債権回収の本の中でも、この本はちょっと珍しいタイプかも。

債権回収の技術―交渉技法から法的戦術・サービサー活用まで


何が珍しいかというと、担保の種類の解説・担保設定の仕方といったありがちな法律知識の体系的な解説はばっさりと捨てて、すでに不良化してしまった債権を、どのように交渉し、または法的手続きを実行して回収するかという、交渉〜実行フェーズに特化しているところ。

従来、その金融法務の主テーマとしては、金融に関する予防法務というか、取引先とのトラブル発生を未然に防ぐ技法の研鑽が中心になっていたのではないでしょうか。(中略)昨今の不良債権問題を効率よく解消する策として、金融法務のあり方ということを考察すると、それだけでは不十分であって、今日の不良債権の解消策としては、不良債権問題が既存の予防法務を思考した金融法務の限界を超えているため、ここで新しい概念を一つでも付加する努力がとくに必要であると思う次第です。
では、金融法務に新たに必要なものとは何か。それは債務者との「交渉技法の開発」です。(P5初版まえがきより)

このような視点にたって、1〜2章では交渉にあたっての基本的心構えとセオリーが、3〜4章では、ケーススタディ形式で保全〜回収にむけた法的技術の解説が、5〜6章では、サービサー会社を使った回収方法についてまとめられています。特に、ボリューム的にもメインコンテンツになっている交渉〜回収フェーズのテーマ毎に例示されるケーススタディは、類書にない充実度です。

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・再建か、精算か
 ケース1 債権回収計画の策定
・信用不安時の保全強化
 ケース2 信用不安時の保全策
・抵当権の登記留保
 ケース3 新築マンション物件に対する登記留保抵当権の管理
・商事留置権の主張
 ケース4 ビル建築途上の競売物件にかかる請負業者からの
      商事留置権の主張
・仮差押え
 ケース5 売上代金債権に対する仮差押え
・仮処分
 ケース6 土地・建物についての仮処分、仮登記を命ずる処分、
      および建築途上物件にかかる抵当権予約の実行
・詐害行為取消権・債権者代位権
 ケース7 建物についての詐害行為取消請求の訴え
・担保不動産競売
 ケース8 抵当権の実行・抵当権消滅請求の実行
・賃料債権に対する物上代位
 ケース9 抵当権者による物上代位権の行使と目的賃料債権の
      譲渡の関係
・賃貸ビル等の担保不動産収益執行
 ケース10 高級賃貸マンションに対する収益執行
・倒産ADR
 ケース11 保証債務履行の民事調停
・訴え提起前の和解
 ケース12 貸金返還等請求事件にかかる即決和解
・強制執行
 ケース13 売上債権に対する債権執行
・支払い督促
 ケース14 連帯保証人に対する支払督促
・通常訴訟
 ケース15 時効中断、債務名義取得のための貸金返還請求
・民事裁判の基本原則
 ケース16 保証履行に関する訴訟上の和解
・譲渡担保権の実行
 ケース17 集合動産譲渡担保の私的実行
・担保物権の任意売却の基準
 ケース18 担保物権の等価交換

不良化した債権を回収する場面での法務は、法的知識だけでなくその応用力も必要で、かつ交渉という人間ワザまで含まれるという点で法務業務の中でも最も高度な業務ですが、それが成功したときの喜びと現場からもらえる感謝の大きさもひとしおです。その高度な業務をこなせるようになるには、ひたすら経験を積むしかないのでしょうが、その経験を補充する手段としてこのようなケーススタディで疑似体験をしておくことも、ある程度有用だと思います。

銀行など金融法務の方向けの本であり、ご覧のとおり不動産等担保権を設定していることが前提となったケースがいくつかある点は、基本的に無担保でサービスを提供することの多い事業会社の法務パーソンに直ちに応用できないかもしれませんが、限界事例を知ることで自社のケースにおける交渉の可能性を探るという意味で、参考になるはずです。