さて、前回の「プライバシーポリシー」編に続いて、今回は「サービス利用規約」編です。

前回の記事を書いた直後から、Googleへのログイン時にこんな↓オプトインの画面が表示されたり、
s-googleoptin2

Googleからのこんな↓お知らせメールが届き始めたりしていると思いますが、
s-googleoptoutmail


ここまでされると、さすがにみなさんも気になりはじめているはず。このエントリが、みなさんの理解に少しでもお役に立てば幸いです。

どうしてこんなに短くできた?


例によって、新旧対照表を作りましたので、まずは一読を。

Googleサービス利用規約 新旧対照表
s-googletos


プライバシーポリシーがとっても長くなったのに対して、サービス利用規約はとっても短くなりました。旧versionは11,416文字、対して新versionは5,385文字、なんと半減です(ちなみに英語版も4,223文字→1,720文字)。きっとGoogleの法務のみなさんは、50%減を明確な考課目標と定めていたに違いありません(笑)。

さらに、れっきとした利用規約=契約であるにもかかわらず、条文につけられていた条項番号すらなくなってしまいました。こうなるともはや、契約を読んでいる気すら薄れて、サービス説明のお手紙のような文章にも見えてきます。

どうしてこんなに短く、シンプルにしたのか?一言でいえば、それはGoogleがユーザーと正面から対峙する覚悟を決めたからだと思います。


ポイント1:「訴訟に勝てる」規約ではなく、「読んで分かる」規約に


特に、このすっきりあっさりとした保証・免責条項に、旧versionと新versionの顕著な違いが現れています。

保証および免責

Google は、商業上合理的な水準の技術および注意のもとに本サービスを提供し、ユーザーに本サービスの利用を楽しんでいただくことを望んでいますが、本サービスについて約束できないことがあります。
本規約または追加規定に明示的に規定されている場合を除き、Google またはそのサプライヤーもしくはディストリビューターのいずれも、本サービスについて具体的な保証を行いません。たとえば Google は、本サービス内のコンテンツ、本サービスの特定の機能、その信頼性、利用可能性、またはユーザーのニーズに応える能力について、何らの約束もしません。本サービスは「現状有姿で」提供されます。
一部の法域においては、商品性、特定の目的への適合性、および権利の侵害がないことに関する黙示保証などの保証が認められることがあります。法律で許されている範囲内で、Google はすべての保証を排除します。

基本的には何も保証できない、そして提供できるサービスを「現状有姿」=あるがままに提供するのみである、ということだけをきっぱりと宣言するこの文言。旧versionの14・15条のような具体的な事項例示もせずに一切の免責と書いただけで本当に免責が有効になるのかとか、あるがままとはどのくらいのサービスレベルを指すのかとか、契約的には曖昧さが残る分、裁判となった場合には面倒なことになるのでしょう(たとえば日本の消費者契約法との関係についてはこちら)。

しかし、誰も読まないあからさまな裁判対策用の規約を作るのはやめて、ユーザーが読もうと思える合理的な長さにし、読んでもらうことであらかじめGoogleの姿勢を理解してもらうべきだ。Googleはそう考えたのではないでしょうか。そしてもし訴訟となったときには、この頼りなくなった文言なりの戦い方をしようと、覚悟を決めたのだと思います。

「契約書」とは誰が読むためにあるのか。契約相手か?はたまた裁判官か?この問いは、法務パーソンの中でも意見が分かれるところなのですが、それは裁判官ではない、とGoogleは考えたと見えます。SNSやクラウドサービスは、誰もが手軽に・便利に使えるからこそ、契約書も誰もが読める文言にするのが筋。この英断は、世の中に星の数ほどあるweb上の利用規約に大きな影響を与えることでしょう。


