さて、今年もビジネスロー・ジャーナルのブックガイドの季節となりました。今回は、ネット界隈でよくお見かけする企業法務部門の方・弁護士の方が数多く登場され、ご自身の得意分野に関する本をおすすめされています。
![BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 02月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51jwnZw9M2L._SL160_.jpg)
販売元:レクシスネクシス
(2012-12-21)
販売元:Amazon.co.jp
恒例の匿名座談会形式の分野別批評会は、法務経験10年超のベテラン揃いということもあってか、例年よりもかなり辛口の意見・ダメ出しが目立って、何もそこまで言わなくてもと読んでいるこちらがドキドキしてしまいました。ネット上の発言と符合して発言者が特定できるコメントもあって、あれ、匿名座談会の意味が・・・という意味でもドキドキ(笑)。
今回紹介されていた235点に関しては、例年より私の蔵書との被り率が高く(それとも今年私が買い過ぎた?)80%超は持っている本でしたが、それでも書店にない絶版本などがちらりと紹介されているのは大変にありがたいもの。今回も、契約法務編で紹介されていた原明彦先生の本などは、早速中古が品切れにならないうちに速攻でamazonさせていただきました。
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さて、ビジネスロー・ジャーナルのブックガイドの季節になると、便乗して勝手ブックガイドを毎年展開している弊ブログ。一昨年は英文契約が書けるようになりたい人のための、そして昨年は法務じゃない人のためのブックガイドを書きましたが、今年はストレートに「法務部のための基本書ブックガイド」を作りました。その場を乗り切るための攻略本的な“実務書”ではなく、法務部門の書棚に常に置いて何度も紐解きたい“基本書”の中からあえて選書するという企画です。

2012.12.23 第二版追記
そもそも、会社・職場において「基本書」を常備すべきなのか?について、企業法務戦士さんからtwitterで以下コメントをいただきました。
企業法務戦士@k_houmu_sensi
「基本書」=特定の法分野の基本的な考え方の体系、制度趣旨等を(分かりやすく)解説した本、「概説書」=特定の分野の法文の解釈、学説、判例等を網羅的にカバーした上で、体系的に構成し解説を加えた本、というのが自分の定義です。
2012/12/22 23:20:41
企業法務戦士@k_houmu_sensi
なので、職場に備えるべきは、逐条解説・コンメンタール系の本や「辞書」的に使える概説書だと自分は思っていますし、それを備えておけば、仕事には十分でしょう。法を扱う仕事をする以上、法務人が「基本書」を読むことも推奨されるべき、とは思いますが、それは「仕事」ではないのでは?
2012/12/22 23:41:33
12/22にアップした本ブックガイド初版では、ここまでの差異を意識せずに混在させて作成していました。とは言え、各法について逐条解説・コンメンタール数十冊をいきなり揃えるというのも、予算・置き場所を含め会社の理解を得るのは難しいと思います。そこで本ブックガイド第二版ではその間をとって「実務で辞書的に使うのに耐えうるレベルの書」と再設定し、リストの見直しを行ないました。
1.憲法

著者:芦部 信喜
販売元:岩波書店
(2011-03-11)
販売元:Amazon.co.jp
さすがに憲法のコンメンタールを職場に置くのはtoo much、とはいえプライバシー権等を語る上で何も無いのも心細い、ということで1冊置くとすれば定番のこれ。
2.民法

著者:川井 健
販売元:有斐閣
(2009-04-03)
販売元:Amazon.co.jp
当初このブックガイド初版で内田民法を挙げたところ、「わかったような気にさせるが実はわかりにくい」「自説を通説のようにミスリードさせる」「学説・判例等の網羅性に欠け実務には耐えない」等多数のご批判をいただきました(汗)。
新板注釈民法を揃えられない、ただし総則〜債権各論まで全分野がカバーされていることを条件としてどれを選ぶべきかという選択肢の中で、法律実務家の間で支持が高かった/否定的意見がなかったのが川井民法です。これでなければ我妻・有泉コンメンタールという意見が大多数。
3.商法

著者:江頭 憲治郎
販売元:弘文堂
(2010-04-06)
販売元:Amazon.co.jp
会社法と完全分離した後はめっきり存在感のない商法からはこちら。やや実務書的なノリもあるものの、やはり通説・判例との紐付けを確認する本として。商法(商行為法)とは直接的には関係のない電気通信事業法や保険法についても触れられています。
4.会社法

