新ルールはどこが変わるのか?
このたび景気ウォッチャー投資法(以下、景気W法)の売買ルールを以下のようなルールに変更することにしました。
売買ルール(変更前と後)(3)
「これまでのルールとどこが変わったんだ?」と読者の皆さんは思われるのではないでしょうか。
その通りで、これまでのルールとほとんど変わらないのですが、一点だけこれまでと違うのが、現状判断DIが1.0ポイント以上改善(悪化)して、先行き判断DIが「前月比横ばい」のケースです。
これまでのルールでは、「符号が反対」つまり先行き判断DIがマイナス(プラス)でなければ買い(売り)サインが出ることになるので、先行き判断DIが「前月比横ばい」の時には買いサイン、売りサインが出ていました。
しかし、今度の新ルールでは、現状判断DIが1.0ポイント以上改善(悪化)しても先行き判断DIが改善(悪化)しなければ買い(売り)サインは出ないので、先行き判断DIが横ばいの時には「見送り」となります。このたった一点だけが変わります。

このように、新ルールと言っても実際にはこれまでのルールを少し手直ししただけなので、パフォーマンスにはほとんど影響がないのではないか、と思われるかもしれません。しかし、実際にシミュレーションしてみると、今回のルールの変更によって2回の売りサインと1回の買いサインで出方が変わり、個別の売買のところでパフォーマンスに結構大きな違いが出てきます。その結果についてはまた後ほど詳しくみていきたいと思います。

今回のルールの変更は、景気W法にとってはちょうど1年前の原データから季節調整値への変更に続く2回目の変更となります。これまで景気W法のより一層のパフォーマンス改善、安定化を図るために、ルールを色々と変えて様々なシミュレーションを行ってきましたが、このたびの新ルールはそのような過程を経て辿り着いたものです。どのようなプロセスを経たのか、皆さんにもぜひご一緒に辿っていただきたいと思います。

「先行き2か月連続悪化」ルールとの比較・検証結果
景気W法のパフォーマンスの改善を図るにあたっては、より先行性が高く、また天候などの一時的要因の影響を受けにくい先行き判断DIをいかにうまくルールに取り込めるか、が大きなポイントになると考え、これまで様々なシミュレーションによる検証を行ってきました。
その結果、最終的に絞られたのが、「売りサイン」のルールを「先行き判断DIが2か月連続で悪化」に変更するというものでした。
その検証結果については今年の2/17のブログ(「新ルールの検討〜新ルールでは1月調査で売りサイン」)に書きましたが、あらためて2つのルールの直近までのシミュレーション結果を示したのが下のグラフです。
新ルール,離轡潺絅譟璽轡腑

この記事を書いた時には、この新ルールに換えた方が良いのかどうか私の中ではまだ結論が出ておらず、今回の消費増税の影響を見極めたうえで、最終的に決めようと考えていました。
この間に、9月から10月にかけて開催した連続セミナーの受講生の方々からルールに関する意見を伺ったり、さらに詳細な分析を行ってきました。その結果、「総合的に評価すると、新ルールよりも現行ルールの方が優れている」との判断に至りました。その分析結果と、最終的にそのように判断した理由についてお話ししたいと思います。

「要因分析」で2つのルールを判定
2
つのルールのどちらが良いのかを判断する決め手となったのが、これから述べる「要因分析」です。
それぞれのシミュレーション結果を示した上の2つのグラフを見比べただけでは、個別取引におけるパフォーマンスの違いがなぜ生じたのか漠然としていてはっきりつかむことができません。
そこで、ルールが変わることによって個別取引でパフォーマンスが変わる要因を3つに分け、各要因ごとに利益合計でどの程度の違いが出るのかを数値化し、その違いが生じた理由を探り、その結果を踏まえて総合的に評価していずれのルールを採るべきかを決定する、という手順を踏みました。
まず、要因分析の結果からお示ししたいと思います。

