企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

キャリアチェンジの2015年


2015年が終了します。今年も私にかかわってくださったみなさまに、御礼申し上げます。

無事に仕事を納めることができ、今年の日本を代表するゲームである『Splatoon (スプラトゥーン) 』を夜中まで思う存分やっていたところ、あまりに白熱して力み過ぎてしまい腱鞘炎になりこの文章をキーボードを打つ手が痛いという、とても年末らしい年末を迎えることができています。



さて、今年は法務パーソンを長いこと続けてきた私にとって、大きな変化がありました。新しい働き方を模索する中でキャリアチェンジをするなら今かなと年初に思い立ち、新たにインハウスの方をお招きし、それまで私がプレイングマネージャーとして抱え込んでいた法務業務の大部分を手放しました。私個人としては実務にもっと携わり法務パーソンとしての専門性を追求したいという欲求もありましたが、会社からそれは望まれていなかったように感じましたし、年齢的にもこのタイミングでバトンをパスすべきと考えたためです。

手放した分、私は新しい分野の仕事で成果を上げなければならないのですが、曲がりなりにも10年超積み上げてしまったおっさんのキャリアがそう簡単にチェンジできるはずもなく、いまもなお暗中模索です。夏に大きな失敗がいくつか続き、そのショックを引きずって集中を欠いた秋にはネガティブなイベントが連続して発生しました。このブログの年末の振り返り投稿を数年分読み返してみると、私は毎年秋が鬼門のようです。


苦しいこともあれば良いことも。10月に3冊目の共著書となる『アプリ法務ハンドブック』を4人の共著者のみなさんと上梓することができました。企画から出版まで2年超と産みの苦しみが大きかった分、記述に込めた意図やその真意をきちんと読み取ってくださる読者の方から「攻めの姿勢がよい」「アプリ提供事業者にとって必携」「この本に助けられた」という声をいただけたのは、大変にうれしいことです。

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さて2016年。「ビジネス法務ネタ以外のノイズをのせない」が弊ブログのポリシーでして、私の仕事が法務以外の分野にシフトをすればするほど、このブログでの発信量も減っていくことになりそうです。実際にそうなれば、それは私が企業法務一本槍のキャリアから脱皮できていることの証明とも言えます。逆に、企業法務の未練を捨てきれずやはりここに軸足を置きたいという思いが強くなれば、むしろ発信量が増えていくかもしれません。

そのどちらにせよ、引き続き暖かく見守っていただければ幸いです。
 

【本】『情報法概説』― ネットビジネスのプラットフォーマー問題が爆発する日は近い

 
昨日に続きまして、法律書マンダラ2016の情報法部門より、弊ブログでは未紹介だった12月の新刊をご案内します。


情報法概説
曽我部 真裕
弘文堂
2015-12-22



インターネット法』よりももう少し幅広く、かつさらに法学的な切り口で、情報全般に関する法律と基本概念を体系的に整理する本書。中でも特に集中的に論じられているのが、媒介者=プラットフォーム事業者が負うべき法的責任についてです。

私有地においてビラを配布したことが住居等侵入罪(刑法130条)等の法令違反に問われた事案は著名なものだけでも相当数存在するが、そこでは、実際には土地所有者・管理者の権利と表現の自由との調整が問題となっており、多くの場合、私有地内での行為だけに、いわゆるパブリックフォーラムの法理の適用も困難であり、後者に不利に解決されてきた。
このように、私人の管理する場における表現の自由という主題は新しいものではないが、インターネットにおいては私人の管理する場で行われる表現の量や種類が圧倒的に増大しており、それだけに問題は深刻となる。そこで、情報法においては、公権力、プラットフォーム等の情報媒介者、一般利用者という三面構造を前提とする必要がある。(P33)
アプリストアにおいては、OSの開発者たるプラットフォーム事業者が特定の決済手段の利用をアプリ提供者に強制し、他の決済手段の利用を認めていないことがある。これは決済に関する情報(顧客情報、販売金額等)を集中的に取得し、プラットフォーム事業者としての地位を強化するという事業者の戦略と考えられるが、このような行為は独占禁止法上、不公正な取引方法等に該当する場合がある。(P81)
近時、プラットフォーム事業者の利益水準の相対的な高さに注目が集まっており、一部のコンテンツ事業者はこれを不満に感じている。プラットフォーム事業者の利益水準が高いこと自体は、それがプラットフォームのイノベーションにつながるという側面もあり、責められるべきものではない。ただ、プラットフォームに関わる事業者全体の余剰や、消費者余剰を考えた場合には、利潤の適性な配分については検討の余地がある。そこで、コンテンツの多様性、プラットフォームの効率性(イノベーションの促進)等、プラットフォームに関わる社会厚生についてどのように評価すべきかが課題となる(P81脚注)

