企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

【本】“MORGAN & BURDEN ON IT CONTRACTS”― 貴重な英国法準拠の英文IT契約ひな形集を発見

 
英文IT契約に特化した条項解説&ひな形集を発見しました。すでに第9版とかなり実績はあるはずなのに、評判を聞いたことがなかった洋書。見つけたときは思わず小躍りしてしまいました。


Morgan and Burden on it Contracts
Richard Morgan
Sweet & Maxwell
2013-12-13



前半約360ページが17の契約類型ごとのポイント&実務解説で、

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後半約480ページがその17類型をさらに全38種に分解した契約ひな形集となっています。

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通読して契約書の作成方法を勉強するための本というよりは、契約書作成の実務経験のある方が必要な箇所を参照して活用する、辞書的な本です。


「日本語の契約ひな形集だって山ほど出ているんだから、英文契約書のひな形集なんて、世界中の書店を探せばたくさんあるんでしょ?」と思いきや、探してみるとこれが使い勝手のいいものがありません。あまりにざっくりと汎用的過ぎるために時間をかけてアレンジをする必要があったり、内容的にイマドキじゃない古めかしさが漂っていたり・・・。みなさんどうしてるんですか?と、海外法務を担当されている方にヒアリングしてみると、ほとんどの方が社内(所内)の過去のレビュー実績を参照したり、EDGARにファイリングされている契約書をonecle等の無料サイトで検索して参考にしているとのこと。そのときの事案の背景やリスク等を正しく推測してアレンジするだけの英文契約の経験値やドラフティング能力がある方には、これで事足りるのかもしれませんが、英米法の教育を受けたことがない私のような者には、ちょっと危険すぎる気がして、いつも躊躇がありました。

その点、この本はアレンジすべきポイントが明示されたひな形に条項解説も付いていますので、アレンジをするにも安心感があります。しかも、ITコンサルタントのRichard Morgan氏とDLA PiperでIT分野を専門とするパートナー弁護士Kit Burden氏による共著ということもあって、ウェブ/アジャイル/クラウド/オープンソースソフトウェアといったITのトレンドがしっかり踏まえられています。参考までに、収録されているひな形全38種を(ちょっと長いですが出版社サイトにも掲載されていなかったので)以下リストしておきます。これらのひな形は本書に付属するCD-ROMで.docファイルが提供されます。
※WINDOWS対応の自己解凍型ファイルとなっていて、OS X上では解凍できませんでした。

A. HARDWARE SALE AND INSTALLATION AGREEMENT
B. RENTAL AGREEMENT WITH MAINTENANCE
C. HARDWARE MAINTENANCE AGREEMENT
D. COMMISSIONED SOFTWARE AGREEMENT
E. FRAMEWORK AGREEMENT FOR PROGRAMMING SERVICES
F. AGILE SOFTWARE DEVELOPMENT AGREEMENT
G. BETA TEST AGREEMENT
H. NON-DISCLOSURE AGREEMENT
I. UNSOLICITED DISCLOSURE AGREEMENT
J. CONTRACT OF EMPLOYMENT - GENERAL CLAUSES
K. CONTRACT OF EMPLOYMENT - HOME DEVICE FOR STAFF (BYOD)
L. SOURCE CODE DEPOSIT AGREEMENT
M. SOFTWARE LICENCE AGREEMENT
N. GNU GENERAL PUBLIC LICENSE
O. SHRINK-WRAP_CLICK-WRAP LICENCE
P. SOFTWARE MAINTENANCE AGREEMENT - COMMISSIONED
Q. SOFTWARE MAINTENANCE AGREEMENT - LICENSED
R. TURNKEY SYSTEMS INTEGRATION AGREEMENT
S. MULTIPLE COPY SOFTWARE LICENCE AGREEMENT
T. SOFTWARE MARKETING AGREEMENT
U. EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT
V. SOFTWARE DISTRIBUTION AGREEMENT
W. CONSULTANCY AGREEMENT
X. OUTSOURCE AGREEMENT
Y. CLOUD COMPUTING OR OTHER ONLINE SERVICE AGREEMENT
Z. GENERAL OFFLINE PROCESSING SERVICE
AA. NETWORK SERVICE LEVEL AGREEMENT
AB. WEBSITE HOSTING COMMERCIAL ISP AGREEMENT
AC. INTERNET SERVICE PROVIDER AGREEMENT (CONSUMER) LICENCE AGREEMENT
AD. AGREEMENT FOR ACCESSING A SPECIFIC WEBSITE (BUSINESS)
AE. AGREEMENT FOR ACCESSING A SPECIFIC WEBSITE (CONSUMER) TERMS AND CONDITIONS
AF. WEB DESIGN AGREEMENT
AG. DATA SHARING AGREEMENT
AH. SOCIAL NETWORKING WEBSITE CONDITIONS
AI. SOCIAL NETWORKING WEBSITE CONDITIONS (IN A BUSINESS CONTEXT)
AJ. INTERNET WIKI CONTRIBUTOR CONDITIONS
AK. TECHNOLOGY TRANSFER_ASSIGNMENT AGREEMENT
AL. REQUEST FOR PROPOSAL