パフォーマンスの要因分析
「売りサイン」のルールを、現行の「現状判断DIが1.0ポイント以上悪化」から「先行き判断DIが2か月連続で悪化」に変えると、売りサインの出方が変わってきますが、そのパターンは、
A…新ルールの方が遅れて出る
B…新ルールの方が早く出る
C…現行ルールでは出た売りサインが新ルールでは出ない
3つに分けることができます。
上のグラフは、現行ルールから新ルールに変わることにより、売りサインの出方が変わる個所をこれら3つのパターンに分類し、それらのパターンごとにパフォーマンスがどのように変化するのかを分析したものです。
ここで一つ補足しておかなければいけないのが、Cの要因で売りサインが消え、その次の売りサインがAかBの要因で前後にずれた場合の各要因の算出方法です。
具体的に言うと、現行ルールでは200311月(調査月、以下同じ)に売りサインが出て25万円の利益が出た後、その次の20046月に売りサインが出て6万円の利益が出ています(冒頭のグラフ)。一方、新ルールでは200311月の売りサインが消え、その次の売りサインが20046月から7月にずれて、ここで36万円の利益が出ています(その下のグラフ)。
この場合には、「200311月の売りサインが消える」というCの要因と、「20046月の売りサインが1か月遅れて出る」というAの要因という2つの要因が影響してパフォーマンスに変化が生じているわけですが、Cの要因の影響を計測するにあたっては、新ルールでも20046月に売りサインが出たと仮定した場合に出ていた利益をまず算出し(20032月買い〜20046月売りの利益41万円)、この期間における現行ルールでの利益合計(25万円+6万円=31万円)との差額(プラス10万円)をCの要因によるパフォーマンスの改善とみなします。次に、売りサインが20046月から7月にずれたことにより新ルールで実際に出た利益36万円と、現行ルールと同じ20046月に売りサインが出たと仮定した場合の利益(先ほど算出した41万円)との差額(マイナス5万円)を、Aの要因によるパフォーマンスの悪化と考えます。
このような手順でこの期間におけるパフォーマンスの変化を2つの要因に分解していますので注意してください。

要因分析の結果
上のグラフは、現行ルールから新ルールに変えることによってパフォーマンスがどのように変わるのかを要因分析した結果です。新ルールに変えることにより、全体のパフォーマンスはマイナス6万円、つまり6万円悪化しますが、これを3つの要因に分解すると、
売りサインが現行ルールよりも遅れて出ることにより7万円悪化(Aの要因)、現行ルールよりも早く出ることにより16万円悪化(Bの要因)、G笋螢汽ぅ鵑消えたことにより17万円改善(Cの要因)、という内訳になります。個別の取引きをみると、Aは4回のうち3回で悪化、Bは3回の全てで悪化しています。AとBの要因だけをみれば明らかに現行ルールの方が勝っています。
Aのパターンは、現状判断DIと先行き判断DIが同時にピークアウトするケースで現れる傾向があります。このようなケースでは先行き判断DIが2ヵ月連続で悪化するのを待たなければいけない新ルールの方が売りサインが出るタイミングが遅れがちになり、相場がピークアウトした後で売りサインが出ることがパフォーマンスの悪化につながってしまうとみられます。新ルールでは2002年にも損失が出てしまい、現行ルールに比べて損失回数が1回増えるのはこのような理由によります。
一方、Bのパターンでは、先行き判断DIが相場のピークにかなり先行してピークアウトする傾向があり、そのために2007年や2013年のように相場がピークをつけるかなり手前で売りサインが出てしまうことがパフォーマンスが悪化する理由であると考えられます。

このように、AやBの要因に関しては圧倒的に現行ルールの方が有利である一方で、Cの要因が新ルールのパフォーマンスを大幅に引き上げており、AとBの要因によるマイナスをかなりの程度カバーしています。Cの要因によって売りサインが消えた200311月と20108月は景況感が一時的に悪化した時期に当たり、現行ルールではこのタイミングで売りサインが出たものの、景況感がすぐに回復に転じたために、買いサインがその1か月後と2か月後にそれぞれ出ました。結果的にはこの間に株価が上昇したために、この売りサインと買いサインによる無駄な売買がなくなった分だけ新ルールではパフォーマンスが改善することになります。「売りサイン」のルールを「2か月連続で悪化」としたことで、景況感の悪化が一時的なものであるかどうかを見極められることがパフォーマンスが改善する理由と考えられます。

