Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

監督:押井守
原作:森博嗣『スカイ・クロラ』
脚本:伊藤ちひろ
主演:函南優一(CV:加瀬亮)、草薙水素(CV:菊池凛子)


 見に行く見に行くと言いつつなかなか行けず、今更になって見てきた。平日の昼間に新宿で、その割にはなかなか人の入りもよかったように思う。どれだけの人がこのストーリーを堪能できたかは分からないが、浅かれ深かれ何かしら残るものはあると思う。
 予告編で単純に面白そうと思っただけの人には薦めない。なんというか、少なくともライトな気持ちで見るべきではない。頭をフル回転させながら見ないと勿体ない。逆にそうすれば原作未読者既読者問わず楽しめる映画だ。

 前半は背景を書くことに費やされ、ストーリーの軸がなかなか見えないのは多少しょうがないかなと思われたが、ただその部分が後半にかなり生きてくるとも思う。草薙水素のシャウトや、レストランの描写。世界は豊かになっているが、人心は豊かになっているのか。そもそも何故戦争をすることをやめないのか。そういう背景を丁寧に書き込んだことで後半のカンナミやクサナギの台詞は仕草に重みを持たせる。

 森博嗣の小説はあくまでもファンタジーだった。悲壮感は感じさせない。その新鮮さが受けて、後にシリーズ化されることにもなった。その点を鑑みても押井守の映画は正直別物だ、と思う。この映画は初めにメッセージありきだ。そして、2時間という短い時間の中で伝えられる精一杯のことを表現しようとしている。

 だからこの映画には続編はいらないと思う(強いて作るならクサナギをメインに据えた『ナ・バ・テア』くらいか)。原作に比べればフーコの扱いが寂しいとかはあるんだけど、映画そのものを見たところではフーコの存在は助演女優賞ものに値する。大人だから見せられる気遣い、存在感。登場シーンは少なくとも確実にそれらを示してくれる。フーコの相方の存在がフーコを際だたせているという感じでもあった。他にもオープニングから登場する犬や、クサナギの娘の純真さなどさりげない演出が終盤に向かうにつれキルドレたちが持たざるものを持つ存在、すなわち生に対する実感の保持者として際だっていると思う。一貫しているのは生と死の間の葛藤だから、こういう細かさが憎いなあと思いながら見ていた。そう考えると2時間の中で本当にソツがないのかもしれない。もっともっと気づかなかったことがあるようで。

 テーマについて。生きること、死ぬこと。その双方が現実味を持たないことにキルドレは苦悩する。クサナギがその筆頭格だが、ミツヤ・ミドリを後半に配置したことで原作未読者の人には訴えるものが分かりやすかったかなと思う。感情を表に出すことを厭わないクサナギと、終始平静を保ち続けるカンナミの絡みは対極に存在するがゆえに引き合う力強さを改めて感じた。

 声優について。加瀬亮はカンナミの無機質感そのまま、といった感じで予想以上にはまってた。栗山千明も上手いと思ったが加瀬にカンナミをやらせたのは大収穫だろう。菊池凜子のクサナギはうーん、うーん。感情の抑揚の割には声の抑揚は小さかった気がする。清水愛なんかがやったら面白いかなあと個人的には思った。『ナ・バ・テア』までの原作を読んでるからちょっと納得できなかったのかもしれないけどね。

 今年のベネチアにもノミネートされたようだが、前作「イノセンス」がそうであったように万人受けする映画ではないから多分授賞は難しいだろう。ただ、それを踏まえたらノミネートされてベネチアで上映されること自体に意味があるとも思う。そうして世界(この場合はイタリアだけど)でこの映画が流れるというのことは、それだけ伝えようとするものが広がっていくということだし。
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