戦術がしっかりと整備されているリーガ中位のチームはくせ者が多く、アウェイ戦では一筋縄ではいかない。リーガ王者に対してひと泡ふかせようと立ち向かってくるので、試合の入り方を間違えると足元をすくわれることが多々ある。と、アウェイ戦の感想が毎回変わらない書き出しをてしまうが、毎回マジでそう思うのだから仕方がない。だから今回もしつこく書かせてもらった。
しかし、変わったこともある。
それは、バルサのアウェイ戦に対する姿勢と試合展開だ。
昨シーズンはその勢いに呑み込まれまいと、我慢と忍耐を強いられる薄氷を履む勝ち方が多かったが、今節ジローナ戦では相手の攻撃をしっかりと受け切り、冷静に寄り切るという横綱相撲だったと思う。

昔のようにピッチ内を自分たちのサッカーでベタ塗りするような制圧はなくなった。しかし相手を手のひらで踊らし、要所は確実に抑えて掌握する。これは弱点を隠すために長所だけで戦うのではなく、弱点そのものがないという本当に強いチームにしかできない戦い方であり、平成の大横綱 貴乃花のようでもあった。

試合開始から8対7の強烈なプレッシングを仕掛けてきたジローナに対して様子を伺いながら早々に読み切り、正確な技術とセオリーにこだわらない即興を織り交ぜながらボールの奪いどころを握らせなかった。
ちなみにジローナのプレッシングはエウゼビオがラ・レアル時代採用していた方法と変わってなく、当時アノエタではプレスの網に引っかってタジタジだったが、今回は上手く攻略できていた。
ミスしない正確な技術力と判断力があれば、どんなに激しく寄せられてもコンマ何秒の余裕が生まれる。3.4本とパスを繋ぎ合わせれば余裕の蓄えが増え、プレスを剥がす選択技が広がっていく。
前が向けない状態でも背後にパスラインを確保すれば柔軟に対応できる。戦局を読み切れる戦術眼の確信と、ボールを自由に操れる自信。基本となる芯がしっかりあるから基本を外せる余裕。
技術よりハイスピードな対応が重視される戦術トレンドの中で、試合のテンポが速まっても判断力はブレず、プレッシャーの速さに技術力はたじろがない。"選手よりボールの方が速く走れる"というクライフの教えを再定義するように、さらに磨きをかけた技術力で流行りの攻撃的な機動力を上回ろうとしている。時代の最先端に向かう途中ではあるが、確実に歩を進めている。
それを証明するかのように2点目に繋がったビルドアップでは、敵のマンマークを利用した巧妙なポジショニングで敵ゴールへの最短ルートを開門させ、正確なテア・シュテーゲンのくさびから計3本のパスだけでメッシのゴールに結びつけた。やはりボールの速さと正確さには敵わないということを完璧に見せつけたのだった。


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試合開始最初のビルドアップで、ボールを前にコネて敵の状況確認した後、さらに後ろにボールをコネ直して仲間にジローナのプレッシングの輪郭を把握させる時間を与える、ある種プレメーカーのような仕事をこなしていた。



横綱相撲ができるチームというのは、上記したビルドアップのように戦況の俯瞰も抜群だが、90分間という時間の俯瞰もでき、ペース配分も上手い。
ホームチームはビルドアップの阻害ができなくても、リスク上等のスタンスで自分たちのバランスが崩れることを厭わず、相手のバランスを崩して優位性を生み出そうと走り続けた。

特に前半、バルサはジローナのロングボール主体のセカンドボール回収戦略に晒されたが、慌てることなく対応していた。
カンプノウでの対戦ではピボーテ脇に上手く入り込まれ、カウンター攻撃の主役として活躍していたポルトゥを脇役に締め出すことに成功。ストゥアーニーの枠を捉えた鋭いショットも、よく見るとシュートコースは限定されていたのでテア・シュテーゲンにとってはイージーなものだった。
アーリークロスによるサイドからの攻め筋もファーサイドのポジショニングで先手を取り、慌てふためくこともなく要所をしっかり締めることできていた。

