BUSINESS LAW JOURNAL 03月号の「実務において一般条項はどのように役立っているか[前編] 〜不可抗力/準拠法/仲裁 ほか〜」と、ビジネス法務 03月号の「海外案件のスピード&効率アップ術」のそれぞれ興味深く拝読し、準拠法条項の合意について日頃思っていることを書いてみます。
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結局のところ「粘られたら譲る」が結論、でいいのか?


BLJではファシリテーター役の外資系メーカー法務の方を中心に国際契約の経験豊富な方々が、そしてビジネス法務ではオリック東京法律事務所の高取芳宏先生が、
  • 準拠法の合意は、本来は紛争解決手段の合意とセットで考えなければ有効性・適法性は担保できない
  • しかし実務上は、有効性・適法性を精緻に考えて交渉していないケースが多い
  • 紛争解決条項とバーターというケースも少なくない
という主旨のことを共通して述べておられました。

確かに、準拠法の合意でひとたび揉め出すと大変です。かと言って、法的にパーフェクトな落とし所があるわけでもなく(この法的な落とし所の無さについては同二記事でも軽く触れられていますが、準拠法合意についての国際私法上の有効性・適法性について詳しくお知りになりたい方は、道垣内正人著『国際契約実務のための予防法学』をお勧めします)、第三国法を大して調べもせずに安易に選んで妥協しているケースが多いのではないでしょうか。その裏付けとまで言うには乱暴かもしれないものの、同じビジネス法務3月号掲載の後ろの方に掲載されている連載「やっと分かった!英文契約書」で、アンダーソン毛利の仲谷栄一郎先生も、こんなことを書いていらっしゃいました。

(vii)要するに準拠法の条文をめぐりどのように交渉するのがよいか
こう言っては元も子もないが、いくら理論的に詰めて理想的な条文を目指しても、交渉の常として相手が合意してくれなければ実現できず、相手との力関係によって結果が決まる。
そこで、次のように考えるくらいでよいと思われる。すなわち、まずは日本法を主張し、相手が譲らない場合は、「第三国法」や(ぎりぎりの提案として)「相互に相手国法」などを提案する。それでもまとまらない場合は、準拠法を定めないという選択肢を検討する。それでも相手国が「自国法」を固辞する場合は、腹をくくって受け入れる。というのが、おそらく実務的な筋書きであろう。

この“仲谷理論”はつまるところ、「相手が自国法にどうしてもこだわるんだったら、そしてそれでも取引したい相手なんだったら、粘られたら譲らざるを得ないよねぇ」というもの。みなさんも、これを読んで「そうだよなあ、しょうがないけどその通りだよな」と共感を覚えるところがあるのではないでしょうか。

相手も同じ思いなら、譲り損しているだけかも


しかし、この“仲谷理論”を逆手に取れば、以下のような結論を導くことも可能なのではないかと私は思っています。
  • 相手方法務も、私達と同様、“仲谷理論”に立っているはず
  • 日本語や日本法がマイナーなのは事実としても、マイナーだから準拠法として採用できないという理屈は、少なくとも法的にはない(日本法にも運用や判例の積み重ねはそれなりにある・その法廷地・執行地の絶対的強行法規に逆らえないのはメジャーな法律でも同じ)
  • 従って、相手(の現場担当)にとって当社が本当に取引したい相手なのであれば、準拠法についても譲歩を引き出せる余地はある
つまり、準拠法で譲るか譲らないかの交渉結果は、その取引自体どちらが優位に立っているかの現れであり、法務の問題のような顔をしているがもはや法務の問題ではないのかもしれない、と。そして、もし準拠法条項において、自国法(日本法)の主張で粘ったがためにディールブレイクするような取引なら、契約の核心部分である経済条件その他の条件交渉も、勝ち目がないであろうと思うのです。

現場から「相手の法務が準拠法を変えてくれって言ってるんですけど、飲んでいいですか?」と相談されて、「まあ譲っていいですよ(日本法で通る事例も少ないし)」と安易に返答していたとすれば、法的な有効性の検証を精緻にしないという罪以上に、その取引全体における自社交渉力を法務もグルになって自ら否定してしまっていたのかもしれません。

ということで、今後ますます、準拠法ではカンタンに譲らない覚悟を決めましたので、よろしくお願い致します(キリッ。 
 

経済条件へ転嫁するという大人の対処策


そうは言っても、「準拠法は絶対譲らない」の一本槍だと、ただの大人げないワガママな会社になってしまいますよね(笑)。そこで、現実的な対処策について考えてみます。

―犁鯔,鯆蠅瓩覆


まず、“仲谷理論”でも選択肢の一つに挙げられている、「合意に至らない場合には準拠法を定めない」という解決策はどうでしょうか。これについては、以下ご紹介するように多くの実務家が不適切であると指摘しており、どうやら採用すべきではなさそうです。

