先週は日本のファーストサーバ、今週はAmazonと、世界各地で相次いでクラウド/データセンターの障害が発生し、その上でサービスを展開する法人に大打撃を与える事態が発生しています。あれ?自前でサーバーを持つよりもそういうリスクが低減できるのがいいところじゃなかった?という感じですが、ファーストサーバはメンテナンス中の事故、Amazonは自然現象が原因とはいえ、事業を支えるシステム・データを人に預けてしまうことの危険性を改めて認識させてくれています。

Amazon EC2が落雷で障害 InstagramやPinterestがダウン(ITmedia)
米Amazon.com傘下のAmazon Web Services(AWS)の複数のクラウドサービスで米太平洋時間の6月29日午後8時過ぎから障害が発生し、Instagram、Pinterest、Netflix、Herokuなどのサービスが数時間にわたってダウンした。AWSのステータスダッシュボードによると、北バージニアにある米東海岸リージョンが激しい雷雨のため停電したのが原因という。
停電は数十分で回復したが、この停電でEC2のストレージ(Elastic Block Store)のデータに不整合が起きたとしている。

この停電に伴うほぼ丸一日の障害によって、Amazonはユーザーに対しどのような責任を負うのか。今日は、ウェブサービスのベンチャー企業様ならほぼ例外なく利用されているであろうAmazon Web Servce(AWS)の利用規約を見てみましょう。ファーストサーバの利用規約では、重過失事故であっても損害賠償額の上限を定めていることについて、さまざまな批判もありますが、米国流の利用規約なんてもっと容赦無いぜ、ってあたりを目の当たりにして頂くいい機会かと思います。

AWSカスタマーアグリーメント
AWS

利用規約が左側のメニューにいくつもならんでいて構成が複雑ですが、ここでチェックするのは「AWSカスタマーアグリーメント」。この規約にはAmazonがユーザーに対して負う義務が記載されています。が、ほとんどが如何にその義務を免責するかという免責条項に終始しているのが米国流。以下、その特徴的な部分を、ファーストサーバの利用規約と比べてみましょう。


不可抗力条項に一片の隙なし


まず今回は、サンダーストーム(雷雨)による停電が直接の引き金と発表されています。その場合に適用されそうな条文がこれ。

13.2 不可抗力
アマゾンおよびアマゾンの関連会社は、本契約に基づく義務の履行遅延または履行不能につき、かかる遅延または不履行がアマゾンの合理的な支配の及ばない原因によるものである場合には、責任を負わない。かかる原因には、天災、労働紛争その他の産業騒乱、システム全体にわたる電力、電気通信その他の公共サービスの故障、地震、嵐その他の自然現象、封鎖、通商停止、暴動、政府の行為もしくは命令、テロ行為、および戦争が含まれる。

当ブログの検索経由の人気記事「契約書の不可抗力条項に列挙される事象を整理しながら、不可抗力とそうでないものの境界線を探ってみた」に列挙しているほどの数ではありませんが、短い文章の中に網羅的にリスクを記載し免責していますね。今回のサンダーストームによる停電で言えば、「システム全体にわたる電力、電気通信その他の公共サービスの故障」「嵐」「その他の自然現象」であったりという部分の適用を主張するでしょう。

この点、日本流のファーストサーバさんの利用規約では、「別記1 サービスレベルとその保証にかかる特約」の第3条に、こんなちょろっとした一言で触れられているのみ。

第3条(月間停止時間の例外)
(6)天災地変等不可抗力により本サービスを提供できないことに基づく場合

日本の契約書での不可抗力条項だと、この程度の言及しかしていないものは、まだまだザラにありますね。

容赦ない無保証


Amazonの今回の障害は不可抗力ではない、と主張するユーザーも出てくるでしょう。なぜなら、冒頭時の記事引用部にあるとおり、サンダーストームに伴う停電は数十分だったのに、回復後もデータベースをほぼ1日の間回復できなかったからです。では、そういった主張に対し、Amazonはどのように対抗する・できるでしょうか?

