高裁判決を見ることなく、ついに和解で終結した(してしまったと言うべきかもしれません)日本マクドナルドの「名ばかり管理職」事件。

このblogにも
「マクドナルド 管理職」
「名ばかり管理職」
の検索結果から訪れていただく方はいまだに多く、あの事件が日本社会に与えたインパクトと影響は大きかったのだなと思います。

そして事件以降、「名ばかり管理職」問題に関する報道・論評は、枚挙に暇がないほど繰り返されてきたわけですが、昭和43年〜平成10年まで労働局に在籍し、労働裁判例や通達を知り尽くしたこの本の著者、中川恒彦さんとしては、それらのほとんどに「モノ申す!」というお立場なようです。

残業手当のいらない管理職



管理監督者問題を語る以上知っておくべき資料を集約

この本の「はじめに」から。
労働時間等に関する制限の適用が除外される「監督若しくは管理の地位にある者」とはどういう者か、その範囲について、まずは労働基準法の施行を担当する厚生労働省労働基準局はどのように説明しているのか、裁判所はどのような見解を示しているのかをひととおりは押さえた上で、議論すべきではないのでしょうか。
法律の専門家であるはずの人が、足が地についていない議論をするのが理解できません。平成19年以前は何もなく、平成20年1月の日本マクドナルド事件からスタートしているような感じです。
現在の行政通達には、「出社退社について厳格な制限を受けない者」とか、「自己の勤務時間について自由裁量権を有する者」といった要件は示されていません。「基本通達」にはそのような文言はありません。にもかかわらず、これを行政が示す3大要件の1つとして、出処不明の引用、孫引きをする専門家(?)もいて、誤解を増幅し、混乱を助長しています。

日本マクドナルド事件によって世の中に流布された、間違った管理監督者の解釈を正したい。

そんな動機で書かれただけあって、これ以上ないぐらいに徹底して通達、裁判例、企業対応の実際例が1冊に収集されているのがこの本の最大の特徴。

しかも他には見られないような、通達が出るまでの当時の経緯についても触れられているなど、実務家にとってはありがたい資料が満載です。

著者の中川さんは、これらを比較・クロスリファレンスしながら、元労働基準監督官としての視点も生かし、管理監督者の範囲を特定しようと試みています。


知る人ぞ知る「銀行通達」

その中川さんが特にこの本で主張されているのが、「都市銀行等における管理監督者の範囲に関する通達(昭和52年2月28日基発104号の2)」と「金融機関における管理監督者の範囲に関する通達(昭和52年2月28日基発105号)の重要性です。

実は、この104号の2と105号通達は、
「本部の部長・課長は管理監督者」
「課長補佐・課長代理は管理監督者とはいえない」
「本部の部課長と同格のスタッフ職は(部下がいなくても)管理監督者」
などと、過去の通達の中で最も具体的かつ詳細にその要件を言及している、知る人ぞ知る通達なのです。

さらには、この通達に対し昭和52年当時に行政に寄せられた質問「管理監督者の全労働者に占める割合については、何%ぐらいが適当か」に対し
その割合は何%が適当であるとは一概にはいえないが、105号通達を厳格に適用するならば、地銀、相銀については、その割合が少なくとも2桁台になることはないと考えている。
と当時行政から回答があったことまでもが披露されていて、私も今まで管理監督者に関する資料をいろいろ集めてきたつもりだったのですが、さすがにこれは初見で大変参考になりました。

ちなみに、「2桁台にはなることはない」=10%未満ということは、部下を10人以上持たない組織長は管理監督者として不適格と判断されやすいということ。私も管理監督者の端くれなのですが、メンバーの数だけで言えば後2人足りなかったりして(笑)。

さておき、この本は管理監督者問題を突き詰めたい方にとっては必携な、資料的価値・充実度も高いものであると、太鼓判を押させていただきます。