著者:江頭 憲治郎
販売元:有斐閣
(2011-12-19)
販売元:Amazon.co.jp
私は自分使いには未だにアドバンス 新会社法推しだったりするのですが、法務部門に備えるならより網羅的なこの本という結論に。もちろん、コンメンタールを揃えられる環境にある方はそちらで。
5.金商法

販売元:商事法務
(2009-04)
販売元:Amazon.co.jp
金融や投資会社勤務の知人に聞いたところ、千差万別違う回答をいただいてしまいまったくまとまらなかった金商法。最後は私の趣味で、1冊で完結しかつ辞書的に使えるものとしてこちらを。
6.特許法

著者:高林 龍
販売元:有斐閣
(2011-12-15)
販売元:Amazon.co.jp
私は特許には強くないため、てっきり中山先生の本が定番だと思っていたのですが、社内弁理士をつとめる某先輩に伺ったところ、「今やスタンダードの基本書としてはこちら」との貴重なアドバイスをいただきました。
twitterでは出願は特許庁のウェブサイトで十分、係争向けは高部『実務詳説 特許関係訴訟』とのご意見もありました。
7.意匠法

著者:茶園 成樹
販売元:有斐閣
(2012-04-05)
販売元:Amazon.co.jp
こちらも前述の某先輩からご教示いただいたもの。意匠法の基本書自体が少ない中、今年発刊というのも魅力的。意匠法なんて関係ないやと思っていたんですが、この前さっそく検討する機会がございましたよと。
8.商標法

著者:西村 雅子
販売元:発明協会
(2010-04)
販売元:Amazon.co.jp
商標法も基本書っぽいものが少ないだけにどれを選択するか悩ましい分野です。網野先生の『商標』ですかね?と皆さんに問いかけたら「さすがにあの本は実務とのヒモ付が・・・」とたしなめられた次第。結果、こちらが選ばれました。
9.著作権法

著者:中山 信弘
販売元:有斐閣
(2007-10-15)
販売元:Amazon.co.jp
加戸『著作権法逐条講義』が先、という声もありますが、実際業務で紐解く頻度でいけばこちらの方が高いと思われます。これだけで足りるとは思いませんが、この本が法務部にない状態は想像できないですね。ただし2007年刊。そろそろ改訂されないのでしょうか。
10.不正競争防止法

著者:青山 紘一
販売元:法学書院
(2010-11)
販売元:Amazon.co.jp
実務では結構使うのに、基本書の空白地帯であることが改めて明るみになったこの不正競争防止法。度重なる法改正にキャッチアップできているのは、青山先生のこれか『逐条解説』かのほぼ2択状態。経産省ウェブサイトにある解説で十分との声の他、Google+で色々とコメントをいただく先生方からは田村『不正競争法概説』、竹田『知的財産権侵害要論 (不正競業編)』、小野『新・注解 不正競争防止法』のお薦めが。私としては、田村先生に改訂版を出していただきたいです。
11.独占禁止法

著者:白石 忠志
販売元:有斐閣
(2009-09-07)
販売元:Amazon.co.jp
独占禁止法については白石先生で異論がでなかったあたりに、人気の高さが伺えます。私なぞは、読んでいてその頭の明晰さにクラクラしてまだ本当の凄さに気づけていない気がします。
なお、当初このブックガイド初版では『独禁法講義』を挙げましたが、より辞書的なこちらに差し替えました。
12.下請法

著者:長澤 哲也
販売元:商事法務
(2011-08)
販売元:Amazon.co.jp
下請法に関する書籍をブログでよく取り上げられていらっしゃるdtkさんもイチ推しの長澤先生のこちら。公取のせいで面倒くさい思いばかりが先立ってしまう下請法に、独禁法の流れからしっかりと論じて下さる良書。
(文字数が多くなってきましたが続きます)
13.消費者契約法

