法務パーソンは、その立場上、ビッグデータとかライフログというキーワードに、否定的・懐疑的なスタンスを取らざるを得ないのがつらいところです。言葉の定義からして曖昧なものに安易に首を立てに振っちゃいけない仕事ですからね。とはいえ、会社としてはこのテーマに興味津々で、そろそろ議論に巻き込まれそう、とりあえず反対とか言っておけばいいのかな・・・などと内心ビクビクしている方も少なくないのでは。

そんな法務パーソンに多くのヒントを与えてくれる本が出ましたのでご紹介。


ビッグデータ時代のライフログ―ICT社会の“人の記憶”ビッグデータ時代のライフログ―ICT社会の“人の記憶”
著者:曽根原 登
販売元:東洋経済新報社
(2012-06)
販売元:Amazon.co.jp



このタイトルのかるーいノリに反して、中身は法律や各省ガイドラインとの整合・矛盾・これからの課題といったところが丁寧に検証された、真剣な筆致になっています。それもそのはず、法律面に関しては、法曹会から森亮二先生・法学会から石井夏生利先生のお二人が著者として書かれているからなんですね。

その他の方が書かれている部分も、興味深いデータが沢山。比較的身近なクッキーに潜む問題点について指摘している部分を例に挙げて紹介してみましょう。

個人識別性のない情報については、HTTPクッキーを使って収集されることが多い。このHTTPクッキーは、図表4ー16のように、ほぼすべてのウェブサイトで利用されている。また、第三者クッキーを利用しているウェブサイトは、77%に及ぶ。この第三者クッキーを、登録されたドメインから、どの様な目的で利用されているのかを推測し、広告やマーケティングに第三者クッキーを利用しているウェブサイトを割り出した結果が、58%である。
第三者クッキーがライフログの第三者提供に提供しうると捉え、第三者クッキー利用サイトの中から、広告やマーケティングに利用していると推測されたウェブサイト50社を抽出し、個人識別性を有しない情報について、第三者提供を記載しているか否かを調べた結果が図表4ー17である。

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第三者クッキーを利用してライフログを第三者提供していることについて、プライバシーポリシー他で利用者に通知していない企業がほとんどだ、ということ。
クッキー情報は個人識別性がない→だから法律上の個人情報には直ちにあたらない(はず)→従ってわれ関せず・・・を決め込んできた法務の方は、ドキッとする数字じゃないでしょうか。


このような具体的な事象を取り上げるこの本を読んで改めて気づかされるのは、「ビッグデータ」「ライフログ」という曖昧な言葉で「産業の発展とプライバシーのバランスを如何にとるべきか?」なんていう議論を進めようというのは無理な話で、その中に包含された個別のイシューを丁寧にブレイクダウンして、各論で議論を進めていく必要があるなあということです。たとえば、この本にでてくるだけでも

・ID認証の必要性とレベル分け(知識認証・端末認証・生体認証etc)
・ID連携とID統合
・国民ID制度(住基ネット・マイナンバー法案etc)
・第三者機関(独立監視機関)
・通信の秘密
・暗号化技術
・クッキー・Java・HTML5技術
・画像情報
・データ匿名化(k匿名化・ノイズ付加手法)
・情報の個人識別性
・忘れてもらう権利・追跡拒否(Do Not Track)
・防災・医療・教育と個人情報
・青少年保護

ざっとこれぐらいのキーワードが出てきます。法務/情報セキュリティ/コンピューティングそれぞれの知識・経験を備えた上で、立て板に水のようにこれらについての論点・問題点を指摘できる人は限られているでしょう。限られてはいるんですが、ここからは逃げるわけにはいかない。じゃあどういう順番で・誰が・どのように片付けていったらいいんだろうか?っていう話なんだと思います。

法務パーソンとしては、まずは自分の会社において「ビッグデータ」「ライフログ」と呼ばれる個人に関する情報収集手段(技術)をどう取り込もうとしているのか、マーケティング部門の動きを見守っていくことが大事でしょう。その一方で、個人としても上記に列挙したようなキーワードにしっかりキャッチアップできる知識(法律以外の知識)を身に着けておくこと。こちらが確かな知識を備えた上で、適切なタイミングで、時に教えを請いながら、商売のためにこれらを必要としている現場と各論ベースで議論を交わすことが必要だと思います。最初から私達のような部門が大所高所からの意見をぶっていては、上で見たように細かいイシューが多いだけに、議論が発散してしまいまとまりようがありません。

私はウェブ業界に居る知人・友人の力もお借りして、この分野をどう整理して議論を進めていくべきかを考えていきたいと思っています。皆様の知見も是非お貸しいただければと。