東京大学文学研究会公式ブログ

東京大学文学サークル「文学研究会」活動報告ブログ

2023年度新歓活動の報告

こんにちは。代表の李です。久々の更新となってしまい、申し訳ありません。
この記事では、4月に行われた新歓活動の概要を報告いたします。
なおこれらの活動については、入会していない学生も含む活動であるため、詳細な議事録の公開は致しません。ご了承ください。

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4/9
読書会——泉鏡花『龍潭譚』(主催:板見谷)
部室にて開催。新入生・会員合わせて、参加者20名以上。
短篇小説のため参加しやすかったということもあり、これまで類を見ない大人数での読書会となりました。進行の仕方としては、まず各参加者に「最も好きな章節」を一人一つずつ挙げてもらい、それを踏まえて小説全体のあらすじを確認。その上で、主催者の提示した論点に適宜立ち返りながら議論を進めていくという形式をとりました。
泉鏡花は明治中期以降に活躍し、独自の幻想美を小説という形式で展開した、現代でも人気の高い作家です。中でも「龍潭譚」はその幻想的な作風がいかんなく発揮された名作であり、文語体であるにもかかわらず読みやすい文体も魅力的。純粋に表現の美しさを楽しむ読み方だけでなく、妖女の正体についての考察、精神分析による見方、さらに類似した物語構造を持つ『高野聖』との比較など、議論は多方向に広がりました。

4/16
読書会——カポーティ『ティファニーで朝食を』村上春樹訳(主催:堀内)
部室にて開催。新入生・会員合わせて参加者20名弱。
前回に続いて、大人数での読書会でした。作者の遍歴、および幾つかの主要なテーマについて主催者から説明があったのち、自由に議論を行うという形式で行いました。
カポーティの作品は昨年12月にも扱っていますが、そのときの作品(『遠い声、遠い部屋』)とは作風が異なり、またカポーティの作家遍歴の中でも異色の作品と言えます。O・ヘップバーン主演の翻案映画は原作以上に有名かもしれません。
読みやすい文章である反面、捉えどころのない部分も多い小説であり、議論は複雑に進みました。人格の複数性・多重性を持ったホリーは、安らげる場所を希求しながら絶えず「トラヴェリング」する存在であり、受動的な主人公は彼女の本質に辿り着けません。「まやかし」「空の牧場」「いやったらしいアカ」といった、彼女の性格/価値観を示す詩的な表現の数々も印象的です。その他、兄であるフレッドの存在や、ニューヨークやブラジルといった都市の持つ象徴性についても話し合いました。

4/23
文章会——自由創作
渋谷の会議室にて開催。新入生・会員合わせて参加者18名。
二班に分かれ、新入生の作品を中心に扱いました。18世紀末の海外文学から現代日本文芸まで、各々の関心ある分野からの影響を読み取れる作品が集まり、新入生の文学的素養の豊かさを感じることができました。すでに在籍している会員にとっても無論、大いに刺激になりました。98号以降での活躍が楽しみです。

4/30
読書会——小川洋子『ブラフマンの埋葬』(主催:李)
渋谷の会議室にて開催。新入生・会員合わせて参加者16名。
現代文芸かつ女性作家からの選書となりました。平易な言葉で紡がれる幻想的な作品ですが、決して読解は容易でなく、一人称の語りによって認識に死角が生じているといえます。雑貨屋の娘に対して執着するような視線を浴びせ続けながら、その感情を表出しない主人公に対して、気持ち悪い、という率直な感想もありました。
ブラフマンの愛らしいイメージと、その動物を取り囲む環境の冷たい質感とが対照的に描かれている点も注目に値します。周囲から隔絶された町が抱える閉塞感、死の予感、匿名の登場人物、ブラフマンの「監禁」などからは、小川洋子の他作品(『密やかな結晶』『薬指の標本』など)に共通するテーマも見出せました。

(すべて文責は李)

駒場文学97号について

こんにちは。
先月発行された『駒場文学97号』についてのご報告です。

97号は詩8篇、小説6篇、随筆1篇から成り、全108頁です。前号の96号と比較すると分量は半分以下ですが、詩の充実度が高く、新しい会員の作品も掲載されています。また表紙の視認性や字の大きさ、詩部門のレイアウトなどにも改善を加え、読みやすさを重視しました。
本誌は5/13-14に本郷キャンパスでの五月祭、5/21に文学フリマ東京36で販売され、計200部近くを売り上げました。在庫も残っているため、メールやTwitterからご連絡いただければ、購入可能です。まだお持ちでない方はぜひ、e-mail: bunken_u_tokyo@yahoo.co.jp またはtwitter: @toudai_bunken までご連絡ください。

