ホームズ・ドイル・古本 片々録 by ひろ坊

ホームズやコナン・ドイル、ミステリーを中心にした古本についての紹介や身辺雑記の話。

「きみもシャーロキアンにならないか」(8)

men only432d0ff0(menonly)5・6men only]表紙の説明





  


 まずは、American Book Collectorのことから話を始めよう。本誌は、ホームズ特集号で、以前、簡単に紹介したがもう少し書き加えておく。本誌には、ドゥ・ワール(Ronald Burt De Waal) ”The Comic Life of Sherlock Holmes”が掲載されている。本稿は、名探偵(Master Detective)とワトスン博士の「文芸代理人」コナン・ドイルに関するひとコマ漫画(cartoons)や続き漫画(comic strips), 漫画本(comic books)の書誌だが、ひとつひとつに短い説明がついてる労作である。書誌の前にはドゥ・ワールの序文がついてるのでごく簡単に紹介するーー

 ホームズ物のコミックは簡単なユーモアものからその時代の政治的・風刺的なコミックまで非常に幅ひろい。政治的なものには、セオドラ・ルーズベルト、ハリー・S(herlock)・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、リンドン・ジョンソン、リチャード・ニクソン==といった大統領が扱われている。特に多いのがニクソン(!)で、これはウォーター・ゲイト事件に対する批判であることは言うまでもない(「!」はドゥ・ワールがつけたもの)、他にスターリンも登場。女性の「シャーロック・ホームズ」もの==Curlilock Ohms,Super Girl Sandora==も2例ある。また、ビリー・ワイルダー監督の『シャーロック・ホームズの冒険』(1970)公開以来、それに刺激されたためか、PenthousePlayboyといった男性雑誌にポルノ・コミックが登場するようになる。こんなコミックをもしホームズが見たら、憤慨して作者に殺人蜂の大群を送ることだろう。特に、その作者の名前が不幸にもHolmesという場合(ペンネームであればいいけれど)には〜〜。

ーードゥ・ワールもホームズを実在人物として扱っていて、そのユーモアたっぷりの筆使いが楽しい。ビリー・ワイルダーのホームズ映画に刺激されてポルノ・コミックが登場するーーという表現は、分かりにくい人もいるかもしれませんが、説明するのも大変なのでDVDで映画をご覧ください。この後、ドゥ・ワールはコミックに登場するホームズとワトスン博士のバリエーションの例を列記している。

 Shamrock Bones,Shylock Bones and Dr.What’up, Spylot Bones, Beerlock Foams, Surelock Grones,Hawkshow and Watso、Sherlock Go Homes and Wats₋㏌〜〜などなど。キリがないのでドゥ・ワール同様に打ち止めにします。
 
 そして、最後にこう記している。

 ひとコマ漫画は、まず、キャプション(説明文)あるいはタイトルを読んでから絵を見た方が分かりやすい。ひとコマ漫画やコミック・ストリップを理解できるように、また、その絵がイメージできるように、文章で説明するのは非常に困難なことだけれど、トライしてみるので、このユニークな書誌に興味をもっていただき楽しんでいただければ幸いです。

 実際、ひとコマ漫画には説明文がないのもあるし、説明文を読んでもその面白さが分からないものもある。そこで、ドゥ・ワールの書誌の表紙に使われている雑誌、Men Only(1951年5月号 寫眞上・中央と右:表紙と表紙の説明文)に載っているもので試してみよう。

mo]漫画「mo]漫画] <左>のキャプション「エバさん、お願いだから、もう片方の花飾りを早く見つけてちょうだいな。こんな格好じゃあ舞台に出られないわよ」。
 <右>「夕飯なんかいらないって言ってるだろうが。今、忙しんだから」





ーーと、まあ、こんな具合なんですが。
  
  ところで。この雑誌Men Onlyは、1935年、ロンドンのC. Arthur Pearson Ltd.から刊行された男性向けポケット・マガジン(サイズは、上の寫眞のAmerican Book Collectorの半分の大きさ)。古今の有名人のカリカチュアが表紙を飾っている。世界にその名を知られる著名人・名探偵ホームズが登場するのも当然、と言えよう。

(まだ、まだ、つづきます)

<追記>
 西城秀樹が亡くなった!。彼のY・M・C・Aには随分(飲み屋で)楽しませてもらいました。哀悼の意を表します。




 





 
 

