企業法務マンサバイバル

ビジネス法務に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きる皆様に貢献するブログ。

【本】『コーポレートガバナンス・コードの実践』― ソフト・ローの追い風と波にこの際だから乗ってみる

 
東証より、コーポレートガバナンス・コードの正式版および有価証券上場規程の改定がリリースされました。これにより、上場会社に対し、2015年6月1日以降最初に開催される定時株主総会終了後遅くとも6か月後までに、ガバナンスコードへの対応状況について開示や説明を行う(ガバナンス報告書を提出する)義務が課されます。

こちとら会社法改正対応や株主総会準備に追われる中で、コーポレートガバナンスなんか面倒みる余裕もないんでIRその他ご担当者さまよろしくお願いいたします・・・という声が聞こえてきますが、そんな上場企業の法務なみなさんのカンフル剤となりそうな本がこちら。





法的に強制力のあるハードローと普段戦っている法務の立場としては、それがないソフトローと言われると、その中途半端さにどう向き合っていいかわからず、苦手意識が先行してしまうところがあるんじゃないでしょうか。実際、ここ数年の「コンプライアンス」や「CSR」ブームに、法令を尊重しようという意味では“追い風”や“波”を感じながらも、どうもしっくりこない・両手を挙げて賛成できないという法務の方のつぶやきは、幾度となく耳にしてきました。今回のコーポレートガバナンスにも同じような危惧を抱いてしまうのも、無理からぬところです。

しかし本書を読むと、今回の“追い風”や“波”は、上手く乗りさえすれば法務パーソンが職域を拡大する大きなチャンスになるのでは?と思えてきます。たとえば、長期投資家と企業がガバナンス・コードをベースにどのように対話していくべきかについての、こんな一節から。

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武井 対話はどのぐらいの頻度で行うイメージでしょうか。四半期に1回必要なのか、そとも半年か1年に1回でも大丈夫なのかですが。
井口 決算数字関係はIRのご担当の方とお話し、経営者の方とお話するのは、四半期の数字の確認などではなく、大きな話ですので、年に1回ないし2回ぐらいかなと思います。ただ、大きな方針の変更や突発的な事象があった場合は、不定期となります。
武井 ちなみにIRの担当では分からないESG項目もありますか。
井口 IRの会社での位置づけにもよると思いますので、一概には言えません。ただ、よくあるのは、IR担当者、CSR担当者(社会的責任)、SR担当者(総会などを担当する法務担当者)の部署が分かれ、企業内で情報分断が起きてしまっているケースです。そして、結局、各部署を統括する立場におられて、組織の壁を越えてよくご存じの経営者の方との対話が必要となってしまうのです。(中略)例えば、法務部・総務部の方々は、企業がどう動いているかをご存じで、長期投資家にとっても大変重要な情報をお持ちです。このような情報をIRの方々と共有してほしいと考えています。

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この情報分断の問題、上場会社で事業報告や株主総会想定問答の作成も担当している法務の方であれば、間違いなく認識されていらっしゃる問題かと思います。株主との対話がこれまで以上に求められるガバナンス・コード時代には、いよいよ誰かが社内で陣頭指揮を取ってこういった課題を解決しなければならないのですが、誰も腰をあげたがらない。しかし会社法改正のようなハードローの力だけでは、どうしても「ミニマムでやらなければならない義務を抽出して処理する」という態度になりがちで、踏み込むのは案外難しいもの。今回のような、国を挙げて成長戦略を目指すという大義名分のあるソフトローの力を借りることで、このような部門横断的かつ対社外なエリアに積極的に進出していくチャンスが生まれるんじゃないか、と思うわけです。

ちなみに上記は「第1章 ESGの視点から企業価値創造プロセスを示す」と題するニッセイアセットマネジメントの井口譲二さんと西村あさひの武井一浩先生の対談の一節の引用させていただきました。このように本書は、上記引用部のように、ガバナンス各分野の専門家の話を武井先生を聞き手とする対談形式で収録したものとなっています。この弁護士との対談形式というのが、どうも読み物として法務パーソンにフィットするようです。上記引用部は、この分野の必読本と言われている『スチュワードシップとコーポレートガバナンス』P123ー125に同様のことが書いてあるのですが、こちらの本の方がわかりやすいと思います。

対談ベースである分、ページ数は400ページ超とボリューミーにはなってしまっているものの、2色刷りで見やすく、章・節だてのテンポもよく、また図表もこの手のタテ書きの本にしてはかなりふんだんに入っていますので、二晩もあれば読み切れる内容。これを読んで背景知識やここにいたる流れを抑えた上で、巻末にも収録されているコーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの2つを(さらに余裕があれば伊藤レポートも合わせて)読めば、苦手意識を持っている方も一気に解消できるのではないでしょうか。

【本】『M&A実務の基礎』― いつまでも改訂されないあの本に取って代わる、M&A法務本の新スタンダード

 
まだ一部大規模書店にしか配本されていないようですが、首尾よく入手。M&Aの、特に法務面にフォーカスした書籍として、ついにあの『M&A法大全』の後継となるものが出た!という感じです。





「主に法務のバックグラウンドを持つ若い読者が、M&Aについて専門的な文献や実務に触れる前の足がかりとなる知識を満遍なく得ることができる1冊」、これが本書のコンセプトである。

