「人の話をよく聞け」「あんぽんたん」などと罵倒されて育った私は、人の助言を不必要に聞く習慣がある。どんな人の意見も自分の考えより優先してきた。
十年ほど前、自己啓発書に「人間として好意を抱いている人には、その気持ちを伝えた方がいい」というものがあった。特に異性には、言葉で伝えないと分からないと強調している。女性向けに書かれた嫌いがあったが、著者は男性。郷里でお世話になったおばさんがいたので電話し、「好き」と伝えた。すると会ってくれなくなった。
米国映画で、意中の女性を口説き落とす鉄則が紹介されていた。「押して、押して、押しまくれ」という単純なものだった。早速、取材で知り合った市会議員の女性に「俺と付き合ってくれ」と電話する。断られたが、間を置いて手紙や絵はがきを送る。押しの電話をすると、手厳しい口調で注意された。
「その気はありませんって、言いませんでしたか」
田舎で公益法人の職に就いていたころは、肉体的にも金銭的にも、絶好調の時期だった。地方都市の高級マンションに単身入居し、ジムにも通い始めた矢先だった。
「矢田さん、ナンパなんかやめた方がいいですよ。彼女できてないわけでしょう」
男子中学生に言われ、家と職場の往復人生になる。
その以前、公共放送のディレクターにちょっかいを出したことがあった。ルソーの『告白』に倣って「俺の子供を産ませたい」と恋文を書く。右翼の友達に「血判を押すといい」と助言され、指をカッターで切って血染めにした。後日、局に電話すると、気持ち悪がられる。数日後、「もう一切、連絡してこないでください」と書き殴ったメモが届いた。
もう人の意見に従うのはやめた。しかし、今では相手にしてくれる女性がいないどころか、助言する同性すらいない。
