2015年11月09日

通過点のその先を見据えた坂本真綾の現在地 ――坂本真綾(2015)『FOLLOW ME UP』全曲レビュー



 2013年の春に出したSSW以来2年5ヶ月ぶりとなるオリジナルアルバムは20周年イヤーを記念したものになった。15周年のときはベストアルバム『everywhere』の二枚組という体裁だったが、今回オリジナルで勝負してきたのは会場に武道館を選んで一区切りをつけたときとは違い、あくまで通過点にしたいという思いもあるのかもしれない。
 通過点のその先へ。20周年記念ライブのタイトルともなった"FOLLOW ME"に"UP"を加えるというあたりにもそうした思いがかいま見える。15年、20年っていう区切りは確かについてくるけど、これからもわたしは歌い続けるよ? っていう、いくらかの自信と余裕がなければ見せられないいまの坂本真綾の魅力、強さがたっぷり詰まっている15曲。

 最近ネットで仲良くしている(と思っている)駒々真子さんが全曲レビューをブログに挙げていたので、遅ればせつつ便乗します。


1.FOLLOW ME

 コンセプトアルバムでは『Driving in the silence』なんかがそうだけど、オリジナルアルバムで一曲目にタイトルチューン(のようなもの)を持ってくるのは珍しい。初めてかな。
 曲の後半、「生きてるって感じるとき何をしてる?」からの「恋より気持ちよくって」というサビに入る流れの快感はなんなのだろう。特に「気持ちよくって」という歌詞を本当に気持ちよさそうにのびのびと歌うときのなんともいえないエロスのようなものって、いままでの坂本真綾の中に存在しなかったのではないか。むしろ自立した一人の表現者としてそういう部分はストイックに隠していたような気もするので、あまりにも自然体な坂本真綾に「FOLLOW ME」(ついてきて!)なんて言われると、そりゃもうね、って感じしかしない。

2.Be mine!

 『世界征服〜謀略のズヴィズダー〜』OP。アニメ見てません。
 20周年ライブにも出演していたthe band apartが書いた曲。次の曲はおなじみの疾走する北川サウンドになるわけだけど、この曲も自由気ままにぶっ飛んでいる。バンアパはそれほど聞いているわけじゃないが、いい意味でイメージを覆された。(もっと堅実だと思っていた)
 そして魅力は曲だけじゃなくて歌詞にもある。これはTr.13の「レプリカ」にも共通しているが、アニメのOPをつとめる際に必要な派手さ、インパクトに負けない自由さや伸びきった歌声が最高に気持ちいい。快感!って感じがする。


3.さなぎ

 イントロからドラムと弦が奏でる疾走感はおなじみの北川勝利のギターポップ!って感じだけど、「マジックナンバー」や「Get No Satisfaction!」のような底抜けのない明るさではない。むしろタイトルや歌詞が示すように、さなぎから飛び出て成長しようとする自分に対する不安と自信が混在していて、でも最終的には「右足で大地を蹴って大きく踏み切って」前に飛び出していく。
 迷いながらも前に進むのは15周年のときにもあったかなって思うけど、「そして進化の先へ」と宣言して歌うのは(それも最後だけは「先へ」をリフレインする)通過点を超えてまだまだここからっていう20周年らしいところなのかなと思った。
 

4.SAVED.

 『いなり、こんこん、恋いろは』ED。アニメはちゃんと見てたので、ややシリアス展開になったときにこのエンディングを見ると(聞くと)すごく救われたような気がした。タイアップの中でほとんどがOP曲の中、この曲は珍しくEDだが、EDにふさわしい出来。
 効果的なところでピアノが優しく、そしていくらか切なく使われている(「いつかは終わる毎日が」の歌詞が象徴するノスタルジーはアニメの雰囲気と非常によく合っていて、涙腺がゆるむ)けれど、全体的にはあったかいロックバラード。なのでわりとライブ受けもするんではないかなという気がする。
 歌詞で一番重要な"You saved me"の部分はまあやの声をしっかり生かして、澄み切った伸びのある声を使っている。歌詞を書いた鈴木祥子が「使わせている」というべきだろうが、息のあったいいコンビなので安心するクオリティを今回も届けてくれたなと思う。
 