販売元:商事法務
(2010-04)
販売元:Amazon.co.jp
まだ定番とまでは言えないと思いますが、もっとも辞書的な本としてこちらを挙げておきます。副読本として、『消費者契約における不当条項の横断的分析』もおすすめです。
14.特定商取引法
![特定商取引法ハンドブック[第4版]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51v8o8i9SbL._SL160_.jpg)
著者:齋藤 雅弘
販売元:日本評論社
(2010-09-17)
販売元:Amazon.co.jp
こちらは基本書というコンセプトからは少し離れてしまうかもしれませんが、判例の網羅性に関しては今出ているものの中では最も高いと思われるので入れておきました。
15.景品表示法

著者:笠原 宏
販売元:商事法務
(2010-05)
販売元:Amazon.co.jp
消費者庁のウェブサイトによくまとまっているのであまり紐解くことはないかもしれませんが、ソーシャルネットワーク時代にはさらに問題になっていくであろうこの法律には要注意。
16.資金決済法

販売元:民事法研究会
(2011-08)
販売元:Amazon.co.jp
資金決済法も特にBtoCビジネスにとっては最近アツい法律です。結局届出の要否、前払式支払手段と企業ポイントの差異等の実務的な解説が必要なので、やや実務書っぽいですがこちらを。
17.個人情報保護法

著者:岡村 久道
販売元:商事法務
(2004-11)
販売元:Amazon.co.jp
新書の岡村『個人情報保護法の知識』で十分という声もあり、このブックガイド初版でもそちらを挙げておりましたが、BLJでも判例やガイドラインの網羅性の観点からお薦めの声もあったこちらに差し替え。すでに絶版のため手に入らない方には、代用として宇賀『個人情報保護法の逐条解説』を挙げておきます。
18.行政法

著者:塩野 宏
販売元:有斐閣
(2009-03-25)
販売元:Amazon.co.jp
行政法は塩野三部作で十分とのご意見。
19.労働法

著者:菅野 和夫
販売元:弘文堂
(2012-12-03)
販売元:Amazon.co.jp
安西を推す声も少なくありませんでしたが、やはり体系的にまとめられている点と辞書的機能の高さはこちらに軍配。今年も例によって改版。来年は1,000ページを超えることまちがいなしでしょう。
20.破産法・民事再生法

著者:伊藤 眞
販売元:有斐閣
(2009-06-13)
販売元:Amazon.co.jp
『条解破産法』『条解民事再生法』もありますが、このあたりは企業法務部門における参照頻度とのバランスを考えて、この辺で十分ではと考えますがいかがでしょうか。
21.租税法

著者:金子 宏
販売元:弘文堂
(2012-04-03)
販売元:Amazon.co.jp
租税法は異論なく。それにしても17版とはすごい。
22.民事訴訟法

著者:伊藤 眞
販売元:有斐閣
(2011-12-22)
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菊井他のコンメンタールは置けないという前提でいけば、こちらか笠井『新・コンメンタール民事訴訟法 』のどちらかになりましょうか。
23.英米法
![アメリカ契約法第2版 [アメリカ法ベーシックス]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/41lo8c-hSQL._SL160_.jpg)
著者:樋口 範雄
販売元:弘文堂
(2008-05-09)
販売元:Amazon.co.jp
やっぱり、どんな会社でも多少なりとも英文契約に触れる以上は、ドラフティング本ばかりでなくて英米法、特に米国法の理解は必要だよねということで。
24.六法

販売元:有斐閣
(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp
基本書とは違うかもしれませんが、大切なのであえて入れました。判例部分が青色になっている二色刷り、公法・私法の二分冊、表紙が適度に柔らかい、自由に貼れるひも栞4本に見出しシールつきと、痒いところに手が届く六法。2013年からは模範六法ではなくこちらが定番になりそうな予感。
あらためまして、ご協力いただきました法務パーソンの皆様・先生方に感謝申し上げます。異論やご意見ご提案ございましたら、引き続きどうぞコメント欄までお願いいたします。2014年になるまでの間は、折を見てこのエントリを保存版として改版を加えていくつもりです。
2012年12月22日 初版
2012年12月23日 第二版
下請法については、まずは公取のテキストでは?毎年updateされるし、何よりタダだし。
長澤先生の本は公取ベッタリで無い点で他にない本だけど、最初の一冊はやはり公取のテキストではないかと思います。
あと、英米法のところでは、最初の一冊としては、樋口先生の契約法の本で良いと思いますが、あの本では別にドラフティングとかについて書いているわけではないので、その辺は留意が必要かと思います。