ケース

Aは自動車の販売会社である。
Aは、運送会社Bに対し新車登録から1年半経過した中古トラックを1年前に販売したが、このたびそのトラックの修理依頼を受け、サービスセンターで修理をさせることにした。故障の内容ははっきりせず、Bいわくエンジンに不具合があるとのことであった。
仕事にすぐ使用するとのことで、エンジンを洗浄し調整を行う応急措置で対応し、BのX課長もエンジンをかけて問題ないと判断したようですぐ受け取って帰った。
ところが一週間後、X課長から電話があり、「運送途中でエンジンが再度トラブルを起こし、荷物が運べない。生鮮食料品なので損害が出たら弁償してもらう」と通告してきた。


問題

設問(1)
エンジンのトラブルにより、Bは運送期限を守ることができず、荷主から1,000万円の損害賠償請求を受けたため、Bはその全額をAに請求してきた。Aとしてはどう反論すべきか。

設問(2)
Bはトラックの代金を3年分割で購入しており、残り2,000万円のうち1,000万円をこの損害賠償と相殺する旨通告してきたが、Aはこれに応じなければならないか。

設問(3)
Bは損害賠償に応じないなら残額2,000万円の支払いを停止する旨申し入れてきた。A社としてどのように反論すべきか。

設問(4)
Bがクレジット会社を利用して分割払いをし、Aはクレジット会社から代金全額をすでに受領している。設問(3)のケースのようにBが支払いの停止を主張した際、クレジット会社の社員としてはどのように反論するか。


回答

設問(1)
まず、中古トラック売買契約の瑕疵担保責任について整理する。
販売後1年間は特にトラブルがなかったことから、当該エンジンの故障は隠れた瑕疵と考えることができる。Bは瑕疵の存在を知ってから6箇月以内であればAに対し損害賠償または解除を請求できる。
今回Bは損害賠償を請求しており、その範囲が運送契約が履行できなかったことによる損害を含むかどうかが争点となっている。売買契約の瑕疵担保責任の範囲は条文上明らかではないが、判例上は原則として買主が瑕疵を知らなかったために被った損害(信頼利益)、通常は修理費用相当額の損害賠償に限られ、瑕疵があったためにすでに契約のできていた運送が履行できず利益を得ることができなかったことについての損害(履行利益)までは請求できないとされる。これをもって、Bに反論すべきである。
次に、中古トラック修理サービス契約における債務不履行責任について整理する。
債務不履行による損害賠償の範囲には、信頼利益だけでなく履行利益として債務者が予見しうる特別損害も賠償の対象となりうる。今回、この予見可能性については運送会社で使用するトラックであること、仕事で用いていることを聞いていること等から、予見可能性はあったと言えなくもない。
一方、A社は、Bから指定された限られた時間内でできる修理を施し、しかもBの責任者の確認を経て修理したトラックを引渡している。この修理サービス契約の履行においては、Aの故意または過失はなかったと考えられ、このことから債務不履行責任はそもそも存在しないことを主張すべきである。

設問(2)
上記(1)検討の結果、Bの損害賠償請求を認めるのであれば、相殺適状にはあるため相殺に応じることとなるが、受け入れないスタンスであれば応じずに請求をすべきである。

設問(3)
Bの主張が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求であれば、これを有効と受け入れた場合には代金請求権と同時履行の関係に立つため、Aはそれ以上の代金の支払いを請求することはできない。
一方、Bの主張が債務不履行責任に基づく損害賠償請求であれば、これを有効と受け入れた場合であっても同時履行の関係に立たない。従い、Bが相殺をしない以上あくまでBは履行遅滞を発生させていることになる。従い、Aとしては相当期間をおいて履行を催促し、それでも払わなければ契約解除および損害賠償請求を行うこととなる。

設問(4)
クレジット会社の社員としては、Bに対して支払いを請求しうる。
中古トラックは自動車の売買であり指定商品である。割賦販売法30条の4に定める抗弁権の接続により、Bに瑕疵担保責任上の損害賠償請求権が認められればそれとの同時履行を主張し、販売会社Aに対し抗弁を出すことも検討する必要があるが、本件中古トラック売買は購入者Bが商人であり付属的商行為となるため、同条4項2号により適用はされないためである。


要復習ポイント(自分用メモ)

・今更ながら信頼利益・履行利益・通常損害・特別損害の関係が
 はっきり語れない。特に履行利益と特別損害の関係が?
・請求原因の違いによる同時履行の抗弁可否
 ―瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求→抗弁可(民法576条)
 ―債務不履行責任に基づく損害賠償請求→抗弁不可
・割賦販売法30条の4 抗弁権の接続 は全く知らず。


(ビジネス実務法務検定試験1級公式テキスト Case16を基に検討)


「企業と人との新しい結びつき」の実現を目指して頑張ります。ご支援いただける方はこちらをクリック!(blogランキング)