5.東京寒い

 攻殻機動隊新劇のテーマになった「まだうごく」でも「あなたを保つもの」でもなくあえて「東京寒い」を持ってくるのはユニークだなと思うけれど、Tr.3で激しく、Tr.4でやさしく揺さぶったあとにコーネリアスの都会的で無機質なサウンドを並べてくるのは不意をつかれた気もする。
 で、こうやってちゃんと聴いてみるとまあやの低音は無機質でミニマルな電子音楽ともわりと合っている。たとえばPerfumeと中田ヤスタカのように息のあった10年選手というわけではないからミスマッチも多い(声そのものが単調すぎるところとか)けれど、15周年から20周年の間にあった坂本真綾によるセルフプロデュース体制への移行がなければコーネリアスと組むこともなかったかもしれない。
 まあもっとも、元々は『攻殻機動隊ARISE』にまあやが草薙素子役で参加した経緯があるから、そっちのほうが影響としてはでかいとは思うのだけれども。

6.アルコ

 コーネリアスの次に安心と安定の菅野×岩里コンビを並べてくるのはちょっとコーネリアスに厳しいんじゃないの、と思ったりした最初だけど、アルバム全体の中で見るとこの「アルコ」も目立つ。
 それはあえて旧い、なじみの二人が並ぶことによって90年代やゼロ年代のまあやを想起してしまうからかなと思っていて、リスナー側のまあやに対する認知にもよるのかもしれないが、新しいようで新しくないこの一曲をどうやって聴くべきかは案外難しいのではないか。
 素朴に、コーラスの美しさであったり、相変わらず大それたあっさりと書き上げる岩里節なあたりとか、それを2015年もやってますよっていうのは、なにも更新してないというわけではないはず。2015年のまあやだからこそ歌えるものがあるとは感じるが、それが具体的にどこがどう90年代から変わってきているのかまでを事細かく指摘できるほどではないな、ともまだ素朴に感じる。

7.幸せについて私が知っている10のこと

 『幸腹グラフィティ』OP。アニメも見ました。
 10曲目にもラスマスが曲を書いているが、こっちはアップテンポに最初から最後まで突き抜けますよ、というテイストの四つ打ちサウンド。同じ電子音楽でもコーネリアスの作るアンビエントよりはラスマスの作る四つ打ちのほうがいまのところ坂本真綾の声を自然に音に乗せることには成功しているのかなと思う。(もちろん、ラスマスとはこれまでにも仕事をしてきた経緯があるので、単純にコーネリアスと完成度を比較することはできない)
 アニメのテーマに寄せるようにひたすら「幸せ」を推しまくるこの曲は、歌詞だけを見るとまあやらしくない。らしくないけれど、かわいくてポップなラブソングだってちゃんと歌える坂本真綾を聴けるのは楽しい。まだまだいけるじゃんわたし、っていう。こっちも岩里詩なので、大仰な歌詞はお手の物ってところかな。

8.はじまりの海

 『たまゆら〜もあぐれっしぶ〜』OP。アニメも見ました。
 大貫妙子についてよく知っているわけではないけど、逆によく知らなくてもおお、と思うくらいのビッグネームだということは分かる。彼女がまあやと『たまゆら』のために曲を書くという意外さが面白いし、アニメに寄り添ったゆったりとした優しいメロディがあたたかく心地よい。
 まあやもこの曲に関しては素朴に歌うことに徹していて(「やさしさに包まれたなら」をカバーしたときと同じようなイメージ)Tr.7から比べると落差がすごいけど、逆にこのアルバムの多様性を象徴しているとも言える一曲。

9.これから

 『たまゆら 卒業写真』主題歌。シリーズの終幕へ向けてまあやによって書き下ろされた曲。アニメはまだ見てないがいずれ。
 いままで『たまゆら』で書いてきた曲と違い、エンディングロールが目に見えるような壮大さを持ったイントロから始まる。やさしさよりも切なさがあるのは「さよなら」という言葉を明確にサビに持ってきているところだろう。「わたしには分からない」と歌ったあと「これからそれを知るために」という、別れに向けた時間の流れが見えるのは切なさだけじゃなくってちゃんと希望や期待があることを意味しているのだろう。

10.Waiting for the rain

 ラスマスは中島愛をボーカルに起用した「Ame」という曲を書いているが、今回はまあやに対して雨に関する曲を書いている。どういう経緯かはよく知らないけど面白い類似で、どちらもしっとりとした切なさのある曲だ。
 Tr.7がそうであるようにラスマスと言えば四つ打ちのダンスミュージックを真っ先に思い浮かべるけど、ピアノを大量に散りばめるイントロにまず驚く。サビまで行けばラスマスらしい美メロを後ろから重ねてくるし、まあやの歌い方も力強くなる。

