贋作、偽者、偽情報(フェイクニュース)など、この世は偽物だらけである。特に目に余るのは、日本の政治家(イヤ、「政治屋」)の偽者ぶり。国会の審議の様子をニュース(できればテレビ中継で)を見れば分かる。「物事の本質は細部に現われる」と言われるがその通り。(シャーロック・ホームズが「些細なことが重要」といって、鉄亜鈴が片方しかないこと(『恐怖の谷』)や、夜、犬が吠えなかった(「銀星号事件」)に注目し事件の解決の鍵にしているのは、ご承知のとおり)。加計学園問題で、野党議員の「証人喚問をしない理由を説明せよ」という質問に、与党の議員は「必要ないというのがその理由です」と答えている。こんな答えをしても国会議員がつとまるのだから、日本の未来は明るいね!!

  さて。絵画の贋作の話―――

  『偽りの来歴」 img515   贋作を売り捌く方法は大きく分けると2通り――
贋作者が営業・販売をかねて販売する。もうひとつは、本人は贋作づくりに専念し、営業・販売は詐欺師に任せる。フェルメールの贋作者ヤンセンは前者で、『偽りの来歴―二十世紀最大の絵画詐欺事件』は後者である。『偽りの来歴』の贋作者ジョン・マイアット(John Myatt.1945〜)は、美術教師をしていたが金に困り贋作に手を染める。その技術に目を付けたのが詐欺師(博士号をもつ物理学者)のジョン・ドリュー教授(John Drewe)。政財界のさまざまな役職についている詐欺師ドリューと優れた画才をもつマイアット――その二人が手を組んで1980年代から90年代まで贋作を売り捌いた。1995年、犯罪が発覚するまでの間、シャガールやマティスなど200点以上を描き、3億円を稼いだという。

 二人は罪に問われ、マイヤットは懲役1年、ドルーは6年の判決を受けた。マイヤットは服役後、合法的贋作(legitimate fakes。相手をだます意図のない模写・複製、レプリカなどは違法ではない)を販売しながら(その作品は数千ポンドで売れ、世界中に顧客を持つという)、眞作の模写をする絵画教室を開いている。その様子は、ウエブ・サイト「JOHN MYATT、 THE ARTIST」やYoutubeで見られる。

  本書には、ドリュー博士のような詐欺師の話が載っている。本当の話なのか疑わしいほど面白いので紹介しておく。

  1920年代、スコットランドの某詐欺師は、アメリカの旅行客にトラファルガー・スクエアのネルソン提督の記念柱を1本600ポンドで売り付け、はたまた、国会議事堂(ビッグ・ベン)を頭金1000ポンドで売り、バッキンガム宮殿を初回200ポンドの分割払いで売り払ったという。この詐欺師、ヤンキーは騙しやすいと欲をだしてアメリカでも商売を始めた。1925年には、ある牧場主にホワイトハウスを年10万ドルを貸した。その後の商売はチョボチョボだったが、カモになりそうな相手に<自由の女神>を売りつけようとしたところ、相手が賢く、ウソがばれて刑務所行きになったという。現在ではとても信じられない話だが、日本でも「オレオレ詐欺」で何千万円もだまし取られるオバアサンがいるし、ネット上の詐欺も多いと聞くから、用心に越したことはない。

  お次はテレビ。2016年にテレビで放映された『贋作師 ベルトラッチ〜超一級のニセモノ』(2014年ドイツ作品)が今年、再放映されたので観た。贋作がばれて刑務所(6年の実刑)に入るまでのヴォルフガング・ベルトラッチのドキュユメンタリー。番組では、あらゆる作家の絵を描けると豪語するベルトラッチの贋作の手法を事細かに紹介していて実に興味深い作品。彼の贋作には名高い美術史家やオークション業者がだまされ、2006年に逮捕されるまで数百万ユーロを稼ぎ(贋作の数は1,000〜2,000という)、ドイツ、フランスに別荘をもつ優雅な生活をしていた。彼の作品が贋作と疑われ始めてからも手を染め、後、2点描いたらこの世界から足を洗うと、と決めたのが仇になった。科学鑑定され真作が描かれた当時は未だ使用されていなかった絵の具の成分が検出され、お縄になった。

  梯子は、昇るときより降りるときの注意が肝心――と、兼好法師(『徒然草』)も言っていました。

  取材記者から、贋作と眞物の違いを聞かれたベルトラッチは、絵に真作の作者のサインを入れるかどうかの違いだ、と答えている。番組の最後(収監前)に、マックス・エルンストの贋作を描き、それに自分のサインを入れる。ほら、エルンストの作品より美しいだろう、と豪語するのが印象的だった。

(2013バルセロナ・ダリ美術館
次は、『贋作師ダリ』の話にしたいが、次回にしよう。左の寫眞は、バルセロナの中心部にある「ダリ美術館」(2013年,ひろ坊・撮影)。有名な作品はないが、見ごたえがある。残念ながら今年3月で閉鎖されたとのこと。


(つづく)