先週発表された社団法人商事法務研究会の調査によれば、「法科大学院修了者を弁護士資格がなくても採用する」意志のある企業は83/1035社(P8)だそう。給費制廃止に追い打ちをかけるような、法科大学院生にはなかなかショッキングな数字です。

問題は企業が採用しない理由がどこにあるのかということ。とかく「勉強ばかりでビジネスを知らないから」と簡単に片付けられてしまいがちですが、そもそも法務の仕事・役割とは何なのかという視点に立ち返って、もう少しその理由を丁寧に考えてみたいと思います

ろじゃあさんの法務スタッフの心情シリーズを読んで−“顧客”の期待と経営者とをつなぐ法務マンの役割(企業法務マンサバイバル)
従業員・お客様・投資家というステークホルダー全員から、支持と信頼を得られる絶妙なバランスポイントを見つけ、会社の舵をとる仕事。それが経営者。
その経営者に対し、ステークホルダー全員=“顧客”の期待を通訳し、理想的なバランスポイントはここであると提言することで、経営者の舵取りを支える仕事、それが法務なのではないか。

法務の仕事・役割とは何か。私の中ではこのエントリで出した自分なりの答えから変化はないのですが、少し抽象的なので、今月のBLJの緊急企画“新司法試験合格者vs法務部長 就職座談会”でのケーススタディ「緊急案件にいかに対応するか」の一節を引用して、契約検討という実務的なシチュエーションに置き換えてみましょう。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 12月号


営業マンからの電話
「明日、英国のサプライヤーが急遽来日します。サプライヤーの製品の日本における独占的な販売権を得るために、これまで交渉してきたのですが、先方が日本で交渉の詰めをおこないたいと言ってきています。(中略)これから、その契約書式をメールで送るので、大至急、問題がないかどうか、コメントをいただけませんか。最短で、明日の夕方には調印する予定でいます。」
<あなたの置かれている状況>
送られてきた契約書は署名欄を含め、英文で3頁ほど。読みこなせない分量ではない。(後略)
調印したらまずそうだというところは皆さん感覚的に分かったみたいですね。問題はそこでどう説得するかですが、一番いいのはリスクを挙げて、それに対して準備出来ているんですか、と問うことです。例えば、まず契約の準拠法はどこでしょうか。英国企業の作った契約ですから、おそらく英国法で、裁判管轄もイギリスの裁判所でしょう。さらに、英国法で「独占的販売権」といっても大まかに三種類くらいあって、それぞれリスクも違ってくるのですが、どれのことを言っているのでしょうか。それに、そもそも英国企業の契約書が3枚なんてあり得ません。こうしてリスクを挙げてみせると「それでも契約します」と言えるほど肝の据わった営業マンはまずいないでしょう。だから法務には、何がリスクかという点について、契約書に書かれていないことも含めて指摘し、きちんと説明できる知識と能力が必要なのです。

ここでいう“契約書に書かれていないこと”がどうやったら見出せるようになるのか。私は、様々なステークホルダーの視点に立って、そのステークホルダーの利害すべてを検討することにそのコツがあると思っています。契約に書かれた約束を、自社の利害という視点はもちろんのこと、相手方さらには株主の利害をも代表する視点でも検討し、その人たちの利害が過度に損なわれるような“アンバランスさ”や“隙”のある約束となっていないかを確認することでリスクをもれなく洗い出す作業、それが契約検討という法務の仕事だと思います。

企業が法科大学院卒業生の採用に不安を覚えるのは、法科大学院の教育ではこのような「契約書に書かれていないことも含めて指摘し、きちんと説明できる知識と能力」が身につくとは思えない、という点にあるのではないでしょうか。それがないままに法律の専門知識だけ学んでこられるぐらいなら、学部卒の若いうちに採用してビジネスの世界で揉んで育てたほうがマシ、とすら思われているフシすらあります。

たくさんの新司法試験合格者、さらにそれに不合格となってしまった法科大学院卒業生を企業法務で採用せよというなら、授業や司法修習において、ステークホルダーの視点からリスクを指摘し説明できるようにする知識と能力も身につけさせることが必要なのだと思います。