2010年08月30日

BPOは権力に弱い?

 先週水曜日に原口総務相の掲げる“言論の自由の砦”の在り方を検討する「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」が総務省で行われました。
 この日の会合は「BPO(放送倫理・番組向上機構)」がテーマ。BPOの活動や在り方そのものに対して多くの批判が出ましたが、その中でもジャーナリストの上杉隆さんから「政権与党に気を使い、野党には逆に厳しいのではないかと邪推せざるを得ない」との意見がありました。

 上杉さんが指摘したのは、BPOの放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)が04年に委員会決定を出した「国会・不規則発言編集問題」と、06年に出した「民主党代表選挙の論評問題」を比べてのものです。前者はテレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」で関係の無い映像が編集で繋がれてしまい、自民党の藤井孝男衆院議員(当時)が不規則発言をしたと視聴者に認識されるシーンが放送されたとして本人が申し立てた案件。後者はテレ朝「報道ステーション」で民主党の代表選についてコメンテーターの末延吉正氏が「挙党態勢の確立を妨害しようとしている」「その張本人が、岡田さん、前原さんを担いだ若手グループ、その後見人が仙谷さん」「代表が小沢さんになったら嫌なので菅さんに出ろ出ろとやり、結果として政府自民党に利することにしなければいいと心配」と発言し、これは取材もせずに憶測で事実に反すると、民主党の仙谷由人(現官房長官)と枝野幸男(現同党幹事長)両衆院議員が申し立てた案件です。おや?何だか今の状況と重ならない気がしないでもないですが、まぁそれは置いておきましょう。
 この申し立てに対する判断は、前者は「人権侵害」、後者は「問題なし」となりました。

 さて、改めまして「政権与党に気を使い、野党には逆に厳しいのではないかと邪推せざるを得ない書き方になっている」とのご意見です。上杉さんは「文面だけ見ると」と前置きしていましたが、何を根拠にそのように感じたのでしょうか。委員会決定の文面を読むと、いずれの案件も経緯を洗い出し、個別具体的な事例を取り上げて最終的な判断に行きついていることが良く分かります。
 どちらの判断が問題なのか、それともどちらも問題なのでしょうか。強いて言えば、例えば後者で「(コメンテーターが)独自に取材したところを基にした政治的論評が主要な部分を占めており」と、簡単に局側の主張を信じてしまっていると思われる部分もありますが、これまでのBPOの取材や関係者のお話を聞いていると、それはもう相当な時間とコストを掛けて調査を行い、喧々諤々の審議をしていることが分かります。そんな中で「独自に取材した」と認める文言を明記したのは、それを信じるに足る確証があったはずです。「いや、そもそもそこから疑うべきだ」というご意見もあるかもしれませんが。
 
 上杉さんはフォーラム翌日に「ダイヤモンド・オンライン」の連載で「機能に疑義をもたれても仕方の無い行為だ。それはすなわち、強者に弱く、弱者に強い、という日本の記者クラブメディアの体質そのものを現すことにつながる」とも指摘しています。しかし、この2つの事例だけを見比べて単純にそう判断するのは難しいのではないでしょうか。

 参考までに、BPOは昨年4月に放送倫理検証委員会が公表した「NHK教育テレビ『ETV2001シリーズ戦争をどう裁くか』第2回・問われる戦時性暴力」に関する意見で「NHKの番組制作部門の幹部管理職が行った番組放送前の政府高官・与党有力政治家との面談とそれに前後する改編指示、および国会担当局長による制作現場責任者への改編指示という一連の行動について〜自主・自律を危うくし、NHKに期待と信頼を寄せる視聴者に重大な疑念を抱かせる行為」と断じています。これはあくまでNHKに対する意見ですが、政府・与党に対するけん制も含まれていることは言うまでもありません。
 とりわけ残念だったのはBPOが「権力に弱い」と指摘されてもその場で何も反論しなかったことです。確かに今回の会合は時間がありませんでしたが、これは「第三者機関」の根幹とも言え、他の発言を遮ってでも否定すべきだったと思います。尤もそれをお認めになるのなら話は別ですが。

 それにしても、総務省のフォーラムはこのBPO1つ取っても、委員の皆さんの見解が大きく異なり、“言論の自由の砦”の結論の方向性がなかなか見えてきません。今回の会合を見るとBPOの在り方を見直すような方向性もありますが、それにあたってはやはり冷静な分析に基づいた認識で議論を進めて頂きたいと思います。

bunkatsushin at 10:00│clip!放送部