Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

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監督:小船井充

第一章「俯瞰風景」感想

 第三章痛覚残留は前半部のクライマックスと言える。このあとは第四章伽藍の洞でもう少し過去、式が目覚めた時の話というインターバルを挟んで第五章矛盾螺旋から再び式たちの戦いが始まる。その時のためにも今作は意義があると思うし、映像的にも式と痛覚残留の主役である浅上藤乃とのぶつかり合いはたまらなく面白い。何でもありなようで何でもありではないところがより面白さを引き立てていると思うし、個人的には似ているようで違う二人の殺人者の違いがはっきりしている点が垣間見えたことに意味があったと思う。小説では割と普通に流してしまっていたエピソードも上手く消化したなあという印象。今までで一番原作に忠実なのに、だからこそ余計に演出の面白さが光った、のだろうか。

 1998年夏。蒼崎橙子の大きな買い物により(曰く買ったのはビクトリア朝のウィジャボード)幹也は給料を受け取ることができず、友人の学人に金を借りに行くことに。無事金を借りることは出来たがついでにあることを頼まれてしまう。それは行方不明になった高校時代の後輩を探すこと。学人の話ではどうやらタチの悪いことに巻き込まれて姿を消したらしいのだが。
 一方両儀式はカフェアーネンエルベで幹也の妹鮮花とその友人、浅上藤乃と出会う。その少女は数日前に幹也が保護した少女だった。

 一つの映画として見るのも面白いし、空の境界にしては構造が実に分かりやすい。そして、第一章から殺人を続けてきた式が、自分と同類である殺人者と相対する。これほど面白い構造は今まで、そしてこれからの後半部分にはない。アクションシーンも第一章のような広々とした屋上ではなく、周りに障害のある狭くて暗い場所ということで、式のダイナミックさと予測不能な動きが両方味わえる形になっているのは素晴らしいリップサービスではないか。DVDで見返してみたがやはり劇場で見た圧倒感は素晴らしかったと改めて思う。序盤のエグいシーンは劇場ではあんまり見たくなかったかなあとも思うけれど、それが吹き飛ぶほどストレートで爽快なシーンが後半に続くのは気持ちよかった。

 アクションシーンが盛り上がるのは映像としての演出もさることながら、両儀式と浅上藤乃という人物がしっかり立っていることだろう。第一章の巫条霧絵はおぼつかないイメージでしかなく、式が異端者と戦っている、という感覚がせめてだった。今回の浅上藤乃の場合はまず彼女が何故能力者になったのか、また何故殺人を犯すようになったのかが前半部分で丹念に説明される。その中でもいくつかの伏線が貼られることでまたミステリ的な面白さも伴っていることが藤乃という掴みづらい独特の存在を短い時間の中でも上手く構成しているように思う。声優の能登麻美子がまた上手い。普段は割とおとなしいキャラを演じることの多い彼女だが、一見おとなしそうに見えてそうではなかったりもする藤乃を彼女なりに再解釈して上手く声を使い分けているなあと思う。アーネンエルベで式に対して言う「私、あの人嫌いです」などは白眉だろう。

その式に関してなんだが、藤乃との一番の違いを見せつけてくれる。そこが後半部分に向けても大きく響くことになるかもしれないが、この章の中だけでもなるほど、と思わせるもの。それは殺人に対する哲学だ。藤乃が式を嫌ったのは感覚的なものかもしれないが、哲学を持っている式が藤乃を嫌う理由ははっきりしているということを見せつける。藤乃にも、観客にも。殺す価値のある者とない者、殺せる者と殺せない者を明確に区別する式。そうして自分を縛ることで殺人に対して改めて価値を見いだしているのではないか、と思わせる。強くて速くて美人でカッコイイだけの存在では終わらない、むしろ式自身はそんなことなどどうでもいいのだろうが、藤乃とは違った形の存在感は映画でもひしひしと伝わってきた。

 小説ではあまり好きになれなかった浅上藤乃というキャラクターも、映画では過去の話も交えながら能登の声も相まって、悲劇のヒロインという形にすっぽり収まっていることがまたずるい。藤乃の最後のシーンである言葉を小さく連呼するシーンも小説では軽く読み飛ばしていたのだが、過去のエピソードの話よりもここが一番響く。ラストシーンと言えば式のラストシーンもずるいと思うが。小説であれこれ読みながら想像するのも楽しいが、こういうところは映画には適わない。ズレているのならまだしも、はまりすぎているので。

 黒子としての黒桐幹也の存在感も小さくはあるがはなっている。橙子さんは今回は最低限の探偵役以上の干渉はなく、幹也がさりげなくひきたてた舞台を舞う式と叫ぶ藤乃、という構造なのだろう。はっきりストレートに言えば、めちゃくちゃ楽しかった。映画を見て面白いと思うことはいくらでもあれでも、楽しいと思うことはなかなかない。

 ひとつだけ残念なのはアクションシーンの舞台となるブロードブリッジの説明がほとんどなされていなかったこと。藤乃とも密接な関係にあるので、結果ああなることは藤乃の気持ちを考えても多くの意味があることなので。

 
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