はしがき冒頭に書かれたこのコンセプト通りの本。いや、「若い読者向け」は相当に謙遜が含まれていますね。

全400ページ弱のボリュームに抑えることを優先したのでしょうか、確かに本書はたとえば契約書作成の部分だけ見れば藤原『M&Aの契約実務』に、DDについてはNOT『M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務』に、それぞれ細かいことは譲っている部分はあると思います。しかし一方で、社内でM&Aをつつがなくリードし目指すクロージングに向け調整・推進する役割を担う我々企業法務パーソンにとっては、そういった部分部分の法律知識よりも、本書が目指す「全体をくまなく、しかし漏れ無く把握する」ことのほうがむしろ重要だったりします。法務が担う役割の重要性に比して、M&Aの経験を積むチャンス自体が(通常の事業会社においては)限定されていることもあって、それがなかなか理解できずにもどかしさを感じていた法務パーソンは多いはずで、本書はそういった方への福音となることでしょう。

本書では、契約法・会社法・金商法などのM&A必須法令にとどまらず、税法・競争法・労働法・知的財産権法・東証ルールといった周辺領域、さらにはクロスボーダー案件における外為法や準拠法の問題などが、広範囲にカバーされています。M&Aで出くわすほとんどの問題について、平成26年会社法改正で新設された特別支配株主による株式等売渡請求制度などの最新トピックスを含めて、本書を紐解けばなにかしらの手がかりが示されているという安心感があります。


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総ページ数は『M&A法大全』より控えめながら、アンダーソン・毛利・友常法律事務所(旧ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所から統合)のパートナーを務めていらっしゃる柴田義人先生らの豊富な経験が、本文やコラムの随所に散りばめられており、これまでの類書では言及はされていても踏み込みが浅かった実務上のお悩みポイント、たとえば、
・DDにおける情報開示と、個人情報保護法抵触/秘密保持義務違反/ガンジャンピング問題
・価格調整条項による具体的な価格調整の方法、そしてその請求を担保する方法
・MAC条項に例外(Carve-out)事由をどこまで規定すべきか
・適時開示の対象に該当するか、東証への開示の事前相談・説明手続き
・クロージングにおける株式譲渡と銀行振込の手順
について一歩踏み込んだ記載があります。


他の大手事務所の先生方が、「なんでこういう本をウチから出さなかった(出せなかった)んだろう」と、悔しがる姿が目に浮かぶようです。
 

【本】『新しい商標と商標権侵害』― 知財業務の難しさを生む権利の「跨り」と「狭間」


商標法が改正され、色彩・位置・動き・ホログラム・音の商標が出願できるようになりました。ただでさえ掴みどころのない商標権が、これによってまた一段とややこしくなった感があります。

私自身、担当者にまかせてちょっと手を抜いていたところなんですが、出願されはじめた大手企業の新商標を見るにつけ、「自分の理解は果たして合っているのだろうか?」と不安はつのるばかり。法律雑誌記事の断片的な情報を追いかけているだけだと抜け漏れが怖いなあ…という心の声が届いたのか、産業構造審議会商標WGの委員も務められたユアサハラ法律特許事務所の青木博通先生が、さまざまな雑誌に投稿されていたご自身の論稿を再整理するかたちで、一冊にまとめてくださいました。





この本は、改正商標法に関する記述のみならず、商標制度の基本的な理解の確認にはじまり、国旗の商用利用やオリンピック商標とアンブッシュマーケティングの問題等、実務上の頻出問題点も取り上げています。それだけに、600ページ超え&7,200円(税別)と、大部になっています。

メインテーマである「新しい商標」については、以下のように大きく2つのグループに分け、これらに関する外国の先進事例を適宜紹介しながら解説します。改正法による5つの新商標にとどまらず、旧商標法時代からの論点、さらには将来新商標として加わるだろう香りやトレードドレス商標等も取り上げられているのが、実務家にはうれしいところです。加えて、先月ご紹介した『知的財産権としてのブランドとデザイン』と同様、意匠法・不正競争防止法との関連性も意識的に解説されているのは、青木先生の御本の特徴ですね。

◯グループ機複仮蓮

旧商標法時代から解釈の拡大により論点となっていた
・キャッチフレーズ
・スローガン
・インターネットメタタグ・検索連動型広告
・キャラクター
・アイコン
・立体
・パロディ

◯グループ供複馨蓮

改正商標法により保護されることになった
・色彩
・位置
・動き
・ホログラム
・音
将来さらなる法改正によって保護される可能性がある
・香り
・触覚
・味
・トレードドレス


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そう言えばつい先日、とある業界団体の知財セミナーで講師を務めさせて頂いた際、こんな図をお示ししながら話をさせていただいたのですが、

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知財の仕事の難しさは、特許・意匠・商標・著作権、そして不正競争防止法と、それぞれの分野だけでも深さがあるのに、その権利の「跨り」について両方を考慮しなければならないところ、もしくは「狭間」になって抜け落ちがちなところ、そういったところにこそあると常々感じています。

この本は、新商標だけでなく、商標権とその周辺の権利の「跨り」・「狭間」から生まれる知財担当者の不安や疑問をも解きほぐしてくれる本と言えましょう。
 
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