「きみもシャーロキアンにならないか」(7)

men onlyドゥ・ワール『世界書誌」img915 (2)






  


 さて。話を元に戻そう。仁賀克雄「●きみもシャーロキアンにならないか」は、早川書房の「ミステリマガジン」(HMM)の1975年10月号「シャーロック・ホームズ特集」に掲載されたもので、コピーを”師匠”から借りて書いてきたが、やっとこの号が手に入った。部屋のどこかにあるはずなのに見つからず、神保町の古書店や即売展、ネットで探したものの、この「ホームズ特集」号だけがナイ、ナイ、ナイ〜〜ところがネットのオークションにポッと出た(幽霊ではない!)ので入札し、見事落札!!。

 あらためて目次をみると,充実した内容である。トーマス・ナルスジャックの贋作「夜鶯荘の謎」(稲葉明雄訳:Le Mystere de Nightingale Mansion)はお見事。このタイトルだけは頭にこびりついている。それにブレット・ハート「盗まれた煙草入れ」(山田辰夫訳:The Stolen Cigar Case)も載っているとは、記憶にありません、でした。
 それに青木雨彦「課外授業20 小説『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』における催眠術の研究」を読んで思わず笑わってしまった。雨彦はニコラス・メイヤー『素敵な冒険』を紹介してから、本家のコナン・ドイルについては、/「ミステリ史上最大の作家は誰か? と尋ねられたら、私はためらわずにホームズ譚を書いたコナン・ドイルを挙げるでしょう」/と言った男がいる。かの各務三郎だ。(⋯⋯)とつづけて、/「ミステリはドイルからはじまる!」/とまで言っているのである。そう言っちゃあナンだが、たいへんな打ち込みようだろう。」

つづけて、長沼弘毅にふれ,こう言ふ。

「そして、コナン・ドイル創るところのシャーロック・ホームズについては、/「ひとも知るごとく、ホームズは大の紳士である」/と言った人がいる。あのシャーロッキアンの長沼弘毅さんだ。長沼さんは、その著書『シャーロック・ホームズの世界』のなかで、/「色好みでもないし(⋯⋯⋯)」とつづけて、/「酒に酔っ払って失態を演じたなどということも一回もない」/とまで言っているのである。そう言っちゃナンだが、たいへんな惚れこみようだろう。」

 「あのシャーロッキアンの長沼弘毅さん」の「あの」には「''」のルビがついている。当時、『知恵』から『健在なり』まで7冊のホームズ研究書を出し「日本一のシャーロッキアンを自認している」長沼さんへの敬意と皮肉が入り混じった雨彦の心情が透けてみえるところが面白い。

  枕が長くなったので本題に入ろう。仁賀氏は、「立派なシャーロッキアン」になるためには海外の研究書を収集する(そして読む)必要がある、そのための手引書として挙げているのがーー

 “Bigelow on Holmes:An Index to the Writings upon the Writings about Mr.Sherlock  Holmes"(1974)(*)

ーーである。この本は「一五〇頁で一五ドルもする高い本だが、世界中で公私刊されたホームズに関する全著作がおさめられている秀作」とのこと。1974年当時の15ドルというと送料込みで4〜5、00円はしただろうから、確かに高価である。このホンは持っていないので仔細は分からない。そこで翌年刊行されたドゥ・ワール(Ronald De Waal)の”The World Bibliography of Holmes and Dr.Watsonについて再度簡単に紹介しておく。この本(書誌)には大変お世話になったので詳しく説明しておきたいのだが、生憎、本棚の奥に隠れているので取りだせない。そのため、AMERICAN BOOK COLLECTOR”(Special Sherlock Holmes issue,No−Dec,1975)誌に掲載された本書の広告を掲載する(寫眞上・中央)。

 本書はドゥ・ワールが編纂した書誌で、New York Graphic Society刊、函付きの豪華本で544ページ、大きさは9×12ins、 お値段は$60である。この書誌には、聖典は勿論、外国語版、それに研究論文、映画、ミュージカル、演劇、ラジオ番組、レコード、パロディ・パスティーシュ、フィギュア、クリスマスカードなどホームズとワトスンに関するあらゆる事物が6、200点以上掲載されている。「5年を要して完成された本書は、たぐいまれな名探偵ホームズの崇拝者にとって偉大な貢献を果たすものである。」