どちらのルールを採るべきか…
このように、現行ルールと新ルールではそれぞれ一長一短あり、AとBの要因だけをとってみれば躊躇なく現行ルールの方を採るところですが、一方でCの要因によって無駄な売買が回避できる新ルールの方にも捨てがたいものがあり、「なかなか甲乙つけがたい」というのが、要因分析の結果をみての私自身の率直な感想でした。
この2つのルールについては、このたびの連続セミナーに参加して頂いた受講生の方々からも色々なご意見を伺いました。その中には、新ルールは全体のパフォーマンスはやや落ちるが、最大損失額が現行ルールよりも小さい(現行ルールの9万円に対して新ルールでは3万円)ことや、一時的な悪化による誤った売りサインを出さない、といった点を評価して、「現行ルールを『積極型』、新ルールを『堅実型』と2つのタイプに分けて、投資家それぞれの好みや性格に合わせてどちらかを選んでもらえばいいのではないか」、といったアイデアが出ました。一方で、「投資家としてはやはりルールは一つの方がいいのではないか」といった意見も出されました。
私としては、どちらも一長一短あるのであれば投資家の方々にぞれぞれ選択して頂くのも一つの方法かな、とも思いましたが、何かすっきりしないものが残り、やはり「一つの簡単なルールに従って売買する」という‘シンプルさ’が景気W法の大きな特長と魅力であり、また、ルールを一つに決めた方が投資家としても安心できるのではないかとだんだん思うようになりました。

「手堅い」とはどういうことなのか?
そこで、一見すると新ルールの方が「手堅い」ように思えるその「手堅さ」とは一体どのようなことなのか、そして、新ルールの方が現行ルールよりも本当に手堅い投資方法なのかどうかをもう一度吟味してみることにしました。

一般に、「手堅い」という言葉は、「石橋をたたいて渡る」ように慎重に物事を進める時に使います。新ルールでは、景況感の悪化が一時的であるかどうかを1か月ではなく2ヵ月かけてしっかり(慎重に)見極めることになるので、その意味では現行ルールよりも「手堅い」と言うことができます。
ただ、投資でいう「手堅さ」はこれとは少し意味合いが違うように思います。「できるだけ損失を出さないようにリスクに十分に配慮する」ことが投資でいうところの「手堅さ」ではないかと思います。
たとえば、大きな地震が起きた時に、「津波が来るかどうか自分の目でしっかり確かめよう」と考えて海岸の方に向かって歩いていったとしたら、確かに一面では「手堅い」行動ではありますが、もし津波が本当に襲って来たらいっぺんに飲み込まれてしまいます。身の危険を考えたら、これほど無謀な行動はないということになります。一方、地震が起きた時に、「津波が来るかもしれない」と考えて一目散に山の方に走っていくのは、それだけを見れば「軽率」な行動ですが、それが我が身を守るためであれば「手堅い」行動をとったことになります。
実は、現行ルールと新ルールの関係にも同じことが言えるのではないかと思います。
改善していた景況感が突然悪化すると、天候などの要因は別にして、それが一時的なものかどうかを見極めるのは普通は難しいものです。このような時、現行ルールではすぐに「売りサイン」が出ますが、新ルールではもう1ヵ月待つことになります。それによって一時的な悪化かどうかを見極めることができますが、もしそれが一時なものではなく本格的な悪化の兆候であるとすれば、早めに売却してそのリスクに備えることができる現行ルールの方がむしろ「手堅い」とは言えないでしょうか。それが実際には一時的な悪化で終わり、そのためにこの間に株価が上昇して高いところで買い直さなければならなくなったとしても、それによって生じたロスはリスクに備えるための保険料のようなものだと考えられるのです。

