企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ

法務パーソンにとっての「差別化」

 
ここ1ヶ月ぐらいで買ったカジュアルな本の中で、期待以上におもしろかったのがこれ。





折を見てこの本からいくつかネタを取り上げたいと思っているのですが、最初にとりあげたいのは、サバイバルを冠する弊ブログにぴったりな、「企業と個人の生き残りの方法としての差別化」についてです。

 差別化ということについて少し掘り下げていきたい。経営者の方を前にお話しするとき、私はよく次のようなことを言う。「競争が激しいときに、企業が生き残る方法は三つしかありません。この三つのどれかをしないかぎり競争に敗れることになってしまいます」、と。三つの方法の一つはもっとがんばることである。日本の企業はこれまで同質競争の中でがんばってきた。ただ、もっとがんばることは大切だが、同質競争の中で疲弊することでよいのか考えてみる必要がある。

 生き残りの第二の方法は、競争相手を消滅させてしまうことだ。企業経営で言えば、M&Aがその典型である。昨日までの競争相手でも、合併してしまえば明日からは仲間になる。M&Aは重要な手法であるが、しかし、どの企業でも利用可能というものではない。

 結局、私が一番言いたかったのは第三の方法であるのだ。それが差別化だ。競争相手との違いを出していくことで、厳しい競争の中でも生き残ることができる。いかに違いを出すのか、これを企業は真剣に考えるべきである。差別化できない企業は生き残れない。それぐらいに考えた方がよい。

 さて、以上で述べた経営の原則は、企業だけでなく、私たち個々人についても言えるだろう。職業人生を歩む中で自分の価値を高めていくためには、人にはないような何か特徴的なものを持つようにすることが非常に重要であると思う。

サバイバルのために「相手を消滅」させるっていうのは、人を殺したり人と合体したりすることができない自然人には大変難しい(笑)。となると、「もっと頑張る」「差別化」のいずれかまたは両方を欲張るしかないわけです。で、「もっと頑張る」っていうのは一生競争に勝ち続けるってことなんで、それはきつい。勘弁してよ。となると、伊藤先生のおっしゃるように「差別化」しか残ってない。


自分が他人と差別化できるポイントには、どんなところがあるだろうか。人柄などのアナログなスペックを除いた、法務パーソンとして職務経歴書に書けそうな差別化ポイントを書き出してみました。市場想定人数は、企業法務を職域とする日本の法務パーソン(弁護士含む)総人口を約2万人と仮定しての、自分の視界から見たざっくりとした推計です。

  • 企業法務経験10年以上
    →経営法友会第10次会社法務部実態調査における回答企業の人員構成比で約30%が「経験年数10年以上」であったことから推計すると、6,000人。

  • IT業界の法務に強い
    →IT業界ってどこからどこまで?はさておき、自認も含めれば5,000人ぐらいにはなりそう。

  • BtoB法務とBtoC法務両方を経験
    →法務職はBtoBが圧倒的に多いが、転職が当たり前になった今、両方経験がある人も増えている。3,000人ぐらい。

  • 契約法務・知財法務・機関法務をすべて経験
    →特に上場企業の機関法務経験という絞り込みまでかければ、ざっくり2,000人ぐらい。

  • 法曹資格を有する(予定w)
    →弁護士登録している組織内弁護士の方だけでも1,000人を超えていることを考えれば、登録を控えている方を含めて1,500人ぐらいか。

  • 論文が学会誌に掲載されたことがある
    →ちょっとハードルは上がるが、法務パーソンには少なくない。1,000人ぐらいはいそう。

  • 法務ブログをやっている
    →匿名の方を含めれば300人ぐらいか。

  • 企業法務に関する書籍を出版したことがある
    →ここまでくるとかなり絞られる。現役の方で150人ぐらい?じゃあここはもう少し伸ばそうかということで、今またほそぼそと合間を見つけては本を書いています。

