開始15分に全力ハイプレスで"かます"。
エンジンのかかりが緩るいバルサとのテンションのギャップを狙うのが対バルサとの常套手段になっているが、知将マルセリーノはそれを放棄して、自陣で待機した守備ブロックを築いた。

先日ナンバーの記事で、ポゼッション率も下がりバルサのパスワークの質は下がった的な記事を見たが、本当にそうであればマルセリーノは間違いなく他のチームと同じく積極的に"かます"だろう。
しかし、マルセリーノはその手段を選ばなかった。その理由は僕がブログで書いているようにバルサのビルドアップの質が上がってきているのを把握し、かましたところで効果薄と判断したからだろう。
その記事にはバルサは縦に速く筋肉質になったとも書いてあったが、それはストーミングの概念が席巻するトレンドの中でも技術で上回るために必要なスピードとインテンシティであり、進化したハイプレス戦術を上回るための判断能力の上積みだ。
例えばジローナ戦では、ツータッチでスムーズにボールを回しながらも敵のボールの奪いところに入ったところでワンタッチプレーに切り替え、チェンジ・オブ・ペースで敵のリズムを崩すという巧妙な組織プレーを何度か行っていた。
まだミスもあるが、あ・うんの呼吸でズレを作らず、型があって型がないアメーバーのように"グニャる"ことで型にはめ込むハイプレスを掌握する。"ビルドアップ2.0"の完成形はすぐそこまで来ているのだ。

マルセリーノの頭の中もこんな感じだったのだろう。なので違う"かまし"を用意していた。
得意技でもある堅守速攻だ。
懐かしい〜匂いがした〜♪と大黒摩季もら・ら・らっぽい古さとベタさではあるが、精度は抜群に高い。
ちなみに、コウモリという生物は高精度な超音波を用いて微細な水面の振動を感知し、水の中の魚を捉えることができるらしい。
リーガのコウモリもまた、ディテールをとことん突き詰めた高精度な守備の連動性を持ち、ボール奪取後にはスペースの捉え方が見事にデザインされたカウンターアタックでバルサに牙を剥いたのだった。

普段と違う"かまし"でバルサの虚を突き、開始早々から決定機を創出。その後も攻守のコントラストがハッキリとした戦況の中で、バルサの典型的な失点パターンに持ち込んで、立て続けに2点を奪取。策がハマったマルセリーノはしってやったりだっただろう。



高度化した守備ブロックを「スクイーズ」を利用して正面から攻め切る

バレンシアの守備ブロックは相変わらず凄い。両サイドレーンを捨て中央に圧縮した4-4の陣形を崩さず、危険なスペースを徹底的に消す。横の揺さぶりに対する素早いスライドは、ポジショナルな攻撃での狙いでもある"チャンネル"の侵入も見事に塞ぎ、試合の中で変動していくスペースの微細なズレも逃さない。
バレンシア戦の前にフルボッコにした国王杯でのセビージャの守備は、スペースよりも人へのマークが強く、それを逆利用してメッシの優位性を存分に活かして粉砕したのだが、バレンシアはあくまでも人ではなくスペースを守る。バルサからリードを奪ってからは4-4の陣形は崩さない徹底ぶりで、締りがキツくなった。カバーリングの距離感も均等でバルサも手を替え品を替えてペナには侵入するが、ゴールの鍵をこじ開けることはできないでいた。

この鉄壁を崩すにはどうするか。サイドにボールを展開してコツコツと小突いて小さな隙間から3人目の動きで仕掛けるのが定跡だが、そのポジショナルな攻撃をフリに使い、ドカン!と真正面から力技で殴り倒すというのがバルサの仕掛けた攻撃だった。
一番危険なスペースに密集する相手に対して、密集エリアに突っ込んでいくスタイルは映画「7人の侍」の三船敏郎の鬼気迫る殺陣のような斬れ味。その中心でもあるメッシの殺陣はギリギリを狙うから跳ね返されることも多く、バレンシアの先制点の直接的な原因にもなったが、チャレンジを繰り返し、一瞬の隙を常に見張っていた。

引いた守備ブロックを攻め崩す定跡でもある、サイドからの攻撃をわざわざフリに使うという手の込んだ仕込みを入れたのは、敵が自信を持ってやられないことを前提にした守備設計を、やられないと思っている場所からダイレクトに潰せばダメージがデカイというメッシの思惑がある。
メスタージャでの対戦時の同点弾もこの戦法で、一瞬の隙をつき4バックの真正面からメッシとスアレスがワンツーパスのコンビネーションで崩し切った得点で、ゴール後のバレンシア守備陣はその理不尽さにうな垂れていた。

