これまたすごい良書。

意匠法・著作権法・不正競争防止法・商法由来の商号権を含めた「ブランド」に関する権利をどう保護するかという広い視野に立ちながら、あくまでもそのブランド保護の中心的役割を担う商標の実務を解説するところにフォーカス。理論は最小限に、一方で調査登録→権利行使→侵害対応までの実務をはあますところなくマニュアルレベルで記述している本。


ブランド管理の法実務ブランド管理の法実務 [単行本]
著者:明石 一秀
出版:三協法規出版
(2013-07-15)



図形商標調査の方法までも解説


「実務」を語るんだったら、IPDLを使った文字・称呼調査の方法について書いてあるのは当たり前。そのレベルであれば、ブログにまとめていらっしゃる方もいますし、ビジネスロー・ジャーナルさんあたりも得意とするところですが、この本はそれにとどまりません。これまで誰も解説してくれなかった・したがらなかった(できなかった?)図形商標調査の方法について、具体的に記述されているのです。

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現実にはIPDLで図形商標調査をするのは限界がある(有料データベースがどうしても必要)とも言われますが、この領域のノウハウを文字にしたものが極めて限られていたただけに、ついにここまできたかと驚いてしまいました。

侵害通知書・和解書のサンプルもある


ブランド侵害が発生すると、商標の調査・登録は弁理士にお願いするにもかかわらず、紛争となると弁護士の領域になるということもあって、このあたりを両睨みしながら侵害対応実務について解説してくれる人があまりいないのですが、それもやってくれています。

一番わかり易いサンプルがこの通知書の例。さらには和解契約書のサンプルもありますし、それで済まずにに紛争がエスカレートした際の仮処分命令申立、訴訟、ドメイン名紛争処理手続までをも一気通貫にカバー。

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・商品・サービスからブランドを産み育てる企業法務
・調査登録実務を担う弁理士
・侵害に対応する弁護士
この3者の狭間にあったエアポケットが、この本によってかなり埋められた感じがします。

なおこのご紹介の冒頭で「理論は最小限」と書きましたが、決して端折っている感はありません。むしろ、幅広い商標理論も突き詰めればこんなにコンパクトに記述できるのかと驚かされるほどで、理論の正確さを大事にしたい読者層も十分満足できる筆致となっています。動き/ホログラム/色彩/位置/トレードドレス/音/香り匂い/触覚/味といった最新の商標の方向性についても触れられています。この分野で現実に審査基準や法令の改正が行われた際には、本書も改訂されることを期待しています

実務家必携の一冊と言えるでしょう。