さらに、もう一つの特色が、本書ひな形および解説が英国法を準拠法としている点。例えば、12.3.2 Personal dataの項で、Data Protection ActやInformation Commissionerによる規制と契約上行うべき手当について述べられている点などは、EU圏で締結するIT業務委託契約書において規定すべき水準をうかがい知ることができ、貴重と思います。


ところで、この本を見つけたのはどこかというと、丸善丸の内本店の4F 洋書コーナー。

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開店してしばらくの間法律書はほとんど置いて無かったのですが、気づかないうちに充実させてくれてたんですね。私の知る限り、海外の大型書店でもここまで法律書の実物を並べてくれているところはそうそう無いと思います。

プラットフォーマーはアプリデベロッパーにとっての“神”か

 
技術面(OS)と営業面(アプリストア)の両面からスマートフォンアプリ市場を支配するプラットフォーマーは、アプリデベロッパーにとってはまるで“神”のような存在であり、その神を怒らせるとこうなる、というギリシャ神話のようなお話。

【悲報】モンストがAppleからリジェクトされ消滅、ミクシィに大痛手か(IT速報)
19時現在、モンスターストライク(モンスト)がAPP Storeからリジェクトされ、新規インストールや課金が不可能な状態に陥っています。

常にセールス1位or2位の大人気ゲームの異常事態に、ユーザーはもちろん、ソシャゲ界隈やmixi株界隈など、様々な方面から驚きの声が

なお、同タイミングで「シリアルコードの入力フォーム」の停止を発表しており、これが起因した可能性も。

実際にiOSからモンストにアクセスしてみると、アプリマーケットおよびランキングから消されてDLできなくなっているだけでなく、私のようにアプリをすでにDLしてあるユーザーであっても、課金サービスが一切利用できなくなっている状態。月商から逆算して1日数億円は売り上げていると言われるアプリだけに、ミクシィ社にとっての機会ロスの大きさは計り知れないものがあります。

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こんなことになってしまった理由について、こちらの記事では、同社が実施していたシリアルコード入力による特別アイテム付与キャンペーンが、プラットフォーマーの定めるガイドラインに抵触しているからでは?との見解が紹介されています。

モンスターストライク、App Storeから消える。原因はシリアルコードか(Yahoo!ニュース)
発表内容に「Apple社からの要請」とあるとおり、おそらくは「シリアルコードの利用」を問題にAppleからアプリをリジェクト(却下)されたのだと考えられます。

モンストは8月13日にシリアルコードの入力場所をアプリから公式サイトへと変更していましたが、Appleからは許されなかったようです。

2015.08.13 ※重要※ iOS版の「シリアルコード」入力場所の変更について/公式サイトから「シリアルコード」が入力可能に | モンスターストライク(モンスト)公式サイト

では、なぜシリアルコードがあるとアプリがリジェクトされてしまうのでしょうか?

じつは、App Storeの利用規約には「アプリ内のコンテンツ、機能、サービスを購入するときに外部のシステムを利用してはいけない」と記されており、シリアルコードはその規約に違反しているのです。

アプリ内でシリアルコードを入力したユーザーにゲーム内の特典を付与すること自体、(そのシリアルコードの入手が取引付随性を伴う/景品上限額を超える等景品表示法等の規制に抵触していなければ)違法ではありません。しかしながら、プラットフォーマーのビジネスモデルは、アプリ内課金(販売)の都度30%の手数料をデベロッパーから徴収することで成立しています。シリアルコードを入力することでアプリ内でユーザーにアイテム付与させる仕組みを認めてしまうと、ユーザーが当該シリアルコードを入手する過程でデベロッパーが課金要素を設けるなどすれば、このプラットフォーマーの手数料ビジネスの抜け道となり得てしまいます。またそういった課金要素の抜け穴として用いなかったとしても、ゲームを有利に進められるシリアルコードを配布するキャンペーンを実施するなどにより、DLを加速させアプリの人気ランキングをコントロールすることも可能となります。このような理由から、プラットフォーマーはアプリデベロッパーがユーザーにシリアルコードを入力させる行為を厳に禁じています。法律的には違法でないことも、まるで違法なことのようにルールメイキングし制裁することができてしまう、それがスマートフォンアプリ市場におけるプラットフォーマーなのです。

