こんな良質な書籍が陽の目を見ずに眠っていようとは・・・。


事例でわかる国際企業法務入門
安江英行
中央経済社
2012-05-16



丸紅法務出身者である著者らが、27の法律テーマ(一応事例仕立てになってます)に沿って日本国・米国・英国・中国それぞれの法律の順で比較しながら解説をしていく本。

まず何よりも準拠法→次に紛争解決手段の選択→そして一般条項&債権保全→忘れちゃいけない公法分野・・・と、27のテーマの選び方の精度の高さと網羅性は、目次からも十分伝わってきます。さすが国際法務で何が問題になるかという実務のポイントを熟知した商社法務の方の本、という感じがします。
第1章 契約における準拠法
 事例1 準拠法を契約で合意している場合
 事例2 準拠法の合意をしていない場合

第2章 紛争解決手段
 事例3 裁判管轄―どこの国の裁判所に提訴するか
 事例4 裁判管轄を契約で合意している場合
 事例5 合意した管轄裁判所での裁判を拒否できる場合
 事例6 外国裁判所の判決はどう執行するか
 事例7 契約の中で仲裁による紛争解決を合意した場合
 事例8 消滅時効の取扱い

第3章 契約一般に関するルール
 事例9 契約の成立条件(要式契約,DeedおよびConsideration)
 事例10 Promissory Estoppel(禁反言/契約締結上の過失に類似)
 事例11 詐欺防止法(Statute of Frauds)
 事例12 損害賠償額の予定と違約金
 事例13 不可抗力と免責(Force MajeureとFrustration)
 事例14 連帯債務(Joint and Several Obligation)
 事例15 保証の取扱い(GuaranteeとSuretyship)
 事例16 債権譲渡(Assignment)

第4章 動産の売買契約における注意事項
 事例17 所有権および危険負担の移転
 事例18 売主の瑕疵担保責任(Warranty)

第5章 債権保全関連の法制
 事例19 動産を担保にする場合
 事例20 債務者が破綻した場合―各国の破産法制

第6章 独占禁止法と競争法
 事例21 当然違法とRule of Reason・課徴金減免(リーニエンシー)制度

第7章 外国公務員に対する贈賄の罪(FCPA)
 事例22 外国公務員や政治家へ金銭を提供した場合の罰則

第8章 国際物品売買契約に係るウィーン条約(CISG)
 事例23 CISGはどのような場合に適用されるか

第9章 各国のコーポレートガバナンス
 事例24 日本の場合
 事例25 米国の場合
 事例26 英国の場合
 事例27 中国の場合

本文も、それぞれのテーマに対する問い(QUESTION)、その直後に簡潔な答え(ANSWER)、続く本文で各国ごとに分けて細かい脚注を含めた解説が展開されており、とても読みやすい構成です。しかもその本文解説のレベルは、入門書ライクな装丁に反して法源としてRestatement・NY州法・EC規則・中国の民法通則等の条文までをきちんとリファしており、しっかりとした信頼のおけるものとなっています。ペナルティ・リキダメ条項の有効性各国比較などは、この本の著者である劉先生も教壇に立たれていた経営法友会のセミナーで学んだはずなのですが、かなりおぼろげな理解だったことが判明…。

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2012年刊行の割に、今日までこの本の評判をあまり聞かなかったのは、完全にタイトルのせいでしょうねー。はっきりいって、「事例」仕立てを押す必要はまったくなく「入門」でもない、非常にもったいないタイトルです。国際法務を10年ぐらい担当して、それなりの知識を身に付けているベテランの方でも、この4カ国の比較をここまできっちりと横串で整理して体系的に理解している人はいないはず。日・米の違いだけですら法的根拠含めてここまで整理して簡潔に説明できる法務担当者が、私を含めて日本にどれだけいるのかというと、相当疑問ですし。そういう人向けのマーケティングをすべきだったんじゃないかなあと、余計なお世話ですが思います。

つまり、誰かもっと早くこの本の存在を教えてくれていれば良かったのに!ということです(笑)。