タイトルはまるでJASRACの社史のようで、実際の中身は、法律家・実務家が著作権法の観点からしっかりと音楽著作権/JASRAC信託約款を分析・整理する、予想をいい意味で裏切ってくれる骨太の法律書。





その法律書らしさがいかんなく発揮された部分をご紹介しましょう。著作権法61条2項の特掲規定とJASRAC信託契約約款との関係について、上野達弘先生が書かれた第2章P32およびP42より。

JASRAC信託契約約款によると、「委託者は、その有するすべての著作権……を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転」するとしたうえで(3条1項前段)、「委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法第28条に規定する権利を含むものとする」と規定されているため(同項後段)、これによって28条の権利は特掲されていることになる。したがって、現在の信託契約約款に従う限り、28条の権利は信託の対象になっているものと解される。
他方、27条の権利は特掲されていないため、編曲権を含む27条の権利は委託者に留保されたものと推定されることになる。そして実際にも、JASRAC関連文書には27条の権利が信託されていないことを前提とする説明が散見されるため、同条の権利は信託の対象になっていないものと解される。
したがって、楽曲の編曲や歌詞の翻案といった二次的著作物を作成する行為自体については、JASRACが権利を管理していないことになる。他方、そのようにして作成された二次的著作物を利用する行為については、JASRACが権利を管理していることになる。(P32)
たとえば、他人の楽曲を無断で編曲する行為は編曲権侵害に当たる。他方、このようにして編曲された音楽著作物を公に演奏する行為は、あくまで28条を介して有する演奏権の侵害であって、編曲という行為がすでに終了している以上、27条の権利である編曲権の侵害になるわけではない。そのため、翻訳物の販売や映画の上映といった二次的著作物の利用行為に対して原著作物の著作者が差止請求をする場合、その根拠となるのは、あくまで28条を介して有する譲渡権や上映権であって、27条の権利である翻訳権や翻案権ではないのである。
先述のように、現在のJASRAC信託契約約款によると27条の権利が特掲されておらず(3条1項)、編曲権を含む27条の権利は信託の対象になっていないものと解される。そのため、楽曲の編曲や歌詞の翻案といった二次的著作物の作成行為それ自体については、JASRACが権利を管理していないことになる。(P42)

「JASRACが管理する権利」について述べている書籍ばかりの中で、あえて「(著作権法には規定されているのに)JASRACが管理していない権利」にも注目するというアプローチは、著作権法をある程度理解済みの法務パーソンにとって理解を深めやすいのではないでしょうか。

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また、第7章の、前田哲男先生が著作者隣接権についてまとめたパート「音楽産業とその関係者」も、第2章同様に、著作者が持つ著作権/実演家・レコード製作者・放送事業者らが持つ著作隣接権について、「著作者は持っているが隣接権者が持っていない権利」に着目するアプローチが取られています。メモがてらマトリックスにしてみました。

著作者vs実演家

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ということで、音楽著作権は何が難しいのか? 昨日は、『音楽著作権管理の法と実務』からの学びとして「JASRACの実務と用語が分かりにくい」という点を挙げましたが、今日ご紹介の本書からの学びは、
  • 著作権と著作隣接権の各支分権に、「あるもの」と「ないもの」の細かな差異がある点
  • その差異の上に、さらに「JASRACが管理する権利」と「JASRACが管理していない権利」が重層的になっている点
の2つが挙げられるでしょうか。

本書のところどころに散りばめられたJASRAC万歳というポジショントークが鼻につくものの、音楽業界で現場業務に携わる非法曹の有識者によって書かれた書籍がほとんどという中にあって、一流の法律実務家が音楽著作権についてここまで体系的に法律論を述べてくれている書籍は他に無く、貴重な一冊です。