私の相場観

足元の景気指標やマーケットの動きから、株式相場を私がどう読んでいるのかを綴ったものです。

円は1ドル=80円〜90円まで上昇か

前回は、ドル円レートが購買力平価を起点に、景気循環に従って循環していることを、下のグラフを使って説明しました。ここから、今後のドル円レートを予想してみたいと思います。
購買力平価短期(16年9月)
現在(2016年8月時点)の購買力平価は1ドル=86円です。もし、今後も購買力平価の水準がこのまま変わらなければ、円は1ドル=86円まで上昇することになります。
ただ、前回も述べたように、景気後退期には購買力平価ちょうどで止まらずに、反対側に突き抜けて8〜9%ほどオーバーシュートする(グラフの丸のところ)ため、それを考慮すると最終的に1ドル=80円程度まで円高が進むと予想されます。
以上は、購買力平価が今後も1ドル=86円のまま変わらずに推移したと仮定した場合の予想です。
ただ、実際にはグラフをみてもわかるように、円高か円安方向に動くので、今後購買力平価がどのように変化するのかも予想しなければいけません。

これまで購買力平価がどのように推移してきたのかを上のグラフでみてみると、2010年までは、景気後退期を除けば一貫して円高方向に進みました。しかし、2011年以降は円高の流れが変わって横ばいで推移し、さらに2014年から2015年にかけては円安方向に転じています。そして、足元ではやや円高に戻しています。
購買力平価がなぜこのように動いてきたのかを、下のグラフで説明したいと思います。
日米工業品卸売物価

購買力平価の方向を決めるのは、算出式からもわかるように、日米の物価(工業品卸売)上昇率の違いです。米国の物価上昇率が日本の物価上昇率を上回れば、購買力平価は円高方向に、その逆の場合には円安方向に進むことになります。
上のグラフは、米国の物価(前年比)と、日米の物価格差(米国の前年比上昇率−日本の前年比上昇率)を重ねたものです。概ね両者は重なっています。両国の物価上昇率の違いは米国の物価上昇率にほぼ等しく、購買力平価はほぼ米国の物価上昇率によって方向が決まるということがここからわかります。
2010年までは、日本の景気拡大期には米国の物価上昇率(=物価格差)が概ねプラスで推移したので、購買力平価は円高方向に進みましたが、景気後退期には米国もリセッションに入り、米国の物価が急激に下がってマイナス圏に入った(=物価格差もマイナスになった)ので、購買力平価は円安方向に転じたのだ、ということがわかります。
一方、上のグラフの2011年以降(丸のところ)をみると、米国の物価上昇率はゼロ近辺まで急速に鈍化(=物価格差もゼロ近辺で推移)しており、これが、購買力平価の円高から横ばいへの変化をもたらしたことがわかります。この間の米国の物価上昇率の鈍化は、中国の景気減速の影響で、資源価格が下落したことが大きかったと思われます。さらに、2014年に入ってからは原油価格の下落がこれに加わり、資源価格の下落が加速したため、米国の物価はマイナス圏(=物価格差もマイナス)に入りました。購買力平価が円安方向に転じたのはこのためです。今年に入ってから原油価格が持ち直したため、米国の物価上昇率も回復して購買力平価が足元円高に戻している、という流れとなっています。
以上からわかることは、2011年以降の購買力平価の円高から横ばい、さらに円安への変化は、国内の要因によるものではなく、また、米国の要因でもなく、中国の景気減速を背景に、世界経済全体にデフレ圧力が強まったことによるものであった、ということです。
簡単に言ってしまえば、2010年までは日本のデフレが際立っていたので購買力平価は一貫して円高方向で推移したが、2011年以降は新興国の景気減速を背景に世界的にデフレ傾向となったため、日本のデフレが目立たなくなって、購買力平価は円高の流れが止まった、ということになります。

今後の購買力平価の予想ですが、以上からもわかるように、米国の物価がどのように推移するかによってほぼ決まってきます。
足元では、中国景気の減速傾向がやや弱まっていることから原油価格などがやや持ち直しており、米国の景気拡大も続いていることから、米国の物価の持ち直しが当面続くと予想されます。このため、購買力平価はしばらく円高気味に動くとみられます。
しかし、米国の景気拡大は終盤に差し掛かっているとみられるので、世界経済にも再びデフレ圧力が強まる可能性が高いのではないかと思います。、その時点で購買力平価は円安に(米国がリセッションに入れば急激な円安に)転じることになります。どの程度まで円安方向に進むのか未知数ですが、仮に現在の水準から10円程度円安方向に動くとすれば、ドル円レートが目標とする購買力平価の水準は1ドル=86円から96円にシフトします。ただ、最終的にはオーバーシュートするので、1ドル=96円からオーバーシュートした1ドル=90円程度まで円高が進むと予想されます。

