企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

【本】『ユーザを成功に導くシステム開発契約〔第2版〕』― スルガ銀行事件やファーストサーバ事件を受けてもビクともしないモデル契約に改めて学ぶ


日比谷パーク法律事務所 西本強先生の御著書の第2版が出版されました。ユーザの立場からベンダと契約交渉する法務パーソンにとって本書は定番書であり、2011年の初版を蔵書している方も多いはず。要更新です。





全体のボリュームは初版から約50ページ増えて380ページに。表紙の色の変化とあいまって、手に取ると初版とは別の本のようです。ページ数を増やした主な要因は、民法改正法案(2016年3月時点)がシステム開発契約に与える影響についての解説が加えられたことによるもの。章を分けて総括的に注意点を述べることはせず、モデル契約書の逐条解説パートで個別具体的に当てはめて影響を解説してくださっています。これにより、法改正となった場合の影響を一般論として語られても実感が湧かないという方に応えるものとなっています。例えば、瑕疵担保責任の条項に加えられた改正の影響解説は、こんな感じ。

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初版が発売された当時、本書のモデル契約に倣って自社のシステム開発契約ひな形を整備された方も少なくないのではと思いますが、モデル契約自体の修正は最小限に留められていましたので、ご安心ください。参考までに、私がチェックして発見した限りでの初版のモデル契約との差異を以下にリストアップしておきます。
  • 第2条(定義)
    IPA共通フレーム2013の更新に伴う改訂
  • 第5条(委託料及びその支払方法)
    個別契約の総額に上限を付し、上限を越えた場合には「合理的な根拠」を示すこととしているが、その合理的な根拠の説明として「(増加した委託料によりシステムが完成できることを示す根拠を含むが、これに限らない。)」を追加
  • 第9条(乙のプロジェクトマネジメント義務)
    ベンダの義務として「各工程において得られた情報を集約及び分析して、ベンダとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築をすすめ」を明記
  • 第37条(変更の協議不調に伴う契約終了)
    契約上の手続きに沿ってシステム仕様変更等の協議を行ったが、これが整わずにユーザが個別契約の続行を中止する場合には、「個別業務の未了部分について個別契約を解約することができるものとする。」を明記
  • 後文
    初版では甲乙“署名”押印の上とあったのを“記名”押印に修正
※第47条(FOSSの利用)で、「当該FOSS利用のメリット及びデメリット(第三者ソフトウェア利用のリスクを含む。)」と改訂が加えられていたのですが、おそらくこれは初版の「(FOSS利用のリスクを含む)」のままで問題なかったのではと思われます。


あわせて、索引の差分も確認してみました。新たに追加されたキーワードは以下のとおりです。
  • アドオン
  • 委託代金の支払時期
  • 瑕疵修補責任
  • カスタマイズ
  • 議事録
  • 共通フレーム2013
  • サービスの一時的中断事由
  • 支払日
  • 重過失
  • スルガ銀行対日本IBM事件
  • 請求権競合
  • 中間資料
  • バックアップ取得
  • パッケージ型システム開発
  • プロジェクトマネジメント義務違反に基づく解除
  • 法条競合
  • 有効期間

この手のシステム開発契約に詳しい方がモデル契約や索引のアップデート部分を眺めれば、スルガ銀行事件やファーストサーバ事件が近年のシステム開発契約の実務に大きなインパクトを与えたことが、改めて認識できると思います。それでいて、初版から意味的な修正がほとんど入っていないのは、それだけもともとの解説内容やモデル契約書の完成度が高かったからに他なりません。
 

【本】『アンブッシュ・マーケティング規制法』― TOKYO2020問題に備えて

 
リオで開催されているオリンピックも、21日(日本時間明日8月22日)の閉会式をもって終了。4年後の2020年に我が国で開催予定の第32回大会に向け、抑えておきたいキーワード「アンブッシュ・マーケティング」が正確に理解できる本がでていましたので、ご紹介しておきます。





アンブッシュ(ambush)とは、「待ち伏せ」の意味。スポンサーの協賛によって世界規模で開催するイベント(オリンピックやFIFAワールドカップサッカーなど)に便乗し、そこで用いられる著名又は周知な商標の顧客誘引力を当該イベントの運営団体に許諾なく利用する表示・販売活動のことを、アンブッシュ・マーケティングといいます。

