「ウェブサイトがメディアになる」なんて言っていた時代はもう今や昔、スマートフォン時代においてはアプリがひとつのメディアだったり、チャンネルであったりという時代になってきました。いまどきのネットビジネスに携わる企業は、アプリを無料で提供したうえで、いかにユーザーに自社アプリをダウンロードしてもらうか、そしてそれをホーム画面に鎮座させ、アプリ内課金や自社ウェブサービスへとつなげていくかという競争に突入しています。

実際、スマートフォンビジネスの業界では、アプリのダウンロード数がストアでのランキングにも大きく影響をするため、各社しのぎを削ってプロモーション費用を投下しているわけですが、たとえば、無料アプリをダウンロードしてもらうインセンティブとして、そのアプリ内でしか応募できない懸賞企画を実施する場合、果たしてそれは景品表示法上の規制のかからないオープン懸賞になるのか、それとも規制対象のクローズド懸賞となるのかという問題について考えてみます。

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この点、まず前提として抑えておきたいのが、公正取引委員会の「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」です。

インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて(公正取引委員会)
消費者はホームページ内のサイト間を自由に移動することができることから,懸賞サイトが商取引サイト上にあったり,商取引サイトを見なければ懸賞サイトを見ることができないようなホームページの構造であったとしても,懸賞に応募しようとする者が商品やサービスを購入することに直ちにつながるものではない。
したがって,ホームページ上で実施される懸賞企画は,当該ホームページの構造が上記のようなものであったとしても,取引に付随する経済上の利益の提供に該当せず,景品表示法に基づく規制の対象とはならない(いわゆるオープン懸賞として取り扱われる。)(図1−1及び図1−2)。ただし,商取引サイトにおいて商品やサービスを購入しなければ懸賞企画に応募できない場合や,商品又はサービスを購入することにより,ホームページ上の懸賞企画に応募することが可能又は容易になる場合(商品を購入しなければ懸賞に応募するためのクイズの正解やそのヒントが分からない場合等)には,取引付随性が認められることから,景品表示法に基づく規制の対象となる。

ここで問題とされているのは「取引付随性」です。ネットの場合は、たとえ応募できる場所が商取引サイト内にあっても、購入(=取引)と懸賞への応募とがひも付いていなければ、取引付随性なしとしてオープン懸賞扱いにできるという見解が示されています。これを前提とすれば、無料ダウンロード→アプリ内課金でコンテンツを購入させ課金するという現在主流のアプリ形態についても、取引付随性なし、と判断できそうな気がしてきます。


一方で、景品規制の原則に今一度立ち返ってみると、上記「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」の前提となっている告示に、このような記載があります。

景品類等の指定の告示の運用基準について
4「取引に付随して」について
(略)
ウ 小売業者又はサービス業者が,自己の店舗への入店者に対し経済上の利益を提供する場合(他の事業者が行う経済上の利益の提供の企画であっても,自己が当該他の事業者に対して協賛,後援等の特定の協力関係にあって共同して経済上の利益を提供していると認められる場合又は他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合もこれに当たる。)

この告示の趣旨は、「店舗への入店者には、単なるウインドー・ショッピングの者もあるが、経済上の利益を提供することにより入店者を増大させることは、入店者に購入行動を引き起こさせるとの客観的判断により、このような方法は取引に結びつきやすいものとして規定されているもの」(波光巖・鈴木恭蔵著『実務解説 景品表示法』P23)ということのようです。この点、この告示の後に出された冒頭紹介の「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」で、“消費者はホームページ内のサイト間を自由に移動することができることから〜懸賞に応募しようとする者が商品やサービスを購入することに直ちにつながるものではない”という考え方と、どちらの解釈の立場に立つべきかを考えると、なかなかおもしろい問いですね。

仮に、アプリをウェブサイト(ホームページ)よりもクローズドな「自己の店舗」として捉え、懸賞企画によってアプリへの「入店」を促しているとも考えると、取引付随性が認められる可能性もゼロとは言えないかも。もしこう解釈すると、来店を条件として景品類を提供する際の「取引の価額」は“100円又は当該店舗において通常行われる取引の価額のうち最低のもの”が基準となり、一般懸賞ならばその取引価額の20倍が景品上限額となります。実際、アプリ内の課金はiOSでは85円が最低価格だったりしますので、1,700〜2,000円前後が景品の限度、ということになってしまうかもしれないわけです。


つまるところ、無料アプリはウェブサイト同様メディアなのかそれとも店舗なのかという問いとなり、おそらく消費者庁的には「それは具体的なアプリや懸賞企画の態様にもより、ケースバイケースで判断されます(棒読み」となりそうですが、どなたかご見解をお持ちの方はそっとご教示いただければと存じます。



実務解説 景品表示法実務解説 景品表示法 [単行本]
著者:波光 巖
出版: 青林書院
(2012-12)