Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



 春クールの作品の中でも前評判はさほどでもなかったと思うが、オリジナルでこれだけ安定した良質なものを見せられると素直に拍手を送りたい気持ちになる。feel.は俺ガイル続を担当しているし、岸誠二は『暗殺教室』シリーズで中学生たちの青春を表現してきた。『暗殺教室』はかなり特殊な空間で、努力や友情がベースにあるいかにもジャンプ的な青春という感じではあったが、『月がきれい』では川越という明確な舞台を置いたうえでのリアルな中学生活を表現しきったところに新鮮味を覚えるし、1クールそつなくやりきったのはお見事。

 主人公は小説(純文学)、ヒロインは陸上部(短距離)というこれもはっきりとした属性を付与しながら、交わるようで交わらない二人がちょっとずつ仲をつめるまでのエピソードのにやにや感が最初からかなり冴えていた。その後、修学旅行をきっかけとして二人がぎこちないまま交際をスタートさせるのが意外と早く訪れたのには少し驚かされたが、そこからがこのアニメの本当の持ち味なのだと思わされた。つまり、恋愛の成就が物語のゴールなのではなくって、恋愛とか、部活とか、あるいは進路とか、そういった中学生活にありがちなことをすべて主役の二人に経験させたとき、いったいどのような困難や挫折があって、そしてその先に喜びがあるのだろうか、というところに丁寧に向き合っているのがこのアニメだと思う。

 だから、主役二人にだけ焦点を絞るのではなく、二人が置かれた空間や人間関係への目くばせが非常に細かい。家庭環境はかなり頻繁に描写されるし、いかに中学生が無力であるかということを小太郎も茜もそれぞれに思い知っていく。あるいはクラスメイトや部活仲間たちとの人間関係ではすでに成就した恋愛関係の描写もあれば片思いの描写もあり、後者は小太郎と茜の交際がスタートしたあとにも二人の関係をややぎくしゃくさせるような影響を持たせていく。明確な悪意を持ったキャラクターは少ないが、純粋であるがゆえに不器用で、ストレートにしか気持ちを表現できない。ということは、ただでさえぎこちない関係性を傷つけることは容易で、小太郎と茜はいかに自分たちが自由でないことを思い知っていくのだ。

 たとえば二人で会うということさえ難しいということ、お互いが好きな気持ちを持っているはずなのに、その気持ちがそれぞれのとってしまう行動と結びつかないこと。付き合い始めることによって互いに独占欲が生まれ、結果として他人に対する嫉妬心も増幅されていく。こういったいかにもありがちな心理的な動きを、顔を赤らめたり逆に複雑な表情をしたりといった細かな演出と、あるいは声を冷たくしたり弱くしたりといった声優たちの演技がうまくかみあっている。また、東京ドームシティのラクーアにみんなで遊びに行くエピソードや川越まつりに二人で出かけたはずなのに結果的に別行動をとってしまたりする流れとかは、二人だけの空間を守ることが中学生のカップルにはいかに難しいかがよくわかる。

 それでも二人は、いやだからこそ二人はちょっとずつお互いを傷つけながらも前へ進もうとする。その純粋さというか健気さというものの両方が炸裂する最終回は非常に素敵な幕切れだった。エンドロールはちょっとご都合主義かなという気もするが、適当なところで妥協するのではなく、自分の気持ちと向き合いつつ、同時に大事な人のことを思えること。これらの両立はいつだって難しい。難しいからこそ、汗だくになって走ってまで気持ちを届けようとするのだろう。思えば茜はずっと競技場で「走っ」ていたが、小説を書くか勉強するかくらいしか日常の動作がない小太郎の「走る」シーンはとても新鮮で、そしてめちゃくちゃエモかった。

 とても個人的な話をすると、中学時代は陸上部に所属しながらひたすら本を読んだり文章を書いたりということをやっていたので(そして部活内に気になる異性がいたりした)茜と小太郎それぞれのささいな言動がグサッと刺さって泣きたくなりました、はい。自分が中三だった当時の2004年はまわりがやっと携帯(もちろんフィーチャーフォン)を持ち始め、メールをしたり電話したりという営みを新鮮に楽しんでいた時代だった。俺はというとクラスの女子たち何人かとメールをしつつも主戦場はネットの掲示板やチャットだったなとなつかしく思う。

 あとネットで知り合った人とのメールやメッセンジャーのやりとりもよく繰り返した。ほんの数人ではあるが、その後大学生になり上京してから会うことのできた人たちもいる。もちろん茜と小太郎のように俺も不器用だったし、傷つけたり傷つけられたり、ということはよくあった。テキストだけのやりとりはなかなかに難しいが、テキストをどこへでも誰へでも届けられる、という面白さに興奮していた時代でもあった。

 しかし自分の経験を小説に書いて間接的に思いを伝えるというアプローチ、それも明らかに「なろう」でそれをやるか、っていうのはLINEやSNOWなどがバンバン出てくるこの作品の中でも一つ際立っている演出だった。でもそれは、いまどきの小説を書く中学生だからできるアプローチであるのが間違いないし、ろまん君はほんといいやつだな、という思いを強くしました、はい。あと東山奈央の主題歌と挿入歌めっちょよい・・・川嶋あいが関わっているのもなんかずるい。挿入歌のタイミング的には「fragile」が流れるところが一番いいなと思いました。あと東山さん演じる涼子先生もとても最高でした。美人であるがゆえに男子生徒から好かれ女子生徒から微妙な距離を、というところもとてもリアルでとてもよかったと思う。




TVアニメ「月がきれい」サウンドコレクション
伊賀拓郎/東山奈央
フライングドッグ
2017-07-05

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