「NDAを締結しても、NDAが秘密情報を守ってくれるわけじゃない。」
「本当に守りたい秘密情報を守る最善の方法は、あなたが他社に伝えないことだ。」

ということを現場にスッキリと腹落ちするまで理解してもらえる効果的な方法はないものだろうか、と日頃思っています。

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統計はありませんが、秘密保持契約書(以下NDA)は、あらゆる契約類型の中でもっとも流通数量が多い契約書と推察されます。秘密を開示するか否かにかかわらず、商談に入る際には、まずはNDAを結ぶということを習慣付けている会社もあると聞きますし、どの業界でも、駆け出し法務パーソンが契約書のドラフティングスキルを身につけようという時、まずはNDAから入るのがセオリーともなっているのも、その一つの裏付けと言えるでしょう。

しかし、多少なりとも実務経験のある法務パーソンなら、以下の事実に気付いていらっしゃるはず。

  1. ほとんどのNDAにおいて、「秘密」「CONFIDENTIAL」などの表示を付すいわゆる“マーキング”をした上で情報を相手方に渡さない限り、NDAの守秘義務の対象となる秘密情報として取り扱われない契約条件となっている。
    →しかし世の中では、マーキングをしないまま秘密のやりとりをしてしまっているケースが多いのが実態

  2. NDAは、渡した秘密情報を漏らさないという義務に加え、NDAに記載された“目的”の範囲内でのみ秘密情報を用いてよい(“目的”が終了すれば秘密情報は破棄・返却)という、“目的外利用の禁止”を義務としているところに意義がある。
    →しかし世の中では、目的外利用の禁止義務が意識されておらず、それどころか、「将来の取引にも汎用的に使えた方がお互い便利」という安易な考えから、契約締結時に“目的”をあえて絞りこまずにブロードに書いて結んでしまう“とりあえずNDA”が横行しているのが実態

  3. NDAの相手方に秘密情報を漏らされたり目的外利用をされたところで、それを立証できなければ損害賠償等を請求できないが、それを証明するのは、知っているはずの人間が特定少数でない限り、現実的には困難。
    →しかし世の中では、秘密が広まってしまっても、NDAを結んでいれば相手に賠償してもらえたり漏れた秘密がそれ以上拡散しないようにしてもらえる、と勘違いされているのが実態

こういう実態にみられるような名ばかりNDA文化が蔓延すると、「ひとたび商談先とNDAを結んだ後は、秘密情報は社内にいるのと同様になんでも喋ってよい」という勘違い担当者も蔓延してしまいます。そうなると、形式的にはNDAがあったとしても、実態的には営業秘密の3要件のうちの秘密管理性が認められなくなり、不正競争防止法的にも営業秘密が守れなくなるおそれすらあるでしょう。

このNDAに対する誤解を解くため手段としては、研修ぐらいしか思いつかず、実際そういった研修を入社時等に徹底している会社もあると聞きます。しかし、そんな研修は現場にとってはつまらないこと請け合い。なので、私は心ある現場の方からNDAについての相談をいただくたびに、「NDAを結ぶと、誤った安心感から秘密情報を安易に伝えてしまうだけ。NDAは結ばずに、そして秘密情報は渡さずに商談をする、というのが一番です。」という主旨のことをひたすら説明(というかほぼ説教)し、布教に努めるぐらいしかできていません。いっそのこと、どこかの企業が「マーキングしてないまま渡した秘密を目的外利用されて、数億円規模の訴訟を起こしたが、立証できずに結局負けた」という事例でも作ってくれないかと祈るばかりです。

この問題意識を現場に理解してもらうために効果的な方法があれば、是非ご教示いただきたいところです。


ご参考:

現場の方にも比較的わかり易い言葉で、NDAの重要なポイントを網羅しているネット上の記事として、猪木俊宏先生の下記の記事をご紹介しておきます。

秘密保持契約の実務上の留意点(IGI LAW OFFICE)