よくあるエンターテインメントを切り口にしただけの単なる知財の本だったら、こんな分厚くて(約5cm)値が張る(7,200円)本は買わなかったと思います。
こんなに業界ルールの裏の裏までたっぷり書いてある本じゃなければ。


エンターテインメント法エンターテインメント法
著者:金井 重彦 他
販売元:学陽書房
(2011-05-19)
販売元:Amazon.co.jp



出版社さんのwebサイトに詳細な目次と著者一覧が出ているのでご覧頂ければと思いますが、

1章 音楽
2章 映画・ビデオ
3章 出版
4章 ゲームソフト
5章 演劇・舞台芸術
6章 グラフィックアート・写真
7章 プロスポーツ
8章 テレビCM
9章 放送
10章 インターネット配信
11章 商品化
12章 パブリシティ権

このように、著作権法などの“法律”軸で輪切りにするのではなく、(10〜12章を除き)“業界”軸でまとめ、その業界の歴史と業界慣行を知り尽くした著者が分筆しながらも、ビジネスプロセスの流れに沿って、上流から下流までの各“プレイヤー”を意識した構成に統一して記述しているところが、この本の成功の要因でしょう。

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例えば分り易いところでは、レコードの印税計算の慣習について。
多くのレコード会社は毎年3月、6月、9月及び12月の末日(20日という会社もある)を締切日として印税を計算し、各締切日より60日以内又は2ヶ月以内にこれを銀行振込により支払っている。
CD・DVDなどのパッケージ商品に関する印税の算出方法には、永年積み重ねられてきた業界慣習があり、基本的には下記の算式に、契約で定められた数字を当てはめて計算することになる。原盤印税、共同原盤印税、アーティスト印税のいずれも下記の計算式で導きだされ、そこで当てはめられる数字が異なるだけである。
[ <印税の計算式> (小売価格ージャケット代)×印税率×印税対象数 ]
印税率は、アーティストの実績や原盤制作者とレコード会社との力関係などの要因により異なってくるため一概には言えないが、原盤印税の印税率については12〜18%とされるのが大半である。・・・(略)
ジャケット控除に関する業界の相場としては、税抜価格の10〜12.5%とされるのが一般的であるが、豪華な特殊仕様のジャケットの場合には15%程度とされることもある。

うちの会社でレコードは出さないから関係ないなあ、という方も、テレビCMはどうでしょうか。
テレビCMが映画の著作物であるという点については制作当事者(広告主、広告会社、制作会社)の認識は一致するものの、いずれがその著作権者に当たるかについてはそれぞれの見解が分かれる。
1990年前後に主としてテレビCMの二次利用をめぐってテレビCMの著作権に関する論争が広告業界全体で巻き起こり、1992年、広告主、広告会社、CM制作会社により全日本シーエム放送連盟(ACC)の場で議論が重ねられた結果、テレビCMの使用に関する健全な取引慣行を育成するために「CM(映像広告)の使用について」と題する指針(通称「ACCルール」や「92年合意」)が公表された。
ACCルールでは、CMが広告主、広告会社、制作会社の協力によって作られる著作物であるとの認識は一致するものの、現時点において関係業界の総意として著作権者を特定することは難しいという認識のもとに、テレビCMの著作権の帰属に関する根本的な解決は将来に譲り、むしろ取引上の諸問題についての対処をめざすことになった。
すなわち、CMは広告主のマーケティング活動のツールとして使用する目的で三当時者の協力によって作られることから、広告主によるCMの利用が円滑に行われるよう、広告会社、制作会社は、その利用を妨げないという合意がなされた。他方で、広告主はテレビCMの改訂業務や複製業務については、当初制作を行った広告会社・制作会社へ優先的に発注すること、及び音楽、出演者の権利に関して十分に留意することが明記されており、これが現在の広告業界の慣行となっている。

頻度は少ないながら、一般企業の法務がこのエンターテインメントの分野とかかわりをもつと、取引において契約書がないこと、あってもその多くが努力義務的・協議事項的な規定をされていることに驚かされます。そこにまじめに契約交渉で権利義務を規定しにいこうものなら「いやこういう感じが業界ルールなんすよぉ(素人はこれだからw)」的な顔をされて流されるのが関の山。だからといって交渉を諦めてはならないと思いますが、こちらが事前に業界慣行・ルールをそのさわりでも知っているというだけで、相手の接し方が変わる・話が通じやすくなるという効果はあると思います。

エンターテインメントの分野だけに、法務パーソンでなくても、興味をそそる裏話・泥臭い世の中の仕組みのオンパレードなので、純粋に読み物としても楽しめる本です。法律書なのでとってもお高いですが・・・。