ジローナはハードなプレスとデュエルでのボール奪取というボール非保持での対応が攻撃戦術の第一歩だった。しかしバルサのハイレベルなキープ力によって計画的にボールが奪えず、それでもしつこくチャレンジすることでダーティーなファールが増加。後半早々に1人退場者を出すという、敗北への文脈に繋がるエウゼビオの誤算でもあった。
それでも勇敢に前に出て得点を狙い、良い流れを掴もうと必死にもがくのだが、バルベルデは冷静にアルトゥール投入。数的優位を利用したボールコントロールでジローナの勢いを抹殺。ペースダウンとともに試合をコントロールして勝負はここでほぼ決したのだった。

相手の希望を一つ一つ摘み、ジワっと強さを染み込ませる。勝利を諦めさせ、敗北を認めさせる。憎たらしいほど大人のフットボールで勝つべくして勝ったジローナ戦は、アウェイであろうが関係なく抜群の安定感を保ち、チームが確実に強くなっていることを証明してみせた。


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ゴール前に出てくる積極性が生んだセメドのリーガ初ゴール。



一気に戦力を高めた、今シーズン"当たり"だった補強戦略を考察する。


こんなにソリッドなチームになったのも現場の努力もさることながら、フロント陣のバックアップもなければ成立しなかったはずだ。
フロント陣=バカ。
会長=無能。
というクレなら状況反射的に思ってしまうフロント陣への嫌悪感だが、今シーズンの補強戦略だけを見たらかなりの"当たり"だ。
個人的にその手の類の話は、余り詳しくないのだが、結果だけを見るとフロント陣が現場を無視した推薦選手のゴリ押しはなく、バルベルデの意向をSDがしっかり汲み取っているのだろう。

まずアルトゥールを掘り出したのには驚いた。グレミオにこんなにもバルサっぽい選手がいるのにも驚かされたが、高価になる前に先取りした嗅覚がフロント陣にあったのにも驚いた。ジローナ戦も抜群のキープ力で試合をコントロール。敵がボールに突っ込んで来ても360°ターンでクルっと回り、危険を回避する姿には懐かしいレジェンドの香りがした。そんなバルサらしいプレメーカーを新戦力に取り入れられたのは、素直にフロント陣のファインプレーだと思う。

ビダルは昨シーズンのパウリーニョと同じ、ポジティブサプライズな補強だった。
暗い裏路地で鉢合わせたら間違いなく殺させるギャングな風貌と年齢から、バルサらしくないと思った人も多かったと思うが、蓋を開けてみたらビックリ玉手箱。まるで雨に濡れる子犬を抱きしめるコワモテ野郎のギャップ萌えが発令中。その上、熱い情熱でチームを鼓舞する姿にキュンがムネムネする♡ なんて人も多いのではないだろうか。
人気銘柄ではなく実力を見抜き、バルサの中盤に必要と見込んだ上で獲得したフロントの判断は正しかった。中盤のバランサーとして汚れ役を厭わず失点を激減させ、現在の連勝街道をひた走る上昇ムードを作ったキーパーソンとなった。

冬のマーケットで獲得したムリージョはまだなんとも言えない感じだが、同じコロンビア人だったミナよりさマシな感じがする。
そして、ムニルが去ったことで手薄になった9番問題。スアレスの控えを受け入れ、2番手からチームを手助けするというスタンスの9番探しは、都合のいい条件を呑んでくれる点取り屋がいるか甚だ疑問で、難航を極めると思っていた。しかし、プリンス・ボアテングという予想の斜め上をいく一発回答を出してきたのにはビックリしたが、個人的な第一感想は、「良いとこ狙ったな〜」で、なかなかウマーベラスな補強だと思った。
実際、ぶっつけ本番で挑んだ国王杯セビージャ戦では、チームを数多く渡り歩いた選手ならではの順応ぶりで、ピケからクサビを引き出すのにそんなに時間がかからなかった。そして今のバルサにない最前線での高さと、フットサルのピヴォ当てに近いポストプレーが新たな攻撃オプションになれる予感がしている。