通常、インフラ系の利用規約には、◯時間連続してダウンしたらそのダウン時間に対応した返金を行う、という返金保証があるのが常。ファーストサーバさんの利用規約もそうですし、東京電力の電気供給約款もそうでした。そしてファーストサーバさんの例では、故意・重過失による損害が発生すれば、それまで顧客が支払ったサービス料合計相当額までは損害賠償をするということも宣言されていました(重過失かどうかについて争いがあるのは御存知の通り)。

この点Amazonは、別途サービスごとに定められたサービスレベルアグリーメント(SLA)で、稼働率等が基準を下回った場合、“将来の”AWS利用の支払いに充当できるサービスクレジットとして付与することが規定されています。決して返金ではなく、将来の費用と相殺しているのがミソ。加えて、それ以外一切の責任は、以下の「保証の否認」と「責任限定」の2つの条項によりあっさりと否定しています。

※多少読みやすくするために、改行を入れています。
10.保証の否認

提供される本サービス内容は「現状」のままで提供される。

アマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーのいずれも、提供される本サービス内容または第三者コンテンツに関して、提供される本サービス内容または第三者コンテンツが中断されないこと、エラーがないこと、もしくは有害な構成要素を含まないことの保証、またはサービス利用者コンテンツおよび第三者コンテンツを含むすべてのコンテンツが安全であり、その他紛失または損傷もしないことの保証を含め、明示であると黙示であるとを問わず、法定のものであるかその他のものであるかに関わらず、いかなる種類の表明も保証もしない。

法律により禁止される場合を除き、アマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーは、商品性、満足な品質、特定目的への適合性、非侵害および平穏享有に関する黙示の保証ならびに取引過程または取引慣行により生じる保証を含め、一切の保証をしない。
11.責任限定

アマゾン、アマゾンの関連会社またはライセンサーのいずれも、いかなる直接、間接、付随的、特別、結果的または懲罰的損害(利益、のれん、使用またはデータの損失による損害を含む。)につき、たとえ当事者がかかる損害の可能性を通知されていたとしても、サービス利用者に対して責任を負わない。さらに、アマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーのいずれも、以下の(A)から(D)に関連して生じる填補、償還または損害賠償につき、いかなる責任も負わない。

(A)サービス利用者が本サービスを利用できない場合((I)本契約、またはサービス利用者による提供される本サービス内容へのアクセスもしくはその利用の、解除または停止、(II)アマゾンによる本サービスの一部または全部の中止、または(III)サービスレベルアグリーメントに基づく義務を制限することなく、その理由を問わず(停電、システムの故障その他の障害の結果である場合を含む。)、本サービスの全部または一部の予期されない、または予定されないダウンタイムの、いずれかの結果としての場合を含む。)、

(B)代替の商品またはサービスの調達費用、

(C)本契約、またはサービス利用者による提供される本サービス内容の利用もしくはアクセスに関連して、サービス利用者がなした投資、支出または履行約束、

(D)サービス利用者コンテンツまたはその他のデータへの不正アクセス、その変更、またはその削除、破棄、損害、損失もしくは保存の失敗。

いずれの場合も、本契約に基づくアマゾン、アマゾンの関連会社およびアマゾンのライセンサーの責任の総額は、請求の原因となった本サービスについて、かかる請求に先立つ12ヶ月間に本契約に基づいてサービス利用者がアマゾンに対して実際に支払った金額を限度とする。

このサービスが止まろうがデータが消えようが、なにしようが(SLAによるサービスクレジットの付与対応以外)知ったこっちゃない。「たとえ当事者がかかる損害の可能性を通知されていたとしても」つまり「そんなやり方で事故ったら責任問題だぞ」とユーザーがAmazonに警告をしていたとしても、責任はとらない。という契約になっています。このリーズナブルな価格である代わりに、そういう品質保証のないサービスであることを認識の上、契約してくださいねということでしょう。

営業担当者を信じるな ― 完全合意条項の恐ろしさ


ファーストサーバでもう一つ問題になったのが、営業パンフレットや営業トークでは「バックアップをとっている」と説明してしまっていたという点。嘘つきにはしかるべき制裁を、というのが日本的感情論ですが、米国流契約では、そういうものが一切通用しません。この利用規約以外に何か違う説明を受けたとしても、この利用規約に書いてある事が合意のすべてである、ということが明言されています。

