BUSINESS LAW JOURNALの今月号の特集は「条項例で理解する契約書チェックのポイント」という、法務パーソンにとっては即戦力!な特集なわけですが、雑誌の特集だけにちょっと各論過ぎて物足りなさは否めないところ。

もう少し骨太な契約実務の本をということで、私が(勝手に)法務部の教科書認定をしている文献を紹介します。

改訂版 契約実務と法-リスク分析を通して-
河村寛治
第一法規株式会社
2014-02-04




商社法務→研究者な人には頭が上がらない

もともと私には、「商社法務パーソン」と聞いただけで信奉してしまうクセがあります。

理由は、法務の育ての親(前職の上司)が商社出身だったということと、その人を通じて知った商社法務のノウハウ・法務パーソンの方々の経験の幅広さが圧倒的だったから。
以前もこのblogで述べたことがありますが、やはり商社ならではの国内だけでなく海外も含めた圧倒的な質と量の取引経験値は、弁護士の先生方も一目置くレベルなのです。

そんな圧倒的な実務経験を持った人が、途中で法学研究者の道を歩みだすパターンは結構多いようです。有名どころでは例えば、法務部のバイブルといってもいい『英文契約書作成のキーポイント』の著者中村先生(元丸紅)なんかもそう。

今回ご紹介する『契約実務と法』の著者、河村寛治先生も、青山の某一流商社法務から、法科大学院教授に転身された方。

しかもこの方と私の法務パーソンとしての育ての親であった元上司は、丁度同時期にその青山某一流商社で一緒に仕事をされていたこともあり、その元上司からもよく名前は伺っていました。


私がこの本を教科書認定する理由

そんな期待に違わず、商社ならではの契約実務ノウハウが満載なこの本。

まず総論パートで契約書の意義から一般条項についての解説をし、各論パートで各契約類型ごとにサンプル条項にもとづいて具体的な注意点をのべていくという構成になっています。

この構成はとっても一般的。ていうか一見月並みな感じ。
それでもこの本を特に教科書認定したいその理由は、私が徹底的に教育を受けたポイントであり、かつ事業会社の法務パーソンがしばしば遭遇する「法務パーソンが本当に悩みぬくべきポイント」について、余すところ無く書かれているから。

たとえば、
「不可抗力事由の条項で、不可抗力事由としてどんなイベントを列挙しておくべきなのか」とか、
「業務委託契約とは、法的には準委任なのか請負なのか、またもやその混合契約なのか」とか、
「期限の利益喪失条項で、他契約まで連動して解除させるクロスデフォルト条項は、本当に有効といえるのか」といった点。

弁護士が書く実務書でも(本当は問題意識を感じているはずなのに)解説を控えるポイントに、あえてすべて言及しようとしているところが、私が教科書認定する所以。

こういう条項の法的有効性やリスクヘッジの追求にどこまでだわるべきか、と法務パーソンが頭を悩ましているポイントは、まず現場には何の悩みかすらも理解してもらえないものでしょう。「相手もいる話なんで、あんまり“マニアック”なところにこだわるのやめましょうよ」と言われ、マニア扱いされるのがオチ。
しまいには弁護士からも「そこまでその点にこだわらなくてもよろしいのでは?」なんてたしなめられたり。

しかし、このような現場も専門家も適当に済ましてしまうポイントについて、現場や顧客に迷惑をかけないように人知れず悩んで考えぬいた上で、そうとは気づかれないようにさりげなく良質な答えを出していくことこそ「実務」なのではないか。その「実務」の精神を後輩に伝承していく本として、この本を大切にしていきたい。

そんな思いで、私はこの本を契約「実務」とは何かを語る教科書として、後輩に伝えていきたいと思っています。