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気合いの入った表情。



この仕掛けのキーは、守備ブロックに突っかけるドリブルだ。アジアカップで松木さんがしつこく連呼していたのがこれで、込み入ったエリアにドリブルで仕掛けることをバスケでは「スクイーズ」と言い、強引に仕掛けることで守備陣形を歪ませ、そこから素早く雪崩式に攻め込むのだ。
スクイーズによる第1特攻はそのまま突破できればそれでいいのだが、これは見掛けだ。真の狙いはコンパクトな陣形からのセカンドボールの制圧と、第2の矢で歪んだ陣形を切り裂くことだ。
この攻め筋で奪った同点弾にスクイーズ攻撃の効果がよく表れていた。スアレスが1人でガツガツと4バックに突っかけり、こぼれ球をビダルがすかさず拾い、メッシがペナ外から素早くフィニッシュをするという2段階攻撃。
強引かつ大胆で、狂いのない技術による正面突破は、メスタージャの時ではメッシのリスク・オンにした攻撃ビジョンを共有していたのがスアレスだけだったが、今では攻撃ユニット全体でメッシの意図を理解し、バランスも整っている。なので現在の"メッシから奏でる攻撃"はとてつもなく美しく、そして狂気に溢れている。

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スクイーズによる突っ込みでミスも多かったが、あれはチャレンジのミスだからオッケーでしょう。




頑張れ、左利きのカンテラーノ

違った"かまし"をやられ、流れを掴み損ねて前半に2点リード。しかし時間をかけて徹底した守備ブロック崩しによって同点に追いつき、その勢いそのままに逆転までいけるかと思ったが、一息ついたところを見逃さなかったバレンシアがボールの保持率を上げ、後半28分辺りからはハイプレスに戦術変更。負けそうな嫌な流れを見事に断ち切り、そのままドローに持ち込まれた。
バレンシアの不利な戦況を押し返すためにすぐさま変化した対応力は、先日のアジアカップでシステムの噛み合わせの悪さで何もできなかった日本代表を見たからか、やはりリーガのレベルはヤバイなと再認識した。

勝てなかったものみるか、負けなかったとみるかは人によって味方が変わる試合だったように、攻守の局面がハッキリとしながらも戦況が読みにくい難しい展開になった試合に、期待のアレニャーが先発で出場した。
持ち味を活かしつつ、狭いスペースを剥がすために必要な判断を間違えない賢さを見せつけ、ポジティブな余韻を残してアルトゥールと交代をしたのだった。
徐々に出場時間が増えているこの若手は、気付いたら前からずっと連んでるダチ的な存在感を出してきている。
この馴染みっぷりはカンテラーノだからというものではなく、アレニャーのキャラがそうさせているものだと思う。
アレニャーは出場した試合、派手な活躍はないが、積極的にチームの歯車として働く脇役としてチームを支え、鈍詩吟な展開力を中盤で披露している。
プレーは左利き特有の間合いを上手く活用して、オープンな身体の開きから次の展開への持ち込み方に巧みさがある。セルジロベルトの中盤デビュー当時と比べてもアレニャーの方がプレーリズムはスムーズで、パステンポに引っ掛かりがない。これも左利きの利点を存分に活かしているからだろう。
少し話が逸れるが、ペップ時代の中盤がバルサの原色が濃過ぎて、カンテラーノ以外は活躍できないという今とは真逆の問題が発生していたが、左利きケイタは長く重宝されていた。
きっとバルサの中盤のリズムと左利き特有の間合いの親和性は高く、パスで奏でるハーモニーが合致するのだと思う。
アレニャーは左利きでカンテラーノ。メッシと同じだ。
顔も映画「猿の惑星 創世記」に出てくるシーザーに似ていてとても知的。御主人が裏切らなければ従順でもある。


バルサの中盤はチャビやイニの系譜を継ぐバルサの原色が濃いい選手は近年現れてはいない。アレニャーもセルジロベルトも現代フットボールに適合したハイブリッド化されていて、少し毛並みが違う。
しかし、アレニャーにはアレニャーのバルサの中盤での生きる道があり、活かし方次第では第2のラキティッチ初期型のようになれるかもしれない。
まだまだスタートポジションに立ったばかり。焦ることはないしバルベルデも焦らしはしないだろう。
頑張れアレニャー。これから続くであろう熾烈なレギュラー争いも、親和性の高い左利き特有の間合いをフルに活かせれば少しずつ変えの効かない選手へと認知されるようになるだろう。そして、これから続くハードな日程による厳しくも刺激的な体験は、必ず本人のスケールアップになるはずだから。

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アレニャー

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シーザー。