Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



 たとえば画面の使い方とか、音楽以上に熱の入るシンプルでスラング満載の台詞回しだとか、うまくまとめようとすればいくらでもまとめるんだけれど、こういうとにかく見ろ、タイプの映画を批評するのはなかなかに難しい。見れば分かる、けれども見ないと分からない。そんな単純なことを言うのなら、わざわざ長い文章を費やす必要はない。
 素朴に思い出したのは先日まで放映されていたアニメ『響け!ユーフォニアム』の最終回だ。

 あの一瞬、一刹那、最後の夏、最後の舞台、最後のメンバー・・・クライマックスと同時に訪れる最終回はあっという間の幕切れで、それはこの映画も同じだ。いや、この映画の場合はクライマックスが多すぎてどこが最終回なのか分からないくらいだし、逆においそこで終わるのかというツッコミもできるくらいだけど。
 つまりはまあ、圧倒的という言葉よりも無茶苦茶という言葉のほうがきっとかみ合う。それはJKシモンズ演じるフレッチャーの破天荒さと厳格さに表れている(というかそれしかない)し、フレッチャーになんとなくついていってたらいつの間にか憎しみがモチベーションになっていた19歳のドラマー、ニーマンの変容にも見てとれる。
 どう考えてって普通ではない連中。優れたアーティストとかクリエイターというのはそもそもそういう生き物なのかもしれないが、狂気だけでは映画は作れない。

 狂気だけでは映画は作れないが、それでもこの作品が映画たりえているのははっきりとした筋書きがあるからだ。最高峰の音楽学院に入ったニーマンと、その学院でジャズバンドを率いるフレッチャー。スポ根ものにありがちな、優れた指導者と出会った主人公が才能を開花させていくという、ある意味ものすごく分かりやすいパターンにあえてはめこんでいる。
 でもそれはおそらく、「上げてから落とす」フレッチャーのやり方そのままでもある。たとえば、オタク君とされた太っちょの演奏家は、ある練習で音がずれていることを自白できずに退場を余儀なくされた。ほんとうにずれていたかどうかは分からないのが残酷だ。フレッチャーこそが真実であり、ルールだということを観客は感じるだろうし、新入りのニーマンもおそらく感じていることだろう。
 だから観客の多くはニーマンを応援しようとするだろう。頑張れ、くじけるな、もっと頑張れ。フレッチャーとは別の視点からニーマンのサポーターを作り出すこと。それがこの映画の前半のねらいなのだろうと思う。

 だからあるコンサートに遅刻したニーマンの姿とそのあとの変容ぶりは、筋書きをもはや無視しまくっている。もっとも、ラストシーンから換算すればよくできた、うまく作っているシナリオだと言える。起承転結というパターンにもきれいに当てはまっていると言える。しかしほんとうにそうとらえていいのかどうかは、見ている最中にはまったく予測もつかない。
 それは、この映画のクライマックスが文字通り即興になっていることからも言える。JAZZの世界にさほど明るくはないが、JAZZと言えば即興というイメージはある。しかしこの映画において、即興をフレッチャーが許す余地など露とも感じない。重要なのはマシーンのような正確さと速さなのであって、フォアザバンドのために個人のセルフィッシュなどあってはならない。
 にも関わらず即興は続いていく。果たしてそれでいいのかと、即興を演じる彼以外の多くは彼を見つめながら思うはずだ。重要なのは、フレッチャーですら彼以外の大多数になってしまっているところなのではないか。彼、フレッチャー、そして多くの第三者たちという構図はもはや存在しない。その構図を最後の最後に持ってくることが、この映画が映画としてもっとも輝くところなのだとうということは、わざわざ言わなくてもきっと十分だ。(けどまあ重要なので書いておく)

 圧倒的な熱量は憎しみを生み出す。そのことを音楽の世界で教えてくれたのは新川直司の『四月は君の嘘』だった。誰かのために演奏することしかできなかった人が、自分のために演奏することを覚える。それは単なるセルフィッシュだろうか、確かな成長だろうか。
 『響け!ユーフォニアム』も、『四月は君の嘘』も、そしてこの映画も、もっとも重要なところで区切りをつけてしまうがゆえにその後への関心もかきたてる。でもそれは、その後への期待を多分に残してしまうほどに、たった一回の演奏が、ライブが限りなく魅力的だったことの表れでもあるのではないか。
 最初から最後まで人を圧倒する物語とその熱量を表現するのは容易ではない。そのことを改めて認識しながら、この映画の無茶苦茶さについてもう一度考えるためにもう一度映画館に行く。そんなことを、見終えたあとすぐに思うくらいには、取り憑かれそうになる魔力を秘めている。
 
 いや、とりあえず冷静になって考えよう。とりあえず、グサヴィエ・ドランよりは少し年上だが、また北米からおそろしい若手が登場したことだけはちゃんと覚えていようと思う。










WHIPLASH
マイルズテラー
2015




 
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