AmazonがKindleという電子書籍リーダーを通じて電子書籍の世界を席巻しようとしていることは、多くの方がご存知でしょう。そのKindleプラットフォームで電子書籍を売ろうとする出版者(社)が締結するアマゾン契約(正式名称「Kindle電子書籍配信契約」)を分析した上で、出版業界に警鐘を鳴らすのがこの本。私も今デジタルコンテンツ関係の仕事に携わっているので、参考になるかと思い購入してみました。

著者の北村行夫弁護士は、『引用・転載の実務と著作権法』など、著作者・出版者向けの著作権問題をよく取り上げられている方なので、ご存じの方も多いはず。


アマゾン契約と電子書籍の課題アマゾン契約と電子書籍の課題
著者:北村 行夫
販売元:太田出版
(2012-04-21)
販売元:Amazon.co.jp



電子書店が本を売らせてもらう(売ってあげる)ためだけの契約であれば、こんな規定が設ける必要があるのか、その内容は電子書店の分際を超えてしまっていないか、という規定が随所に見られるからです。

著者がこう指摘するアマゾン契約のいくつかの問題点の中で、法務的にも注目すべきシリアスな問題が、自動公衆送信(送信可能化権)の許諾についてのくだりです。

自動公衆送信権許諾のワナ


電子書籍が話題になり始めたころに、よく問題として取り上げられたのでご存知の方も多いかと思いますが、出版者が書籍を電子書籍化して配信するためには、著作者から著作権法上の“自動公衆送信権”に基づく許諾を得ることが必要になります。

著作権法上出版者に与えられる出版権は、残念ながら自動公衆送信権とは連動していません。従い、出版者は、電子書籍化にあたって著作者から自動公衆送信権の許諾を改めて取らなければならない、という問題がありました。最近ではそのような二度手間が発生しないよう、出版時の出版権設定契約において、出版者が著作者から自動公衆送信権の許諾も併せてとっているのが普通だと思います。

しかし、その自動公衆送信権の許諾をもってしても、実は出版者がアマゾン契約によって電子書籍の配信を実現することはできないということを、筆者は指摘します。

では、出版者が著作権者から送信可能化に基づく許諾を受けている場合、出版者は電子書店に送信可能化を再許諾する契約を結ぶことはできるのでしょうか。
否です。
許諾を受けた出版者は自ら送信可能化して配信することはできますが、その送信可能化権を第三者に対して許諾する権限をもっていないからです(著作権法63条)

そう、著作者から自動公衆送信権を許諾された出版者自身が電子書店をオープンし配信することはできても、Amazonという別の電子書店に対して自動公衆送信権を許諾し配信させるとなると、これはまた別の権利の問題となるのです。多くの出版者は第三者に自由に再許諾できるまでの権利を著作者から取得しておらず、したがってKindleを通じて電子書籍販売をすることはできないはずである。これは重要な指摘だと思います。確かに、私が共著で出させてもらった本の契約書においても、送信可能化権の再許諾権までは許諾されていませんでした。

※なお社団法人日本書籍出版協会作成の「出版契約書ヒナ型(一般用 2005年)」では再許諾権なし、「出版等契約書ヒナ型(電子出版対応、2010年)」では再許諾権ありに変更されていました。

Amazonは、日本の著作者の権利意識の目覚めを待っている?


この点についてアマゾンはどう考えているのでしょうか?

実は、アマゾン案はアメリカにおける出版ビジネスの前提をそのまま、適用しているところからきています。アメリカの出版者は、著作者から著作権譲渡を受け、著作権者になっています。ですから出版者はアマゾンに対して送信可能化権(アメリカはこの法的概念を持っていませんが、それに相当するものという意味です。)に基づいて許諾ができます。
アマゾンは、出版者が「権限を持っている限り」か否かの判断はすべて出版者の責任の問題としているのです。
したがって、出版者自らが著作権者の許諾のもとに送信可能化する代わりに第三者に再許諾する行為は、著作権者との間にそのような特約でもない限りできません。勝手にやれば契約違反です。
しかも再許諾は、著作権者から見ると、出版者という存在がやがて、余分な障害に見えてくることになります。

つまり、Amazonは自動公衆送信権リスクの存在を分かっていながら、それを出版者に押し付けているのではないか、というわけです。そしてこの本の著者北村先生は、出版者を擁護する立場から、「このようなアマゾン契約のいいなりになるべきではない」「出版者が出版者として正しい権利を確保すべくAmazonに主張すべき」と述べられています。それを図示したのがこれ。

amazonkindle


左図のようにAmazonが出版者・取次・書店の機能と権限を上流から下流まですべて取り込もうとしているのを、右図のように“出版者サーバー”と“電子書店サーバー”の概念を明確に分け、出版者とは違うたんなる電子書店の1つに過ぎない存在としてAmazonを位置づけよ、と。

一方で、出版者のユーザーたる著作者の視点から考えると、この右の図の状態を実現するメリットはあまり感じられなかったりもします。そもそも電子書籍はリアル書籍と違い、“本を刷ったが売れ残ってしまう”これまでの典型的な出版リスクを抱えることもなく、たんに電子書籍のファイルをサーバーに預けるだけなのに、出版者を挟む必要が一体どこにあるのだ。そんな出版者に“再許諾権”を与えてしまうぐらいだったら、出版者をすっ飛ばして著作者として直接Amazonに送信可能化権を許諾すればいい。著作者がそう気付いてしまうのは時間の問題ではないでしょうか。

さらに言えば、そもそもAmazonともあろう会社が、前述の自動公衆送信権再許諾リスクにただ知らんぷりを決め込んで法的責任を出版者に押し付けているだけとは、私には思えません。もしかしたらAmazonは、あえてバカを装ってこの問題を放置することで、日本の著作者の出版者に対する権利対抗意識を目覚めさせる狙いがあるのでは、とすら思っています。なぜなら、「権利を持っている自分が(上述引用部のアメリカ出版者のごとく)Amazonと直接契約するからいいさ」と、著作者側から「出版者不要論」が巻き起これば、Amazon自身が出版者とケンカせずに済むからです。

そんな裏のウラを邪推してしまうのですが、考えすぎでしょうか。