5節カンプノウでのジローナ戦でしれっとやった肘打ちがVARでバレて1発退場をくらい、ホームで勝てなかった要因になったラングレが批判の矢面に立たされてたことを思い出す人は、今では少ないだろう。それくらい現在のラングレの活躍は著しい。
左足から放たれる矢のように速く正確なパスワークで、バルサのビルドアップを流麗にさせる高い足元の技術。1対1は抜群に強く、セビージャ時代にはCLでルカクと異種格闘技戦でやり合っても完勝したように、度胸のあるファイターでもある。
クロスに対するポジショニングも巧みで、ラインコトールも淀みなくスムーズにこなす。ジローナ戦では早々にカードをもらい、ストゥアーニーにゴリゴリと仕掛けられたがギリギリで踏みとどまることでき、"二度目の退場"を控えることができた。
怪我で戦力になれないウムティティの大きな穴を完璧に埋め、ピケのように慣れ過ぎて大ポカをやらない安定感。ポジション的に派手さはないが、今シーズンの補強で最大のヒットだと思う。

そして来シーズンには噂のフリンキー・デ・ヨングが加入する。まだバルサでプレーしてないので評価はできないが、ツイッターで見る動画のようなプレーがバルサに来てもできるのなら、最高級の補強として戦力の広がりはさらに増すことになるのだろう。


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バルサで活躍したブロンドヘアーのオランダ人の枠で誰かいたかなと考えたら、レジェンドのクーマンがいた。



よくよく考えるとネイマールをPSGに出し抜かれた大失策後の補強戦略は"アリ"な人選が多いことがわかる。
大ハズレNo.1候補だったデンベレは今シーズンになって大化けをし、セメドはコツコツと積み重ねてきた努力が成果として現れてきている。
もうバルサを去ったが、リフティングもできないと揶揄されていたパウリーニョは偽ストライカーとして2列目から得点を量産。ミナはハズレだったが、ヴェルマーレンは怪我さえなければ緊急事態をレキスューしてくれるDFとして今でも"アリ"な存在だ。そして現在笑顔が消えたコウチーニョだけは微妙な立場になってはいるが、復活するのを期待して待つしかない。
そして今シーズンの補強はヒットだらけでバスレなし。昨シーズンに比べたらかなり戦力のボリュームが増した。
それによりバルベルデが年明けから過密日程によるターンオーバーを積極的に使用するようになり、コンディションを考慮し、最大目標でもあるCL制覇を見据えたマクロ戦略を立案していることが判明したのだった。

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総力戦でいざ3冠へ。まずは国王杯のセビージャ戦で逆転勝利を。



スポーツ部門との両輪を上手く回転させなければならない商業面でも、資産価値や利益が欧州サッカー界で2位か3位なので経営も順調そのものなのだろう。
ただし大金が懐に入ってくる分、札束を多く積んだ移籍交渉も多くなり、マドリードの白いチームみたいで癪に触る人もいるだろうが、これに関しては仕方のない部分でもある。
現在の移籍マーケットは、若手のスター候補には株式トレードのPERのような投資尺度がついたことで価値と値段が向上し、マーケット自体のインフレ化を起こしている。なので金満クラブとの競合ともなると、大枚を叩くことからは逃れられない。
なのでお金の使い方がとても大事になってくる。
いかにチームの哲学、プレーモデルと合致し、勝利に加担でき、未来の価値を倍増させられる選手をピンポイントで探し当てられるか。ブランド力を上げるスターではなく、競争力を上げられる実力者をしっかり吟味しなければならない。
それにはSDと現場を密接に繋ぎ、強化と未来をリンクさせるプロジェクトをダイナミックに実行する能力が必要となるが、フロント陣がバカではないことが把握でき、現在のSDって誰だろう?とググってみたら、アビダルだったことが判明したのでいろんなことが納得できた。
1年目から芯を食った良い仕事をしてるので、是非これからもクレが納得する"当たり"を飛ばしてほしいものですね。

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試合以外の情報に疎いので、アビダルがフロントにいるのはボンヤリ知ってはいたがSDだったとは知らなかったw