Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

監督:ジェームズ・マーシュ
劇場:テアトルタイムズスクエア

※アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞(2009)
他にも多数のドキュメンタリー賞を受賞

 ドキュメンタリーを見るようになったのはいつからだろう。映画としてのドキュメンタリーでなければ高校生のころからだろうか。何か、もしくは誰かを時間をかけて追い続ける。コストもかかればその分リターンがとれるかどうかも分からないけれど、様々な人の生き様や社会構造の奥深さをかいま見ることができるのは非常に面白いと思う。現実は小説よりも奇なり、とも言えるものがドキュメンタリーの題材としてふさわしいもののひとつだろう。この映画もそういったたぐいのものだ。8月でテアトルタイムズスクエアが閉館ということもあって、丁度テスト明けの公開最終日に駆け込んで見て来た。

 あるフランス人がいた。そして彼の協力者という名の犯罪者がいた。そのフランス人は今はなきアメリカのワールドトレードセンターのツインタワーの間を綱渡りしてみせた。文字通り、タワーの下の人たちに見せつけた。最初は何が起こってるのか分からなかっただろうけれど、それに多くの人が足を止め、警備員まで見とれさせてしまったせいもあり、45分間も彼は空の上を散歩していた。フランス人は犯罪者でありながらヒーローになった。

 大事なのはやり遂げること。この映画が言いたかったことはそれにつきる。90分の中の70分くらいは長い長い準備である。タワーへの度重なる不法侵入による偵察、ロープをどうするか。いつ決行するのか。そもそも果たして可能なのか。フランス人を愛する女性は彼の身を案じ続ける。70分間は古い映像もさしはさまれるがたいていは犯罪者だった者たちの個別の証言で構成される。年老いた彼らが昔を思い出しながら楽しげに語る姿が印象的だ。特別なナレーションがはさまれるでもなく、これも文字通り着々と70分という時間は進んでいく。長い間、観客を待たせながら。テスト明けで疲れていたせいもあってうとうとしてしまったのは映画館がくらいせいもあるからしょうがないでしょう。

 多くの者が理由をフランス人に問うたという。それがフランス人にとっては不思議でならなかったらしい。合理的な思考をする分析好きなアメリカ人だけでなく多くの人が奇異な現象に対して理由や因果を求めるのは必然なんだろう。ただ俺は、フランス人も語っているように、ただただみとれてしまった。それに対して理由を求めようとも思わない。言ってみれば子供のいたずらのようなもので、スリルがあって楽しそうだからやってみたんだろうと。そのいたずら心に大道芸師としてのプロ意識が相まって壮大なことをやってのけたのだろうと。このドキュメンタリーがあくまでも経過をつづるだけで、検証などのおせっかい心がみじんもないのがいい。ドキュメンタリーだからおおかたの結末まで見る前からなんとなく分かっているのだし、ある意味ではそれは手抜きなのかもしれない。

 そんなことを考えていたらラスト20分で圧倒されてしまった。なんだ本当に伝えたかったのはここにあるんじゃないか、と。それでこそドキュメンタリーというか映画として存在する意味である。ただつづっただけなら、それは作品になっても創作物にはならないだろう。何かを失うことをおそれたら冒険なんてできない。命を張ってでも、誰にも評価されなくても、そこに自分自身が意味を見いだせるならそれだけで立派なことだ。究極的に自分自身のためだけに命を張れるなんて、誰にもできることじゃない。インタビューではただのコミカルな大道芸師というイメージしか受けないけれど(そこが映画のおもしろさではある。身振り手振りが大げさすぎるところとか)芯はどこまでも強い。彼の芯なら飛行機がつっこんでも折れない気がする。

 ちなみにフランス人の名前はフィリップ・プティという。WTCを渡る3年前には母国はピカソの前で綱渡りを披露したらしい。彼がこの映画で歩いた空間は、27年後に粉塵につつまれることになるが、あえて深い言及を避けている点も俺は評価していいと思う。軸はそこにあるわけではないからね。

 そういえば『ザ・ムーン』もアメリカの出来事なのにイギリスの映画だった。今回も制作はイギリスである。イギリス人はアメリカの出来事をこっそり映画にするのが好きなのだろうか。それで良作が生まれるのだからおもしろい事態ではある。
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