ソフトウェア・システムおよびそれらに関連するドキュメント類を成果物として納めていただく開発委託契約の発注者として、請負人の担保責任の存続期間を定めた民法第637条を基準に、成果物の瑕疵担保責任期間を1年と記載した契約書をドラフトすると、その交渉の過程で相手の法務担当者から、

商法第526条2項に定められている通り、ソフトウェア関連の瑕疵担保期間は6ヶ月でお願いしております。

とコメント付きで修正されて返ってきたことが1度や2度ならずあるのですが、皆様はそんなご経験おありではないでしょうか?

s-syouhoukashitanpo


確かに、商法第526条2項には、商人間の“売買”取引における迅速な検査結果通知義務が定められています。

(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条  商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

瑕疵担保期間が1年もあるなんて長すぎる、と言いたいのは分かります。しかし、これは商人間の“売買”契約に適用される条文であって、商人間の“請負”契約にもこれが準用されるという規定はありません。もし法定の瑕疵担保期間を交渉の基準に持ち出すならば、民法第637条の1年が基準になっちゃいますよ、と。

念のため複数の民法・商法文献にもあたりましたが、上記のようなシチュエーションについて具体的に述べた文献は無いものの、請負契約における瑕疵担保責任の規定は有償契約一般に準用される売買契約の瑕疵担保規定の特則であること、さらに、売買契約の瑕疵担保期間は瑕疵を知った買主の権利行使についての期間制限という意味を持つのに対し、請負契約の場合は瑕疵担保責任の存続期間という意味を持ち、そもそも性質が違うことからも(内田『民法供P274ー283)、冒頭の相手方法務担当者の方がおっしゃる「商法第526条2項が民法の請負契約の瑕疵担保期間を定めた第637条をオーバーライドし、商人間の請負契約における法定上の瑕疵担保期間は6ヶ月となるので、これを基準とすべき」という考え方は誤りなのかな、と思います。

なお、開発委託契約を請負と売買の混合契約である“製作物供給”契約と捉える立場に立つと、この商法第526条2項が適用される余地もあるようです(江頭『商行為法』)。しかし、通常企業間のソフトウェア・システム開発委託契約をわざわざ製作物供給契約との了解で受発注することは考えにくく、冒頭の相手方法務担当者もそこまで考えての発言ではないでしょう。もしそうだったら、「当社としては本契約を製作物供給契約と捉えており」とコメントがつきそうなものです。


ちなみに、IT系法務担当者なら誰もがご存知であろう吉田正夫先生の『ソフトウェア取引の契約ハンドブック』P80ー81には、こんな記載がありました。

ソフトウェア取引の契約ハンドブックソフトウェア取引の契約ハンドブック
著者:吉田 正夫
販売元:共立出版
(1989-09-25)
販売元:Amazon.co.jp

 契約に特に定めがなくてもプログラムなどの成果物に瑕疵があれば、ソフトウェアハウスは瑕疵担保責任(修補、損害賠償、解除、民法第570条、第634条、第635条)を負うことになる。
 ところで、民法、商法の「売買」の規定は、有償契約(対価を得て行う契約でシステム開発委託契約も有償契約の一つ)に準用されると考えられるので、民法、商法の売買の規定を見ておく必要がある。商法第526条は、商人間の売買について、買主は遅滞なく検査をなし、瑕疵を発見した時は直ちに(ただし、隠れたる瑕疵は6か月以内に)売主に通知しなければ、売主の担保責任を追及しえない旨定めている。これは、売主が引き渡し後いつまでも不安定な立場におかれることを回避するための規定である。

この記述だけ読むと、「商人間の“請負”契約にも商法第526条は準用され、瑕疵を発見した時の通知責任は、明らかな瑕疵について直ちに/隠れたる瑕疵は6ヶ月以内で定めるのが適当」とも読めてしまうような。法務担当者に広く読まれている本としては、ちょっとミスリーディングな記載になっているような気がしますが・・・。


もちろん、商法第526条2項にせよ民法第637条にせよ当事者間の合意によって変更可能な任意規定であり、通常は交渉の上契約書に瑕疵担保期間を特約(して法定の瑕疵担保期間を上書き)しますから、実務上問題になることはあまりありません。とはいえ、条文に立ち返るクセをつけないと、冒頭の法務担当者のようなコメントを相手方に返してしまうこともあるかもしれないと、あらためて思いましたし、実は、私が共著者ともなっている『ITエンジニアのための契約入門』P222にも、この点について誤解を招く記載をしていることが発覚したので、訂正をしなければと思っています(申し訳ありません!)。
 

以上、自分への自戒を込めての投稿でした。