11.ロードムービー

 「さなぎ」と迷いながらも、何度も聞き返しているうちに音楽と歌詞の調和が抜群だなと気づいたのでこの曲がアルバムの中ではベスト。かの香織と岩里祐穂という珍しいコンビがいままでなかったような楽曲を届けてくれたこと自体がまずめちゃくちゃポイントでかい。
 そしてこの曲もポスト15周年の曲の一つだろうと思う。ロードムービーと題されたこの曲は長い旅のことを歌っているのであって、その旅というのは何かの比喩でもあるだろうけれど、エッセイ『everywhere』で書いたように初めて海外を一人で旅して歩いた日々のことがきっとまあやの頭の中にはあったはずだ。
 それに加えて20年という年月。これもしっかりと坂本真綾が声優兼歌手として歩んできた「旅」の日々が。「旅っていつか終わると思っていた でも終わらない旅もあるのね」という歌詞は、岩里が20年歩んできたまあやにこめた素直な思いの表れのようでもある。その先には「どこまでも続く明日」がある。

12.That is to say

 今回の中では一番ピアノが強調されたメロウな大人っぽいバラード。Tr.10、11と特徴的な楽曲が並んできたあとにこの曲を聴くとおとなしくてちょっと印象が薄いところがあったけれど、何度も聞いているうちにギターとピアノのサウンドが優しく響いてきてとてもよい。
 深夜にゆったりとしたところで聴いていたいタイプの曲で、まあやの歌い方も大人っぽく成熟している。音感の良さもあってのことだと思うが、しっとりとした曲を丁寧に歌いこなす安定感はさすがだなと思う。
 いままでにいろんなタイプのまあやを聴いてきたあとのちょっとした羽やすめという意味もありつつ、この曲にはこの曲の魅力もたっぷり詰まっていて、後半に据えたのはたぶん正解。

13.レプリカ

 『M3』OP。アニメは見てません。
 去年受けてた大事な面接の前にこの曲をひたすら聞き込んでテンションをあげてたという個人的な話を置いておいて、andropとまあやのコラボがこうやって完成するんだ、すごい!というテンションには違いなかったかなと思う。
 北川勝利と組むようになってからライブの本数を増やしたり明らかにライブ向きするようなバンドサウンドがそれ以前(菅野よう子時代)より格段に割合として増えたと思うのだが、そのもう一つ先の結実としてあるのがTr.2の「Be mine!」と「レプリカ」かなと思う。
 「さあ、響け!」のかっこいい一声の後に入るコーラスの快感だとか、サビの疾走感とその疾走感あるサウンドに寄せた歌がわりとかわいい路線であることとか、語るとキリがないのでこのへんで。

14.かすかなメロディ

 15曲中一番レビューしづらいので最後に書いている。
 これはなんだろう、Tr.15の前座として羽根休めとして聴くには惜しい気がするが、Tr.13のあとだと一気にかすんでしまう印象の弱さ。それは決してネガティブなものじゃないと思うし、「かすかなメロディ」というタイトル通り、かすかであってもいいチューンなのだろうと受け止めている。
 
15.アイリス

 (結果的にアルバムの最後の曲として)鈴木祥子が書き下ろした曲。これはたぶん、多幸感そのものなのかなと思う。レビューする言葉としては抽象的すぎる気がするけど、「SAVED.」のような壮大さは抑えて、控えめに控えめに音と言葉をちょっとずつ足していく。
 その中にふっと「こいのうた」というワードが浮いているような気がする。このワードが何度か登場するたびに少しニヤリとしてしまう。こんなに素朴な曲が20周年の最後でいいんだって思ってしまうけど、それはどちらかというとプラスの意味で、派手さも激しさもこなしてきたけれど、「こういう歌も大事にしたいこれからのわたし」というところなのかなと勝手に察している。
 15周年の武道館の現場にいた人間からすれば、鈴木祥子との蜜月がここでまた一つの曲として結実したのは素直に嬉しい。

 
 以上15曲。たっぷり、たっぷりという感じでまだまだ聴き足りない。
 5年前の『everywhere』がこれまでの総まとめだとするならば、本作は「20年やってきたいまのわたし」だろうと思う。改めてこの5年間を総括するというよりは、現在地をしっかりと指し示すこと。その先にはしっかり、未来への期待がこめられている。
 時系列的には少し前になるが、『かぜよみ』に収録されている「Get No Satisfaction!」の歌詞を思い起こすこともできるだろう。坂本真綾は思った以上に芯を深くに持っている人なので、このときからスタンスが大きく変わっているわけではないと思う。
 その上で、「アルコ」で歌い上げたように進化していく。ならばこれから先も楽しみにしていよう。ひとまずはそろそろ始まるツアーでの、彼女のステージを見届けることで。




Interview File cast vol.52
棚橋 和博 笹川 清彦
ジョイフルタウン
2015-09-30

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