今回の制裁がこのシリアルコードの入力キャンペーンのみを問題視したものかは不明ですが、シリアルコード問題を理由とするアプリの「リジェクト」と呼ばれる制裁は、今年2月に『バーコードフットボーラー』にも下されており、今に始まった話ではありません。なお、同アプリはプラットフォーマーからバーコードというタイトル自体が問題視され、事実上の強制改名を余儀なくされて、現在は『BFB2015 サッカー育成ゲーム』にアプリタイトルが変更されています。

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こういうことが既に実績としてあったとはいえ、さすがに売上トップランクのアプリが本当に「刺される」とは、運営会社のミクシィ社も予想していなかったのでしょう。予想しなかったと言えば、今年4月、デベロッパーの意思とは関係なく突然日本のAppStoreの最低販売単価を100円→120円に値上げし、お祭り騒ぎになったのも記憶に新しいところです。今回の事件で、販売価格決定権のみならず、デベロッパーの生殺与奪権さえもプラットフォーマーが握っていること、業界最大手のデベロッパーであってもその力には抗えないということが、改めて認識されることとなりました。

シリアルコード問題に限らず、プラットフォーマーによるアプリデベロッパーへの規制は強化される傾向にあります。今回はAppleのAppstoreでの出来事でしたが、GooglePlayも昨年9月のデベロッパー規約変更の内容今年5月からアプリの事前審査を強化しはじめたところを見るに、いずれGoogleも同様のスタンスとなることが予想されます。弊ブログでも、「現代消費者法」に森亮二先生がお書きになったプラットフォーマーの消費者に対する責任とアプリデベロッパーに対する優越的地位の濫用についての論稿をご紹介したことがありましたが、いよいよ、あのときの森先生の懸念が現実味を帯びてきたように思われてなりません。
 

【本】『契約の法務』― 契約書審査担当者のための契約法&判例まとめノート

 
無垢でストレートなタイトル、そして300ページ弱の薄さからは想像できない、とても野心的な書籍。




 
契約書審査担当者向けの、契約実務の指南書になります。このジャンルは、河村先生の本原先生の本をはじめとして数多く出版されていますが、本書の特色は、実務書でありながらそのベースとなる基礎的な法令、判例および法学とのひも付けを徹底し、法務パーソンの経験則で片付けてしまいがちな部分を限りなく排除している点です。

特に、「契約の理論」と題する第一章は、さしずめクラスのとびきり頭のいい優等生が作ってくれた“まとめノート”を覗き見ているかのよう。
  • まず、考え方の根拠となる条文(民・商・消費者契約法等)が丁寧に参照され、
  • 次に、判例およびその調査官解説が紹介され、
  • 補強の必要があれば、定評ある基本書(我妻『民法講義』/平井『債権各論』/内田『民法』/司法研修所『民事訴訟における要件事実』etc)を引用し、
  • さらに、(ここが驚きでしたが)世界各国の法令・判例から契約法の一般原則を抽出して作られた「ユニドロワ原則」の条項とも対比し、
  • 民法改正中間試案や要綱案の議論の過程も交えて、
契約実務のセオリーを立体的に学ぶことができます。条文は引いても判例を見るクセが徹底できていなかったり、中間試案の議論の過程をあえてスルーしてしまう私のような不届き者のためにあるような本です。

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先輩のみようみまねで契約書審査のセオリー「らしきもの」を学び、そのベースとなるべき基礎的な法学の勉強が足りないことは自覚しているが、その勉強の仕方がわからずやみくもに基本書や概説書を読み漁って混乱している、という若手契約書審査担当者にとってのよきガイドとなってくれるでしょう。

特に、著者が判例を重要視されていることは、読んですぐに伝わってきます。網掛けテキストボックスで見やすくされたスペースの許す範囲で、なるべく判例の原文を忠実に引用してくださっています。引かれている判例はほぼ例外なく企業法務(ビジネス)事案というところが、企業法務パーソンとしてはうれしいところです。

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このこだわりはどこから生まれているのかといえば、著者の喜多村勝先生が元裁判官の企業法務弁護士でいらっしゃるというところにありそうです。喜多村先生は、弊ブログでも過去におすすめしている『企業法務判例クイックサーチ300』を書かれた方。判例を読もうとしない企業法務担当者を見かねて、「もっとちゃんと勉強しなさい!」とおっしゃりたいんでしょうね。
 
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