また、現行ルールでは最大損失額が9万円であるのに対して、新ルールでは3万円にとどまっています。それだけをみれば新ルールの方が「手堅い」との印象を受けます。しかし、それについてももう少し深く考えてみる必要があります。
現行ルールで9万円の損失が出たのは20108月の売りサインのところですが、新ルールではここの売りサインが消えて次の20113月の売りサインで1万円の損失に変わっています。Cの要因が寄与して損失が減ったわけですが、しかしここは本来であれば2003年のように、Cの要因は「利益が増える」という形でパフォーマンスに寄与するはずです。つまり、「現行ルールでは20108月の売りサインで3万円の利益が出たが、新ルールではこの売りサインが消えたことで利益が9万円に増えた」といった形になるはずです。それが「損失が減る」という形になったのは、2010年が景況感の改善が続く中で株価が下がった非常に特殊な時期であったためです。その点を考慮に入れないと、損失の数字から受ける印象だけで、「手堅い」と判断してしまうことになります。
不思議ですが、「Aの投資法では9万円の損失が出て、Bの投資法では3万円の損失が出る」と聞くと、私たちはBの投資法の方が「手堅い」と感じますが、「Aの投資法では3万円の利益が出て、Bの投資法では9万円の利益が出る」と聞くと、逆にAの投資法の方が「手堅い」と感じます。それは、Bの投資法の方が積極果敢にリスクをとって利益を狙っている(従って、損失を出す時も大きくなる)と考えるからです。
ここでは、現行ルールがAの投資法に当たり、新ルールがBの投資法に当たります。すでに述べたように、現行ルールでは早めに売りサインを出してリスクを回避しようとしますが、新ルールでは「2ヵ月待つ」というリスクをとっているからです。Cの要因によってパフォーマンスが改善した17万円は、リスクをとった対価とも言うべきものです。
しかし、一方でリスクをとったことが裏目に出ることもあります。それが現行ルールよりも売りサインが遅れて出るAの要因によるパフォーマンスの悪化です。新ルールでは2002年にAの要因で損失が出て、損失回数が現行ルールよりも1回増えますが、それは新ルールがリスクを余計にとった結果であるとも考えられます。このようにAの要因とCの要因は裏腹の関係にあることがわかります。

総合的に判断すると現行ルールに軍配
これまで私は、新ルールが景況感の一時的悪化による誤った売りサインを出さない点や大きな損失を出さない点を「手堅い」と考え、新ルールのそのような点を評価して、現行ルールと新ルールで甲乙付け難いと思っていました。しかし、以上のような考察を経て、逆に現行ルールの方が「手堅い」のではないかと見方が変わってから、現行ルールの方に選択の針が一気に傾きました。
現行ルールの方が全体のパフォーマンスが良く、個別の取引でも9回のうち6回で新ルールのパフォーマンスを上回っており、さらに、Cの要因によるパフォーマンスの悪化も「手堅さ」を確保するために払うコスト(しかも払ったのは15年間で2回だけ)であると考えれば、総合的な見地から現行ルールの方が優れているとみてよいだろう、と最終的に判断しました。
偶然の要素が大きな影響を与える個別取引きでは新ルールの方が結果的に大きな利益が出る場合も当然あると思います。しかし、以上のような要因分析と検証から2つのルールの傾向性を導き出し、そのような傾向が生じる原因を明らかにした上で、より理に適っていると今回判断された現行ルールに従った方が、おそらく将来的に安定した、かつ長い目で見た場合により大きなパフォーマンスが得られるだろうと考えています。

現行ルールを一部手直しした新ルールへ
以上が現行ルールと新ルールを比較検討した結果、現行ルールを引き続き景気W法のルールとすることに決めた経緯です。
ただ、景況感の一時的な悪化を受けて出る売りサインは出ないに越したことはありません。
実は、現行のルールに若干変更を加えるだけで、Cの要因によって悪化したパフォーマンスを改善させることができます。それが、冒頭に示した新たなルールです。

