BtoBの法務をやっている間は滅多に無かったのに、BtoCの会社に転職してドッと増えたのが、お客様に対するお詫び状を作成・レビューする量。
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法人相手だと上司が面会して謝罪すれば済むようなトラブルも、個人が相手となると、企業間と違い継続的な取引関係を前提とせず、個人は企業に対して圧倒的弱者であるというやり場のない被害者意識とが相まって、面会よりも文書での謝罪を要求されるケースが多くなるのだと思います。

お詫び状というのは、まだ紛争状態にない相手に提示する契約書と違って、すでに怒らせている相手に出す文書なわけですから、実は最も緊張度の高い法律文書だったりします。それだけに、慣れない人が書こうとすると
「お詫びすると否を認めたことになって損害賠償とか要求されるから、たぶん『申し訳ございません』って書いちゃいけないんだよな・・・」
などと悩み出し、お詫び状なのにお詫びの言葉が全く入っていない意味不明な文書ができあがったり(笑)。果ては法務パーソンまでもが
「お詫び文書は書いた瞬間に法的責任が発生するから一切出すな」
と言っている会社もあったり・・・。

しかし、私のこれまでの経験から、お詫び状にはここさえ理解して書けば不安にならずに書けるようになる法則が一つあると思っています。それは、そもそも防ぎようがなかったことについてだけはお詫びしないように気をつける、というものです。


お詫び状は、

1)お詫びの言葉
2)経緯
3)原因(再発防止が可能なら再発防止策)
4)改めてお詫びと許容の依頼(補償する場合はその内容)

この様な構成で書くのが通常ですが、3において発生した事象の原因をどのように分析するかが最大のポイント。

例えば、業務において通常払うべき注意をしていれば防げた事故なのであれば、反省とともに再発防止策について述べ、なんらかの補償を提案した上でお詫びをすることになります。一方で、そもそも防ぎようがなかった事故なのであれば、結果として掛けたご迷惑に関してお詫びの言葉は述べるものの、会社として負うべき責任の範囲外であり補償はできないことをはっきり併せ述べます。何について謝っているのかを分析せず、中途半端に謝るだけ謝ってみたり、できもしない再発防止策を口だけで述べたり、逆に原因分析もろくにせずに結果的に何に対しても謝っていないニセのお詫び状を書いたのでは、お客様にも見透かされ、かえって怒りを増長するだけです。

「できるだけお詫びをしないようにする」のではなく、発生した事故が防げたものなのか/防ぎようは無かったのかという<原因>をきちんと意識・分析した上で、<お詫びと許容の依頼>に書く内容を決める。これを法務パーソンの方向けに法律の言葉で法的に説明すれば、会社として負うべき責任の範囲か否かの判断にあたって、①善管注意義務を果たしていたか、②不法行為責任はないか(故意・過失がなかったかを中心に)の2つを丁寧に確認し、これらを踏まえて謝罪によって発生する法的効果を見極めて文書を書く、ということになるでしょうか。
 
もちろん、善管注意義務の範囲外かどうかや、故意・過失が無かったと言い切れるかどうかは、非常に微妙な判断を伴うものです。自社に責任無しと確信できない微妙な案件は、弁護士にも客観的な意見を貰った上で文書化することもお忘れなく。