Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



 怒濤のようなジョブズの早口から始まっていくこの映画は状況をわかりやすくは教えてくれない。第一幕、それが1984年のマッキントッシュ発売を控えた発表会直前の出来事、というのは分かる。あと40分、なんとかしてマックに「ハロー」と言わせたいジョブズの思惑と、なんでわざわざ「ハロー」にそこまでこだわらなあかんのや〜という他のスタッフたちとの格闘。この時点で基本的にジョブズがいかに偏屈とも言えるほどのこだわりを持っており、そのこだわりを意地でも商品に投入したいかがよく分かる。分かりすぎてめんどうくさくなるほどに分かる。

 この映画は大きく分けて三部構成だ。第一幕は前述した1984年、続く第二幕はNext社に移籍したあとに生み出した教育機関用のコンピュータCube、そして第三幕は1998年のiMac。2013年版のジョブズの映画は見ていないのでどのようなものだったかは適切に比較できないが、2013年版の予告編を見るとかなりアプローチが違うことは分かる。2015年版となるこの映画はとにかく新作発表会とその楽屋裏にこだわっているからだ。

(参考:2013年版の予告編)


 だからこの映画にはビル・ゲイツの名前や本人の実際の映像が一瞬出てくることはあっても、ゲイツ役の俳優はどこにもでてこない。アップルとジョブズにまつわる重要な関係者たちは勢揃いして集うし、有能な秘書でもあるマーケターのジョアンナはNext社に移籍したジョブズのそばにもしっかりいたりする。ジョブズがウォズと呼ぶウォズニアックはジョブズの実家のガレージでアップルを立ち上げた時の創業メンバーだが、そのウォズとも徹底的に対立する。

 生粋の技術者であるウォズはジョブズのこだわりを理解できない。たとえば、ウォズはApple兇箸い主力商品の立役者になった人物でもあるが、常に新しいものにこだわりを見せるジョブズはウォズやApple兇粒発メンバーに謝辞を述べることずら拒絶する。たったそれだけのことを、と多くの人はウォズに共感することだろう。でもしかし、それだけのことを拒絶するところにジョブズのやっかいなキャラクターがあって、ある意味ではそこが大きな魅力でもあるのだろう。

 84年のマックで失敗したジョブズはアップルを追われるが、88年のCubeもセールス的にはうまくいったとは言いがたい。しかしこの映画は、あえてこの間の時間のジョブズになにがあったかはあまり触れない。三つの舞台と楽屋裏へのこだわり、そしてジョブズの早口はさながら演劇的にも映るほど身体的で、空間的にはあまり外へ出て行かないのだ。もちろん回想のような形でジョブズとウォズのガレージ時代の話や、スカリーというペプシ出身のCEOとの出会いや対立も映画には登場する。それでもあえて舞台を(規模や装飾などは豪華ではあるが)ミニマムな空間に限定したのは、ジョブズにとっての家族との関係を核に据えたかったからだろう。

 起業家としてのジョブズに焦点を当てながら、ちょっとずつ家族にスライドさせていく。元恋人のアンと、認知していない娘であるリサはたびたび楽屋に現れる。もちろん、リサはちょっとずつ成長した姿を見せて。5歳のリサがマックのペイントで絵を描くシーンは感動的に作られていてジョブズも感動するが、同時にリサとアンを突き放す。なぜなのかはあまり説明されない。アンは自分の困窮具合を訴えるし、リサも成長するに従って不在の父へのいらだちを隠さない。

 当時のウィンドウズに対抗する機体として登場したiMacでようやくジョブズの名声とアップルの業績は回復する。だが、ジョブズにとってはまだ回復させなければならないものがある、というのがこの映画のクライマックスにおける分岐点だろう。起業家としてのジョブズに焦点を当てただけならiMacの場面は成功した、という事実だけで終わってしまうが、もっとエモーショナルな部分、たとえばなぜジョブズはアンだけでなくリサをも突き放すのかという問いは残っている。

 いったいいつになったら外へ出るのか。このブログのタイトルにつけた疑問は、最後の最後にようやく氷解する。14年もかけてこのオッサンは、と思わずにはいられないが、外へ出るということはジョブズにとっては演技を辞めるということなのかもしれない。それが一時的であるにせよ、舞台を降りたならばスティーブ・ジョブズという起業家を常に演じる必要はない。元恋人であるアンの前では難しいかもしれないが、少なくともリサの前では父親として、一人の人間として向き合えばいい。14年間はリサにとっては長すぎただろうが、父親としてのジョブズは感情表現が不器用などこにでもいそうな一人のオッサンにすぎなかったのだ、と。

 外へ出たあとに抜けるような青空が広がるのは、ジョブズとリサの関係だけでなくその後のアップルの幸先の良さにもつながっているのだろう。ラストシーン、リサが身につけているあるものは、数年後にアップルの主力製品として生まれ変わる。そこでのやりとりは、来るべきゼロ年代を予感させるほんの小さな家族劇。


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スティーブ・ジョブズ 2 (講談社+α文庫)
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 映画の原作となったアイザックソンの伝記。ぱらぱらとめくったがなかなかの分量。

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2014-06-03


 2013年版。こっちも見てみたい。
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