子どもには、いくら与えても与え過ぎということがないのが「愛情」です。親の愛情が十分に子どもの心に届いてさえいれば、後は何をどのように与えても、過不足などありません。しかし、こういう書き方では抽象的すぎて、実感することができない人もいるでしょう。

 ゲーム機を与えるべきか

 全国各地の勉強会や講演会に招かれて、よく質問されるのが「ゲーム機」に関することです。学校から帰って、自宅にいる間の多くの時間を、ゲームにはまったように熱中している子どもの話をよく聞きます。
 「それでは困るので、ゲーム機は買い与えない方がよいと思いますが、激しく要求するので、与えないわけにはいかず困っています」・・・こういう内容の質問が大変多いのです。
 これは、一見難しい質問のようなのですが、親の愛情が十分に伝わっていれば、与えるか、与えないか、どちらの選択をしても大過ないのです。
 ゲーム機を楽しむのを、ほどほどにしておきなさいという親の気持ちを受け入れるかどうかは、それまでの親子関係が大きく影響します。
 それまでに子どもが受け取ってきた、玩具などの「もの」や親の愛情をどのように実感しているかで、子どもの態度は変わってきます。
 40余年の児童臨床の間には、ゲーム機を買い与えることをしなかったために、自宅のあちらこちらの壁を壊されたり、長い歳月の後遺症に苦しむほどの暴力を振るわれたり、放火されて自宅を失ってしまったりした家族の事例に出会ってきました。では、ゲーム機を買い与えてさせいれば、これらの問題を防げたのでしょうか?

 「もの」だけでは満たされない心

 子どもがゲーム機を強く求めたら、私は買い与えてやるのがいいと思います。しかし、ゲームばかりに没頭してしまうとしたら、その原因に思いを向けてやってほしいと思います。
 子どもの要求というのは個人差があっても、ある一定の容量があるようで、ある一定のところまでまで満たしてあげれば別な要求は出てこないようです。子どもがゲーム機のような「もの」で要求する時は、心の要求が満たされていないのかもしれません。たとえ「もの」を買い与えることがあっても、出来るだけ限度をわきまえて、そして、「もの」で子どもの要求を満たすことはできるだけ減らそうという気持ちも大切だと思います。
 大抵、私の経験では、ゲームに長時間のめり込み過ぎる子どもの場合、家庭の中で会話が不足しています。まるで会話が皆無といってもいいほどの家庭もあります。
 「ゲームばかりしていないで、もっと他のことをするように」という話をする前に、家族間の自然な会話を増やしていくように心掛けることが大切です。夕食のときなどは最適な時間です。また、そういう会話を心がけることで、話の延長として、「ゲームはもっと控えるように」といった親の要求が伝えやすくなるのです。

 食卓に心をこめて

 子どもに買い与える「もの」を減らした分だけ、どこかで心を満たしてあげようと考えないと、「もの」の要求は減りません。ですから、「もの」以外での要求は、出来る限り満たしてあげるようにしましょう。
 例えば、食事での心の要求を満たしてあげてはどうでしょう。最近は、食事に心を配ることをしなくなった家庭が増えてきて、コンビニやスーパーのインスタント食品で容易に済ませてしまうことが多く、家庭の絆のほぐれの一因になっていると思います。
 決して贅沢をすることではありません。子どもが望むメニューを、手を掛け心をこめて、できるだけしばしば食卓に出すことは、日々心がけることができる上に、親の愛情が具体的に、効果的に伝わる方法です。
 子どもは自分が好きなメニューを母親が作ってくれたという共感的な感情を抱くことができますから、会話は弾みやすくなるでしょう。
 このようなことが日常な習慣になっていれば、親が子どもに与えたいものや与えたくないものについて、話し合う機会が自然と増えてくるのではないでしょうか。
 そうなっていなければ、そうなる方向に無理のないやり方で、努力をしていくといいと思います。私の経験で言えば、食事(特に夕食)への配慮が、ささやかな内容やペースででも積み重ねられると、全てのことが好転していくものです。

 
何を与えてもよい

 
今日、携帯電話をはじめ、大人が陥っている実に多様な対象への依存症を考えてみて下さい。アルコール、薬物、買い物、性、賭博等など。そして生き方の孤立性。そういう大人たちは、それまでの半生で求めても与えられてこなかったものを、深く大きな心の渇きとして抱いているのです。
 人間には、心の底から欲求する物や事で、不要なものなどないのです。不健康で不自然なものの要求が大きいときには、健康で自然なことが与えられないできたという事実が、必ず背後にかくれているのです。
 ですから、子どもが求める物や事で、与えてはいけないものは滅多にありません。子どもの心身が要求していることは、究極のところ必要なことなのです。親から見て好ましくない物や事を求めているように思えたら、日々の会話や手作りの食事など、本来与えられるべきものが不足しているはずだと考えて、対処してあげて下さい。その上で、ゲーム機などを与えて問題が生じたら、会話の中で要求を伝えていけばいいのです。

親の愛情が十分に伝わっていれば、子どもに与えてはいけないものはありません。親から見て好ましくないものを子どもが要求してきたら、本来与えられるべきものが不足していないか、考えてみましょう。

                                       佐々木正美


現在連載中の雑誌、暮しの手帖より  暮しの手帖47「母子の手帖」

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