現行のルールでは、現状判断DI1.0ポイント以上悪化しても先行き判断DIの符号が反対、すなわちプラスであれば「売り」の判断は見送りとなります。それ以外は「売りサイン」が出ることになるので、ゼロ(前月比横ばい)の場合には現行ルールでは「売りサイン」が出ることになります。
C
の要因によってパフォーマンスが悪化する原因となった200311月の売りサインがちょうどこのケースに該当し、11月の現状判断DI1.8ポイント悪化し、先行き判断DIは横ばいでした。もし現行のルールを、先行き判断DIが横ばいの場合には「見送り」となるように変更すれば、11月の売りサインが消えて次の売りサインは20046月となり、その結果、先ほどの要因分析のところでみたように10万円だけパフォーマンスを改善させることができます。
先行き判断DIが横ばいの場合には、「見送り」とするのが妥当なのか、それとも現行ルールの通り「買いサイン」や「売りサイン」を出すのが妥当なのか、ここではもう一度基本に立ち戻って考えてみたいと思います。

ルール変更による売買サインの変化
ルールの変更で売買サインはどう変わるか
景気W法のルールで現状判断DIだけではなく先行き判断DIもチェックするのは、現状判断DIは天候などの一時的な要因の影響を受けやすいので、景気の基調を確認するためでした。
この原則から言えば、先行き判断DIが「横ばい」の場合には、景気の改善基調は止まったものの、まだ下向きに転じたわけではないので、「見送る」のが妥当であると考えられます。
実際に、売りサインが出た200311月前後の先行き判断DIの推移を見ると(上のグラフ)、翌12月は前月比0.5ポイント上昇しており、上昇基調が続いていることから、やはり売りは「見送り」とすべきであったことがわかります。その結果、次に出てくる売りサインは2004年6月となり、すでに要因分析のところでみたように、Cの要因により10万円だけパフォーマンスが改善することになります。

同様に、「買いサイン」の場合には、現状判断DI1.0ポイント以上改善しても、先行き判断DIが「横ばい」であれば、先行き判断DIはまだ改善に転じておらず、景気の好転を示しているわけではないとみて、やはり「見送り」とするのが妥当であると考えられます。
実際にこのケースに該当するのが20032月に出た買いサインで、2月の現状判断DIは1.1ポイント改善し、先行き判断DIが横ばいであったため現行ルールでは買いサインが出ました。しかし、上のグラフを見ると、翌3月には現状判断DI,、先行き判断DIとも悪化しており、まだ景況感が下げ止まっていないにも拘わらず「買いサイン」が出たことがわかります。
ルールを変更してここの買いサインが「見送り」になると、買いサインは3か月後の20035月に変わりますが、ただ、これによってパフォーマンスが必ずしも改善するわけではなく、パフォーマンスは逆に13万円悪化することになります。この3か月間に株価が底を打って上昇に転じ、結果的に現行ルールよりも株価水準が高いところで買うことになるためです。

先行き判断DIが横ばいの時は「見送り」とするルールの変更によってサインの出方が変わるところは他にもう1箇所あり、20061月の売りサインが20064月に移動します(上のグラフ)。
グラフを見ると、先行き判断DIは1月に横ばいとなった後、2月以降低下基調に転じており、現行ルールではちょうど先行き判断DIがピークをつけたところで「売りサイン」が出たことになります。これも「売りサイン」が出るタイミングとしては少し早過ぎるように思われます。売りサインが20061月から4月にずれることで、ここでのパフォーマンスは3万円改善します。

ルールを決めるにあたって何を重視するか?
以上の検証結果をまとめると、現行ルールを新ルールに変更することによりサインの出方が3箇所で変わり、それによってパフォーマンスは2箇所で合計13万円改善し、1箇所で13万円悪化することになり、全体ではパフォーマンスに変化は生じないという結果になります。
パフォーマンスを上げるためだけであれば、売りサインだけルールを変更し、買いサインについては現行通り、先行き判断DIが横ばいの時には買いサインが出るようなルールにすることも可能です。
しかし、それは本来のルールの決め方からはずれていると思います。
景気W法は、景気ウォッチャーの景況感の変化だけを投資判断の拠り所としている投資法です。景況感の変化を売買サインによっていかに的確に捉えるかがこの投資法の要であり、ルールはその目的を果たすためにあります。景気W法のこのような「原理・原則」に従っているかどうかが、ルールを決めるにあたって一番大切にしなければいけない点だと思います。過去の検証結果からパフォーマンスの良い方を選ぶ、という視点も重要ですが、この「原理・原則」からはずれて、ただパフォーマンスの良し悪しだけをルール選定の基準にしてしまうのは本末転倒です。
「原理・原則」に従った、「理に適った」ルールであれば、長い目で見れば必ず結果も出てくるはずです。

