年始のIT系法務キーワード・テーマ大予測企画で「プラットフォーマーに対する規制が強化されるんじゃないか」と書いたら、早速それが現実のものとなり始めているようです。


米アップル、ゲーム課金で34億円返還 利用者に (日経新聞)

携帯端末ゲームで親の許可なく子どもに無制限に課金していたとして、米連邦取引委員会(FTC)は15日、米IT(情報技術)大手アップルが、少なくとも3250万ドル(約34億円)を利用者に返還することで合意したと発表した。

問題になったのは、ゲームの追加アイテムを購入する仕組み。FTCは、親が一度パスワードを入力すると、15分間は無制限に購入が可能な点を重視。ペットを育てるゲームで2600ドルを浪費した子の例を挙げた。

FTCとの和解条項では、アップルは親の許可なくアイテムを購入した対象者に、支払額を全額返還。FTCは親の明示的な同意がなければ追加購入ができないよう課金方法を変えることをアップルに求めた。

FTCが示す「プラットフォーマーの責任」


報道にあった「少なくとも3250万ドル(約34億円)」の意味がよく分からなかったこともあり、FTC命令(ORDER)原文を読んでみました。

AGREEMENT CONTAINING CONSENT ORDER

FTCORDER


これによると、
・Appleは、FTCが定めた返金方法に従って対象者から申請された全額を返金する
・返金総額が3250万ドルを下回ったら、その下回った分をFTCに対し(罰金として)支払う
とあります。どこまでさかのぼって返金するかの期限も定められておらず、3250万ドルを上回る可能性もあると。Appleは、返金手続きにおいて、申請時にユーザーから子どもが同意なく利用したという証拠を提出させて、詐欺的な申請については支払いを拒絶できると定められているのですが、現実問題としては、返金額の多さよりも、この確認手続きに相当の負荷がかかるであろうことが予想されます。

また、日経の記事では、ゲーム課金のみが返金の対象のように記載されていますが、FTC ORDERにはそのような限定はありません。さらに、報道では触れられていませんが、強制される返金の対象者は米国居住者に限定されることが明記されています。

あわせて私が注目したのが、FTCのプレスリリースにあったこのFTCチェアウーマンによる“勝利宣言”です。

Apple Inc. Will Provide Full Consumer Refunds of At Least $32.5 Million to Settle FTC Complaint It Charged for Kids’ In-App Purchases Without Parental Consent

FTCPRESS


“This settlement is a victory for consumers harmed by Apple’s unfair billing, and a signal to the business community: whether you’re doing business in the mobile arena or the mall down the street, fundamental consumer protections apply,” said FTC Chairwoman Edith Ramirez. “You cannot charge consumers for purchases they did not authorize.”

ORDERの内容とこの“勝利宣言”をあわせ読むと、FTCは、スマートフォン×ストアをコアとしたプラットフォームサービスにおける課金については、コンテンツを作ってプラットフォームに乗せているデベロッパー(アプリ開発者)ではなく、その販売・決済を牛耳っているプラットフォーマーがユーザーに対し責任を負うべきである、という姿勢を明確にしてきたことが伺えます。

これに対しては、子ども自身やその親の責任も問われて然るべきである、という声もあろうかと思いますし、その点については私も同感ですが、やはり年始の予測どおり、プラットフォーマーに対する規制強化の機運が高まって行くことは避けられないようです。

デベロッパーへの影響


さて、当局としてのプラットフォーマーとデベロッパーの責任分担に対する認識はこれで明らかになったとはいえ、デベロッパーへの影響がまったくないのかは気になるところです。

デベロッパーとして真っ先に気になるのは、プラットフォーマーが対象者に返金した売上は、デベロッパーはきちんと回収できるのか?それとも売上自体が亡きものとされてしまうのか?という点でしょう。今回のApple社の件について言えば、iOSデベロッパー規約の別紙としてin-App Purchase(アプリ内課金)の条件を定めているSchedule2 に、返金に関する下記条項があります。この規定を最大限活用する立場からは、消費者からの申立に基づいて返金する金額のうち90日以内の売上については、キャンセルしてくることが予想されます。

6.3 In the event that Apple receives any notice or claim from any end - user that: (i) the end - user wishes to cancel its license to any of the Licensed Applications within ninety (90) days of the date of download of that Licensed Application by that end - user or the end of the auto - renewing subscription period offered pursuant to section 3.8, if such period is less than ninety (90) days; or (ii) a Licensed Application fails to conform to Your specifications or Your product warranty or the requirements of any applicable law, Apple may refund to the end - user the full amount of the price paid by the end - user for that Licensed Application. In the event that Apple refunds any such price to an end - user, You shall reimburse, or grant Apple a credit for, an amount equal to the price for that Licensed Application. Apple will have the right to retain its commission on the sale of that Licensed Application, notwithstanding the refund of the price to the end - user.


ニュースを受けて、業界では、「Appleのみならず各プラットフォーマーが、今回のような公権力による命令に基づく返金分も無限定にデベロッパーに求償できるように、デベロッパー規約の返金規定を変更してくるんじゃないか?」と話題になっています。しかし、それをやってしまうとさすがにFTCにも角が立つことになるでしょう。私はそうではなく、ユーザーに対するアプリ内課金プロセスの安全性強化策の導入を、デベロッパーに対して強いてくる可能性が高いと予想します。

さてそうなったときに、デベロッパーとしてアプリ側で何ができるか/すべきかを、今から考えておく必要がありそうです。