13.12 完全合意 

本契約には、アマゾン規約が含まれ、本契約は、本契約の対象事項に関するサービス利用者とアマゾンの間の完全な合意を構成する。本契約は、本契約の対象事項に関して、本契約以前の、または本契約と同時に存在する、書面または口頭によるサービス利用者とアマゾンの間の一切の表明、了解、合意または連絡に優先する。サービス利用者とアマゾンの間の他のいかなる合意にかかわらず、本契約第3条のセキュリティおよびデータ プライバシーに関する規定は、サービス利用者コンテンツのセキュリティ、プライバシーおよび秘密保持に関するアマゾンおよびアマゾンの関連会社の義務のすべてを含むものである。

アマゾンは、サービス利用者がその注文書、領収書、受領書、確認書、連絡その他の文書において提示する、本契約の規定と異なる、またはそれに追加される、いかなる条件またはその他の規定(それが本契約を重大に変更するか否かを問わない。)にも拘束されず、かかる条件その他の規定に拘束されることを明確に否認する。

本契約の条件が、アマゾン規約のいずれかに含まれる条件と矛盾する場合には、本契約の条件が優先する。ただし、サービス条件と矛盾する場合には、サービス条件の条件が優先するものとする。(以下略)

これ、海外企業との契約書には必ずと言っていいほど入っている定番の条項なのですが、これがある以上、たとえ書いていないことを耳にして契約したとしても、それをもとに請求はできないのです。それが嫌だったら、契約書に書いておけば良かったじゃない、ということ。

一方で、ファーストサーバさんの規約には、6/25のエントリにも書いたように

第1条(約款の適用)
4. 当社のウェブページ等において当社が公開するまたは個別に通知若しくは提供等する本サービスの機能説明、利用方法に関する説明、注意事項及び制限事項等(以下「説明書等」といいます。)は、本約款の一部を構成するものとし、本サービスの利用に適用されます。

と全く逆のこと、つまり「利用規約に書いてないことも説明をした以上は責任を取る」、と記載されていたわけです。このあたり、日本流の契約文化との差がもっともハッキリと現れているところでしょう。

戦おうにも、裁判地が遠いです・・・


日本のユーザーがもしAmazonのこういった態度に不満を感じて「訴えてやる!」となっても、ファーストサーバと勝手が違うのが、文句を言うにもアメリカの遠い裁判所まで行かなければならないということでしょうか。

13.11 準拠法、裁判地 
本契約およびサービス利用者とアマゾンの間に生じるすべての種類の紛争は、法の抵触に関する規則の適用は除外して、アメリカ合衆国ワシントン州法に準拠する。提供される本サービス内容または本契約に関連して、当事者が合計7,500ドル以上の救済を求める紛争の場合には、アメリカ合衆国ワシントン州キング郡に所在する州裁判所または連邦裁判所で判断されるものとする。サービス利用者はこれらの裁判所の専属管轄権および裁判地に同意する。(以下略)

日本の首都、都心にある東京地方裁判所で争えるファーストサーバさんと違い、こののどかなキング郡(行ったことありませんが、ストリートビューでも裁判所は撮影対象外地域でした…)の裁判所に弁護士を連れて行くだけで、一体何百万掛かるのやらと。

kingdistrictcourt

アマゾンウェブサービスの日本支社を訴えるという手もありますが、基本的に裁判管轄条項で合意するとそれには日本の裁判所も逆らえないので、訴えは受け付けてもらえません。相当な訴訟額でかつ勝てる見込みが無い限り、事実上法的紛争に打って出るのは経済合理性に合わないと思った方がよいでしょう。

2012/7/5追記:
ファーストサーバさんの裁判管轄地はまさかの「大阪」でしたので訂正します。条文読んだんですけど目が素通りしてました・・・。



現実には、昨年の数日間に渡るシステム障害において10日間のサービスクレジットで補償をしたような方法で、ユーザーの感情を和らげる対応は今回も取られるものと思います。でもそれだけ。ファーストサーバ社のような事故を起こしても、将来使えるサービスクレジットのamountが増えるだけでしょう。

クラウド/データセンターのサービスなんてそんなもんだよね、それが社内にサーバ機器とシステム要員を抱えなくて済ませることの代償だよねということを、まざまざと示してくれます。