どうしても酒をやめたいと思い、医者から断酒薬をもらった。これを服用して酒を飲むと、死ぬ。ずっと以前から勧められていたが、そこまでアル中じゃないと抵抗していた。


 「酒を二十四時間以上空けてから、飲んでください」


 忠告通り、私は三十六時間空けて試した。金曜日に飲みに行ったので、日曜の朝、その液体を言われた通り一〇シーシー喉に流し込む。新宿に右翼の街頭演説を取材に行き、昼すぎに戻る。自宅の最寄り駅近くの百貨店で本を読んでいると、手がしびれてきた。次第に悪寒がしてきて、足までガクガク震えてくる。


 椅子に腰掛けているのもつらくなり、退却することに。初夏の太陽が照り付けているが、かばんから長袖を出して着る。自宅を目指して歩くと、足の裏がひりひりしてくる。一歩前進するのが苦痛だ。根性でアパートにたどり着くと、布団も敷かずに倒れ込む。薬局の緊急電話番号にかけると、「では、服用を一旦中止してください」とのんきなことを言われる。


 翌朝、生きていた。悪い汗も収まり、意識も正常に戻る。医院に行き、先生に尋ねた。


 「あの薬を飲んで、死んだ人はいますか」

 「います」


 話によれば、服用しながら我慢できずに飲酒したり、服用方法を誤って奥さんがみそ汁に入れた例などがあるとのこと。断酒のための手段で死ぬのは、飲酒で死ぬよりばかげている。私は薬の服用をやめた。


 断酒には、何かに没頭するのが一番だ。昨年、宅建を受ける前、一月近く酒から遠ざかれたことを思い出す。不動産の書類作成や講演のテープ起こしに取り組むことに。


 〈これでもう、いつでも好きなときに酒を飲める。普段、飲まなければ体調もいいし〉

 殺人薬を手放し、自由を手にしたうれしさで、人生が楽しくなった。