた。フランク・ウィン/小林頼子・池田みゆき訳『フェルメールになれなかった男』(原題:I WAS VERMEER.ちくま文庫、2014年3月10日)とレニー・ソールズベリー/マリー・スジョ:中山ゆかり訳『「偽りの来歴」 20世紀最大の絵画詐欺事件』(原題:Provenance−How a Con Man and a Forger Rewrote the History of Modern Art.白水社、2011年9月5日)で、両書ともノンフクションで、贋作と詐欺の世界の裏話がたっぷりと盛られていて、いわゆる「推理小説のような」面白さである。

 この本の紹介は次回に。4月から再開します。

(つづく
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