こうして整理してみると、差別化要素の中でのポイントは、法務が求められるビジネス領域に先んじて自分の軸足を置き、その領域での経験・実績を積めているか、という点にあるんじゃないかという思いを強くします。資格をとることは、職を得るための入り口に立つ・ツブシを利かせるためには必要ですが、これだけ人数が増えてくるとそれだけでは差別化要素とまではなりません。また専門領域に関する論文・ブログ・書籍を書くことは、もちろん実績の一つとしてプラスになるとは思いますが、そもそも自分がテーマとしているビジネス領域がその時代においてメジャー過ぎたりニッチ過ぎたりすれば、そのアウトプットも世の中から求められないものになってしまいます。過当競争にならず世の中からは必要とされるといういい感じのビジネス領域はどこか?その狙いが当たれば差別化効果も大きいですが、逆にヨミが外れたときはツブシも効かなくなる。法務パーソンに限らず、これまで以上にその選択が重要になってくるんじゃないでしょうか。


さて、ここまでを小括すると、競争はしたくない → でもサバイバルのために何らか差別化は図らなきゃならない → ビジネス領域の選択が重要になる、ということなわけですが、じゃあどのビジネス領域が次に来るのか?が問題となります。それが分かったら苦労しないよって話ですよねぇと思っていると、丁度これを書いている最中に、シンクロするようなこんな記事に出会いました。

川上量生氏「競争したくないから、誰にもわからないことをやる」 WBSで大江アナに成功哲学を語る
川上:いや、無いですね。というか、別に人を食った発言をしているわけじゃなくて、KADOKAWAとドワンゴが何をするかって、みんな疑問に思ってるじゃないですか。みんな疑問に思ってるというのは、やっぱり何をするんだろうっていうのが分からないんだと思うんですね。

で、僕だってわかんないですよ。だから、それは正しいと思いますね。

大江:ただ、経営統合はしてしまおう、という……。

川上:面白いことは出来ると思いますね。思ってるんだけど、それって実際にやってみないとわからないじゃないですか。

大江:そうですね。分かるようなことはもう誰かがやっているだろう、ということなんですか?

川上:そうです、そうです。分かるようなことだったら、多分うまくいかないですよ。わかんないことだから多分うまくいくんだと思ってるんですよね。それは本当に思っています。
大江:ただ、統合したあとにこういうことします、っていうことが明確にないと、競合の方もどう戦っていいかわからないですよね。

川上:そうだと思いますね。

大江:それも、戦略のひとつですか?

川上:ひとつと言えば、ひとつですよね。やっぱりわかんないと競争しようがないですから。競争って僕、一番やっちゃいけないことだと思ってるんですよ(笑)。

大江:なるべく競争は避けて?

川上:はい。競争は無いほうがいいです。

川上さんらしい飄々とした、茶化したようなコメントではあるものの、競争にならないようにするために、これでいいのか自分でもわからないことを、他社・他人からもわからないようにすすめるということ、これが一番かもしれません。確信は持てないまでも、人知れずヤマを張って試行を繰り返してみるしかない。

このブログも今後は川上流に倣って、自分が何を考えているかバレないようにしていきたいと思います。だったら、何も書かないのが一番かもしれませんねー。
 

遅まきながら、要件事実

 
師事する先生が、講義の中で「これを読めば、今学んでいる要件事実論を企業法務の実務でどう使うのかがわかる」とすすめていらっしゃったのがこの本なのですが、





実はこちら、数か月前にレクシスネクシスさんからご恵贈いただき(ありがとうございます)、一読したものの、ちょっと暑苦しさを感じる文体に途中でギブアップした本でした(申し訳ありません)。先生がおっしゃるなら・・・と要件事実のところだけ読みなおしてみたところ、たしかに分かりやすい。

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法律事務所に法的紛争が持ち込まれた場合には、まずは交渉によって解決できる可能性を探ります。その際に、私たち弁護士が行うことは、事実関係を精査して、証拠の有無を分析し、裁判になった場合に勝訴できるかどうかを予測します。勝訴できる可能性が高ければ強硬に交渉を進められますが、勝訴できる可能性が低ければより有利な妥協の道を探るか、側面攻撃によりゲリラ戦に持ち込むくらいしかありません。
企業法務で徹底して追求すべきは、裁判に勝つことです。そして、裁判に勝つためには、裁判所が用いるルール・判断基準を知っておくことが不可欠です。
裁判官には裁判官の判断構造があります。それが「要件事実論」です。
あらかじめ法律を分析して法律要件というものに細分化して、原告が、この法律要件に該当する事実を主張し、それを裏付ける証拠が認定されれば、一定の法律効果が出てくるようになっているのです。
そして、この法律要件は、原則として「また(or)」ではなく「かつ(and)」で括られています。したがって、全ての法律要件を充足しなければそれに対応する法律効果は発生しません。
裁判では、単純に、この法律要件を充足しているかどうかというポイントが判断されます。裁判官としては、いかに記録が膨大なものであったとしても、そのポイントの主張・立証が1つでも欠けているとなと判断されれば、いかにその裁判が悲惨な被害を受けたものであったとしても、いかに裁判の準備が大変であったとしても、請求を認めてくれないのです。
このポイント、すなわち一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実のことを、訴訟実務では「要件事実」と呼びます。