このような、プラットフォーム事業者の市場独占によって発生する弊害についての言及が随所になされている点が、一番の読みどころとなっています。

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ITビジネスに携わる中で、プラットフォーム事業者が有する圧倒的な優位性に脅威を感じることや、取引の媒介者として本来負担すべき法的リスクの一切を他者に転嫁しようとする態度について憤りを感じる機会は増える一方です。この一年は、その問題意識について関係者にご理解いただくための活動を、私なりの方法でさまざまやってきました。しかし、官公庁にはそういったプラットフォーム事業者と利害が一致する部門があり、この問題で困っている当事者に対し理解を示そうとしない・見てみぬふりをする向きも少なからずあるようです。

そんな中、海外ではライドシェアリングサービスについてタクシー事業者との衝突が、そして日本では民泊あっせんサービスと近隣住人との衝突が取り沙汰されはじめています。2016年も同様の問題が次々と顕在化し、これまでのような対応では済まされなくなるのではないでしょうか。

来年以降は、違ったアプローチでこの問題に取り組んでいきたいと思っていたところ、その法的理論武装の助けとなる頼もしい文献がこうして出版されたのは喜ばしいことです。
 

【本】『インターネット法』― ネット上での活動の自由と規律とのバランスの取り方


インターネット上で行われる表現・コミュニケーション/電子商取引/知財/紛争解決合意に関する法律の今を、研究者の視点から整理し、将来を展望する本。実務家の間で定評のあった高橋編『インターネットと法』の正統な後継書と言ってよいでしょう。法律書マンダラ2016推薦図書です。





インターネットに関わる法律のほぼすべてを概説するこの本が特に力点を置いているのは、ネット上での活動の自由と規律とのバランスの取り方についてです。私がクリエイティブ方面に強い新進気鋭の先生方とインターネット法に関する私的勉強会を持たせてもらっている中でもちょうど話題になっているテーマですし、ネットビジネスの事業者にとっても、これからますます問題が顕在化し実務上も対処に苦慮することになるであろう論点でしょう。

この点、代表編者である松井先生の総論としては、

やはり原則はインターネットのうえでの自主的な規制に委ねつつ、現行の法律を個別的にインターネットに適用し、その適用に際して、インターネットの特性に応じて修正してゆくほうが望ましいように思われる。

ということなのですが、だからといってなんでもフリーダムでOKというような乱暴な論稿にはなっておらず、まさにその“個別的な適用”について各分野の専門家が丁寧に論じています。

個人的には、山口いつ子先生による第2章「インターネットにおける表現の自由」、とくにその中の「インターネット法の新たなデザインに向けて」と題する図とこの全体像に基づく論稿のおかげで、1社目に就職した国家から管掌された放送・通信事業者で得た経験と、そして今いるプラットフォーマー(媒介者)に支配されるコンテンツ事業者での苦悩が、自分の中で一つのフローとしてつながった感覚をおぼえました。まだはっきりとした言葉にまではできておらずもやもやしているところなのですが、この章が自分なりのアイデアをまとめる大きなヒントになりそう。

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また、もう一つの読みどころとしては、第13章「国境を越えた紛争の解決」の章が挙げられます。ここでは、インターネット法の最重要論点ともいうべき準拠法と裁判管轄の問題について、Twitterの利用規約等を例に挙げながら他の類似書・論文よりもかなり具体的なあてはめ・解釈にチャレンジしています。その一例として、以下P337およびP342脚注より。

例えば、Twitterの利用規約では、「12.一般条件 B.準拠法および裁判管轄」として、「本サービスに関連する一切の請求、法的手続きまたは訴訟は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所においてのみ提起されるものとし、ユーザーはこれらの裁判所の管轄権に同意し、不便宜法廷地に関する一切の異議を放棄するものとします」とされているが、民事訴訟法上は、日本に居住する消費者との契約に関するこの合意は原則として有効とはならない。しかし、このことは、Twitter社がカリフォルニア州で日本居住の消費者を訴えることを妨げるものではない。手続法は法廷地法によるのが原則であり、カリフォルニア州では日本の民事訴訟法を全く考慮しないで裁判管轄を判断するからである。ただし、日本の管轄規定上許されない管轄原因に基づき下された判決として、後述する外国判決の承認・執行時に問題となる可能性は高い。
消費者契約にかかる管轄合意は原則無効であるのに対して、準拠法合意は原則有効である。したがって、上述した、Twitterの利用規約「12.一般条件 B.準拠法および裁判管轄」中で、「本規約およびそれに関連して行われる法的行為は、米国カリフォルニア州の法に準拠するものとします」という部分は原則有効となる。

この章だけをとっても、ネットビジネスに携わる方にとっては必携の本と言って良いと思います。

それにしても、今年見た法律書の中でも本書は装丁がダントツにカッコいいですね。奥付を拝見すると田中あゆみさんという方が担当なのでしょうか。装丁がいい本は良書という法則は、どうやらこの本にも当てはまるようです。
 
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