文章会 自由創作

こんにちは。代表の李です。
3/19に行われた文章会についてです。詩五編、小説一編と、これまでの文章会と比較して詩が多く提出されました。駒場文学新歓号に掲載された「浪レボリューション」、97号に掲載予定の「冬ふる」「朝日将軍義仲」なども扱っています。
詳しい議事録はnoteにて後日公開いたしますので、興味のある方はお確かめください。


12月~2月の活動について②

こんにちは。代表の李です。
この記事では、12月から2月にかけて行われた活動のうち、読書会について報告いたします。

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12/17(土)
カポーティ『遠い声 遠い部屋』河野一郎訳
 参加者4名。議事録の一部を貼付いたします。(議事録担当:堀内)
 ◎死のイメージが作品全体を貫いている
 ◎他者との関わり方や時間の生き方が登場人物を考えるうえで重要
 ・ランディングのひとびと→退廃的で他者と関わらない
  ランドルフ→止まった時間を生きている
  ズー→信仰心の一方で他者や自分の過去と向き合わない
 ・リトルサンシャイン→追憶にとらわれている
 ・ジョエル→アイダベルを女性性へと押し込める恋愛感情
       それが消えてランドルフへの友愛に?
       はじめ周りの環境も敵対的にとらえていた
  ジョエルの成長は他者との関わり方の変化にある
 ◎異性愛に回収されないものとしての愛 
  同性愛 友愛
 ◎部屋とは
 ジョエルがそこから離れていくところの部屋?
 ランディング→「遠い部屋」を投影したもの?
 ミスウィスティーリアは自分の意志で部屋を出入りできない

1/22(日)
コクトー『恐るべき子供たち』中条省平・中条志穂訳
 参加者5名、うち初参加が1名。部室にて開催。
 9月の読書会で扱ったラディゲと親交の深かった、コクトーの小説です。詩人として認識されている方も多いと思われます。本作は映画化もされました。
 子ども世界の自閉性に関する指摘が多く、部屋をその象徴として捉える意見が有力でした。アフォリズムを駆使しながら、「部屋の妖精」「運命」などのメタ存在を読者に意識させ、また支配的存在としてダルジュロスを描き出すことで、神話的な悲劇の世界を構築しています。ポールを支配しようとするエリザベートの歪んだ愛情、憎しみと愛とが表裏一体になった4人の関係、さらに赤い光などの印象的なモチーフについても議論されました。(文責:李)

1/29(日)
高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』
 参加者6名。うち初参加が1名。部室にて開催。
 高橋源一郎のデビュー作で、日本におけるポストモダニズム文学の傑作と評される本作を「ギャング」たることとは何かという問いを中心に読み解きました。作者自身の経験や作品が書かれた当時の時代背景から離れて読むのが相当に難しい作品という印象で、参加者それぞれが作中のどの要素が高橋源一郎の経験した学生運動や当時の世相を反映しているのかを考えつつ議論する形になりました。読書会の後半では話のスケールが広がり、文学作品の持つ政治性の意義と弊害といった話や、作家が自身を文学史上に位置づけることなどについて色々な作家のエピソードを交えて話しました。(文責 : 板見谷)

2/19(日)
宇佐見りん『かか』
 参加者6名、うち初参加が2名。部室にて開催。
 久しく扱っていなかった、「今どきの」小説を扱いました。ベストセラー『推し、燃ゆ』著者のデビュー作であり、文藝賞と三島由紀夫賞を受賞しています。
 若い書き手の情熱的な作品でありながら、精緻な分析にも耐えうる深みを持っています。二人称に向けた「かか弁」による語りの特殊性や、倒錯し歪められた母子愛、女性としての肉体への向き合い方にいたるまで、様々な視点から議論を掘り下げることができました。小説の書き手として刺激を受けた参加者もいたようです。(文責:李)