ーーこのボデイコピーは、決して誇大ではない。初めて手に取ってみた時は、驚きましたね。”The Writings about the Writings” の項には、聖典の長・短編の一話づつに、それまでに発表された批評あるいは研究のタイトルと短い解説がついている。ここを読めば(英語がチョボチョボでも短い解説なので辞書を引けば僕にも読める)、それまでの聖典に関してどんな研究がされてきたか分かるので、非常に便利だったが、同時にこんなことまですでに研究されているのか!!とノックアウトされてしまった。以降、ドゥ・ワールは、1988年にハードカバー版、1994年に”The Universal Sherlock Holmes”全5巻の書誌を刊行している。

  本誌(ドゥ・ワールのサイン入り)については、表紙に使われている雑誌「Men Only」と一緒に2009年11月に当ブログで紹介してあった。しかし、簡単すぎて、もったいないのでもう少しくわしく紹介したいーーと、ここまで書いて気が付いた。「HMM」も1975年、ドゥ・ワールの「世界書誌」も「AMERICAN BOOK COLLECTOR」(ホームズ特集号)も1975年、僕が初めてロンドンに一人で旅行し、ホームズが引退した農場を探しにイーストボーンまで足を伸ばしたのも1975年ーー偶然ながら不思議な縁を感じる。最近、凝っている「運勢」のせいか?と思いきや違いました。1970年にビリー・ワイルダー監督『シャーロック・ホームズの冒険』公開、1974年刊行されたニコラス・メイヤー編『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』(原題:Seven₋Per₋Sent Solution)がベストセラーになったりなどと、世界的にホームズ・ブームだったからだろうね。

(*)Bigelowとは、Tupper S.Bigelow(故人)のこと。1959年にBSIの会員になっている。

(まだ、つづく)
  

「きみもシャーロキアンにならないか」(6)

img894(バスカ,LIFE)  前回のつづき。「LIFE」誌のホームズ特集の冒頭ページの下に、ホームズ譚のイラストが掲載されている。『ビートンズ・クリスマス年鑑』や『緋色の研究』の挿絵(寫眞 上段・右から2番目はコナン・ドイルの父親チャールス・ドイルが書いた「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」)など7点。よくよく見たら、下段・中央の『バスカビル家の犬』のシドニー・パジットの挿絵が「正版」になっているのだ! ウッカリしてました。
  「正版」というのは、「ストランド」誌やイギリス版単行本初版に掲載された挿絵とは裏表が逆ーーという意味である。この「正版」については、長沼弘毅さんの『シャーロック・ホームズの対決』(以下、『対決』)に「正しい側の問題」と題して書かれていたことを思い出した。

  まずは、「正版」について書く。

1918年ジョン・マレイばジョン・マレイ版長沼「知恵」バスカ「  僕が持っている『バスカヴィル家の犬』は、ロンドンのJohn Murray社から1918年に刊行されもの。ホームズとワトスンは、道路の右側を歩いていて(画面では左側)、馬車に乗った怪しげな男が後をつけている(道路左側:画面では右側)。これは、単行本初版(1902年刊)と同じ挿絵(寫眞左)で、ワトスンの上着が右前になっていることからパジットの原画を間違えて「逆版」で使用していることが分る。
  ところが「LIFE」誌(1944)は、それを直し「正版」にしている。長沼さんが『シャーロック・ホームズの知恵』に載せたこの挿絵(寫眞右)も「LIFE」誌と同様の「正版」である。

  長沼さんは、『対決』(文藝春秋、昭和42<1967>年12月25日刊)の第一章「正しい側の問題」で、この挿絵の「正版」「逆版」について解説している。内容は、ザッと次のようーーー