取引先やお客様と取引をはじめる際、契約書を締結する際、そして紛争が発生しそうな状況に陥った際、その場面場面において必要な法律要件を漏らさず満たすよう、立証すべき損害が立証できるよう、そして相手方の抗弁に対し再抗弁できるよう、現場を動かしサポートする。こういう意識が働いてくると、『要件事実マニュアル』が欠かせない存在になってきます。これまでは、「引用文献が豊富なリファレンスツール」ぐらいにしか思っていなかったのですが、遅まきながらその有用性が漸く理解できるようになり、業務用として会社でも購入。


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たとえば、契約検討や紛争の場面で避けて通ることのできない「瑕疵担保責任」について、同書の整理を抜き書きさせていただくと、こんな感じ。

 ■売買契約の瑕疵担保責任■請負契約の瑕疵担保責任
請求原因の要件事実(特定物の場合)
要件1 特定物を目的とする売買契約の成立
要件2 1の目的に隠れた(通常人の普通の注意で発見できない)瑕疵があったこと
要件3 損害の発生及び額
(不特定物の場合)
要件1 不特定物を目的とする売買契約の成立
要件2 1の目的が特定されたとき、その目的に隠れた(通常人の普通の注意で発見できない)瑕疵があったこと
要件3 2で特定された物を買主が売主から受領したこと
要件4 買主が3の受領後、2の瑕疵を認識した上、これを履行として認容したこと
要件5 損害の発生及び額
要件1 請負契約の成立
要件2 1の仕事の完成
要件3 1の仕事の目的物に瑕疵があること
要件4 損害の発生及び額
損害の額a 契約締結のために要した費用―公正証書手数料ほか
b 転売利益等の履行利益―信頼利益に限定され認められない
c 瑕疵があることによる減価―解除をしない場合のみ
d 補修費用―争いあり
e 拡大損害―別途債務不履行損害とする場合多し
f その他―慰謝料・弁護士費用は認める例あり
a 原則―補修費用額が損害額
b 例外1―建て替えるしかない場合はその費用
c 例外2―修補に著しい費用を要する場合は完全な目的物と瑕疵ある目的物の差額
d 例外3―修補不能な場合は完全な目的物と瑕疵ある目的物の差額
e 付随的損害―鑑定・調査・引っ越し・逸失賃料・休業損害・相当因果関係の範囲内の拡大損害・慰謝料・弁護士費用(認容額の10%)
抗弁ア 除斥期間―事実を知った時から1年
イ 消滅時効―引渡日より商事5年
ウ 担保責任を負わない特約
エ 検査通知義務違反―商人間売買は遅滞なく検査し通知/直ちに発見できない(≠隠れた)瑕疵については6カ月以内に通知
ア 注文者の供した材料又は指図
イ 除斥期間―土地工作物以外の場合 引渡し(仕事の終了)より1年
ウ 担保責任を負わない特約
エ 請負報酬債務との同時履行又は相殺
オ 過失相殺
カ 修補請求をすべきであること
キ 仲裁契約
ク 黙示の承認


たくさんの情報を頭の中でもれなく整理するということが得意でない私にとっては、こんな基礎知識部分の整理であっても新たな発見があります。このブログでも何度か話題にした瑕疵担保期間における民法637条vs商法526条問題も、前者を瑕疵担保責任の除斥期間、後者を商人間売買契約特有の検査通知義務として整理することで、準用されないことがすっきりと理解できますし、民法570条の「隠れた瑕疵」と商法526条2項の「直ちに発見できない瑕疵」は違うものだということも、こうして構造化することではっきり認識ができます。条文と判例を立体的に捉えることによって、曖昧な知識と理解が矯正されていく感覚といったらいいでしょうか。

