Googleのプライバシーポリシー/サービス利用規約の解説(その1その2)は、質はともあれ速報としてお届けしたことが評価され、一部の方から感謝のお言葉までいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

一方で、「指摘されていることのいくつかは別にSNS・クラウドとは関係ない、昔からあったリスクの話だ」など、知識共有系ブログで起こりがちな知ったかぶりしてんじゃねーよ的ご指導もいただきまして、こちらもありがとうございます。

懲りずに3発目いかせていただきます(笑)。
言葉を商売道具にする法務パーソンにとって、これが一番ショッキングな現実だったりするのですが。

あるはずのアレがなくなった


契約書は、人間が読める自然言語によって書かれます。

多くの日本人にとっては、やっぱり日本語で読めるのが一番ありがたいはずですし、また結果としてそのほうが読み違いによる誤解・クレームも起こらなくなるでしょう。とはいえ、すべての国の言語で契約書を作っていたら、キリがありません。できれば1通のマスター契約書を読んでもらって利用者全員との共通の基準とさせてもらうのが効率的です。そうなると、世界共通語としての英語をマスター契約書の使用言語として選択することが必然の選択となります。

それでも、日本は1億人のマーケットということもあって、多くのサービスで日本語での翻訳が用意されており、英語が苦手な人でも契約内容が理解ができるようになっています。ただし、その翻訳版の契約には、決まってこんな添え書きがなされているのが常。

たとえば、twitterはこう。
ご参考までに日本語の翻訳を用意しました。ただし、法的な拘束力があるのは英語版であることをご了承ください。

Facebookはこう。
本規約は英語(米国)で書かれたものです。本規約の翻訳版と英語版に相違がある場合は、英語版が優先されるものとします。セクション16には、米国外のユーザーに関する一般的な規定の変更が記載されていますので、ご留意ください。

もちろんAmazonEC2も然り。
アマゾンが本契約の英語版の他言語による翻訳を提供した場合であっても、翻訳版と英語版との間に齟齬がある場合には、英語版が優先するものとする。

そしてGoogleの旧規約にも、この記載がありました。
3. 本規約の使用言語
3.1 Google が本規約の翻訳を提供している場合、かかる翻訳はユーザーの便宜を図ることのみを目的としたものであり、ユーザーと Google の関係に関しては、本規約の英語版が適用されることに同意するものとします。
3.2 本規約の英語版と翻訳版で相違や矛盾が発生する場合、英語版が優先するものとします。

“規約の内容・解釈で揉めた際には、英語版を正として争うことになりますよ”という注意書き。これは、これまでの法務の世界では当たり前のエクスキューズでした。

しかし、驚くべきことに、今回リリースされたGoogleの新規約からは、このエクスキューズがなくなっているのです。そう、Googleは、「英語版が正」という逃げ道を作らず、プルダウンで選択できる43カ国すべての国の言語それぞれでこの規約の正規版を作成するという、まさかと思うことをやってのけ、その国の言語に基づいた契約解釈を正面から争うことを表明しています。


s-multiling


こんなことをやってのけるのは、クレ●ジーなGoogleだけなんじゃないか・・・そう思ってMicrosoftのクラウドサービスの利用規約を見たところ、同じく、契約解釈についての言語の限定はありませんでした(仲裁手続きにおける使用言語の指定とドイツにおけるサービス利用時の例外を除く)。世界を股にかける前提のサービス利用規約においては他言語化の波はいやがおうにも避けられないという現実が、露わになってきたということでしょうか・・・。

法務のマルチ○○○○化からはもう逃げられない?


以前、私はこんなことをこのブログで書きました。

法務のアウトソーシング(LPO)を進めなければならないワケ
取引のグローバル化が進んでいる今、“マルチリンガル”が求められるのはどの職種でも同じです。しかし法務については、その国の言語が分かるだけでは役に立たず、そのそれぞれの法律や商習慣といった文化までもが分かる人材を確保して“マルチリーガル”“マルチカルチュラル”にならなければなりません。
マイクロソフトやヒューレットパッカードは、コストセーブのことだけ考えてアウトソースをしているのではなく、国ごとの言語・法律・文化という障壁が存在する限り内製で法務業務を行うのには限界があること、そしてアウトソーシングを進めることが法務ダイバシティを高めそれに対応するベストな手段であることにいち早く気づき、行動を始めたのだ。この記事にははっきりとそう書いてあるわけではありませんが、そのように読み取るべきだと思います。自前では多国籍軍化しえない企業法務部門が、グローバルな競争を勝ち進むためには、必然的にLPOに頼らざるを得なくなっていき、それを契機に法務業務全体の外注化に拍車がかかっていく。私はそう考えています。

Googleもこの規約を多国籍化させるために、法的有効性・顧客が読んだときの分かりやすさについて、現地弁護士事務所にLPOして検証したことでしょう(いや、もしかしたらGoogleだけに自社法務に43カ国の弁護士を抱えているのかもしれませんが・・・)。

SNS・クラウドといった新しいネットサービスがこれだけ急激に広まるようになったのも、どんな国からでもアクセスできること、そして1カ国のブームではなく様々な国でサービスが同時多発的に広まることで生まれるネットワーク効果がサービスの価値を高めるからこそ。その爆発力というメリットの裏側には、いままでの常識が通用しないこんな負担も孕むことになっていくのだなあと、考えさせられてしまいました。

それにしても、非常識に思える多国籍対応を軽々とやってのけ、それを広報で自慢したり鼻にかけたりするわけでもなく、何事も無かったかのようにリリースしているGoogle。この会社の法務と一戦交えるようなことは、できる限り避けたいものです。