Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
主演:洲崎綾(北白川たまこ)


 テレビシリーズ『たまこまーけっと』の印象は実はあまり強く残っていない。まあ当時個人的にいろいろあった、という要因もあるのだろうけれど毎週楽しく待ち構えて見るアニメというほどではなかった。それでも中盤での臨海学校のシーンの青春感とかキャラクター同士の駆け引きは純粋に面白くて、山田尚子監督の前作『けいおん!』ほどのインパクトはないものの良質な群像劇(かつ地域密着もの)という印象は残っていた。少し。

 冒頭の南国編は置いておいて(しかし一番おいしいところを持っていくのはさすがだと思う)、この映画はもち蔵の視点から始まっていく。いままでずっとうまく伝えられなかったもち蔵のたまこを好きな気持ちを、いまこそ伝えよう。そんな風にある意味では分かりやすい青春映画のモノローグでは、カラフルな傘が空に舞い上がっていくシーンがある。もち蔵の気持ちと今後の物語の展開を示唆しているように見えるシーンだ。長くはないものの、映画館の大画面でこのシーンを眺めるとなかなか感動的かもしれない。まだ冒頭だけれど。そして2012年のカナダ映画、『わたしはロランス』の中盤ににたようなシーンがあったことをふと思い出した。気持ちの高ぶりを周辺の風景の変化で表現していくのは実写でもアニメでも珍しくはないのだろう。(『ちなみにロランス』では傘ではなく衣服などあらゆるものが舞い下りてくることによるカラフルな色彩で画面を覆っていた)



 だからストレートにこの映画を眺めるならばもち蔵とたまこの物語だ。基本的には相思相愛なはずの二人のラブストーリーであること、それは間違いない。でも、第三者としての常磐みどりという視点を意識的に導入したことでこの映画は豊かな青春群像劇となっていく。みどり以外にもたまこの妹のあんこであったり、バトン部仲間のかんなや史織であったり、あるいはたまこやもち蔵の家族であったりと見るべき要素はたくさんあるけれど、第三者として二人のラブストーリーを動かしているのはみどりだ。臨海学校ではどちらかというと動かさない方向に動いていた彼女が積極的にアシストを重ねていくのはなかなかに痛快だ。

 みどりにどういう心境の変化があったのかははっきりと語られないが、部活仲間以上に大切な友人であるたまこの背中を押したい気持ちは本心としてずっとあったのかもしれない。もち蔵へのやや冷たい当たり方は相変わらずのもち蔵いじりといったところだろう。はっきりしているのは、もち蔵が意識した青春の終わりを、みどりもまたどこかで意識しているのではないかということだ。だからみどりはもち蔵がようやくたまこに気持ちを伝えたことを素直に評価する。「言ったんだ」という多少の素っ気なさを伴って(でもそこがみどりらしくてとてもかわいい)

 青春の終わり。明らかになるのは明確な距離だ。東京に行きたいと明確に視聴者にもち蔵が伝えるとき、彼の目線は同時に撮りためた映像の中のたまこにも向けられている。東京、大学という未来を見据えながら過去から現在へとつながる存在であるたまこのことも同時に意識する。一種の危機感というか焦りというか、自分の思いを素直に表現すればするほどたまこから離れていくことを、同時に受け止めなければならない。逆にたまこにとっては明確な終わりを意識しているわけではなくて、かんなのあるアイデアが「みんなでいられる季節の最後」が近づいていることをようやく実感する。その上でのもち蔵のカミングアウトが重なるのだから、たまこの脳内と心が現実をまっすぐ受け止められなくてもおかしくはない。自然なことだと言うべきだろう。

 だから、だからこそ最後にみどりがたまこに告げる優しい嘘がたまらなくいじらしい! 冷静な視聴者は瞬間的に嘘だと気づくだろうけどただでさえ天然でさらに気が動転しまくっているたまこにはそんな余裕なんてなくて、「良いアニメ」のお手本のように(たぶん京都駅へ向かって)走り出していく。だからもうどうしようもなく、ますますみどりちゃんを好きになっていく映画だなって思った。

 『たまこラブストーリー』にとってのラブストーリーはおそらく映画が終わってからが本番だ。そこまでの下地をしれっと準備してみどりの策士っぷりには盛大な拍手を。彼女の見つめるどこか遠くを思いながら。

 常磐みどり、最高か。

映画「たまこラブストーリー」 [Blu-ray]
洲崎綾
ポニーキャニオン
2014-10-10






ブログリンク:
・くろじゅ「『たまこラブストーリー』見たけどやっぱし京アニ好きです ※微ネタバレ」(『そのねこがうたうとき』)
→この文章書いたあとにくろじゅさんの記事読んだけど共感ポイントがいろいろと重なってとても楽しい。「休校の教室での「ありがと、かんな」の台詞で私は一番泣きそうになりました」はとてもわかる、わかりすぎる。そしてあの自分一人しかいなくなった(かんなにすぐ見つかるけど)教室のみどりちゃんのことを、そっと思いたい。

・ねりま「変わる世界を抱きしめて―『たまこラブストーリー』感想」(『宇宙、日本、練馬』)
→たまこの受け止め方について、「母との死別は、彼女の世界を大きく変えたはずで、そうして変わってしまった世界を受け入れて、今の彼女はあるはず」ってのは少し軽視していたかもしれない。性格に由来する部分と、積み重ねてきた彼女の歴史に由来する部分は物語後半のたまこという少女の意思と決意なのかなって思った。だから「変わる世界を、彼女はその都度抱きしめて、そして愛していけるのだから」というのも、あの希望的で感動的なエンディングを見るまでもなく、たまこなら大丈夫、と思うべきなのだろう。
このエントリーをはてなブックマークに追加 Share on Tumblr Clip to Evernote

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット

トラックバック