今週頭から、総務省によるDPI(ディープ・パケット・インスペクション)検討に対する批判が、そこかしこで起きています。

DPIの全面禁止を主張されている皆さんの意見を総合すると
ISPが人のプライバシーをのぞき見して何をする気だ。同意をとればいいというものではない。全面禁止にしておかないと、同意をしてないユーザーも気付かないうちにDPIされてるなんてこともあるかもしれない。「通信の秘密」を守らないとはケシカラン!
ということのようです。

たしかに、世の中には信用ならないISP事業者はあると思います。が、過去電気通信事業者にいた時代に何回か考えたテーマであったことも手伝って、この「通信の秘密」を根拠にしたDPI全面禁止論に対しては、違和感を覚えています。

国が自らDPIを実施して(もしくはISPから情報をかすめ取って)国民の「通信の秘密」を侵害するようなことは当然NGと思いますが、そのような行為は国の検閲から国民を守る憲法21条2項によって排除されるという前提で、民間ISP事業者がユーザーの認識の下で通信の内容を把握する技術を持つということは、電気通信事業法第4条に定める「通信の秘密」を侵害するものではないのではと。

s-649839_42986082

そもそも、ユーザーとしては、通信事業者に媒介してもらうことで他人との通信を容易に実現するという“利益”を得ている以上、その媒介者である通信事業者に通信の内容を把握されるのはやむを得ないことであり、「通信の媒介はしても内容を一切把握するな」というのは無理筋です。例えれば、毎日買い物で利用するスーパーのレジの店員さんに「お前がこれからレジに通すものは見るな」とか「私がこのスーパーで毎日同じあのお菓子を買って帰っているという(恥ずかしい)事実は、私のプライバシーに関わることなのだから、今この瞬間に記憶から抹消せよ。」と脅迫するようなもの(笑)。

ちなみにこの例えは、この本の第13章の一節「媒介者が把握しうるTransactional Dataは必ずしもプライバシー情報には該当しない」という事を述べたパート(p278)から。ご参考までに。

Securing Privacy in the Internet Age


DPIの問題は、このようなデータを媒介者として単純把握するという域を肥えて、そのデータを通信事業者の“利益”のために蓄積・分析・利用させていいかどうかという点にも及ぶものかと思いますが、ユーザーにとっての何らかの“利益”と交換に通信事業者にその蓄積・分析・利用を意思を持って許諾する自由は、ユーザーが持ってしかるべきで、それを規制する必要まではないのではないでしょうか。
「DPIで提供される“利益”などない、百害あって一利なし」という論調も見られますが、上述のスーパーの例で言えば、私が毎日買うほど好きなお菓子(そんなものはありません、あくまで例です笑)の在庫を切らさないよう、さりげなく多めに仕入れ、そっと並べておいてくれるようなサービスは、あって然るべきなのかもしれません。

そして、私はむしろ、DPIで用いられるようなパケット解析技術・機器の使用が法律によって全面的に禁止されてしまうことで、警察などの公権力の側が人知れず国民の「通信の秘密」を侵害するような行為を行うことを国民の側が技術的に掴めなくなることの方が、もっと恐れるべきことではないかとも思っています。
 

参考文献:

憲法第21条2項に定める「通信の秘密」と電気通信事業法第4条に定める「通信の秘密」の差異について述べた法律書はあまり多くありませんが、比較的新しめの本であればこちらを。

インターネットと法 第4版