「ええ男になれ」

 掲げられたたれ幕だけでなく、神戸村野工のボールにはこの言葉が書かれている。ウインターカップ初出場を果たしたお祝いに卒業生から送られたボールにも、当然のようにこの言葉を印字したものが村野工に届けられた。

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”ええ男になれ”と刻印された兵庫県男子代表・神戸村野工のボール 写真@清水広美

 ウインターカップにたどりつくまで、村野工の足跡はまさにミラクル勝利の連続だった。そもそも、新チーム時には県大会どころか、神戸市でようやく4位のチームだった。新人戦も3回戦負け。それがあれよあれよの快進撃。ウィンターカップ県予選の準決勝では、昨年まで3年連続ウインターカップベスト8の報徳学園戦において、残り0・4秒で逆転の3ポイントを決め、4連覇を阻んだ。7年ぶりの決勝では、伝統校・育英と対戦。残り30秒にキャプテン#4宮下敦貴が2本のフリースローをきっちりと沈め、64-61の3点差で初の栄冠へと導いた。

 逆境においても、一体感あるバスケットを展開してきた学生たちに「選手に連れてきてもらい、感謝しかないです」と藤井康隆コーチ。

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兵庫県男子代表・神戸村野工を率いた藤井康隆コーチ 写真@JBA

 今大会初戦の正智深谷戦、立ち上がり3ポイントで先行を許し、97-56で敗戦。

 「シュートが入るのはわかっていましたが、警戒していた正智深谷#4関河虎南のスリー以外にも#9ルーニー慧、#10田中祥智とあたりがきて的を絞れませんでした。それでも守りきれる予測能力と足の強さを磨いていかなきゃいけない。ここの舞台では、普通の頑張りだけでは無理ですね。極限の頑張りを普段の練習の中で取り組んでいかないと、この場所では勝負にならない。子供たちに恥ずかしい思いをさせてしまった」と藤井コーチは、淡々と自分たちの力不足と、日々の練習の取り組みにも言及した。

 「兵庫県の予選では本当に頑張ったと思います。でも、この高校バスケットの聖地・東京体育館で❝勝たせてあげたい❞という欲が出ますね」(藤井コーチ)

 村野工に就任24年目。インターハイには3度出場している。そのインターハイとこの東京体育館ではまるで違った。特に3年にとっては最後の大会、かけている思いが全然違う。

 「でも…行けたらいいな、という気持ちでやっていたかもしれない。東京に行くことを想定してこの場で勝つんだ。そういうバスケットを毎日の日頃の練習の中でどう次につなげていくのか」(藤井コーチ)
 県で優勝することも大変だ。しかし、その先を想定しないと、全国の戦いは甘くない。その悔しさを忘れずに普段の練習に取り組めるか。それが、今大会の気づきだった。

 キャプテン#4宮下は、
 「悔しいんですけど、キャプテンとしてもっと声を出したり、チームを引っ張ることができず後悔として残っています。自分たちの練習不足だったり、コミュニケーションが取れなくて、わかっていた主力選手を止められなかった。ハーフタイムで修正して後半からは抑えたのですが、(正智深谷の)#4関河、#9ルーニーにやられてしまいました。2Qにミスをしたり、自分本位なプレイをしてチームに迷惑をかけてしまった。
 新人戦から3年が引っ張ることができなくて。自分らで話しあったりしてきたんですけど、インターハイも結果が出せなくて。それでも1年、2年たちがついてきてくれました。その支えがあったから成長できたと思います
」と、声を震わせながら試合を振り返る。部員は全員県内の選手。寮がないので、通えるところからきている。

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唯一の40分出場で26得点9リバウンドと最後までチームを牽引したキャプテン#4宮下敦貴(3年/SF/180cm) 写真@JBA

 実は、ウインターカップ用のボールに、藤井コーチは「ええ男になれ!」ではなく「心」と印字されたボールを発注していた。
 「原点は❝心❞だと思うんです。心が変わらないと、考え、行動が変わらない。パス一つとっても、ただパスを出すのではなく、心を込めてパスを出す。心を込めてシュートを放つ。ああ、でも悔しいなぁ」(藤井コーチ)

 プリンストンオフェンスとアグレッシブなディフェンスを武器に最後まであきらめないチャレンジャー精神でここまでこれた。藤井コーチと選手たちは、次なるステージを見すえている。

(取材・文 清水広美)