2/26(日)
クンデラ『存在の耐えられない軽さ』千野栄一訳
 参加者5名。渋谷の貸し会議室にて開催。
 チェコ出身でフランスを活動拠点にしている作家ミラン・クンデラの代表作を扱いました。日本では本作を原作とした映画のおかげでタイトルだけが独り歩きしている感がある作品です。議論の中心になったのはやはり存在が軽い、重いというのはどういうことで、登場人物たちがどのようにして自分や他者の存在と向き合っているのかという点でした。こうした問いに答える足がかりとして、作中に出てくる「キッチュ」という概念を詳しく検討してみたり、また「永劫回帰」というもう1つのキーワードの使われ方に注目したりしました。全体として考え抜かれた美しい構成をしている物語で、従来の小説が持つお決まりとも言える枠を見事にすり抜けて見せたといった印象でした。(文責 : 板見谷)

2/28(火)
メルヴィル「書記バートルビー」牧野有通訳
 参加者5名、うち初参加が1名。部室にて開催。
 『白鯨』で有名な著者の中編小説です。あらゆる頼みを拒絶する書記バートルビーを、どのような存在として捉えるかが主な議題となりました。
 一方では、契約や合理性・因果関係といった、資本主義的な制度に囚われた社会を相対化する存在として捉えられます。他方でそれは、理解できない他者、不条理な存在とも見なしうるでしょう。19世紀半ばのウォール街という設定や、他の書記の描写にも注目しました。さらに前回の『存在の耐えられない軽さ』と関連付け、どんな意味づけも許さない「耐えがたい軽さ」の象徴としてバートルビーを位置づける意見も出るなど、多様な議論が展開されました。(文責:李)

12月~2月の活動について①

こんにちは。宮崎に代わり12月から代表を務めている、李と申します。
引継ぎの都合によりブログの更新が止まっていたため、久々の投稿になります。
この記事では、2022年12月から2023年2月にかけて行われた活動のうち、合評会・文章会について報告いたします。

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12/3(土)、4(日)、18(日)
「駒場文学96号合評会」
 11月に発売された『駒場文学96号』には、例年以上に多くの作品が寄せられたため、合評にも日数を要しました。詳しい議論の内容は、編集が完了し次第、noteにて公開する予定です。ここでは3日間にわたる合評の概略を紹介したいと思います。
 12/3は参加者が計6名と少なく、15:00頃から部室での開催となりました。印刷・製本の仕方や全体の構成・形式について軽く議論した後、「アイデンティティ・ナウアデイズ」「ドア・スコーパーズ」「灰の部屋」「余光」「桜」などを扱いました。
 12/4は午前中はzoomで、午後は貸し会議室での開催となりました。午前中は「魔島」「叔父」などの小説、午後は主に詩部門の作品を扱いました。一日を通して述べ10名以上が参加し、作者も含めて白熱した議論が展開されました。
 12/18は一日通して部室での活動となりました。参加者は10名弱。「境界はとけていく」「祖父」「死なない」「ヘイロー」「雲湧く」「クロッキー」など、前回までに扱いきれなかった作品の多くを扱いました。
 三日間を通して、学部一年から大学院まで様々な年齢層の寄稿者が集まり、経験のある者ない者いずれにとっても、刺激的な交流の機会となりました。個々の創作においてその実りが還元されること、そして次回の駒場文学にも多くの部員が寄稿することを、代表として願っています。

12/25(日)
「文章会:自由創作」
 文藝賞短篇部門の締切が大晦日であることも考慮しつつ、この時期に文章会を開催しました。場所は駒場キャンパス内の部室、参加者は計6名、うち1人は初参加でした。議論の詳細はnoteにて既に公開されておりますので、お確かめください。
自由創作五作品【12/25文章会レポート】|東京大学文学研究会|note

2/23(木祝)
「文章会:自由創作」
 前回に引き続き自由創作となりました。部室で行われ、参加者は計8名、うち初参加は2名。前回は一年生が主体でしたが、今回は年長の部員も加わり、様々な視点から意見が飛び交いました。寄稿者7名のうち3名(時間の都合上、実際に扱ったのは2名)が詩を持ち寄るなど、ジャンルの点からしても多様だったと言えます。議論の詳細は後日、noteにて公開する予定です。

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文学研究会では3月・4月にも、様々な会を企画しております。詳細はTwitterにてお確かめください。
今後ともよろしくお願いいたします。
文学研究会とは

 読書会・文章会を主な活動とする文学サークルです。

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【連絡先】
bunken_u_tokyo☆yahoo.co.jp
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