ビジネス上の関わりが増えてきたこともありますし、ひょっとしたら将来自分が中国で働く可能性も否定できないので、ただ今中国の労働関連法を勉強中。

もともと存在した「労働法」や各地方市単位で存在した条例を上書きするような形で2007年に「労働契約法」を制定していて、その全体構成に多少のぎこちなさもあるものの、この法律がまた良く出来ていてびっくり。きっと、日本をはじめとした各国の労働関連法の欠陥も研究した上で立法してるんでしょうね。

中国の労働契約法については、今のところこの本『中国労働契約法の実務』が一番分かりやすいのではと思っておりますが、その他見聞きした情報も加えて、特に日本の労働関連法と異なる部分を中心に、中国の労働契約における労働条件まわりのポイントをまとめてみます。

s-shanghai_buildings_by_Peter_Morganphoto by Peter Morgan(from everystockphoto.com)


1.応募時に、企業だけでなく求職者にも説明義務がある

募集をする企業側に募集条件の明示義務があるのは日本でもそうですが、面白いのは労働者側にも「労働契約に関する基本情報」について説明義務を法定しているところ(労契法8条)。これは日本にはありません。
虚偽の申告をした場合、労働契約が一部または全部無効(26条)となる他、企業からの解除(39条)・損害賠償請求(86条)が可能となります。

2.労働契約を書面により締結する義務がある

労働契約は書面で結ばなければならず(労契法10条)、書面化せずに1ヶ月放置した場合は2倍の賃金を払う義務が発生し(82条)、1年以上放置すれば無期雇用契約締結とみなされます(14条)。
日本にも採用時に書面で労働条件を明示する義務は法定されていますが、契約は書面にする必要が無いですし、その義務に違反してもここまでの制裁はありません。

3.有期雇用10年超で、無期雇用への変更義務が発生

中国では有期雇用契約のことを「固定期間労働契約」と言いますが、この固定期間労働契約は、ご多分に漏れず更新が繰り返されていくのが常。しかし、更新が繰り返されて勤続10年を超えると、無固定期間労働契約、すなわち無期雇用契約を締結する義務が生まれます(労契法14条1項)。

4.有期雇用の更新2回目から、雇止めが難しくなる

2回目の有期雇用(固定期間労働)契約満了時に、労働者から無期雇用(無固定期間労働)契約締結を要求できます(労契法14条2項)。なお、解釈により3回目の契約満了時から権利が発生するという説もあるようです。
日本にも、上記3や4のような雇止めの禁止という発想や行政指導はありますが、こんなにはっきりとは年数や回数が法定されているわけでは無い点、見劣りしますね。

5.試用期間は最長6カ月の上限がある

日本の労働法の欠点の一つ。それは試用期間が現前たる慣行として存在しながら、明確な法規制がなされていない点。
これに対して中国では契約期間に応じ、以下のとおり試用期間の上限が定められています(労契法19条)。
・3年以上(無期雇用契約含む)…6ヶ月以内
・1年以上3年未満…2ヶ月以内
・3ヶ月以上1年未満…1ヶ月以内
・3ヶ月未満…設定不可

6.試用期間中は労働者は自由に辞められる

試用期間中といえども企業側には一定の解雇規制があるのに対し、労働者は試用期間中ならば3日前通知で無条件に辞職が可能となっています(労契法37条)。

7.みなし・変形労働時間制の適用には、認可取得が必要

中国では、日本で言うところの事業場外のみなし制・裁量労働制にあたる制度を「不定時労働時間制」、変形労働時間制にあたる制度を「労働時間総合計算労働制」と呼びますが、このいずれも適用には労働行政部門への認可申請が必要
日本の事業場外みなし制や変形労働時間制の一部は認可はおろか届出すら義務にしておらず、それが残業規制を骨抜きにする原因となっている現状とは大違いです。

8.有給休暇未付与の罰則が厳しい

1年超勤務する労働者に対し、有給休暇を5日以上付与する義務があります(労働法45条、職工帯薪休暇条例)。
この点、日本は6ヶ月以上勤務で10日なので手厚いようにも見えますが、取得できなかった場合1日あたり賃金の3倍の報酬を払わなければならない罰則があるところが、日本よりも実効力が高く一枚上手です。

9.長期の「親族訪問休暇」を与える義務がある

これは中国国内でも批判が強いみたいですが、
・単身赴任で配偶者を訪問する場合…30日/年1回
・未婚で父母を訪問する場合…20日/年1回
・既婚で父母を訪問する場合…20日/4年に1回
これらの「親族訪問休暇」という名の長期休暇が有給休暇とは別に付与されます(国務院関於職工探親待遇的規定)。
日本にはまったくない発想ですし、期間長すぎですねこれはさすがに(笑)。

10.解雇だけでなく辞職をするにも30日前予告が必要

いわゆる普通解雇に1ヶ月前予告が必要(労契法40条)なのは日本と同じ。一方で、労働者側からの辞職にも30日前の書面通知が必要とされている(37条)のは、完全月給制や年俸制で無い限り2週間前予告で辞職できる日本とは対照的です。

11.競業避止義務は最長2年間の上限規制がある

中国では転職を繰り返してキャリアアップするのが当たり前だからでしょうか、競業避止義務の設定について2年を超えてはならないという具体的な規定が存在します(労契法23条2項条)。
もっとも、日本の裁判例の多くも2年を超える競業避止義務は無効と判断されるケースが多いですけれど。

12.労働関係終了時に、「経済補償金」を支払う義務がある

日本では退職金を支払う義務までは法定されていません。しかし、中国ではこれが法定され退職時に「経済保障金」を支払う義務があります
労働契約の解除事由によって支払の要・不要が異なり、しかも労契法・労働法・経済補償弁法・各市の条例が複雑に絡んでいるところなので、この画面では整理しきれないのですが、概略以下のとおり。
・合意解除…必要(労働法28条)
・労働者の一方的解除…不要(労契法46条)
・懲戒解雇等…不要(同)
・整理解雇…必要(同)
・定年/死亡…不要(同)
・契約期間の満了…場合により必要(同)
特に、有期雇用の満了時であっても場合により必要なケースがあるのがいかがなものかと。
金額についても詳細な計算式が定められていますが、基本的には「労働者の月賃金×勤続年数」分、つまり、5年勤務すれば5カ月分を支払うというのが基本ラインとなっています。


というわけで、このブログにしては珍しく長文で書き連ねてしまいましたが、是非日本の労働契約法にも取り入れていただきたいアイデアと実効力ある規定の数々に、中国の底力を見せつけられた次第です。

中国労働契約法の実務