私も知らなかったのですが、オリンピック開催国(都市)として立候補するにあたっては、IOCに対しこのアンブッシュ・マーケティングを行わない・行わせないことを誓約する必要があり、すでに日本国政府としてこれを保証している状態だそうです。実際、過去開催国の中国が2001年に・英国が1995年と2006年に・ブラジルが2009年に、いずれもそのためだけのOlympic Actを特別立法しているとのこと。本書では、これら各国の立法状況と内容を分析し、日本においてそのような特別法を立法する必要の有無を検討します。

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その結論は、

我が国においては、商標法又は不正競争防止法により出所表示機能を果たす態様の使用の場合を除き、著名又は周知な商標の【原文ママ】使用した場合であっても、顧客誘引力を有する商品・役務その事業者と関連があるかのような表示、あるいはその事業者から承認、許諾、支援等を受けているかのように表示する行為について、不正競争防止法、景品表示法及び独占禁止法のいずれも行為規制の対象と考えることは困難であり、他国で制定されているアンブッシュ・マーケティング規制法の基礎となる法や法理は存在しない(P163)

ということで、政府保証をきちんと担保したいのなら立法が必要であると。しかし一方で、IOCが要求する押し付けともいえる内容をそのまま法文化すると過剰な規制となることは明白であり、そうならないよう、厳格な要件を付した適切な範囲での行為規制とすべきである、と主張します。


2020年の東京オリンピックのアンブッシュ・マーケティング規制については、この8月に入ってからもJOCが新たにガイドライン「大会ブランド保護基準(Ver3.1 2016 August)」を出しています。これを見ると、上述のとおり現時点の日本においては法的な根拠がないにもかかわらず、さもそれがあるかのように、「2020年という年号に引っ掛けてカウントダウンを行うような表現もアンブッシュである」とまで踏み込んでいます(P13)。権利を守りたい当事者側の発言とはいえそこまで言ってしまうセンスに疑問を感じざるを得ませんが、著者が懸念しているように、明らかに萎縮効果を狙ってのものでしょう。

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表現の自由を守る者として少なくとも中立的な立場であるはずの報道機関の記事なども、こういったIOCやJOCのガイドラインに盲目的に従うべしという偏った論調が妙に目立ち違和感を感じていたところですが、パートナー一覧(P04)をみて納得。読売・朝日・日経・毎日といった報道機関自身がスポンサーになってるんですね・・・どうりで(ry。

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著者のいう適切な立法がTOKYO2020に間に合うかどうかはかなり怪しいところだと思いますが、法務パーソンとしては、法律に基づいた冷静な判断に努めたいものです。
 

ポケモンGOを就業規則で禁止することは合法か

 
労働法的な視点で、とても気になるニュース。

「ポケモンGO」禁止−住友理工が全世界の拠点で、休憩中や出退勤時間も該当(日刊工業新聞)
住友理工はスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」が世界各地で社会現象となる中、スマホゲーム全般を就業中のほか、休憩中や出退勤時間も含めて全世界の拠点で禁止することを決めた。歩きながらスマホを使う「歩きスマホ」による事故防止が狙い。

厳しい人格教育を売りにしたような私立高校の校則に書くならいざしらず、厳しい選考を経て十分な判断能力の備わった大人が集まっているはずの組織において、「歩きスマホの危険性」という理由だけをもって「休憩中や出退勤時間も含めて」スマホ"ゲーム”を排除しようというのは、いかがなものかと思います。そもそも、アプリにおいてどこまでがゲームなのかという定義も境界があいまいです。たとえば、ゲーミフィケーションな英単語アプリで勉強しながら通勤されている方を見かけることはしばしばあります。また、チャット・メール・電子書籍・動画閲覧はOKという解釈なのだとしたら、企業として目指している目的も達成できない無意味な規則なのでは?と疑問です。


似たような、就業時間外の趣味嗜好を制約する就業規則の不当性が問題となるケースとして、たばこを吸う従業員の生産性の低さや不衛生さを問題視した企業が喫煙者を採用選考時から排除するというものがあります。弊ブログでも、喫煙権に対する不当な制約・嫌煙権の過剰保護であり違法であるという立場から記事にしたことがありました。今でも問題なのではないかと思っていますが、日本ではかなり有名なホテル経営者がこれを推し進めていることについて、法律的な争いになっている様子はありませんし、喫煙者自体が19.3%とかなり少数派となっている背景もあってか、反対意見もあまり聞かれません。しかし、ホテルにおける従業員の衛生維持に対する懸念といった具体的な悪影響が検討できない本件のようなケースについては、端的に言って就業規則としては不当と考えます。
 
きっと近いうちに違反者が現れることになると思いますが、その時企業として従業員にどこまでの制裁を加えるのか、興味津々です。
 
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