ポイント2:SNS・クラウド時代の契約締結方式「従業員代理型契約」


プライバシーポリシーでも、隙の無いSNS・クラウド対応巧者ぶりを見せつけたGoogleが、利用規約でもまた見せつけてくれました。

事業者による本サービスの利用

本サービスを事業者のために利用する場合、その事業者は本規約に同意するものとします。かかる事業者は、Google とその関連会社、役員、代理店、従業員を、本サービスの利用または本規約への違反に関連または起因するあらゆる請求申し立て、訴訟、法的措置について、請求申し立て、損失、損害、訴訟、裁判、告訴から生じる法的責任および費用、弁護士費用を含め、免責および補償するものとします。

例えば、手軽に始められるエンタープライズ向けSNS/クラウドサービスの代表格Yammerを、会社の中の小グループだけで登録して勝手に使ってる方って、結構いると思います。あんな風に、会社の中で個人が勝手にクラウドサービス使うのって、Yammerの利用規約にもとづく契約はその個人とYammerが結んでいるのか、それともYammerと従業員が所属する法人との間でしているのかが明らかではありません。

これに対してGoogleは、上記引用文言によって、従業員が従業員として会社の業務でGoogleのサービスを使った場合には、それはその会社とGoogleとの契約になるよ、ということをこの利用規約で明言しているわけです。従業員としては大変おそろしい文言ですが、前回の記事の「ポイント3:クラウドが消す“法人と個人の境界”」でも述べたように、SNSやクラウドが会社の内と外の境界を曖昧にしていくことによって、契約の責任主体が誰かも分かりにくくなり、今後かなりの訴訟においてこの「契約者は法人だったのか?個人だったのか?」が争点になるはず。予めここまで文言化するあたりさすがGoogleです。勝手ながら今後、私はこれをクラウドサービスにおける従業員代理型契約と呼ぶことにします。


情報流出を防ぐという意味でfacebookやevernoteを社内からアクセスブロックしている会社は最近増えてきましたが、Google検索やYoutubeまでブロックしている会社は少ないと思われます。そんな現実を考えると、会社として勝手に契約成立させないためには、「Googleのwebサービスを勝手に使うな」という非現実的なルールを徹底するしかなくなりますね…。

ポイント3:それでも絶対にGoogleが譲らない条項が1つあった


最後に、ちょっと法務に詳しい方向けのお話を。

契約書の最後の方には、裁判管轄、不可抗力、完全合意の確認、損害賠償、免責etcといったどんな契約にも共通して規定される「一般条項」とよばれる条文があります。とくに英文契約ではそのパートだけでA4×2〜5枚ぐらいになってしまのが常で、webサービスのように不特定多数を相手にする契約では、会社としての防御本能はより一層強くなることから、勢い文字数も増えていくのが当たり前でした。しかし、Googleの利用規約は、そんな私たち法務の常識を打ち破り、その一般条項ですらスリムにしてしまいました。完全合意条項もカットされていれば、損害賠償額の上限設定すらありません。

それでも、Googleがここだけは死守しようとしたであろう、ほとんど文字数を減らしていない条項が1つだけあります。それは“準拠法&裁判管轄”条項です。

カリフォルニア州の抵触法を除き、本規約または本サービスに起因するまたは関連するいかなる紛争に関しても、アメリカ合衆国カリフォルニア州の法律が適用されます。本規約または本サービスに起因するまたは関連するいかなる主張についても、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ郡内に所在する裁判所においてのみ裁判手続を取ることができるものとし、ユーザーと Google はその裁判所の対人管轄権に同意するものとします。

(冒頭「カリフォルニア州の抵触法の原則に関する条項を除き」の方が適切かと思いますが、それはさておき)その他の条項がどんなに曖昧であろうが、勝手知ったるカリフォルニア州法を準拠法として、自社のホームグラウンドであるサンタクララの裁判所を戦いの土俵にさえできれば、完全勝利にはならなくとも、常識的な範囲でおさまり大負けはしないはず。Googleは、これまでの数多くの訴訟経験の積み重ねの中で、そう割り切ったのだと思います。

以前、準拠法と裁判管轄の交渉でリードする方法についてエントリを書いたことがありますが、やはり契約交渉においては、この2つの要素を抑えた方が勝つのだ、そう確信させられた今回の利用規約改訂でした。