このように、今後購買力平価がどのように推移するかによって、円高がどこまで進むのか予想が変わってくるので、ある程度幅を持って、1ドル=80円〜90円程度まで円が上昇するのではないかと今のところ考えています。

円高はまだ続く

昨日は日銀の金融政策決定会合で、長短金利を誘導目標とする新たな緩和策が決まり、マーケットが大きく動きました。円相場は、発表直後に乱高下したものの、結局前日比ほぼ変わらずの水準に落ち着きました。
私が一貫してこのブログでお伝えしてきたことは、マーケットは日々このようなイベントや材料に反応して動いていますが、長い目で見ればファンダメンタルズに従って動いている、ということです。
ファンダメンタルズとは、経済全体の動きである「景気」のことです。
考えてみれば、マーケットの為替や株価や金利は、それ自体が「経済」という全体に対しての「部分」という関係になるので、為替や株価や金利は全て、「経済」全体の動きである景気に従って動きます。具体的には、景気循環に従って、為替や株価や金利は循環している、とみるのがマーケットの正しい捉え方であると思います。

為替に関して言えば、部分的には各国の金融政策(通貨供給量)や金利水準、国際(貿易)収支などとに関係も確かにみられるわけですが、これらの要因もやはり「経済」全体の動きである景気循環に従って循環しているので、「群盲象を撫でる」のことわざのように、このような特定の要因と為替を関係させてみても、ゾウの鼻や足やシッポを触っているだけで、ゾウの全体の姿(為替の全体的な動き)は見えてこない、ということになります。従って、ゾウの姿を捉えるためには、景気循環に従って為替がどのように循環してきたのかをつかむことがとても重要になってくるわけです。
景気は一見複雑な動きをするように思えますが、景気循環というのは非常にシンプルなので、為替などマーケットの動きも、マクロの視点で眺めると実はけっこうシンプルな動きをしていることがわかります。

それでは、景気循環に従って、為替がどのように循環しているのかをみていきたいと思います。

購買力平価長期(16年9月)
上のグラフは、このブログでもたびたびご紹介してきた、変動相場制移行後のドル円レートと購買力平価です。
上のグラフをみると、実際のドル円レートが概ねこの購買力平価に沿って推移してきたことがわかります。
私は、エコノミストの仕事を初めて間もなく、為替について解説したある本の中でこのグラフに出会いました。「為替レートは長期的には購買力平価で決まる」という為替の基本的な理論をこの本から学び、それ以来20年余りにわたって、このグラフが、私が為替をみる場合の基本的なツールとなっています。
購買力平価は、日本と米国の物価水準によって為替が決まる、という考え方に従って算出した為替の理論値です。たとえば、日本で100円の商品が米国で1ドルで売られていれば、1ドル=100円で為替レートが決まる、という非常にわかりやすい考え方に基づいています。

各国で売られているビックマックの値段で為替レートを算出した「ビッグマック指数」が有名ですが、これも考え方は同じです。今年発表された2016年版のビッグマック指数によれば、ドル円レートは約73円(ビッグマックは日本で370円、米国で5.04ドル)と、現在のレートよりもかなり円高です。もちろん、実際にはハンバーガーの値段だけで為替レートが決まるわけではないので、購買力平価を算出する時には、物価全体の水準を示す「物価指数」を使います。

問題は、どのような物価指数を使うかです。使用する物価指数によって、購買力平価の水準が全く変わってきてしまうためです。
私が使っている物価は、上のグラフにあるような工業品卸売物価です。なぜこれを使うかというと、この物価によって算出された購買力平価でないと、為替が景気循環に従って循環していることがわからなくなってしまうからです。それだけに、非常に貴重な購買力平価であり、私がエコノミストの駆け出しの頃にこの購買力平価に出会うことができたのは、とても幸運であったと思います。
消費者物価やIMFが算出している購買力平価など、世の中には様々な購買力平価がありますが、このグラフにある購買力平価はおそらくこのブログ以外のところで目にする機会はほとんどないと思いますので、ぜひ目に焼き付けて頂きたいと思います。