こうして、勉強不足を痛感する日々はまだまだ続きます。
 

【本】キャリアアップのための知財実務のセオリー ― 特許業務から逃げない法務になれる本

 
「知財」の中でも、やれてるつもりになれてしまう著作権や商標権と違い、素人の独学ではまったく対処できないのが特許業務。これに少しでも携わっている方にとって、文句なしの良書です。ご恵贈くださいましたレクシスネクシスのO様に感謝。




 
著者の岩永利彦先生は、東工大大学院にて物理学専攻、ソニーに入社されエンジニア→知財を担当された後、弁護士・弁理士としてご活躍されている方。ブログ「理系弁護士の何でもノート」でも、積極的な情報発信をされています。

業務の概要や戦略・組織・人員の重要性が語られる第1部の「知財部門担当者の心構え」や、特許庁からの拒絶理由通知の対応、他者による自社特許権侵害/自社による他者特許権侵害の対応等を実戦的に解説する第3部の「知財案件のセオリー」も参考になります。しかし、私にとって一番ありがたかったのは、第2部の「知財業務遂行スキル」のパート。法的文書としての特許クレームの書き方を具体例で示しながら、そこで必要となる特許法の知識、スキルとしての特許調査の方法、さらにクレームチャートの書き方を教えてくれるところです。

このパートで公開されているノウハウは、これまで刊行された書籍等文字になったものはなかったように思います(もしかしたら、弁理士向けの実務セミナー等では語られているのかもしれませんが)。特に、特許法第29条2項の「進歩性」とは何か・「新規性」と何が違うのかについては、我が家に10冊ほどある特許法の基本書のどれを読んでも解せなかったところ。ようやく自分自身の感覚にマッチした解説に出会えた気がします。


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新規性が先行技術との同一性の問題であるのに対し、進歩性とは、先行技術との発明の幅の問題といえる。
進歩性には作用効果や商業的成功などに結びつきやすい、技術的な結果が必須であるとされる。まさに技術的な進歩が必要であると考えることになる。進歩性という呼び名も、この考え方に基づいているわけである。
他方、特許法29条2項には、「進歩」という言葉が存在しない。このため、技術的な進歩は不要とする考え方もある。条文の文言上での進歩性は、当業者が容易に発明をすることができたかだけを判断するからである。そのため、この考え方は、価値中立性や多様性を重視することになる。
私は後の考え方を支持している。
要するに、創作(発明)のバリエーションの幅を広くしたものこそ進歩性ありと考えるわけである。他方、既に存在する発明をほんの少し変えただけの発明に特許を付与しても産業の発達には寄与しないと考えるわけである。
したがって、一見退歩したような発明であっても、先行技術から狭い幅しか持っていない発明であれば、進歩性はないことになるだろう。
ある技術の分野に多様性(バリエーション)をもたらす発明こそ、イノベーションの元であって、それこそが究極的に産業の発達をもたらすものである。


IPDLを使った特許調査をするにあたっての具体的な流れやコツといった、スキル部分のレクチャーも充実してます。

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私が特許業務に本格的に携わるようになったのは転職してからのここ数年のこと。そんな私がこの本の真価を理解できているか自信がないのですが、特許事務所から移籍してくれたインハウス弁理士のメンバーから都度都度教えてもらうたびに「そうか」「なるほど」と亀のようなゆったりとしたペースで学んでいたこと、そうして丁寧に教えてもらってもテクニカルタームの難解さから理解が追いつけていなかったこと、それらのいずれもがこの本で見事に体系化され端的に説明されていました。特許業務に関して抱いていたもやもやが、読了後は跡形もなくなったと言っても言い過ぎではないと思います。

その特殊性や難しさから真剣に向き合ってこなかった特許という領域から逃げられなくなり正直困り果てながら、メンバーや外部弁理士の方々の助けを借りて、組織の力でなんとか回してきた特許業務。所属組織のためだけでなく、自分自身が法務パーソンとしてもう一皮剥けて成長するためにも、逃げずにこれに立ち向かってみようという勇気と方法論を授けてくれる一冊です。
 
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