img898img897  『知恵』(1961年7月刊)に使った『バスカヴィル家の犬』の挿絵は、ロンドンの「酒場シャーロック・ホームズ]発行の小冊子(THE SHERLOCK HOLMES. Whitbread & Co.発行年無し。以下「酒場本」。寫眞左)ギャヴィン・ブレンドの『親愛なるホームズ』(My Dear Holmes.George Allen & Unwin Ltd.1951。以下「ブレンド本」。寫眞右)に掲載されている挿絵とを比べてみて、複写の便宜上、大判で鮮明度の高い「酒場本」の方を何気なしに採用した。
 ところが、その年の暮れ、ロンドンの「シャーロック・ホームズ協会」から「シャーロック・ホームズ・ジャーナル冬号」が送られてきた。その中にドネガル侯爵の『知恵』の書評があった。とても好意的な書評だったが、どうしてもわからない部分があった。ドネガル侯爵、いわくーー驚き入ったことは、「この著者(長沼)は勇敢にも、例のペイジェットの『あの男だよ、ワトスン』の挿絵の『正しい側』(the right way round)のほうを掲載している。」。「どうしてもわからない」というのは、この「正しい側」とはなにかということである。
 そこで長沼さんは、「酒場本」と「ブレンド本」を比較してみる。すると「酒場本」の方が「正しい側」=「正版」で、「ブレンド本」の方は、原画とは逆に印刷された「逆版」で、明らかに誤っていることを発見する。(両者ともロンドンで発行されたものである!!) 

ーーどうして「正版」「逆版」の2種類の挿絵が使われるようになったのか(以下、長沼さんの説明)? 『バスカヴィル家の犬』が「ストランド」誌に発表された時も、1902年に単行本化されたときもパジットの原画を「逆版」で印刷してしまったため、それ以降に発行された本においても、この挿絵の誤りを訂正せず、原画を間違ったまま使用し続けた。何故かというと、イギリスでは一旦発表された後は、ホームズ譚も作品中にミスがあっても「聖典」として「絶対に訂正は許されない」から。挿絵も同じで、「間違ったものは間違ったまま、掲載している」(「ここにイギリス人のユーモアがある」)。

 このような事情があることを知らずに、「日本一のシャーロッキアンを自認する」長沼さんは「不覚にも」「正しい側」の挿絵を使ってしまった。イギリスのシャーロッキアン・ドネガル侯爵は、長年の間、裏返しの「間違った側」の挿絵を使い続けてきたイギリスの伝統を引っくり返してしまった日本のシャーロッキアン・長沼弘毅の、その勇気に驚いた、という訳である。
 一方、アメリカ版の初版本(1902年刊)は、どうかというと、この誤り(「逆版」)を直し、原画通り「正版」を使用した(1952年刊の豪華本では、イギリス流に「逆版」が使用されているとのこと)。クリストファー・モーレイの説によると、アメリカでは右側通行なので「正版」に直したという。

 ところで。本文中、パジットは自分が描いた挿絵には、右隅(左側の場合もあるが)に「SP」とサインする習慣だったが、この絵をレンズで仔細に点検してみたジェイムズ・ホルロイド(James E.Holroydo)は、「一部が消し取られたようになっており、薄くみえるのこった部分は、字形が逆さまになっているとのことである。(われわれが現在入手し得る複製寫眞では、このサインは全然みられない=長沼註)」ーーとの挿話を紹介している。

1918年ジョン・マレイばジョン・マレイ版 (4)  そこで、僕の持っている1918年刊のJohn Murray版の挿絵を拡大して調べてみた。確かに挿絵の左下に文字のようなものがかすかに見える。そこで、試しに絵を裏返し(逆版)にして、拡大して見ると「SIDNEY PAGET」と書かれている(寫眞上)ことがハッキリと分かる(他の挿絵では「SP」というサインが多いがフルネームのサインもある)。これからみても、長沼さんがつかった挿絵が原画通りの「正しい側」のものであることが確認できる。ただし、パジットのこの挿絵には正版・逆版の他、人・車の左側(イギリス)・右側通行(アメリカ)の問題などがあるが、ややこしいのでここでは省く。

 長沼さんは、「『正しい側』の問題」をつぎのように締めくくっている。

 「どうも、はなはだややこしい話になってしまったが、読者よ、絵をゆっくりごらんになりながら、そしてイギリス人の伝統を重んずる精神(?)を玩味しながら、お考えください。病、膏盲に入ったシャーロッキアンの世界がのぞけるでしょう。」 

 
この挿絵の扱い方は、その後も、欧米とも出版社によって「正版」「逆版」が混在しているので、くわしいことは省く。ただ、日本の場合、 最近の文庫版ではどうかーーというと、光文社文庫版(日暮雅通訳)及び創元推理文庫版(深町眞理子訳)の『バスカヴィル家の犬』では、両者とも「逆版」のまま。つまり、イギリスの「伝統」を守っているーーとだけ言っておこう。

 いやはや。「シャーロッキアン」になるには大変なことである〜〜〜〜

(つづく)
  

  
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