それでは、実際に景気循環に従って為替がどのように循環しているのかを見ていきたいと思います。
購買力平価短期(16年9月)
上のグラフは、最初に見たグラフの1991年以降の動きです。シャドウになっているところは景気後退期です。
このグラフからは、
   景気拡大期の前半にはドル円レートは購買力平価から離れていく
   景気拡大期の後半には反転して購買力平価の方に戻っていく
   景気後退期には購買力平価に戻り、一時的に購買力平価を突き抜けてオーバーシュートする
    が、すぐに購買力平価に回帰する

という規則性が読み取れます。
このように、為替レートは購買力平価を起点にしながら、景気循環に従ってきちんと循環していることがわかります。
以上のような規則性を頭に入れて現在の為替をみると、現在のドル円レートはちょうど△龍斌未砲△襪海箸わかります。昨年夏に反転して,ら△龍斌未飽楾圓靴織疋覬潺譟璽箸蓮現時点の購買力平価1ドル=86円に向かって、まだ円高が進行している途中の段階にあることがわかります。現在、ドル円レートには、購買力平価の方向に引き戻そうとする力が強く働いているわけで、「為替はなぜなかなか円安に行かないのか?」と疑問に思われている方は、これで理由がよくわかったのではないでしょうか。
ただ、今後のドル円レートを予想する場合には、購買力平価の今後の推移も予想する必要があります。
次回は、そのへんも考慮した今後の為替の見通しについて書くことにします。

日銀の買い支え効果が株高を演出?

久しぶりに更新します。
そろそろ更新しなければと思いつつ、時が過ぎてしまいました。
先日も、ブログの読者と飲みに行き、「そろそろブログを更新します」と告げて、自分を追い込みました。

実は、私としては3冊目となる本を某出版社から出させて頂くことが決まり、今原稿書きに専念しています。
内容は、「資本主義はこの先どうなるのか」、という大きなテーマですが、編集者の方のアドバイスをもらって構想し直しているうちに、いつの間にか壮大な「文明論」になってしまいました。
でも、人類が20万年前に登場してから現在までの歴史に3つの大きなサイクルがあって、循環してきたことを一つの法則を使ってうまく説明することができる、という新たな発見があり、編集者の方には感謝しています。
私の中では、最初の著書『複雑系で解く景気循環』の続編だと思っています。
私のエコノミストの仕事は景気循環で始まりましたが、今回の本が図らずも文明の「循環論」になったところをみると、「循環」がやはり私の一貫したテーマなのかもしれません。
本は早ければ来年1月あたりに出せるように、今急ピッチで執筆しています。
楽しみに待っていてください。

ということで、合い間を縫って、最近の景気とマーケットについて、今私がどう眺めているのか率直なところを数回に分けて書いていきたいと思います。
差し当たって、景気ウォッチャーからは買いサインが出て、2ヵ月で景況感が大きく改善しましたが、改善の方向はともかく、改善幅に関しては、景気全体の感じからして、「腑に落ちない」というのが正直な感想です。景気ウォッチャーの景況感は侮れませんが、「今回ばかりは…」という感じがします。中身を詳しく調べてみたいとは思いますが、余裕がないので割愛させてください。

株価(日本株)は、読者のコメントにもあるように、日銀がかなり買い支えているようですね。
8/30の日経新聞夕刊のコラム「マネー底流潮流」(この欄はけっこう参考になります)によれば、安倍政権発足後(2012年12月以降)の回帰分析から、日経平均=(円の実勢レートー45円)×250 という式が成り立つそうです。現在の日経平均とドル円レートをこの式に当てはめると、日経平均はドル円レートから求められる日経平均の理論価格より2300円ほど割高となっています。±1000円程度は許容範囲とみても、少なく見積もっても1000円強は日銀の買い支えの効果とみることができそうです。
景気ウォッチャーも株価感応度がけっこう高いので、今回の改善幅は割り引いてみる必要がありそうです。(実際に、景気ウォッチャーが改善に転じたのは、株価が割高になった7月からで、7月〜8月の2か月間の先行き判断DIの業種別改善幅を調べてみると、株価感応度が最も高い百貨店がタントツで1位、高額消費の代表である乗用車販売が2位でした。やっぱり…ですね)
いずれこのような効果は剥げ落ちるでしょうから、その時に反動が出てきそうです。

次回は、ドル円レートの見通しについて書くことにします。

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