July 10, 2008

『孤宿の人』 宮部みゆき 【by ぶんこや】4

孤宿の人 (上) (新人物ノベルス) (新人物ノベルス)


 こういう言い方はおかしいのかもしれないが、とても静かな時代小説だ。藩の大事に関わるストーリーであるにもかかわらず、また、毒やら雷やら始末やら悪霊やら、穏やかでないまがまがしいものがたくさん登場するのにもかかわらず、作品全体を包む色はとても静謐で慈愛に満ちたものである。それは主人公の「ほう」という少女の清廉さそのものであり、悪霊と恐れられた加賀殿の心の底を流れるものであるのかもしれない。また、匙家と呼ばれる医家の先生方の心内のせいかもしれないし、海に囲まれた丸海藩が持つ独特のものであるのかもしれない。登場人物や情景などの視覚的な面での描写があざやかであるのはもちろん、そういった心の内やあふれ出る雰囲気、情緒が余すところなく、非常に静かな淡々とした色として表現されている。
 とはいっても、静かな讃岐の小さな藩に次々と降りかかる災厄はすさまじい。毒殺があり、疫病がはびこり、落雷による大規模な火事が起こり。それらの凶事はすべて、江戸から罪人として流されてきて、涸滝屋敷に幽閉されている「加賀殿」が悪霊として藩とその民にとりついているからだという。そして、江戸から連れられてきて置き去りにされた、阿呆のほうから名づけられた少女「ほう」が、いわば捨て駒のように、涸滝屋敷に下女として送られることになる。ほうはほんの偶然から加賀殿と顔を合わせ、その本当の心に少しずつ触れていく、そして加賀殿は、やがてほうにとって、かけがえのない大切な人となっていく。
 これまで比較的、「この世には不思議なこともある」というテーマで作品を書いてきた宮部氏だが、この作品はむしろ「この世に不思議や鬼や悪霊はない」というスタンスで描かれている。不思議や鬼や悪霊はすべて、人の心や不安が創り出すものなのだと。不思議宮部ワールドもいいが、こういう静かな宮部ワールドもとてもいい。好きな世界だ。
余談であるが、作品を読んでいる間中、この「加賀殿」が幕末の鳥居耀蔵と重なって仕方がなかった。するとなんと、巻末の作者あとがきで、『加賀殿のモデルは「妖怪」と呼ばれた鳥居耀蔵だ』とあるではないか! ささいなことだけど、なんかとっても嬉しかった(笑)




bunkoya at 07:03│Comments(11)TrackBack(1)clip!宮部みゆき 

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1. 【宮部みゆき】孤宿の人  [ higeruの大活字読書録 ]   August 31, 2008 21:47
5  『ダ・ヴィンチ』9月号の特集「宮部みゆきを読みつくす!」のインタビューによると、「書き上げるまでにもっとも苦労した作品」なのだそうだ。  宮部お得意の時代モノだが、これまでの江戸モノと違い、四国は讃岐の丸海(まるみ)という架空の藩が舞台。読む側からすれば...

この記事へのコメント

1. Posted by HANA   July 12, 2008 00:53
妖怪?鳥居某を知っている気がする。平岩氏?
2. Posted by ぶんこや   July 12, 2008 01:03
うんうん。ずっと前にレビュー書いた。
なかなか面白い小説だったよ。
3. Posted by yori   July 12, 2008 14:15
ぶんこやさん こんにちは
この作品はずっと以前から気になっている、というよりも、いつ読もうかと思いながらも後回しになり続けている、作品です。そうですか・・・ ここでの宮部みゆきは、この世に不思議なことはないヴァージョンですか 笑
4. Posted by 樽井   July 13, 2008 00:59
 妖怪さんかぁ。金さんのライバルでしたね。
 この世には不思議なことなどないのだよ、バージョンの宮部さんも一度読んでみてもいいかも知れないですね。今書店で同時期に出て並んでいる「ICO」はゲームのノベライズだから、そのゲームをやったことがある人からは絶賛が、やったことがない人からは不評ときっぱりくっきり評価が分かれていますし、読むとしたらこちらからかな。
5. Posted by ぶんこや   July 13, 2008 01:11
>yoriさん
いつもの宮部ワールドを期待して読むと、ちょっと外れてしまうかもしれないけれど、しっとり落ち着いていて、私はとても好きでした。
yoriさんも気に入るんじゃないかな? たぶん・・・
6. Posted by ぶんこや   July 13, 2008 01:16
>樽井さん
最近樽井さんのコメント(とその後も・・)全体にリンクが着いてしまうのはどうしてなんでしょ・・・? いや、気にしてるわけじゃないからいいんですけど、どうしてかな、と(笑)
ゲームをやってない人には不評というのはおもしろいですね。<ICO
それはそれで、コンセプトとして成功していうのかな?
 
7. Posted by 樽井   July 13, 2008 09:30
 あ。ライプドアを使っているたぬきさんとこでも同じ問題が出ているようですね。となると、ライブドアとはてなのリンクの関係なのでしょうかねぇ。。
 ちょっと、この記事はURLを消してみますね。
 これでうまくいきますか?
8. Posted by ぶんこや   July 14, 2008 02:37
 ええと・・・うまくいってないようですね(笑)
 でも特に支障はないんで、かまいませんよ。
 これからも気にせずコメントおねがいしますねー★ 
9. Posted by higeru   August 31, 2008 21:40
</a> おお、新書でそれも結構出たばっかりのを読んでたのですね。お見それしやした。(^^

>とても静かな時代小説だ
 うーん、言いえて妙かも。

 ところでコメントの途中から全体がリンクになってるのは…IEのバグでしょうか。ちなみにFirefoxだと大丈夫ですけどね。
10. Posted by higeru   August 31, 2008 21:43
リンク切れましたね。
上のコメントの最初に「</a>」って入れた(見えてますが)のが効いたのかな?
11. Posted by ぶんこや   September 02, 2008 01:11
ハードカバーは買わない(買えない 笑)けれど、新書なら、モノによってはOKなのです。迷いますけど・・・(笑)
あ、リンクきっていただいて、ありがとうございます!

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