秋のIT系法律実務書祭り、第二弾としてご紹介するのがこちら。今年7月24日のSOFTICクラウドセミナーで発刊がアナウンスされてから3ヶ月、首を長くして発売を待ちわびていたところ、発売日前に第一法規さまからご献本を賜りました。ありがとうございます。


クラウドビジネスと法クラウドビジネスと法
販売元:第一法規株式会社
(2012-10-29)
販売元:Amazon.co.jp



インターネット新時代の法律Q&A』が“広く漏れなく”に重きを置いたレイトマジョリティ向けの作りになっているのに対して、こちらは対象的に“ピンポイントに深く”に重きを置いたアーリーアダプター向けの本、と言ってよいでしょう。この分野に一家言もつ弁護士が最先端課題について掘り下げた論文集といった趣きもあり、読み応えがあります。

タイトルとなっている「クラウド」の法的問題に関して、既に多数発刊されているクラウド法務本がさらっと流して逃げてきたポイントにむしろ突っ込んだ検討がなされている点に特徴があります。企業のクラウド採用に二の足を踏ませているデータ差押えの問題/ボーダレス化に伴う準拠法の取扱い問題に対する論稿がまさにそうですし、より先取り感・新味のあるところでは、特許権への抵触リスクに対する論稿もあります。

s-IMG_0580


さらに続く後半には、クラウドとは切っても切れないオンラインビジネスに関する論稿もあわせて収められているのですが、私はこの後半に収められた以下4つの論稿に惹きつけられてしまいました。
  • RMT(リアルマネートレード)に対する対応
  • IDパスワードの冒用と「本人利用みなし条項」の有効性
  • 匿名組合型ソーシャルレンディングの法律問題
  • 決済代行ビジネスと「為替取引」規制
上2つは私が身を置くIT×エンタテインメント業界において課題とされながらも長きにわたり解決策が見いだせていない領域のお話。そして下2つは、今まさにネット上の電子マネーがリアルマネーの量を上回らんかという中で答えを求められている領域の話。これらのアンタッチャブルな領域にこのタイミングで突っ込んでいるところに、この本のチャレンジ性がよく表れています。以下は、RMTについての「小括」部分(p162)からの抜粋。

以上をまとめると、ゲーム・プロバイダによるRMT事業者に対する法的対応の可能性を検討すると、以下のとおりである。RMT事業者が自らアカウントを取得している場合には、利用規約違反行為として、利用規約に基づく制裁が可能である。⊆らアカウントを取得していなくとも、第三者を通じてゲーム内で迷惑行為等を行う場合には、不法行為による対応が可能である。ゲーム内で問題行為を行なっていなくとも、ユーザーに対して仮想通貨・アイテムの譲渡を積極的に呼びかける場合には、債権侵害の不法行為が成立する可能性がある。RMT行為を著作権ないし著作者人格権侵害とする主張が認められる可能性は低い。

日夜このRMT問題に気を揉んでいるオンラインゲーム業界の方々には、ここを読んだだけでも、この本の価値が伝わるのではないでしょうか。

法も規制なく判例もほとんどないこれらのテーマについて今言及するのは、法に基づきアドバイスをする弁護士としても、そしてできれば息長く売れる無難な本に仕上げたい出版社としてもつらいところだったと思いますが、こういうチャレンジをしてくださる弁護士であり出版社だからこそ、支持が集まるというところもあると思います。さらには、上記4テーマのうち3つが英知法律事務所の森亮二先生の手による論稿であるという点も、言及をしておきたいところです。SOFTICクラウドセミナーの資料にも森先生が「続きは新刊本で」と煽っていらっしゃった様子が残っているように(以下当日の資料)、それだけこの論稿に力を注がれたということでもあるのでしょう。森先生の各所での精力的な執筆活動に、我々IT業界の法務パーソンは助けられているなあと。

s-IMG_0564


そろそろ書店にも並ぶ頃かと思います。秋の夜長にしっかりと読み込む価値のある本です。