過去のパフォーマンスだけでルールを決めてはいけない理由がもう一つあります。
年に1回実施される季節調整値の改訂によって、過去のシミュレーションの結果が大きく変わる可能性があるからです
今年1月の季節調整替えでは、21回の売買サインのうち3回で出るタイミングが変わり、全体のパフォーマンスも年平均利回りが10.3%から12.2%へとかなり大きく変わりました。現在の季節調整値を使ったシミュレーション結果に基づいて最大のパフォーマンスが得られるようなルールを作ったとしても、今後季節調整替えによって季節調整値が過去に遡って改訂されればシミュレーション結果も変わり、その度にパフォーマンスが最大となるようにルールを作り変えなければいけなくなります。
大事なことは、過去のパフォーマンスを上げることではなく、将来のパフォーマンスを上げるための仕組みを作ることであり、そのためには、すでに述べた景気W法の「原理・原則」に従った「理に適った」ルールを構築することが一番の早道だと考えています。
もともと原データを使っていた旧ルールの時には、先行き判断DIが「横ばい」となるケースが少なかったため(20002月〜201410月で3回だけ)、先行き判断DIがゼロの「境界線」について問題となることがありませんでした。しかし、現在のルールで使っている季節調整値は、季節的変動が取り除かれている分だけ原データよりも月々の変動が小さいため、先行き判断DIが「横ばい」となるケースが頻繁に現れます(20019月〜201410月で10回)。さらに、季節調整替えによって過去のデータが新たに「横ばい」となるケースも出てくるようになりました。このため、「境界線」のところでの投資判断について現行ルールの見直しをいずれ行う必要があったわけですが、今回のルール変更がそのその見直しの機会となりました。今回の見直しによって、現行ルールに隠れていた問題点が解消され、現行のルールがさらに精度の高いものになったと考えています。

新ルールのシミュレーション結果
下のグラフが、ルール変更後の新ルールによるシミュレーションの結果です。
すでに述べたように、全体のパフォーマンスはルール変更前と変更後で全く変わりません。200311月の売りサインが消えた分、売買回数だけが1回減ることになります。
景気W法を利用されている読者は、下のグラフが最新のルールで行ったシミュレーション結果になりますので、景気W法の基本グラフとしてぜひお手元に置いて頂ければと思います。

新ルールのシミュレーション
なお、グラフには、売りサイン→買いサインで行った信用売りの損益も「買い」のところに示してあります。
これまで「信用売り」について触れませんでしたが、一般的に、ルールの変更による「信用売り」のパフォーマンスの変動は、「現物買い」のパフォーマンスの変動とちょうど同じになります。
少し考えればわかるように、売りサインが前後にずれてパフォーマンスが改善した場合には、より高い株価水準のところで売りサインが出るようになるので、そこで信用売りを行えば、買いサインは変わらないので信用売りのパフォーマンスも改善することになります。また、景況感の一時的な悪化によって出た売りサインが消えてパフォーマンスが改善した場合には、売りサイン→買いサインで行った信用売りで出ていた損失も消えるので、その分だけ信用売りのパフォーマンスは改善します。
このように、ルールの変更によって現物買いのパフォーマンスが改善すれば、信用売りのパフォーマンスもほぼそれに比例して改善することになります。
現行ルールと「先行き2か月連続悪化」の新ルールのシミュレーション結果を示した冒頭のグラフは現物買いのみの比較で、現行ルールの利益は193万円、新ルールは187万円でしたが、信用売りのパフォーマンスを比較すると、現行ルールの利益は121万円、新ルールの利益は117万円となり、現物買いの結果にほぼ比例します。
また、今回のルール変更で現物買いの全体のパフォーマンスは変わらないので、信用売りのパフォーマンスも全体ではルールの変更前後で全く変わりません。ただ、200311月の売りサインが消えることにより、ルールの変更前に出ていた信用売りの損失が消えるので、信用売りの損失回数が1回減ることになります。

