海外の法務ニュースを漁っていたところ、ちょっと興味深いニュースを見かけました。以下日本語で読める記事を見つけたのでご紹介したいと思います。

ブルース・ウィリス、自身の死後のためにアップル社を訴える?(Hollywood News)
Bruce俳優のブルース・ウィリスが、これまで集めた音楽データを保持するために米アップル社を訴える準備をしているという。
現在57歳のブルースは、アップル社のiTunesで購入した音楽データを自身が死んでから自分の家族に渡したいと考えているそうだ。iTunesの利用規約では、ダウンロードした曲はすべて“借りている”ものと見なされていて、購入した人が所有しているものではないことになっている。同社はほかのユーザーと曲をシェアしようとしたことがわかると、アカウントを凍結させる手段を取る可能性もあるそうだ。そのため、利用者が死亡した場合、これまでダウンロードしたデータは誰のものでもなくなってしまうというのだ。

言われてみれば確かにどうするんだろ?という話を、ブルース・ウィリスほどのビックネームが疑問に持ち始めてさあ大変ということで、海外の法務系メディアのいくつかが取り上げはじめています。

記事にあるように、iTunes のサービス規約を読んでみると、

映画のレンタル(以下に定義)を除き、お客様は、アイチューンズが認めた5つのデバイス上でいつでも本iTunes商品を利用される権限が与えられるものとします。
本iTunesサービスの登録ユーザとして、お客様はアカウント(以下「本アカウント」といいます)を作成することができます。お客様の本アカウント情報を第三者に開示しないでください。
お客様は、お客様が許可された以外の本アカウントにアクセスし、またはアクセスの試みを行うことはできません。
アイチューンズおよびそのライセンサーは、本iTunesサービスに含まれる本iTunes商品、コンテンツ、その他のマテリアルの一切を、いつでも、通知することなく、変更、停止、除去、またはアクセス不能にする権利を留保するものとします。アイチューンズは、本規約に基づき、これらの変更等をすることに対し、一切責任を負わないものとします。また、アイチューンズは、いかなる場合においても、通知することなく、また責任を負うことなく、本iTunesサービスの特定の機能または一部の利用やアクセスを制限することができるものとします。

このように、そうははっきりと書いていないものの、
・顧客ごとに一身専属の「アカウント」(とそれに紐付くデバイス)に対して
・デジタルコンテンツの「利用権」を認めるものにすぎず、
・その「利用権」を設定したアカウントを誰かに渡すこともできず、
・場合によってはアップル(の子会社アイチューンズ株式会社)が「利用権」を剥奪することすらできる
ことになっています。

これはなにもiTunesだけが特別にそういう屁理屈をこねているわけではなく、現在存在する「有料デジタルコンテンツ」のほとんどが、法律的・契約的にはこのような“人(アカウント)に対する利用権の付与・貸与”、という構成をとっていると言っても過言ではありません。

本やCDのように、作家やアーティストの頭の中から生まれた成果を“モノ”に固定して販売していた時代は、その本やCDを誰に譲ろうが売ろうが、法的にはお咎めがありませんでした(これを法律的には「知的財産権の消尽」と言ったりします)。モノの寿命が尽きれば必然的にそのモノに固定されていた成果にもアクセスできなくなるということで、あまり問題にならなかったわけです。しかし、モノに固定して販売するのではなく、物理的には寿命のないデジタルコンテンツを販売する手法として、“人に対して利用権を認める”という構成を採用するにあたって、その利用権の譲り渡しを認めるべきか否か?それを認めないとするiTunesのような考え方は果たして合理的なのか疑問をもつべきでは?というのが、今回ブルース・ウィリスが投げかけている問題です。

おそらく、デジタルコンテンツを商売にしている企業のみなさんにとっては、ブルース・ウィリスの言っていることは非常識・荒唐無稽な主張に聞こえるでしょう。しかし、実はEUにおいて、まさにダウンロード販売で購入したデジタルコンテンツやソフトウェアの譲り渡しができるかできないかを争った裁判がいくつか発生しており、つい最近、譲渡を認めるべきとしたこんな裁判例も現れ始めています。

European Court Rules on Copyright Exhaustion Rights for Software
The European Court of Justice, in UsedSoft GmbH v Oracle International Corp., recently ruled that it is not a copyright violation for purchasers to resell legally obtained and downloaded software. This continues a recent trend in Europe of limiting copyright protection for software.

ソフトウェアに関する著作権は、CD-Rなどのモノに固定で販売された場合のみならず、ダウンロード方式で販売された場合についても同様に消尽(販売者側から権利の制限ができなくなる)すると判断したという裁判例。つまり、ブルース・ウィリスの言っていることも、あながちおかしな主張ではないかもしれない、ということです。

音楽ファイル、アプリ、電子書籍など、デジタルにパッケージされ販売されるデジタルコンテンツには、リアルの“モノ”の所有権ともこれまでの著作権とも違う、新しい権利を法律的に考えて設定しないと、この問題は解決しないようにも思えてきました。