準拠法条項の規定は、「州籍相違」(diversity)当事者間の取引や国際取引の場合は必須である。しかし、特にアジアの大国である某国との交渉に於いては余りにも妥協を全く知らない程の抵抗に遭う為に、準拠法を定めない慣行が散見されるけれども、法的安定性を欠くので私見では奨められない。寧ろ第三国の準拠法、特に世界の取引・法律の中心であるニューヨーク州の準拠法採用を推進すべきであろう。
(平野晋著『国際契約の“起案学”』P105)
当事者はお互いに自国法を主張して譲らないため合意できず、妥協として第三国法を準拠法としたり、何も規定しない場合がある。
準拠法の合意がない場合、裁判所は法廷地の抵触法規定に従って契約に適用される準拠法を決定することができる(たとえば通則法8条)。それでは、わざわざ契約の中で準拠法を指定する必要はないのだろうか。通常抵触法規定においては、特定の連結点から準拠法を決定する方法によっている。これらを決める各国の抵触規定は様々であり、どのような連結点を基準としてどう準拠法が決定されるか当事者からみると必ずしも予測は容易ではない。仮に調査が可能としても時間とコストに見合わない。したがって、契約の中であらかじめ準拠法を合意することは当事者の予測可能性を確保するためにも重要である。
(杉浦保友・菅原貴与志・松嶋隆弘編著『英文契約書の法実務』P71ー72)

交差型準拠法条項を置く


次に、裁判管轄における被告地主義のように、交差型準拠法条項を置くというアイデアはどうでしょうか。つまり、当社が相手方に訴える場合は相手方の国の法を、相手方が当社に訴える場合は日本国法を、と定めるというやり方です。これについても、国際私法の専門家から強く避けるべきであるという指摘があります。

提訴や仲裁申立てがあるまでは準拠法が定まらず、成立・効力などを判断することができなくなってしまい、また、訴訟や仲裁が競合して複数進められる場合には、それぞれが別の準拠法により判断されるという事態になってしまう。いずれにしても、このような条項のもとでは、紛争が生ずる前の段階での契約の解釈に支障が生じ、また、紛争の和解による解決も期待できなくなってしまう。
(道垣内正人著『国際契約実務のための予防法学』P103)

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それならば、「準拠法は譲る代わりに、紛争解決条項はこちらの都合のいい方法・場所に」というバーターでの交渉、これはどうでしょう。実務的にはよく行われているように思われますが、しかし、私は交渉のスタンスとしてあまり合理的とは思えません。準拠法か紛争解決のどっちかを譲れ、というスタンスを法務から表明することは、その2つとも当社として場合により変更が可能で譲る余地があるということの表明にもなってしまいます。そのすると、相手方から「こちらとしては、準拠法も紛争解決手段もどちらも譲れない」と主張された場合の反論が、法務的には「どっちもなんて、そんなのズルい!」しかなく(笑)、結局取引をさっさと始めたい営業的意向も重なってどちらも譲るという、負け犬コースへの道を助長しかねないからです。

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この点、BLJ・ビジネス法務どちらの記事にも指摘がなかったのですが、もっと建設的・合理的なアイデアとして、準拠法を第三国や相手国法に譲る分、その適法性調査や外国弁護士起用についてアドオンでかかる費用とリスクを、営業的な経済条件に転嫁する、という交渉をすべきではないかと私は考えています。単発の売買契約だったら弁護士費用相当額をあらかじめ見積もって売買代金に乗せるとか、ライセンス契約のように販売量によってリスクのボリュームが変動する継続的取引だったらそのリスク分について料率をアップするということです。経済条件にそのコストを上乗せしたがために相手が取引を拒絶したなら、営業的にもその程度のバーゲニングパワーだったということの証左でもあります。なおこの考えによれば、で指摘した紛争解決条項とのバーターを相手方から持ちだされた場合についても同様に、望ましくない方法・場所を受け入れる代わりに経済条件にそれを転嫁する(e.g. 準拠法受け入れ分で+1%、仲裁地受け入れ分で+1%で合計2%ライセンス料率をアップする)考え方を取ってもよいでしょう。


以上、契約は部分ではなく全体をみて考え交渉せよという、至極当たり前のことを長々と書いたに過ぎないのですが、私自身はこれまで相手方からはい里茲Δ淵ファーを受けたことがあまりなく、意外と効果的なソリューションなのでは、と個人的に思っているところです。


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