先行き判断DIの利用の仕方
「先行き2か月連続悪化」のルールは現行ルールとの比較で残念ながら不採用となりましたが、では全く使えないかと言うと、ルールとしてではなく有用な情報として利用する方法があると思います。
たとえば、現行ルールで売りサインが出てくる前に先行き判断DIが2か月連続で悪化した場合、過去の検証では3か月以内に現行ルールでも売りサインが出てきます(上の要因分析のグラフ)。つまり、「先行き2か月連続悪化」は近々「売りサイン」が出てくるサインとして使うことができます。
また、今回の10月調査では、先行き判断DIが2か月連続で悪化すると同時に、現行ルールでも売りサインが出ましたが、今回の売りサインは、先行きも2ヵ月連続で悪化しているので、景況感の一時的な悪化によって出たものではない、と判断することができます。それだけ自信を持って(?)売ることができるわけです。この場合、「先行き2か月連続悪化」が売りサインの信頼性を高める情報としての役目を果たしていると言えます。
これまで行ってきた様々な検証を通して、先行き判断DIをルールの中心に据えるのは難しい、ということが次第に分かってきました。しかし、ルール化は難しくても、現状判断DIよりも先行性が高く、天候などの一時的な要因の影響を受けにくい先行き判断DIを、有用な情報として投資にもっと利用できるのではないかと考えています。上に述べた「2か月連続悪化」という情報の使い方は、まさにそのような利用方法の一つと言えます。

ルールに関する今後の課題
この度のルール変更に至るまでには、先行き判断DIを使った様々なシミュレーションの蓄積があり、その結果最終的に行き着いたルールが、現行のルールを若干手直しするにとどまったということは、ルールをつくった私自身が始めから意識していたわけではありませんが、現行のルールがもともと盤石なものであったことを示唆しています。今回の変更で、景気W法のルールはかなり完成形に近づいたように感じています。

ただ、その一方で、今回の検証を通して、ルールに隠れている欠点もあらためて認識させられました。それは、現状判断DIを使っている限り免れない問題ですが、天候などの一時的な要因がサインの出方にどうしても影響を与えることが避けられないことです。
具体的には、今回のルール変更によって20032月に出ていた買いサインが20035月に移動し、パフォーマンスが13万円悪化することになりましたが、悪化の原因にこの現状判断DIの欠点が強く影響していた可能性があるのです。
先行き判断DIは2003年3月を底に4月から改善に転じており、現状判断DIも同時に4月に改善に転じていれば、4月に買いサインが出てパフォーマンスの悪化は2万円にとどまっていた可能性もあったのではないかと思います。実際には4月の現状判断DIは3.2ポイント悪化し、買いサインが出たのは次の5月となりましたが、4月に現状判断DIが悪化した原因として内閣府のコメントの中であげられているのが、「天候不順による小売り関連の不振」、「税制変更による乗用車売上げの反動減」、「SARS(新型肺炎)の影響による旅行者数の減少」です。これらは全て景気とは直接関係のない一時的な要因であり、4月の現状判断DIは明らかにこれらの特殊要因によって一時的に押し下げられたと考えられます。もしこれらの一時的な要因がなかったとしたら、もしかすると4月の現状判断DIは1.0ポイント以上改善して、4月に買いサインが出ていた可能性もあったのではないかと思います。
何らかの方法で天候など一時的要因の影響を除いて、現状判断DIの実態の数字をつかむことができれば、景気W法のさらなるパフォーマンスの改善を図ることができるはずです。現実にはDIという一つの数字から一時的要因の影響だけを取り除くのは技術的に難しいと思いますが、何か妙案がないか、問題意識だけは今後も持ち続けたいと思います。